【2026年版】TUG(Timed Up and Go)テスト | カットオフ値・二重課題・脳卒中疾患の特徴まで解説
TUGテストのカットオフ値を、臨床判断に落とし込む。
TUGテスト(Timed Up and Go Test)は、転倒リスクを評価する代表的なスクリーニング検査です。しかし「12秒以上は危険」という数値を知っているだけでは、臨床で活かしきれません。本記事では、対象集団別のカットオフ値・二重課題TUG・脳卒中患者の軌跡分析まで、エビデンスをもとに体系的に解説します。
— TUGテストの実施手順・観察ポイント・カットオフ値の読み方を解説します。
要点5項目。
臨床現場でTUGに出会う場面。
「先生、この患者さん、FIMの移動は6点なんですが、TUGはどう評価すればいいですか?」と先輩に聞いたとき、「カットオフ値を知るだけでなく、なぜそのタイムになったかを観察しなさい」と言われた経験はありませんか?
TUGは通所リハビリの計画書にも記載欄があり、数値の背景にあるサブタスクの質を読み解くことが、真の臨床判断につながります。
TUGテストは、近年では通所リハビリテーションの計画書に評価記載欄が設けられるほど、臨床的に重要な検査として認知されています。新人セラピストが最初にTUGに触れる場面は、多くの場合「転倒リスクのスクリーニング」です。しかし、TUGが評価しているのはそれだけではありません。
立ち上がり・歩行・方向転換・着座という一連の動作課題は、動的バランス・敏捷性・運動計画・注意機能を同時に評価しています。この「複合的な視点」を持てるかどうかが、経験を積むセラピストとそうでないセラピストの差になります。
TUGの定義・目的・適応対象。
TUGテスト(Timed Up and Go Test)とは、歩行や生活動作における転倒リスクを判定するため、動的バランス・歩行速度・敏捷性などを複合的に評価するスクリーニング検査です。1991年にPodsiadloらによって高齢者を対象に開発されましたが、現在では幅広い対象集団に使用されています。
高齢者の転倒リスクを高感度かつ特異的に測定できる簡便なスクリーニング検査です。運動器不安定症(バランスや歩行能力が低下した高齢者の状態)の診断基準にも組み込まれており、11秒がカットオフとして採用されています(日本整形外科学会・日本運動器リハビリテーション学会・日本臨床整形外科学会、2006年)。
臨床では「この患者さんのTUGは?」と聞かれたとき、数値だけでなく「その数値になった理由」を説明できるようになることが求められます。
TUGが適応される主な対象集団
当初は高齢者を対象に設計されましたが、現在は以下の多様な集団で信頼性と妥当性が検証されています。
パーキンソン病(PD)、多発性硬化症(MS)、ハンチントン病、脳卒中(CVA)、アルツハイマー病など神経変性疾患・脳血管疾患において妥当性が確認されています。
股関節骨折、TKR(人工膝関節全置換術)、THR(人工股関節全置換術)、股関節OA(変形性股関節症)など整形外科的疾患でも広く活用されています。
下肢切断者(カットオフ19秒)、前庭障害患者(カットオフ11.1秒)、虚弱高齢者(カットオフ32.6秒)など、多様な集団で検証されています。
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TUGで評価されるメカニズム。
立ち上がりには抗重力伸展機能・体重移動、3m歩行には推進力・歩行リズム・バランス、方向転換には運動計画・視空間認知・前庭機能、着座には制動能力・体幹安定性がそれぞれ必要です。
脳卒中患者に特有の問題:軌跡の逸脱
Bonnyaud ら(2016年、PLOSone)は、脳卒中患者のTUG中の歩行軌跡を解析した研究を行いました。健常者と比較して脳卒中患者は、コーンへ向かう局面(Go)および旋回局面(Turn)において、総軌道が有意に長く、基準軌道からの逸脱も大きいことが示されました。
論文:Bonnyaud C, et al. “Locomotor Trajectories of Stroke Patients during Oriented Gait and Turning.” PLoS One. 2016;11(2):e0149757.
