【2022年度版】Trail Making Test(TMT)のリハビリ評価を学ぼう!カットオフ検査値まで
Trail Making Test(TMT)とは
Trail Making Test(TMT)は、認知症のスクリーニングに用いることができる簡単なツールです。
なお、認知症とは認知機能の喪失が日常生活に支障をきたすほど深刻である場合をいいます。
この検査は、2つのパートに分かれて実施され、それぞれに特定の目的と目標があります。
TMTの目標は、できるだけ早く、正確に検査を完了し、認知機能障害の潜在的な徴候を明らかにすることです。
日本では、病院などで注意障害などの高次脳機能障害を評価するために、
作業療法士等によってTMTはよく使用されています。
💡この記事では、TMTの歴史について概説し、その実施方法と採点方法について説明します。また、TMTが認知障害の診断にどの程度正確であるか、そして使用の利点と限界についても見ていきます。
STROKE LABでは他にも様々な役立つ臨床評価指標を動画や記事で解説しています↓
こちらはFMAという脳卒中の身体機能の評価指標に関する動画です。
TMTの歴史
臨床神経心理学の父の一人とされるアメリカの神経心理学者ラルフ・ライテンによって、1944年に考案されました。
このテストは当初、視覚的な注意を維持し、「タスクスイッチング」の能力に基づいて、陸軍兵士の一般的な知能を評価するために開発されました。
※タスクスイッチング:あるタスクから次のタスクへ無意識に焦点を移すことです。
1946年、臨床心理学者のスチュワート・G・アーミテージが、第二次世界大戦中に兵士が受けた脳の損傷を評価するために、このテストを使用することを提案しました。
それ以来、TMTは、脳の状態や機能を評価するための包括的な検査であるHalstead-Reitan 神経心理学バッテリー(HRNB)に組み込まれるようになりました。
TMTの使用目的
TMTは、多くの種類の脳機能障害、特に前頭葉に関わる障害の特定と診断のためのツールとして一般的に使用されています。なお、前頭葉は、計画性、自己制御、記憶形成、共感、注意などの高度な認知能力を司る脳の部分です。
検査内容の概要
TMTは、認知機能障害が疑われる15~89歳の方に使用することができます。視覚情報を見失うことなく検索、スキャン、処理できる速度から、その人の認知機能を知ることができます。
また、このテストでは、精神的な柔軟性についての情報も得られます。
※精神的な柔軟性:ある思考プロセスから別の思考プロセスへどれだけ素早く移行できるかという意味です。
これらの能力はすべて、遂行機能として知られるものの一部です。
遂行機能の著しい低下や喪失は、認知障害の徴候である可能性があります。
TMTは、ペンと紙だけを使って時間を計り、2つのパートに分かれて行われます。
●TMTのパートAは、紙片に25個の円を書き、それぞれに1から25の数字をランダムに書き込みます。
●1から25までの数字の昇順に、ある円から次の円まで、できるだけ早く線を引くことが課題です。
円と円の間の線を「軌跡」と呼びます。
●TMTパートBは、1枚の紙に24個の円を書きますが、すべての円に数字を書くのではなく、半分に1から12までの数字、残りの半分にAからLまでの文字を書きます。
●パートBでは、数字から文字へと交互に円を昇順につないでいくことが課されます。
つまり、「軌跡」は次のように結ばれます。
1-A-2-B-3-C-4-D-5-E-6-F-7-G-8-H-9-I-10-J-11-K-12-L
💡日本では、「A,B,C,・・・」の代わりに「あ,い,う,・・・」などのひらがなを使用することが多いです。
テストの実施
TMTは、ある種の認知障害に非常に敏感です。
実施には専門的なトレーニングは必要ありませんが、正確さを期すために特定の方法で実施されます。
具体的には、TMTは次のような手順で実施します。
①TMT パートAのワークシートに丸と数字を書いたものを渡します。
②指示を説明し、サンプルページでパートAがどのように行われるかを実演します。
③テストが始まったら、すぐに時間を計ります。
④もし、間違いをしたら、その人に知らせ、間違いを直して続けてもらいます。
⑤その人が終了したときの時間を記録します。
⑥TMT パートBで繰り返します。
⑦5 分経過してもパートAとパートBを完了できない場合は、テストを中止することができます。
実際の動画はこちら↓
動画引用元:Thomas Meuser様 YouTube投稿より
採点方法と解釈
テストを完了するまでにかかった時間によって採点されます。
ミスをした場合、最終的な記録時間が延びる以外には、ペナルティはありません。
得点は、テストを完了するのに要した秒数です。テストの各パートは個別に採点されます。
スコアが高いほど、認知障害の程度が高いことを示しています。
【スコアから得られるもの】
スコアに基づいて、TMTは2つの事柄について有用な情報を提供することができます。
1.認知機能の高低について
認知機能は、各テストの「平均(Average)」スコアとの関連で説明されます。
