サルコペニアとは?原因・評価法SARC-Fからパーキンソン病等の疾患併発リスクまで解説
サルコペニアを、
「病気や年齢のせい」で見逃さない。
握力・筋肉量・歩行をどう評価し、運動と栄養につなげるか。AWGS2025と2019の違い、神経疾患での注意点、再評価の方法を、臨床で使う順に整理しました。

サルコペニアとは:筋肉量と筋力を分けて捉える
サルコペニアは、骨格筋量や筋力の低下に関わる病態です。加齢だけでなく、活動量の低下、栄養不足、疾患なども背景になります。「やせている」「歩くのが遅い」という印象だけで診断せず、筋力と筋肉量を測定します。
2025年に公表されたAWGSの更新では、診断の中心は筋肉量低下と筋力低下の両方になりました。歩行速度などの身体機能は、生活への影響や介入後の変化をみる指標として扱います。 [1]
| 似ている概念 | 確認する違い |
|---|---|
| フレイル | 身体面だけでなく、心理・社会面も含む脆弱性。サルコペニアと重なることはありますが、同じ意味ではありません。 |
| ダイナペニア | 筋力の低下を指す概念。筋肉量が保たれている場合もあり、必ずサルコペニアへ進むとは限りません。 |
| 廃用症候群 | 不活動に伴う全身の機能低下。筋以外に心肺機能・関節・認知面なども評価します。 |
| 悪液質 | 基礎疾患に伴う代謝異常や体重減少などを評価する病態。単なる食事不足と区別して医学的評価につなげます。 |
神経疾患で見逃しやすい理由
脳卒中後やパーキンソン病では、動きにくさに加えて、食べにくさ、活動機会の減少、入院や合併症が重なることがあります。「原疾患があるから」で説明を終えず、筋の状態を別に確認することが大切です。

| 対象 | 評価で確認すること |
|---|---|
| 脳卒中後 | 麻痺側だけでなく非麻痺側も観察。握力・歩行には麻痺や感覚障害などが影響するため、全身的な筋の低下と区別して解釈します。 |
| パーキンソン病 | 測定時刻、服薬時刻、ON/OFF、すくみ足、動作緩慢、起立時症状を記録。同じ人でも条件で結果が変わります。 |
| 共通 | 体重の推移、摂取量、嚥下、疲労、活動量、転倒、生活環境を合わせて確認します。 |
AWGS2025と2019:基準を混ぜない
旧版で蓄積した記録も読み解けるように、違いを整理します。評価用紙には採用した基準名・版を残すことが基本です。 [1] [2]

| 項目 | AWGS2025 | AWGS2019 |
|---|---|---|
| 診断の組み合わせ | 筋肉量低下 + 筋力低下 | 筋肉量低下 +〔筋力低下 または 身体機能低下〕 |
| 身体機能 | アウトカムとして評価 | 診断・重症度判定に使用 |
| 重症サルコペニア | この重症度分類は使用しない | 筋肉量・筋力・身体機能の3領域すべて低下 |
| 筋肉量を測れないとき | 握力低下があればpossible sarcopeniaとして介入・精査へ | 地域等で筋力または身体機能低下からpossible sarcopeniaを考える |
| 中年期への対応 | 50~64歳の年齢別閾値を提示 | 2025版の中年期閾値は使わない |
評価の入口:体重変化・SARC-F・下腿周径
最初に「最近変わったこと」を聞きます。意図しない体重減少、食事量低下、転倒、活動量低下があれば、質問票の結果だけに頼らず実測へ進みます。

| 確認項目 | 入口としての目安・注意 |
|---|---|
| SARC-F | 筋力、歩行、立ち上がり、階段、転倒を確認する質問票。合計4点以上が目安。使用する日本語版の原票で採点します。 |
| 下腿最大周径 | 男性34cm未満・女性33cm未満が目安。浮腫、左右差、測定姿勢を記録。周径のみで筋肉量低下を確定しません。 |
| SARC-CalF | SARC-Fに下腿周径を組み合わせたスクリーニング。11点以上が目安。単独のSARC-Fと採点方法を混ぜません。 |
| 50~64歳 | 筋の健康に懸念がある場合は握力・筋肉量を直接評価。高齢者用質問票の判定をそのまま一般化しません。 |
これらは精査が必要な人を見つける入口です。SARC-Fは陰性でも除外には使えません。感度・特異度は対象集団と診断基準で変わるため、単一の割合を全患者に適用しないでください。 [1] [2] [5]
実測:握力・筋肉量・身体機能
握力計、筋肉量測定機器、計時器、椅子、安全な歩行路を準備します。できない検査を無理に実施せず、未実施・測定困難・条件変更を明記してください。