主要結果①:脳卒中患者は健常者と比較し、GoおよびTurnの局面で軌道逸脱が有意に大きかった。Returnでは有意差なし。GoとTurnが最も難しいサブタスクと考えられます。(エビデンスレベル:観察研究)
主要結果②:転倒群は非転倒群と比べ、Goの軌道逸脱が有意に大きかった。軌道解析は従来の時間計測に追加情報を与えます。
臨床への示唆:視線をターゲットへ向けながら歩く能力が、脳卒中患者の歩行軌跡に影響します。視空間認知や注意機能の問題を含めて評価することが重要です。
右半球損傷では身体の垂直性の知覚が変化する可能性があります。ただし本研究では、中等度〜良好な回復を示した患者において、右・左半球脳卒中患者間の軌跡に有意差は認められませんでした。半側空間無視(USN)や主観的正中位のずれを持つ患者への解釈は慎重に行う必要があります。
TUGと類似評価ツールとの違い。
TUGは有用なスクリーニングツールですが、転倒リスクの単独予測には限界があります。臨床では適切な評価を組み合わせることが重要です。
| 評価ツール | 測定の焦点 | 臨床での位置付け |
|---|---|---|
| TUG | 動的バランス・歩行・転倒リスク | 第一選択のスクリーニング。所要時間1〜2分 |
| BBS(バーグバランススケール) | 静的・動的バランスを14項目で評価 | TUGで起立・方向転換のふらつきを認めた際に追加 |
| BESTest | バランス制御の6つのシステムを網羅的に評価 | TUGで問題が少ない機能の高い患者に適用 |
| TUG Dual Task | 歩行+認知・運動の二重課題能力 | 脳卒中・PD・認知症患者に特に有用 |
実施手順と採点基準(完全網羅)。
TUGテストで準備するもの
高さは椅子に深く腰をかけて足が床につく高さに設定します。肘掛けは立ち上がりの補助として使用を許可します。
3メートルの地点にコーン等の目印を置きます。動画撮影ができると後から軌跡や動作パターンを確認できるため有用です。
TUGテストの実施手順
患者は普段履いている靴を着用し、必要に応じて歩行補助具を使用します。「最大のスピードで歩いてください。ただし走らないでください」と伝え、まず1回練習します。
「用意、スタート」の合図で、椅子から立ち上がり→3m歩行→コーンを回り→3m歩いて椅子に戻り着座。着座のタイミングでストップウォッチを止めます。
歩行速度・歩幅・腕振り・ふらつきの有無・方向転換時の軌跡・補助具の使用状況などをメモします。脳卒中患者では、麻痺側軸周りの方向転換(患側回り)で転倒リスクが高まることを念頭に置きます。
タイムによる転倒リスク分類(採点基準)
10秒未満:通常の移動能力。転倒リスクはほぼありません。地域での自立した移動が可能です。
10〜19秒:良好な移動能力。転倒リスクは比較的低い水準です。
20〜29秒:移動能力にばらつきあり。外出時に介助が必要な場合があり、転倒リスクは中程度です。
30秒以上:移動能力が低下。外出時の移動補助が必要で、転倒リスクは高い水準です。
(例示)75歳女性・脳梗塞後2か月・TUG=12秒の場合:転倒リスク分類は「10〜19秒」の低リスク帯。ただし高齢脳卒中患者のカットオフ14秒には近く、方向転換時の軌跡逸脱が観察された場合はBBSでの詳細評価が推奨されます。
カットオフ値の根拠と活用法。
カットオフ値は対象集団によって大きく異なります。現場でよく聞く「12秒以上は危険」という数値は、CDCのSTEADI(高齢者転倒予防プログラム)が示す目安の一つです。しかし先行研究では集団によって異なる値が報告されています。
信頼性・妥当性・MDCのエビデンス
信頼性(ICC):高齢者集団の検者内・検者間ICCは0.92〜0.99と非常に高い。PD患者でもテスト・再テスト信頼性は高く、縦断的評価に適しています。(エビデンスレベル:高)
妥当性:TUGスコアと歩行速度(Pearson r=0.75)、歩幅(r=-0.74)、Barthel Index(r=-0.79)、歩数(r=-0.59)、姿勢動揺(r=-0.48)との有意な相関が示されています。構成概念妥当性が確認されています。
