【2026年版】上腕三頭筋の起始停止・作用は? ストレッチ・筋トレ・リハビリ、痛みの原因まで解説
上腕三頭筋の解剖と臨床応用を、3つの頭部から読み解く。
上腕三頭筋(Triceps brachii)は肘関節伸展の主動作筋であり、移乗・プッシュアップ・上肢支持など脳卒中後の機能回復に直結する筋肉です。3つの頭部の解剖・神経支配・筋線維特性を理解し、臨床評価と介入に活かしましょう。
— 肘関節の解剖学的構造と上腕三頭筋の機能を動画で確認しましょう。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
評価すると、屈筋優位パターンで肘関節の自動伸展が困難。Brunnstrom stage IV、MMT(手動筋力テスト:徒手で筋力を0〜5段階評価する方法)では上腕三頭筋 MMT 2〜3レベル。車椅子からベッドへの移乗で上肢支持が取れず、介助量が増大している。
このとき「上腕三頭筋のどの頭部が、どの肢位で活動するか」を理解していると、肩甲帯から肘まで段階的に促通戦略を立てられます。
新人セラピストにとって、上腕三頭筋は「肘を伸ばす筋肉」というシンプルな認識に留まりがちです。しかし、3つの頭部の解剖と機能的差異を理解すると、臨床での介入の幅が大きく広がります。
特に脳卒中後の上肢機能訓練では、屈筋優位のパターン(痙縮:脳の損傷により筋肉が過剰に緊張した状態)に対して、肘伸展のための三頭筋の選択的収縮を促すアプローチが重要になります。
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定義・概要と筋の全体像。
上腕三頭筋(triceps brachii:ラテン語で「3つの頭を持つ上腕の筋」)は、上腕の背側(後面)に位置する太くて大きな筋肉です。後方から観察すると、馬蹄形のシルエットに見えることが特徴です。
ただし、3頭部はそれぞれ異なる役割を担っています。
上腕三頭筋の一次的な機能は肘関節の伸展です。これは全3頭部が共通して担います。
長頭のみが肩甲骨に付着する二関節筋であるため、肩甲上腕関節の動きにも影響を与えます。この点が臨床上の重要なポイントです。

長頭:左=後方、右=前方(図引用:VISIBLE BODY)
3頭の起始・停止・作用。
長頭(Long Head)
長頭は肩甲骨の関節下結節(肩甲骨の関節窩の下縁)から起始します。肩甲骨に付着しているため、肘を伸ばすだけでなく肩甲上腕関節にも作用します。腕を内転させると、長頭は上腕骨頭を関節窩に保持する動的安定化機能を発揮します。
外側頭(Lateral Head)

外側頭:左=後方、右=側方(図引用:VISIBLE BODY)
内側頭(Medial Head)

内側頭:左=後方、右=前方(図引用:VISIBLE BODY)
神経・血管支配の詳細。

橈骨神経の走行(図引用:VISIBLE BODY)
原則:3頭部はすべて橈骨神経(C7・C8)によって支配されます。
例外①:解剖研究では、内側頭の一部が尺骨神経に支配されることが判明しています。橈骨神経麻痺でも内側頭機能が残存するケースがある理由の一つです。
例外②:一部の研究では、長頭が腋窩神経(C5・C6)によって支配されると報告されています。腋窩神経損傷後に長頭の機能評価が必要な根拠です。
血管支配:深上腕動脈(brachial profunda artery)の枝から酸素・栄養が供給されます。
臨床では「橈骨神経麻痺=上腕三頭筋完全麻痺」と短絡的に捉えないことが重要です。損傷部位によっては三頭筋が温存されることがあり、詳細な神経学的評価が求められます。
筋線維タイプと運動単位の違い。
3つの頭部は同じ「肘伸展筋」でも、担う役割が異なります。筋組織・神経細胞数から推定した平均神経支配比(Motor Neuron比)が、それを端的に示しています。
| 頭部 | 神経支配比(本/MN) | 主な筋線維タイプ | 機能的役割 |
|---|---|---|---|
| 内側頭 | 69本/MN | Ⅰ型(遅筋)中心 | 精密・低強度・持続的な肘伸展 |
| 長頭 | 99本/MN | ⅠとⅡ型の混合 | 肘伸展+肩安定(両用途) |
| 外側頭 | 179本/MN | IIb型(速筋)中心 | 強力・高速・瞬発的な肘伸展 |
内側頭は低負荷・高反復の持続的トレーニングへの反応性が高く、日常動作の巧緻性回復(テーブルに手をつく、物を押す等)に活用できます。
外側頭は高負荷・低反復の瞬発系トレーニングが有効で、車椅子プッシュアップや移乗時の押し上げ動作の強化に直結します。介入目的に合わせて負荷設定を変えることが重要です。
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評価:触診・短縮テスト・腱反射。
上腕三頭筋の評価は触診・短縮テスト・腱反射の3本柱で構成されます。どれも基本的な手技ですが、3頭部それぞれへの意識を持って行うことで情報量が大きく変わります。
触診の手順