| 評価 | 測り方と記録 |
|---|---|
| 握力 | 両手で各2~3回測定し、最大値を採用。機器に合った姿勢を統一し、機器名、肘の位置、疼痛、麻痺、理解の状態を記録します。 |
| 筋肉量 | DXAまたは多周波BIA等で評価。装置が示す四肢の指標を使い、全身筋肉量と混同しません。浮腫・脱水、測定日時、機器を記録します。 |
| 通常歩行速度 | 6mの測定区間と加速・減速区間を区別。通常の速さで測り、補助具・装具・介助、試行値と採用値を記録します。速度=6m÷秒。 |
| 5回椅子立ち上がり | 腕を胸の前で組み、完全立位と着座を繰り返す採用手順を統一。椅子高・開始終了の定義もそろえます。上肢や介助を使った結果は標準値と単純比較しません。 |
| SPPB・TUG | 生活機能を詳しく把握したいときに追加。各尺度の手順で実施し、点数・時間だけで転倒や外出自立を確定しません。 |
握力の測定回数・最大値の扱いはAWGS2025に基づきます。身体機能の詳細手順は施設で統一し、再評価でも同じ条件を用います。 [1]
カットオフ値:年齢・方法・単位を合わせる
以下はAWGS2025の年齢別閾値です。筋肉量はまず身長補正で示し、BMI補正を別表に分けました。 [1]

| 指標 | 50~64歳:男性/女性 | 65歳以上:男性/女性 |
|---|---|---|
| 握力(kg) | 34未満 / 20未満 | 28未満 / 18未満 |
| DXA:ASM/身長²(kg/m²) | 7.2未満 / 5.5未満 | 7.0未満 / 5.4未満 |
| BIA:ASM/身長²(kg/m²) | 7.6未満 / 5.7未満 | 7.0未満 / 5.7未満 |
| BMI補正の指標 | 50~64歳:男性/女性 | 65歳以上:男性/女性 |
|---|---|---|
| DXA:ASM/BMI | 0.80未満 / 0.55未満 | 0.73未満 / 0.52未満 |
| BIA:ASM/BMI | 0.90未満 / 0.63未満 | 0.83未満 / 0.57未満 |
BMI=体重(kg)÷身長(m)²。身長補正とBMI補正は別の指標です。採用方法を記録し、再評価でも同じ方法で比較します。
| 身体機能の低下の目安 | 50~64歳 | 65歳以上 |
|---|---|---|
| 通常歩行速度(6m) | 1.2m/s未満 | 1.0m/s未満 |
| 5回椅子立ち上がり | 10秒以上 | 12秒以上 |
AWGS2025では上の身体機能をアウトカムとして扱います。AWGS2019を使用する場合、身体機能低下は6m歩行1.0m/s未満、5回立ち上がり12秒以上、またはSPPB9点以下です。「12秒超」と「12秒以上」を区別してください。 [2]
運動と栄養:一律の高負荷にしない
基本は、筋への適切な負荷と必要な栄養を組み合わせ、日常の活動を増やすことです。年齢だけで運動を諦める必要はありませんが、「高齢だから必ず強度を多めにする」という判断も適切ではありません。 [1]
| 介入の柱 | 実際に決める内容 |
|---|---|
| 筋力トレーニング | 立ち上がり、膝伸展など目的に合う運動を選択。フォーム、疼痛、疲労、循環応答をみて負荷・回数・休息を調整します。 |
| 歩行・有酸素運動 | 連続時間だけを目標にせず、必要なら短時間に分けます。息切れや疲労の回復、翌日の影響を確認します。 |
| バランス・生活動作 | 転倒リスクに応じた支持物や見守りを用意。トイレ、玄関、買い物などの課題につなげます。 |
| 栄養・嚥下 | 体重推移、エネルギーとタンパク質の摂取、嚥下、腎機能を確認。食べられない理由を医師・管理栄養士・ST等と共有します。 |
パーキンソン病の理学療法ガイドラインはレジスタンストレーニングを推奨しています。ただし、研究対象・疾患重症度には限界があります。動きやすい時間帯、起立時症状、転倒リスクを確認し、個別に負荷を進めます。 [3]
「運動後30~60分を逃すと効果がなくなる」とは説明せず、日々の摂取と継続を優先します。服薬と食事の関係が疑われる場合は、自己判断でタンパク質や薬を減らさず、主治医・薬剤師・管理栄養士へ相談します。
再評価:数字を生活の変化につなげる
再評価では、握力や筋肉量だけでなく、歩行、立ち上がり、転倒、食事量、本人が困る動作の変化を並べます。測定条件が変わった場合は理由を残してください。

