【2026年版】Trail Making Test(TMT)とは|採点方法・年齢別規範値・B/A比を完全解説
TMTは、運転再開の可否をどう教えてくれるのか。
Trail Making Test(TMT)は、注意機能・処理速度・認知の柔軟性を評価する代表的な神経心理検査です。脳卒中後リハビリにおいて「車の運転再開が可能かどうか」を判断する場面で、前頭前野機能のスクリーニングとして広く活用されています。実施手順・解釈・運転評価との連携まで、新人セラピストが現場で迷わないよう体系的に解説します。
要点5項目。
臨床現場での出会い方。
65歳男性。右中大脳動脈領域の脳梗塞で入院中。ADLはほぼ自立。本人と家族から「車の運転再開が生活の要」と相談を受けた。視覚機能・運動機能に大きな問題はないが、会話中にたびたび注意が散漫になる様子がある。
このような場面で、あなたはどう評価を進めますか。TMTはこの問いに答えるための、最初の一手です。
車社会の現代において「また運転したい」という希望は多くの患者さんから聞かれます。脳卒中後、運動機能は回復していても認知機能の問題が運転再開を阻む場合があります。
TMT(Trail Making Test:トレイルメイキングテスト)は、こうした認知機能の評価を短時間で行える、信頼性の高いツールです。新人セラピストが運転再開評価の場面で使えるよう、基礎から丁寧に解説します。
TMTの定義と測定概念。
TMTは1944年にArmitage(後にReitan, 1958に標準化)が開発した神経心理検査です。AとBの2パートから構成され、それぞれ異なる認知機能を測定します。
選択的注意(Selective Attention):多くの刺激の中から必要な情報だけを選ぶ能力。TMT-Aの数字探索場面で要求される。
持続的注意(Sustained Attention):一定時間にわたり注意を維持し続ける能力。TMT全体の遂行に必要。
処理速度(Processing Speed):情報を処理するスピード。所要時間が直接の指標となる。
セットシフト(Set Shifting):2つの異なるルールを交互に切り替える認知の柔軟性。TMT-B特有の要求。運転では信号・標識・周囲の車など複数の情報を同時処理する際に必要。
なぜ運転評価にTMTが使われるのか?
車の運転は、多くの認知機能を同時に使う複合的な活動です。交差点での判断・信号への反応・歩行者の飛び出しへの対応——これらすべてに前頭前野の実行機能が関わります。
TMT-Bで評価されるセットシフト能力は、まさにこの「複数の状況を切り替えながら処理する能力」と対応しています。そのため、運転再開評価の補助ツールとして広く採用されています。
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そのお気持ちを、一緒に形にしましょう。
STROKE LABは脳神経系に特化した自費リハビリ施設です。認知機能・運動機能・日常生活の質向上を目指し、一人ひとりに合わせたオーダーメイドのプログラムを提供しています。まずは無料相談でお気軽にご相談ください。
神経メカニズム・責任病巣。
前頭前野は判断・計画・注意の切り替えを担う脳の最前線です。TMT-Bで特に活発に使われるこの領域が損傷を受けると、複雑な状況への対応能力が低下します。車の運転は「この信号は青か・歩行者はいるか・次の交差点は右か左か」を同時処理する前頭前野の働きそのものです。
TMTと関連する脳領域
前頭前野(PFC):セットシフト・実行機能・判断力の中枢。TMT-Bの成績と最も強く関連します。脳卒中で前頭葉に損傷がある場合、TMT-Bの所要時間が顕著に延長することが多い。
頭頂葉:視覚空間処理・数字の視覚的探索に関与。TMT-Aの視覚探索場面で重要な役割を果たします。右半球損傷では半側空間無視(USN)が合併しやすく、TMTの信頼性に影響します。
帯状回・基底核:注意の持続・情報処理速度に関与。白質病変や皮質下梗塞では処理速度が選択的に低下することがあります。
Reger MA et al.(2004):134名の高齢ドライバー(平均75.3歳)を対象に、TMTと路上運転評価の関連を検証。ROC曲線分析により、TMT-AおよびBの所要時間が中程度の識別能力を持つことを確認。Neuropsychological Rehabilitation。(エビデンスレベル:観察研究)
