【2024年最新】腕神経叢損傷のリハビリとは?原因、痛み、評価、回復・後遺症の改善に必要な知識まで詳細に解説!
腕神経叢損傷の概要
図引用元:visible bodyより
腕神経叢は頸椎、首から神経繊維を入れ替えながら腋窩を経て腕に至る神経網です。上腕神経叢は、脊髄副神経が支配する僧帽筋と、肋鎖神経が支配する腋窩付近の皮膚という2つの例外を除いて、上肢全体の皮膚と筋の支配を担っています。神経叢は、根、幹、分枝、索、枝から構成されます。
本記事では、腕神経損傷に起因する主な問題とその対処法、基本的知識について概説します。
腕神経叢損傷に関連する翼状肩甲の記事も併せてご覧ください。
腕神経叢損傷の障害の分類
腕神経叢損傷の様々な分類は以下の通りです。
損傷部位による分類
全型
全型の神経叢麻痺は、第5頚椎神経根〜第1胸椎神経根まで麻痺する型、つまり肩から手指まで全く動きかなくなります。肩甲骨を可動させる神経はそれ以外からも神経支配を受けているので、少し動くように見えることもあります。
上位型
上位型の神経叢麻痺(Erb麻痺)では、第5・6型、時に第5・6・7型、第5~8型までがあります。主に肩の外転・外旋、肘の屈曲が侵され、C7の損傷の程度により、手首より先が動く場合があります。
下位型
下位型の神経叢麻痺(Klumke麻痺)では、第8頚椎神経根から第1胸椎神経根まで麻痺する型で、手首から先は動かないが肩・肘は動くものです。全型が不完全回復したものは、この型を呈することが多いです。
中間型
第4のタイプとして、主にC7根が関与する中間型を含める著者もいます。
リハビリテーション場面での評価
登場人物
- 療法士:金子先生
- 患者:丸山さん
シーン1:初診
金子先生がリハビリテーションルームで丸山さんを迎えます。
金子先生:「こんにちは、丸山さん。今日は腕神経叢の評価を行いますね。肩や腕の動きを詳しく調べて、どの程度の麻痺があるのかを確認します。」
丸山さん:「よろしくお願いします。どんなことをするんですか?」
金子先生:「まずは、全型、上位型、下位型、中間型のどの型に該当するかを確認します。それに基づいて、具体的なリハビリテーションプランを立てていきます。」
シーン2:評価の準備
金子先生は、丸山さんの腕を丁寧に支えながら、各神経根の評価を行います。
金子先生:「まずは全型の評価から始めます。肩から手指までの動きを確認しますね。」
全型の評価
金子先生は、丸山さんの肩を動かし、腕全体の動きを観察します。肩甲骨の動きも確認します。
金子先生:「全型の場合、肩から手指まで全く動かなくなることが多いですが、肩甲骨が少し動くこともあります。丸山さんの場合、どうでしょうか?」
丸山さん:「肩は少し動くようですが、腕や手は全く動かない感じです。」
金子先生はメモを取りながら、次の評価に移ります。
上位型の評価
金子先生:「次に、上位型(Erb麻痺)の評価を行います。肩の外転・外旋、肘の屈曲を確認します。」
金子先生は、丸山さんの肩を外転・外旋させ、肘の屈曲を試みます。
丸山さん:「肩の外転や肘の屈曲がうまくできません。」
金子先生:「この部分は、上位型の特徴的な症状ですね。C7の損傷があると、手首より先も影響を受けることがあります。」
下位型の評価
金子先生:「続いて、下位型(Klumke麻痺)の評価です。手首から先の動きを確認します。」
金子先生は、丸山さんの手首や指を動かしてみます。
丸山さん:「手首から先が全く動きませんが、肩や肘は少し動きます。」
金子先生:「これも下位型の典型的な症状です。」
中間型の評価
金子先生:「最後に、中間型の評価を行います。主にC7根が関与します。」
金子先生は、丸山さんの手首や指の動きを再度確認します。
丸山さん:「手首は動くけど、指はあまり動きません。」
金子先生:「これは中間型に該当するかもしれません。」
腕神経叢損傷の障害の特徴
腕神経叢の損傷は、以下のような特徴的な欠損を生じます。
上位型の神経叢麻痺(Erb麻痺)
損傷部位
腕神経叢の上部の幹の部分(鎖骨上窩)をErb点と呼びます。6本の神経がここで合流します。上半身を損傷すると、Erb麻痺が起こります。
傷害の原因
・出生時の怪我
・転倒による肩への衝撃
・麻酔時
関係する神経根
・主にC5、部分的にC6
麻痺する筋肉
主:上腕二頭筋、三角筋、上腕筋、腕橈骨筋
一部:棘上筋、棘下筋、回外筋
変形
図引用元:imedscholar.comより引用
図のような変形(特徴的な姿勢)は「Policeman’s tip hand」または「Porter’s tip hand」と呼ばれています。
障害内容
・肩の外転と外旋
・肘の屈曲と前腕の回外
・上腕二頭筋と腕橈筋反射が失われます
・三角筋の下部の小範囲で感覚が失われます
クランプケ麻痺(Klumpke’s Paralysis)