スコアが高いほど、認知機能が低下していることを示します。
スコアが低いほど、その人の認知能力が損なわれていないことを示唆します。
2.認知機能障害の有無について
認知機能障害は、ある一定の時間を超えた点数で表されます。
それ以降のスコアは「欠損(Deficient)」と言われます。
TMTパートAおよびパートBでは、
「平均(Average)」と「欠損(Deficient)」のスコアは
以下のように分類されます1)。
平均点(Average) 欠損点(Deficient) TMT パートA 29 秒 79 秒以上 TMT パートB 75 秒 273 秒以上
この数値は、認知能力に問題がなくても検査に時間がかかることが多い高齢者のために調整されることがあります。どのような調整が必要かについての普遍的な合意はありませんが、いくつかのグループは以下のように提案しています2)。
平均(Average) 欠損(Deficient) TMT パートA(55歳~75歳) 42秒以下 70秒以上 TMT パート A(75 歳~98 歳) 51 秒以下 79 秒以上 TMT パート B(55 歳~75 歳) 101 秒以下 273 秒以上 TMT パート B(75歳~98 歳) 128 秒以下 273 秒以上
スクリーニングの有効性
TMAは、注意力、視力、記憶力、処理速度を測定します。
この検査は、人の認知機能を評価する上で、良好な精度を示しています。
TMTパートAは、ワーキングメモリーを測定するのに適しています。
💡TMTパートBは、パートAよりも難易度が高いため、より高度な情報処理能力を反映できると考えます。
例えば、同時に数字と文字を認識・記憶して課題をしなければならないため、分配性注意なども評価可能と考えられます。
TMTは、認知症の人が安全に運転できるかどうかを判断する際にも、視覚処理と精神的柔軟性の両方を必要とするため、有用であると考えられます。
とはいえ、TMTの精度は、調査する疾患や対象によって異なる場合があります。
この精度は、検査の感度と特異度によって決定されます。
※感度:病気を持つ人を正しく識別できる割合
※特異度:病気を持たない人を正しく識別できる割合
例として、認知障害のある運転手を特定するために使用した場合、
TMTの感度はわずか53%、特異度は90%だったという報告があります3)。
💡どのような対象にTMTを実施したかによって、検査の精度は変わりうるということです。
口頭で行うTMT
TMTは、口頭で実施することもできます。口頭テストは、身体的に筆記テストができない場合や、病気や疲労が筆記結果に影響するような場合に使用することができます。
パートAでは、紙とペンを渡すのではなく、単に1から25まで数えてもらいます。
パートBでは、数字と文字を交互に口頭で復唱してもらいます(1-A-2-B-3-Cのように)。
TMTの長所と短所
有益な検査であるだけに、TMTには長所と短所があります。
また、検査の目的によっては、すべての人に、すべての状況に適しているわけではありません。
●簡単で短時間で実施できます。
●テストの実施に専門的なトレーニングは必要ありません。
●どこでも実施できます。
●認知障害の検出精度が比較的高いです。
●年齢が高いと、調整しなければ結果が歪む可能性があります。
●検査の精度は、診断される疾患によって異なる可能性があります。
●専門家の解釈を求めなければ、境界例で誤診される可能性があります。
まとめ
ここまで解説してきたTMTは、認知症のような認知機能の問題を発見するのに役立つ、迅速で簡単なテストです。
紙とペンを使って、2つのパートに分かれて行われます。
Aパートでは、ランダムに配置された25個の円を数字の昇順につなげることが求められます。
Bパートでは、ランダムに配置された24個の円を数字と文字で交互に昇順につなげます。
各パートを何秒で完成させたかで採点されます。
つまり、スコアが高いほど、認知イメージの程度が高いことを示しています。
このテストは非常に有用ですが、高齢者では精度が低くなる可能性があり、調査する状態によって精度が異なることがあります。
TMTは有用ですが、
単独で使用したり、認知症やその他の認知機能の問題を自己診断したりするために使用するものではありません。
TMTは、
資格を持った医療従事者が行う包括的なスクリーニング検査の一部として使用することが最も効果的です。
もし、あなたやあなたの大切な人が認知機能障害かもしれないと思ったら、
かかりつけ医に専門医を紹介してもらって、さらに詳しい評価をしてもらいましょう。
STROKE LABでは、他にも高次脳機能障害のリハビリ記事をまとめております↓
参考文献
1) Llinàs-Reglà J., Vilalta-Franch J, López-Pousa S, Calvó-Perxas L, Torrents Rodas D, Garre-Olmo J. The trail making test. Assessment. 2016;24(2):183–96.