Lezak MD et al.(2004):TMT-Bは前頭前野の活動を反映する実行機能検査の代表格として、神経心理学的評価バッテリーに広く採用されている。Neuropsychological Assessment, 4th ed.(エビデンスレベル:専門書・系統的レビュー)
類似検査との違い。
運転再開評価場面では複数の認知検査を組み合わせることが推奨されます。TMTが評価できる領域と、他の検査で補うべき領域を理解しておきましょう。
| 検査名 | TMT(Trail Making Test) | MMSE | Stroopテスト |
|---|---|---|---|
| 主な評価領域 | セットシフト・処理速度・持続的注意・視覚探索 | 全般的認知機能スクリーニング(見当識・記憶・計算) | 選択的注意・干渉抑制 |
| 運転評価との関連 | 中程度の識別能力あり(ROC曲線で確認済み) | スクリーニングとして補助的に使用 | 前頭葉機能の補完評価として有用 |
| 実施時間 | 5〜10分(A+B合計) | 5〜10分 | 5〜15分 |
| 臨床での注意点 | 半側空間無視・運動障害があると結果に影響 | 前頭葉機能は十分に反映されない | 色覚障害・読み書き困難がある場合は不適 |
TMT実施手順・採点基準。
ここでは実際の臨床で使えるよう、準備から採点・解釈まで段階的に説明します。実施前に必ず練習問題(試行)を設け、患者さんが課題を理解していることを確認してください。
TMT-A:実施手順(処理速度・視覚的注意の評価)
TMT-A用紙(1〜25の数字がランダム配置)・ペン・ストップウォッチを用意します。検査環境は周囲の音や視覚的刺激を最小限にします。患者さんに利き手でペンを持たせ、「ペンを紙から離さずに数字を結ぶ」ことを確認します。
「紙の中に1から25までの数字が書かれています。1から順番に、線で結んでいってください。できるだけ速く、正確に行ってください」と伝えます。練習問題(1〜8程度の短縮版)で理解を確認してから本番を開始します。
「始めてください」の合図と同時にストップウォッチをスタート。「1」から「25」を結ぶまでの所要時間を計測します。誤った数字を結んだ場合はその都度指摘して正しい数字に戻らせ、修正時間も含めて計測を継続します。エラーの発生場所・内容を記録します。
記録項目:①所要時間(秒)②エラー数③エラーの種類(順序錯誤・スキップ・迷い等)。所要時間は処理速度・視覚的注意の指標として活用します。
TMT-B:実施手順(セットシフト・実行機能の評価)
TMT-B用紙(1〜13の数字とA〜Lのアルファベットがランダム配置)を用意します。TMT-Aを実施した後、5分程度の休息を挟んでから実施するのが望ましいです。
「このテストでは、1→A→2→B→3→Cのように、数字とアルファベットを交互に結んでいきます。できるだけ速く、正確に行ってください」と説明します。練習問題(1→A→2→B→3程度)で理解を確認します。
「始めてください」でストップウォッチをスタート。順序を間違えた場合は即座に指摘し、正しい順序に戻らせます。途中でエラーが多発・長時間かかる場合は前頭前野の機能低下を疑います。300秒(5分)で打ち切る施設もあります。
記録項目:①所要時間(秒)②エラー数③エラーの種類(セットシフト失敗・ルール忘れ・視覚探索エラー等)。TMT-B/A比(TMT-B所要時間÷TMT-A所要時間)を算出し、2.0以上でセットシフト能力の低下を疑う目安とします。
所要時間(主指標):短いほど処理速度が高く、注意機能が良好。年齢・教育年数による標準値と比較して評価します。一般成人の目安:TMT-A 平均30〜40秒、TMT-B 平均60〜80秒(若年成人)。高齢者はこれより延長します。
エラー数(補助指標):TMT-Bのエラー数のみが運転成績と有意に相関(Reger et al., 2004)。エラーが多い場合は注意障害・セットシフト障害を示唆します。
TMT-B/A比:2.0未満=セットシフト能力は比較的保たれている。2.0〜3.0=軽度〜中等度の低下を疑う。3.0以上=前頭葉機能の顕著な低下を示唆。
ROC曲線分析の知見(Reger et al., 2004):TMT-AおよびBの所要時間のみが中程度の識別能力を持つことが確認。TMT-Aエラー数は路上評価との有意相関なし。TMT-B所要時間・エラー数は有意相関あり。(エビデンスレベル:観察研究)
介入の段階とエビデンス。
TMTで注意機能の低下が確認された場合、運転再開に向けたリハビリは以下の4段階で段階的に進めます。各段階でのパラメータを明確にしながら取り組みます。