感度・特異度:高齢者の転倒予測感度・特異度はいずれも87%と報告されています。PD患者の転倒予測感度は中程度であり、単独使用では不十分な場合があります。
MDC(最小可検変化量):アルツハイマー病患者=4.09秒、PD患者=3.5秒。介入効果の判定では、この値を超えた変化量が「真の変化」と判断されます。
二重課題TUG(Dual Task TUG)のエビデンス
私たちの日常生活では「ながら歩き」が頻繁に発生します。歩きながら会話する、目的地を探しながら歩く、買い物袋を持ちながら歩くなど、歩行はあくまで移動手段です。この二重課題(dual task:2つの課題を同時に行うこと)の能力を評価するためにTUGを拡張したものが二重課題TUGです。
Cook ら(2000年)は地域在住高齢者30名を対象に3種類のTUGを測定し、TUG manual・TUG cognitiveは転倒歴のある高齢者で有意に時間が長いことを示しました。ただし単独TUGでは転倒リスクのある高齢者を十分識別できないとも報告しています。脳卒中患者は眼球運動の問題や注意機能の障害が見られやすいため、二重課題TUGの活用が特に有用です。
STROKE LABでは、TUGをはじめとした機能評価を丁寧に行い、転倒リスクの背景にある問題(バランス・歩行・認知)を特定した上で、個別に最適化したリハビリプログラムを提供しています。「退院後の転倒が心配」「一人での外出が不安」そのようなご家族のお悩みを、まずは無料相談でお聞かせください。
多職種連携とゴール設定。
TUGの結果は、PT・OTだけでなく、看護師・医師・MSWとの情報共有に活用できます。転倒リスクの客観的指標として、多職種が共通言語で話せる評価ツールです。
多職種それぞれのTUG活用場面
| 職種 | TUG活用の焦点 | 具体的なアクション |
|---|---|---|
| PT | 歩行・バランスの問題点特定 | TUGのサブタスク分析→BBS・BESTestへの展開・介入計画立案 |
| OT | ADL・IADL自立度の予測 | TUG値をBarthel Index・FIMと組み合わせて退院後の生活像を評価 |
| 看護師 | 病棟内転倒リスク管理 | TUGのカットオフ値を基に転倒予防プロトコルを適用・ナースコール位置調整 |
| 医師 | 運動器不安定症の診断 | 診断基準(TUG≧11秒)への組み込み・薬剤調整の判断材料として使用 |
| MSW | 退院支援・介護サービス調整 | TUGの値をケアマネジャーと共有し、適切な介護度・住宅改修の判断材料に活用 |
「TUGの結果を朝のカンファレンスで共有するとき、秒数だけ言っても伝わりにくいんです。”14秒でコーン回り時にふらつきがあった”と具体的に言えるようにしてほしいです。」
「退院前にTUGとBarthel Indexを並べて提示すると、MSWがサービス調整をとてもスムーズに進めてくれますよ。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
TUGは簡便で信頼性の高い評価ですが、使い方を誤ると「間違った安心」や「見逃し」につながります。新人セラピストが特に注意すべき3つの罠を確認しておきましょう。
臨床判断の分岐点:次の評価へのつなぎ方
「TUGで起立直後や方向転換時にふらつきが観察されたら、迷わずBBSを追加する。そのフローを頭に入れておくと、評価の流れが自然につながります。」
「TUGで問題が少ない機能の良い患者は、BESTestで掘り下げるとバランス制御の弱点が見えてきます。スクリーニングの次のステップとして覚えておいてください。」
「脳卒中患者で注意機能の問題が疑われる場合は、必ずTUG Cognitiveも測定してください。通常TUGでは見えてこない問題が浮き彫りになることがあります。」
予後とゴール設定の実際。
TUGの結果は、短期・長期目標の設定に直接活用できます。「介入前後のTUGの変化量がMDCを超えているか」を確認することで、介入効果の客観的な判定が可能です。