| そろえる条件 | 記録すること |
|---|---|
| 機器・手順 | 握力計、姿勢、測定側、筋肉量の方法・補正、歩行区間、椅子高。 |
| 疾患・体調 | 服薬からの時間、ON/OFF、疼痛、疲労、浮腫、最近の入院。 |
| 生活の結果 | 立ち上がりの介助量、外出頻度、転倒回数と観察期間、食事摂取。 |
| 再評価の時期 | 介入内容と病状に応じて設定。入院や急な機能低下の後は、定期日を待たず見直します。 |
4週・8週・12週は計画例にはなりますが、全員に必須の測定間隔ではありません。改善が乏しいときは、負荷不足だけでなく栄養、原疾患、痛み、活動機会、測定誤差を再確認します。
評価シートPDF:初回から経時比較まで
サルコペニア 評価・経時記録シート
問診、下腿周径・質問票の結果、握力、筋肉量、身体機能、判定、介入計画を一つに整理しました。AWGS2025の年齢別閾値を掲載した、専門職向けのオリジナル手書き用紙です。
| ページ | 記録できる内容 |
|---|---|
| 1 | 初回確認:体重・食事・転倒・活動・スクリーニング・安全性 |
| 2 | 実測:握力・筋肉量・身体機能、年齢別基準、判定と追加評価 |
| 3 | 計画と経過:生活目標、運動・栄養、3時点の比較 |
無料・登録不要 / v1.0 / 2026.09.27
公式尺度の転載ではありません。SARC-F・SPPB等は採用する原票と併用してください。
よくある質問
SARC-Fが陰性ならサルコペニアを否定できますか?
否定できません。体重減少や筋力低下などがあれば、質問票の結果にかかわらず握力・筋肉量などを確認します。
筋肉量を測れない施設では、何から始めますか?
握力や生活機能、食事・活動の状態を評価し、安全な運動・栄養支援を始めます。AWGS2025では握力低下があり筋肉量未測定の場合、possible sarcopeniaとして筋肉量評価につなげます。
歩行が遅いだけで診断できますか?
できません。AWGS2025の診断には筋肉量低下と筋力低下の両方が必要です。神経疾患では麻痺や動作緩慢などの影響も評価します。
パーキンソン病でも筋力トレーニングはできますか?
実施を検討できます。疾患重症度、転倒リスク、起立時症状、服薬状態を確認し、専門職が負荷を個別に調整します。高負荷が全員に安全という意味ではありません。
プロテインは必須ですか?
必須ではありません。まず食事と総エネルギー摂取を確認し、不足があれば補助食品を検討します。腎機能や嚥下機能に応じた個別調整が必要です。
どれくらいで回復しますか?
一律の期間は示せません。原因、病期、栄養状態、活動量で異なります。筋力・筋肉量・生活機能を同じ条件で追跡し、計画を見直します。
STROKE LABのリハビリと相談
STROKE LABは、脳卒中やパーキンソン病などの神経疾患に対応する自費リハビリ施設です。筋力の数値だけでなく、歩行・立ち上がり・日常動作の困りごとを整理し、目標に合わせたリハビリを検討します。公的医療保険は適用されません。
ご本人の希望する生活動作を、評価と練習につなげます。
| 相談で共有したいこと | 準備すると役立つ情報 |
|---|---|
| 現在の困りごと | 立ち上がり、歩行、転倒、外出、疲れやすさ。 |
| 病気とこれまでの経過 | 診断名、発症時期、最近の入院、現在受けているリハビリ。 |
| 医療上の情報 | 服薬、運動上の注意、主治医からの指示、評価結果があればその記録。 |
| 目標 | 家の中を移動したい、買い物へ行きたいなど具体的な希望。 |
医学的な診断や精査、栄養・嚥下に関する専門的な対応が必要な場合は、主治医や関係職種と相談してください。施設内の検査機器や対応職種については、予約時にご確認ください。
参考文献
[1] Chen LK, et al. A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update. Nat Aging. 2025;5:2164–2175.
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[2] Chen LK, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. JAMDA. 2020;21:300–307.e2.
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[3] Osborne JA, et al. Physical Therapist Management of Parkinson Disease: A Clinical Practice Guideline From the APTA. Phys Ther. 2022;102:pzab302.
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[4] Bauer J, et al. Evidence-based recommendations for optimal dietary protein intake in older people: a position paper from the PROT-AGE Study Group. JAMDA. 2013;14:542–559.
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[5] Barbosa-Silva TG, et al. Enhancing SARC-F: Improving Sarcopenia Screening in the Clinical Practice. JAMDA. 2016;17:1136–1141.
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[6] Fiatarone MA, et al. Exercise training and nutritional supplementation for physical frailty in very elderly people. N Engl J Med. 1994;330:1769–1775.
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関連記事: 骨格筋・加齢による筋の変化について

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)