目的:選択的注意・持続的注意の基盤を強化する。方法:注意集中を鍛えるゲーム(数字探索・カード分類)・視覚空間認知トレーニング。頻度:週2回以上、1セッション30〜45分、8〜12週継続。
目的:TMT-Bで評価された認知の柔軟性を改善する。方法:二重課題トレーニング(歩行+認知課題)・カテゴリー切り替え課題。頻度:週2〜3回、1セッション30分、8〜12週。
目的:実際の運転に近いシナリオで注意力・反応速度・判断力を統合的に訓練する。方法:運転シミュレーターを使用した訓練(緊急回避・信号反応・車間距離判断)。頻度:週1〜2回、1セッション45〜60分。
目的:評価基準を満たした後の実車訓練・最終評価。方法:低交通量の環境・時間帯を選んだ実車訓練。定期的なTMT再実施による変化の確認。フォローアップ:運転再開後6ヶ月〜1年ごとの再評価が推奨されます。
Hatem SM et al.(2016):システマティックレビュー(上肢中心)。発症後6ヶ月以降でもリハビリによりFMA/ARATが有意改善。自然回復カーブの「頭打ち」を押し上げる技術が多岐に存在することを示す。Frontiers in Human Neuroscience。(エビデンスレベル:システマティックレビュー)
David FJ et al.(2015):24ヶ月RCT(n=48)。注意力・ワーキングメモリが有意改善。運動負荷が認知機能カーブを上方へ。PLOS ONE。(エビデンスレベル:RCT)

専門家に相談してください。」
脳卒中発症後でも、適切なリハビリを続ければ認知機能・運動機能は変わります。STROKE LABでは最新のエビデンスに基づき、あなたの生活目標に合わせたプログラムを一緒に組み立てます。
多職種連携と環境調整。
運転再開評価は、チームで行う意思決定プロセスです。TMTの結果をセラピストが単独で判断するのではなく、医師・看護師・MSWと情報を共有し、患者本人・家族を含めた合意形成が必要です。
多職種連携の役割分担
| 職種 | 主な役割 | 運転再開との関わり |
|---|---|---|
| 医師 | 診断・治療方針の決定 | 診断書の発行・運転可否の最終判断・服薬の確認(鎮静系薬剤は運転に影響) |
| OT | ADL・認知機能評価 | TMTの実施・解釈の中心的役割。認知リハビリ・日常生活での注意機能訓練・車両操作訓練 |
| PT | 身体機能・移動能力の向上 | ペダル操作に必要な下肢機能評価・車への乗降動作・視野・反応速度の評価補助 |
| ST | 高次脳機能・コミュニケーション | 失語・失認・記憶障害の評価。TMT実施前の言語理解の確認も担う |
| 看護師 | 日常的な患者観察・生活管理 | 病棟での注意機能・疲労の変動を観察・報告。服薬状況の管理 |
| MSW | 社会資源・生活設計の調整 | 運転代替手段(介護タクシー・デイサービスの送迎)の情報提供・家族への説明支援 |
環境調整のポイント
「運転の代替手段を一緒に探すことで、患者さんの自立を支えながら安全を確保できます。移動手段の喪失は自尊心への打撃になるため、アプローチの言葉選びが重要です。」
「片麻痺がある場合、ハンドコントロール装置・左足アクセル装置などの車両改造を専門機関(自動車改造業者・自動車教習所の特別対応)に相談することを早期から伝えましょう。」
「運転訓練を始める際は、低交通量の道・昼間の時間帯から始め、ストレスを最小限にした環境で段階的に負荷を上げていきます。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
TMTは汎用性の高い検査ですが、解釈を誤ると患者さんの運転再開に誤った判断を与えるリスクがあります。新人セラピストが陥りやすい3つの罠を先輩から伝えます。
臨床判断の分岐点
「TMT-Bで明らかな結果不良が出たときは、まず患者さんの疲労・不安・検査環境の影響がなかったか確認します。再検査で変化があれば、それ自体が貴重な情報です。」
「運転を諦めてほしくない気持ちから、結果を甘く見てしまうことがあります。でも患者さんの安全のためには、チームで客観的に判断することが最大のサポートです。」
予後とゴール設定。
TMTの結果が現時点で不良であっても、認知リハビリの継続により改善が見込める場合があります。「今の結果=永遠に運転できない」ではありません。予後を適切に説明することが患者さんの意欲につながります。
Step 1 — 短期目標(4〜8週):TMTの所要時間を20〜30%短縮する。認知リハビリへの参加を週2回以上確保する。