触診のポイント(図引用:Wolters Kluwer)
患者を高座位にし、術者は後方に立ちます。3頭部それぞれに目印を設定してから触診に入ります。
上腕骨内側上顆のすぐ上に3本指を置きます。患者に肘伸展しながら体を押し下げる力をかけてもらい、収縮を確認します。
上腕骨内顆から後方腋窩に向けてたどり、後方腋窩直下に3本指を置きます。患者に肘を押し下げながら伸展させてもらい、長頭の収縮を触知します。
上腕骨軸の中央で後外側に3本指を置き、患者に肘伸展を指示します。外側頭は3頭中最も力強い収縮が触知できます。
短縮テスト
肘関節を最大屈曲位にした状態で肩関節を屈曲させます。長頭は二関節筋のため、この肢位で肩屈曲が制限されれば短縮を示唆します。健側と比較して可動域の左右差を確認します。
腱反射(上腕三頭筋反射)
テスト脊髄レベル:C6・C7(主にC7)
肢位:肩関節を90度外転させ、同時に肘関節も90度屈曲位に保持します。
打腱部位:肘頭(olecranon)直下の上腕三頭筋腱を反射ハンマーで叩きます。
判定:正常反応は肘関節伸展。亢進はC7上位の上位運動ニューロン障害を、消失・減弱はC7での下位運動ニューロン障害(橈骨神経麻痺等)を示唆します。
介入:ストレッチ・強化・神経損傷対応。
介入は「短縮・硬さへの対応」「筋力低下への対応」「神経損傷後の対応」の3軸に整理できます。それぞれの目的を明確にしてから選択することが重要です。
肢位:肩関節屈曲+肘関節最大屈曲位。長頭は二関節筋のため、この組み合わせで十分な伸張が得られます。
推奨パラメータ:静的ストレッチ30秒保持×3セット、1日2〜3回。(エビデンスレベル:弱く推奨)
脳卒中後の痙縮がある場合は、伸張前にホットパックや温浴で筋温を上げると効果的です。
上腕三頭筋の強化は分離運動と複合運動の2カテゴリに分けて実施します。
筋持久力(内側頭狙い):低負荷(1RM 40〜60%)、15〜20回×3セット、週3回。
最大筋力(外側頭狙い):高負荷(1RM 70〜85%)、6〜10回×3セット、週2〜3回。
グリップ幅が狭いほど上腕三頭筋の活動が優位になります。広くなるほど胸筋優位に移行します。(エビデンスレベル:RCT複数)
神経損傷後の対応
臨床的含意:腋窩神経損傷は上腕三頭筋長頭に影響を与えます。そのため腋窩神経損傷が疑われる際は、必ず長頭の機能評価を実施してください。
予後判断:機能低下が確認された場合は予後不良と判断し、3ヶ月以内の早期修復が推奨されています。(エビデンスレベル:SR)
遠位神経移行術:再神経支配には尺骨神経の屈筋支帯枝と腋窩神経後枝が一般的に用いられます。どちらも上腕三頭筋の機能回復に有効であると示されています。
腱断裂:上腕三頭筋腱の完全断裂はまれです。蛋白同化ステロイド(筋肥大促進ホルモン)使用者や、伸ばした手での転倒・直接打撃後に発生します。肘後部の痛み・腫脹と、抵抗に逆らった肘伸展不能が主訴となります。