2) Ashendorf L. Jefferson AL, O’Connor MK, Chaisson C, Green RC, Stern RA. Trail making test errors in normal aging, mild cognitive impairment, and dementia. Arch Clin Neuropsychol. 2008 Mar;23(2):129–37.
3) Dobbs BM, Shergill SS, How effective is the trail making test (parts A and B) in identifying cognitively impaired drivers? Age Ageing. 2013;42(5):577-81.
TMTに関連する論文サマリー
カテゴリー
タイトル
●脳卒中者は眼球運動に無駄が多い!?視覚が動作に及ぼす影響
●原著はEye Movements Interfere With Limb Motor Control in Stroke Survivorsこちら
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●脳卒中患者では多くの方が眼球運動障害を呈している。しかし、眼球は適宜評価のしづらい箇所の為、見過ごされている可能性が高い。眼球運動障害が実際どの程度動作に影響を与えているのか学ぶべく本論文に至る。
内 容
背景
●日常生活の中で、人は環境から視覚情報を積極的に収集するために、数千の自発的な眼球運動を行っています。「視覚的検索」は、運転、歩行、食事の準備などの機能的活動中に手足と体の動きのパフォーマンスに必要な情報を収集します。
●ほとんどの脳卒中者は、これらの機能的運動課題の実行に困難を抱えており、リーチ動作を計画するために多くのサッカード(急速眼球運動)を必要とする患者は、運動能力が低いことが最近示されました。
●ここでは、サッカードが脳卒中者の到達運動の速度と滑らかさを妨げるかどうか、および過度のサッカードが機能的課題の実行の困難さに関連しているかどうかを調査しました。
方法
●ロボットデバイスとアイトラッキングを使用して、脳卒中者と年齢を合わせたコントロール群でTMT中のリーチ動作パフォーマンスと眼球運動を調べました。脳卒中患者の心身機能状態に関してはStroke Impact Scale (SIS)を使用して調べました。
●上の図のように参加者は水平面上でターゲット(半径1.0 cm)にリーチ動作を実行することで、TMTをできるだけ早く完了するように指示された。数値テスト(TMT-A)では、25の数(1、2 、3、…、25)を順々に辿っていきました。認知的に困難な英数字テスト(TMT-B)では、参加者は13の数と12のローマ字(1、A、2、B、…、13)間で交互に線を引きました。参加者が誤ったターゲットに手を動かした場合、前のターゲットが赤に変わり、参加者は続行する前に手を前の正しいターゲットに戻すように指示されました。ロボットは手の動きを支援したり、抵抗したりしませんでした。
結果
●多くの脳卒中患者(視野欠損や視空間無視なし)がTMTテスト中に異常に多くのサッカード(急速眼球運動)を行い、これらの過度のサッカードが課題パフォーマンス低下を予測することを示されています。これは視覚探索障害が視覚運動能力を混乱させる可能性があることを示唆しています。
●運動中にサッカードの数は、リーチ到達速度の低下、到達の滑らかさの低下、タスクの実行の困難さと強く関連していることもわかりました。
●コントロール群と比較して、脳卒中者は進行中のリーチ動作中に多くのサッカードを作り、これらのサッカードのほとんどは、リーチ動作速度の一時的な低下に先行していました。また、運動中にサッカードの数は、到達速度の低下、到達の滑らかさの低下、タスクの実行の困難さと強く関連していることもわかりました。
●調査結果は、眼と四肢の動きの間の脳卒中後の干渉が機能的な課題を実行する困難さに関わっているかもしれないことを示しています。これは、眼球運動の障害のある組織の治療を目的とした介入が脳卒中後の機能回復を改善する可能性があることを示唆しています。
私見・明日への臨床アイデア
●眼球運動障害が動的パフォーマンスに影響を与えている事が示唆された。最近では、Tobii glassesのように比較的安価で、眼球運動の評価が可能な機器も出てきており、動的場面の眼球運動評価も実施可能となってきている。視覚情報は強力であり、その混乱は動作に少なからず影響を与えるため、眼球の適切な運動、眼球と頭頚部の分離運動、眼球運動と四肢の動きのリンクと臨床で意識して介入していきたい。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)