Step 2 — 中期目標(3〜6ヶ月):TMT-B/A比を2.0以下に改善する。運転シミュレーターで基本的な操作・判断課題をクリアする。
Step 3 — 長期目標(6ヶ月〜):免許センターの適性試験をクリアし、条件付き運転許可を得る。または安全な代替移動手段を確立し、自立した社会参加を実現する。
よくある質問(新人の疑問)。
TMT-Aは1〜25の数字を順番に結ぶ課題で、視覚的注意・選択的注意・処理速度を評価します。TMT-Bは数字とアルファベットを交互に結ぶ課題で、認知の柔軟性・セットシフト能力・持続的注意を評価します。
TMT-Bは前頭前野の実行機能をより反映するため、運転能力評価において特に重要です。必ずセットで実施し、TMT-B/A比も算出してください。
134人の高齢ドライバー(平均年齢75.3歳)を対象とした研究(Reger et al., 2004)では、TMT-AおよびBの所要時間が中程度の識別能力(ROC曲線分析で確認)を持つことが示されました。
ただし、TMT単独での運転可否判断は推奨されず、視覚機能・身体機能・精神的評価と組み合わせた多面的な評価が必要です。
明確な単一カットオフ値は存在しませんが、年齢・教育歴を考慮した標準値と比較して大幅に遅い場合(例:同年代平均の2SD以上)や、エラーが頻発する場合は注意機能の低下が疑われます。
TMT-B/A比が2.0を超える場合はセットシフト能力の低下を示唆するとされています。あくまで「目安」として使用し、他の評価と総合的に判断してください。
①主治医による診断書取得、②警察署・運転免許センターへの相談、③適性試験(TMT等の認知評価・運転シミュレーション・身体機能テスト)、④運転適性の判定、⑤条件付き免許の申請(必要な場合)、⑥実地訓練・フォローアップという段階を踏みます。
片麻痺がある場合は車両改造(ハンドコントロール等)が必要な場合があります。フォローアップは6ヶ月〜1年ごとに実施します。
誤って線を結んだ場合は、その都度指摘して正しい番号・順序に戻るよう指示します。この修正のための時間もタイム計測に含まれます。
エラーの数と内容は記録し、評価の参考にします。TMT-Aでのエラーより、TMT-Bでのエラーがより高次の認知機能(セットシフト)の問題を示唆します。
MMSE(認知機能スクリーニング)、Stroopテスト(選択的注意・抑制機能)、視覚探索課題、反応時間測定、視野検査などが使用されます。また、Beck Anxiety Inventory(不安評価)など精神的側面の評価も重要です。
TMT単独でなく、これらを組み合わせた包括的評価が推奨されます(Reger et al., 2004)。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳神経疾患に特化した自費リハビリ施設です。「保険リハの期間が終わったから仕方ない」という諦めに、私たちは向き合い続けています。最新の神経科学エビデンスに基づき、あなただけのオーダーメイドプログラムを提供します。
— STROKE LABでの脳卒中リハビリの実際の様子です。
「TMTの結果が悪くても、数ヶ月のリハビリで明らかに改善するケースを何例も経験しました。最初の評価は”今の状態”であって、ゴールではありません。患者さんと一緒に変化を見届けることが、この仕事の醍醐味です。」— 作業療法士・臨床経験12年・高次脳機能障害専門
「運転再開を諦めた患者さんに代替移動手段を提案した際、『この先生に相談してよかった』と言っていただけたことがあります。評価の結果をどう伝え、どう一緒に前に進むか——それがセラピストの真骨頂だと思います。」— 理学療法士・臨床経験8年・脳卒中リハビリ担当
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諦めないでください。

脳卒中後遺症を抱えながら「また運転したい」「また自分で出かけたい」と思う気持ちは、回復への最も強い原動力です。その気持ちを諦めさせてはいけないと、私は強く思っています。
保険リハビリの期間が終わっても、脳の可塑性はまだ働いています。適切なリハビリを、適切なタイミングで続けることが、回復への道を開きます。
STROKE LABでは初回20分の無料相談を実施しています。現在の状態・目標・不安なことを、まずは気軽にお聞かせください。あなたに合ったプランを一緒に考えます。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)