私は信じています。
脳卒中後に上肢が使えなくなった方に、STROKE LABは徒手技術と脳科学的アプローチで向き合います。「もう回復しない」と告げられた後でも、神経の可塑性はまだ残っています。一度、私たちとご相談ください。
Pitfallsと臨床判断のコツ。
上腕三頭筋は「肘を伸ばす筋」という単純なイメージが先行しやすく、その分だけ評価・介入ともに見落としが生じやすい筋です。現場でよく遭遇する3つの罠を整理します。
臨床判断の分岐点
「まず橈骨神経麻痺の高さを確認しなさい。腋窩より上なら長頭も内側頭も守られる可能性があるから、しっかり個別に評価してから判断しなさい。」
「三頭筋の筋力が低下していても、リーチ練習はできる。肩甲骨周囲筋を使って代償を引き出しながら、三頭筋の回復を待つ組み立てを考えなさい。」
「短縮テストは必ず健側と比較すること。絶対値より左右差が重要だから、初回評価で必ず両側測定する習慣をつけなさい。」
多職種連携と目標設定。
上腕三頭筋の機能回復は、単一職種での取り組みに限界があります。移乗・ADL・職業的作業まで幅広い場面に影響するため、各職種が役割を持って連携することが重要です。
| 職種 | 主な役割 | 具体的な介入例 |
|---|---|---|
| PT(理学療法士) | 筋力・移乗能力の回復 | 三頭筋強化・車椅子プッシュアップ・移乗動作練習 |
| OT(作業療法士) | ADL・上肢巧緻性の回復 | リーチ・プッシュ動作の作業課題・自助具検討 |
| 医師 | 診断・外科的適応判断 | 腋窩神経損傷の早期修復適応・遠位神経移行術の判断 |
| 看護師 | 病棟での機能維持・自主練習サポート | 病棟での姿勢管理・移乗時の声かけ・自主トレ確認 |
| MSW(医療ソーシャルワーカー) | 退院後の生活環境調整 | 在宅改修・自費リハビリ継続に向けた情報提供・調整 |
短期目標(〜4週):触診で3頭部それぞれの収縮確認。肘伸展MMT 3以上(重力に抗して伸展可能)。
中期目標(〜3ヶ月):車椅子からベッドへの移乗時に上肢を補助として使用できる。MMT 4以上。
長期目標:日常のプッシュ動作(ドアを押す・台から立ち上がる等)が自立して行える。神経損傷例では3ヶ月で修復検討、その後の筋力回復を継続評価。
よくある質問。
原則としてすべて橈骨神経(C7・C8)に支配されます。しかし例外があり、内側頭の一部は尺骨神経支配を受けることが解剖研究で判明しています。
また長頭の一部は腋窩神経(C5・C6)支配の報告もあります。橈骨神経麻痺でも三頭筋機能が一部残存するケースがある理由の一つです。
主にC7を反映します(C6も関与)。検査は肩・肘をそれぞれ90度外転・屈曲位にして、肘頭直下の腱を打腱ハンマーで叩きます。
反射亢進はC7より上位の上位運動ニューロン障害、消失・減弱はC7レベルの下位運動ニューロン障害(橈骨神経麻痺等)を示唆します。
3頭部は同じ「肘伸展」を担いますが役割が異なります。外側頭(速筋中心・179本/MN)は強力な瞬発力、内側頭(遅筋中心・69本/MN)は精密で持続的な伸展を担います。
長頭(混合型・99本/MN)は肘伸展に加え、肩関節の伸展・内転補助と上腕骨頭保持にも働く唯一の二関節筋です。
長頭は腋窩神経支配を受ける可能性があるため、腋窩神経損傷後は長頭の機能低下が生じることがあります。見落とすと予後不良の見逃しにつながります。
長頭の機能低下が確認された場合は、3ヶ月以内の早期神経修復が推奨されます。医師への速やかな情報共有が重要です。
肩関節屈曲+肘関節最大屈曲位で上腕三頭筋(特に長頭)を効果的に伸張できます。長頭は二関節筋のため、この組み合わせが最も有効です。
推奨パラメータは静的ストレッチ30秒保持×3セットを1日2〜3回です。痙縮がある場合はストレッチ前にホットパックや温浴で筋温を上げると効果的です。
上腕三頭筋腱断裂はまれです。主に蛋白同化ステロイド(筋肥大促進ホルモン)使用者や、伸ばした手での転倒・腱への直接打撃によって発生します。
症状は肘後部の痛みと腫脹、抵抗に逆らった肘伸展不能、破裂感です。疑われる場合は速やかに整形外科的診断を仰ぐ必要があります。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳卒中後の麻痺や上肢機能障害に特化した自費リハビリ施設です。脳科学に基づく徒手技術と個別プログラムで、「もう回復しない」と言われた後の変化を目指します。
— STROKE LABでの上肢リハビリの実際の様子です。
「上腕三頭筋は地味に見えるが、車椅子生活の方にとっては移乗・プッシュアップの要。しっかり3頭部を評価してから介入設計する癖をつけなさい。」— PT・経験18年・上肢リハビリ専門
「橈骨神経麻痺の患者さんで、内側頭だけ収縮が残っていることがある。最初から三頭筋全体で諦めず、残存機能を丁寧に探ることが回復の糸口になる。」— OT・経験12年・神経疾患専門
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諦めないでください。

「もうこれ以上は回復しない」と告げられた後でも、神経の可塑性(神経が変化する力)は残っています。適切な刺激と繰り返しによって、脳と筋肉のつながりは再構築されていきます。
上腕三頭筋ひとつをとっても、3つの頭部それぞれに異なる可能性があります。残存機能を丁寧に引き出すアプローチが、生活の質を変える第一歩になります。
私たちSTROKE LABは、脳卒中後のご本人とご家族に寄り添い、回復への道を一緒に歩みます。まずは無料相談で、現在の状態と可能性についてお聞かせください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)