損傷部位
・腕神経叢の下幹部を損傷したものをクランプケ麻痺と呼びます。
傷害の原因
・高所からの転落時に木の枝を手で掴んだり、時には出産時の怪我など、腕の過度の外転が原因です。
関係する神経根
・主にT1
・部分的にC8
麻痺する筋肉
・手指の内在筋(T1)
・尺側の手首と指の屈筋(C8)
変形
・指の長い屈筋と伸筋が反対方向に作用することにより、Claw Handとなる。
・クローハンドでは、中手指節関節が過伸展し、指節間関節が屈曲しています。
障害内容
・クローハンド
・前腕と手の尺側縁に沿った狭い範囲に感覚障害があります。
・ホルネル症候群(Horner症候群):眼瞼下垂、縮瞳、眼裂の狭小、眼精疲労、病側顔面の発汗低下を伴うことがあります。これは、神経T1を通じて脊髄から出る頭部および頸部の交感神経線維の損傷に起因します。
・血管運動性の変化:交感神経の活動が低下し、発汗がないため、皮膚は乾燥します。
・栄養変化:指腹の萎縮と簡単に爪が割れ、麻痺の長期的なケースは、乾燥と鱗状の皮膚につながります。
側索の損傷
傷害の原因
・上腕骨の脱臼に伴うもの
関与する神経
・筋皮、正中神経外側根
麻痺する筋肉
・上腕二頭筋
・烏口腕筋
・正中神経が供給する手指以外のすべての筋
変形と障害
・肘の屈曲の障害
・手関節の屈曲の障害
・前腕の橈側の感覚障害
・血管運動と栄養の変化
腕神経叢の内側神経束の損傷
傷害の原因
・上腕骨の烏口突起下脱臼
関与する神経
・尺骨、正中神経内側根
筋の麻痺
・尺骨神経が供給する筋肉
・正中神経が供給する手指の5つの筋肉
変形と障害
・クローハンド
・前腕、手指の尺側における感覚障害
・血管運動や栄養の変化
腕神経叢損傷のメカニズム
損傷のメカニズム
腕神経叢の損傷は、様々な形で起こります。接触性のスポーツ、交通事故、自動車事故、出産時などです。
以下のように分類できます。
・外傷性(自動車事故、接触系のスポーツなど)
・非外傷性(例:産科麻痺、パーソネイジ・ターナー症候群など)
神経のネットワークは壊れやすく、引き伸ばされたり、圧迫されたり、切断されたりすることで損傷します。鎖骨と第一肋骨の間の腕神経叢が押しつぶされたり、筋肉や他の構造の損傷によってこの部分が腫れたりして、圧力が発生することもあります。
主に2つのメカニズム、「牽引」と「強い衝撃」で起こると言えます。この2つが腕神経叢の神経を乱し、受傷の原因となります。
牽引
牽引は引き抜き損傷とも呼ばれ、腕神経叢損傷を引き起こすメカニズムの1つです。牽引は激しい動きによって起こり、神経の間に引っ張りや緊張を引き起こします。牽引には、下方への牽引と上方への牽引の2種類があります。
下向きの牽引では、首と肩の角度が広くなるように強制される腕の緊張があります。この緊張が強いられると、腕神経叢の神経の上根や幹に病変が生じることがあります。
上方への牽引も、腕と肩が上方に強制されたときに起こるように、腕と胸の間の角度が広くなり、このときT1とC8の神経が引きちぎられます。
衝撃
肩への強い衝撃は、腕神経叢に損傷を与える2番目の一般的なメカニズムです。衝撃の度合いによって、腕神経叢のすべての神経に病変が生じる可能性があります。衝撃を受けた場所も傷害の重症度に影響し、場所によっては腕神経叢の神経が破裂したり剥離したりすることがあります。
腕神経叢の損傷に影響を与える衝撃の形態には、肩の脱臼、鎖骨骨折、腕の過伸展、そして時には出産時の分娩があります。出産の際に、赤ちゃんの肩が母親の骨盤の骨にかすめることがあります。この過程で腕神経叢が損傷を受けることがありますが、これは他の確認された腕神経叢損傷と比較して非常に低い確率で起こるものです。
神経回復・セラピーに必要な基礎知識
神経が損傷したという情報は、神経栄養因子の軸索輸送の途絶などによって細胞体に伝わるされており、それが神経再生に向けたトリガーとなるようです。
ワーラー変性
ワーラー変性(Wallerian degeneration)とは、末梢神経線維が損傷により神経細胞との連絡が断たれたときに生じる変化のことを言います。損傷部に最も近いランビエ絞輪から遠位に変性が起こります。変性した軸索とミエリンは最初の2〜3日はシュワン細胞の、その後は遊走マクロファージの食作用で処理されます。
損傷のメカニズム軸索の発芽・伸長
増生したシュワン細胞列を再生の足場として軸索の発芽・伸長がすすみます。最終的に再ミエリン化、標的組織への再結合、神経の成熟が起こると言われています。
再生軸索の発芽 ・伸長の促進、再生の足場となる構造の維持には、血中・細胞体・グリア細胞・シュワン細胞および効果器で生成された様々な神経栄養因子が化学的誘導因子として関与していることが報告されています。