短期目標(2週間):TUGタイム20秒→16秒(変化量4秒:PD患者のMDC 3.5秒を超える真の改善)。立ち上がり・方向転換時のふらつきが消失する。
長期目標(6週間):TUGタイム14秒未満(高齢脳卒中患者のカットオフ値未満)。屋内での独歩での移動が安全に確立し、通所リハビリへの移行が可能となる。
介入パラメータ(例):バランス・歩行訓練 1セッション40〜60分、週3〜5回。起立・着座練習・方向転換訓練・二重課題歩行訓練を組み合わせて実施。
よくある質問(新人臨床家の疑問)。
対象集団によって異なります。地域在住高齢者では13.5秒、高齢脳卒中患者では14秒、パーキンソン病患者では11.5秒が転倒リスクのカットオフ値として報告されています。
運動器不安定症の診断基準では11秒が採用されています。単一のカットオフ値をすべての対象に適用することは避け、対象集団に適した文献を参照してください。
一般的な目安として、10秒未満はリスクほぼなし、10〜19秒は低リスク、20〜29秒は中程度リスク、30秒以上は高リスクとされています。
ただしTUGのみでの転倒予測には限界があり、BBSやBESTestなどの他の評価と組み合わせることが推奨されます。
高齢者集団における検者内・検者間信頼性(ICC)は0.92〜0.99と非常に高く報告されています。PD患者においてもテスト・再テスト信頼性は高く、縦断的な機能変化の追跡に適しています。
TUGに第2の課題を追加したテストです。片手でコップを運ぶ「TUG Manual」と、3ずつ逆算する「TUG Cognitive」の2種類が代表的です。
TUG Cognitiveの感度は76.5%・特異度73.7%と単独TUGより転倒予測精度が高く、注意機能障害が疑われる脳卒中患者の評価に有用です。
時間(秒数)だけでなく、立ち上がり時の体幹動揺、歩行速度・歩幅・腕振り、方向転換時の軌跡・ふらつき、歩行補助具の使用状況などを観察します。
特に「コーンに向かう局面(Go)」と「方向転換(Turn)」が最も難しいサブタスクで、転倒群は非転倒群より軌道逸脱が有意に大きいことが報告されています。
アルツハイマー病患者でのMDCは4.09秒、パーキンソン病患者では3.5秒と報告されています。
MDCとは測定誤差を超えて真の変化と判断できる最小の変化量のことで、介入効果を判定する際に重要な指標です。この値を下回る変化は偶然の誤差範囲内と判断します。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳神経系に特化した自費リハビリ施設です。脳卒中後の転倒リスク改善・歩行の安定・生活の自立回復に向けて、最新の神経科学的知見と徒手療法を組み合わせた個別プログラムを提供しています。通所リハビリや入院リハビリでは「もっとリハビリをしたい」「退院後が不安」というご家族・ご本人の声にお応えしています。
「TUGで14秒だった脳卒中患者さんが、8週間の集中的なバランス・歩行訓練後に9秒まで改善された経験があります。数値が変わるとご家族の顔が本当に明るくなります。MDCを超えた変化が”証拠”になる瞬間です。」— 理学療法士・臨床経験12年・神経系リハビリ専門
「TUGとBBSを組み合わせて評価すると、どこで転ぶリスクが高いかがかなり明確になります。脳卒中患者さんは方向転換が弱点なことが多く、その一点を集中的に練習するだけでTUGのタイムが劇的に変わることもあります。」— 作業療法士・臨床経験9年・脳血管疾患専門
あわせて読みたい:バランス評価の総合ガイド(BESTest)
諦めないでください。
「転倒が心配で外出させられない」「歩くたびにひやりとする」——そのようなご家族の不安を、私たちは真剣に受け止めています。
STROKE LABでは、TUGや精緻な機能評価をもとに、転倒リスクの「根拠」を明確にしたうえで、最適な歩行・バランス訓練プログラムを組み立てます。
脳神経系に特化した専門セラピストが、ご本人とご家族に寄り添いながら、一歩一歩の回復を共に目指します。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)