また、再生軸索の発芽・伸長には、こうした因子に加えて、再生の足場となる構造と接着因子などの接触誘導因子も重要な役割を担っていることが知られています。
再生の遅延
このような例として損傷部位から効果器までの距離が長く、再生神経が効果器に到達するまで時間がかかる病態が挙げられます。
又、神経の切断端の間にギャップがあり、再生の足場が離れており、再生軸索の伸長が得られないという病態があります。 発芽した神経が有効に伸長することができません。
腕神経叢損傷後のセラピーについて
文献上では軽運動負荷群が非運動群に比べて機能改善が早く、神経伝導速度も早期に回復し、運動が神経発芽や伸長、再生軸索の成熟や ミエリン化の促進効果があることが報告されています。
運動療法(神経の再生促進)の基本として、運動による効果が示されている報告は多いです。
しかし、運動強度が強すぎると運動がストレスとなり再生に不利に働く可能性があります。
初期から運動負荷をかけることによる神経再生促進効果が期待されますが、切断 ・縫合の場合には、直後の関節運動が血管再生の遅れや疲痕組織の増生を引き起こし、神経再生の妨げになるという報告もあります。運動療法を行うタイミングも重要となります。
腕神経叢損傷に対するセラピーは、損傷の種類と重症度によって大きく異なります。軽症の場合はリハビリテーションで回復を図りますが、重症の場合は手術や装具が必要になります。
また、患者はリハビリテーションの段階が数週間ではなく、神経回復の機序からも数年に及ぶことを認識する必要があります。医療保険期間内では十分に回復できない可能性もあります。
以下に一般的なリハビリの内容を示します。
一般的な腕神経叢損傷後のリハビリ
・筋力、柔軟性、スタミナ、協調性の向上を目的に機能訓練が行われます。
・関節可動域訓練、運動療法、スプリント、ポジショニングによる関節可動域の維持・拡大及び神経を失った皮膚・筋筋膜の保護を行います。
・必要に応じて機器を用いた訓練を実施します。
・TENSや物理療法を用いた疼痛管理
・弾性包帯やマッサージ等による慢性的な浮腫の管理
・システマティックレビューでは、拘束性運動療法、キネシオテープ、電気療法、バーチャルリアリティ、スプリントや装具の使用などのセラピーが肯定的な結果をもたらすことが示されています。
疼痛管理はしばしば大きな問題となります。強い痛みはクライアントを疲れさせ、適切な治療を行わないとセラピーの妨げになります。
このような場合、最初の段階ではNSAIDsやオピオイドなどの薬物を使用する必要があります(ただし、神経障害性慢性疼痛では使用しません)。
神経障害性疼痛では、抗てんかん薬(ガバペンチン、カルバマゼピン)やアミトリプチリンなどの抗うつ薬を慎重に使用する必要があります。
それでも、このアプローチで有意に痛みの緩和を報告するクライアントは3分の1以下のようです。
腕神経叢損傷後のセラピーについてのメリット・デメリット
治療方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
筋力強化・運動機能トレーニング |
・筋力と関節、柔軟性、バランス、協調性が向上 ・運動制御全体が向上 ・低コストで非侵襲性の治療 ・患者のニーズや進捗に合わせてカスタマイズ可能 |
・時間と努力が必要 ・身体的・精神的に負担が大きい場合がある ・セラピストからの密接な指導が必要重度の症例では効果がない場合がある |
電気療法 |
・神経や筋肉機能を刺激 ・痛みや炎症を軽減 ・非侵襲性治療 ・他の治療法と併用可能 |
・全ての患者に効果があるわけではない ・専門的な機器が必要 ・不快感や皮膚刺激を引き起こすことがある ・特定の病歴のある患者には不適合 |
装具療法 |
・サポートと安定性を提供 ・さらなるけがの防止 ・患者のニーズに合わせてカスタマイズ可能 ・他の治療法と併用可能 |
・不快感や制限がある場合がある ・定期的な調整が必要 ・費用が高いことがある ・単独での治療法ではなく、他の治療法と併用が望ましい |
腕神経叢損傷後のリハビリは非常に繊細であり、回復の仕方や負荷量などは個々によって異なります。神経損傷後のセラピーは“誰がセラピーをするか“でかなり結果は変わってきます。適切なセラピーの選択はなされていますでしょうか?
評価に関して
引用元:Medical Expoより
●腕神経叢損傷の療法士による評価は下記記事のような一般的な評価や筋電図検査などが実施されています。精度の良い筋電図検査では、運動単位ごとより細かく行えるように近年ではなってきています。それにより、よりどのような負荷量が適切なのか評価できるようになっています。
STROKE LABにおけるセラピーについて
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)