【2026年版】CMOP-E(カナダ作業遂行モデル)を理学療法士や作業療法士のキャリアアップ・キャリアデザインへ応用
COPMの2点変化は、本当に意味があるのか。
CMOP-E(カナダ作業遂行・関与モデル)は、脳卒中リハの目標設定を「機能」から「意味のある生活」へ引き戻す理論です。2023年に見直されたCOPMの採点解釈まで含め、新人が今日から使える形で整理しました。

要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
左被殻出血、発症40日、回復期リハビリテーション病棟入棟時。右片麻痺(Brunnstrom Recovery Stage:上肢III・下肢IV)、軽度の発語障害があり、セルフケアは軽〜中等度介助を要する状態でした。夫と息子夫婦・孫2人との二世帯同居。元小学校教員で、退職後は孫の世話と家庭菜園を生きがいに暮らしていました。
初回評価で担当OTが尋ねたのは「筋力はどれくらい落ちていますか」ではなく、「発症前、毎日の生活で一番大切だったことは何ですか」という一言でした。この問いから、CMOP-Eに基づくリハビリ設計が始まります。
新人のうちは「Brs III→IVに上げる」「MMTを1段階上げる」といった機能レベルの目標が先に立ちがちです。しかし田中さんが本当に取り戻したいのは「孫を抱っこして絵本を読む」時間でした。CMOP-Eは、この「本人にとっての意味」を評価と介入の出発点に据えるための理論的な地図です。この章以降、田中さんのケースを通して各要素を具体的に見ていきます。
CMOP-Eとは、CMOPから何が発展したのか。
CMOP-Eは2007年、カナダ作業療法士協会(CAOT)発行『Enabling Occupation II』の中で、Polatajko・Townsend・Craikらが提示した概念モデルです[専門家合意]。前身は1997年発表のCMOP(Canadian Model of Occupational Performance)で、末尾の「E」はEngagement(関与:身体で遂行していなくても作業に意味づけられ参加している状態)を意味します[専門家合意]。

CMOP(1997)は「実際にやる能力(遂行)」を中核に置いていました。しかしPolatajkoらは、観劇を楽しむ・スポーツを観戦する・家族の食事を見守るといった「遂行を伴わない関与」も作業療法の支援対象になるべきだと考え、CMOP-Eへと発展させました。麻痺で料理ができなくなった人が、家族の料理を味見して助言する行為も、CMOP-Eでは支援対象になります。
CMOP-Eを支える3つの前提
個人は作業を通じて環境に働きかけ、環境もまた作業を通じて個人に影響します。作業は単なる活動ではなく、人と世界をつなぐ媒介として位置づけられます。
何が問題か・何を優先するかを決めるのはクライエント自身。セラピストは専門知識を提供しつつ、最終決定はクライエントとの協働で行います。
作業療法は「治療(treat)」ではなく「可能化(enable)」。クライエントの自律性を促進し、能力の発揮を支援する関係性を構築します。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは、機能訓練だけでなく本人が大切にしてきた生活の再構築を軸にリハビリを設計します。ご本人・ご家族の状況をお伺いする無料相談から承っています。
人・作業・環境は、なぜ入れ子構造なのか。
人は常に環境の中に埋め込まれており、作業がその橋渡し役を担います[専門家合意]。「人」は認知的(注意・記憶・遂行機能)・身体的(感覚・運動・筋力)・情動的(気分・動機づけ)の3遂行要素からなる三角形で表され、その中心にスピリチュアリティが置かれます。
スピリチュアリティ ― CMOP-E最大の特徴
CAOT(1997)は、スピリチュアリティを「人生の普遍的な活力、意志と決意の源泉、そして人が自らの人生の文脈の中で経験する意味・目的・つながりの感覚」と定義しています[専門家合意]。宗教と同義ではなく、家族への愛情や仕事への情熱、生きがいといった「自己の本質(essence of self)」を指します。3大モデル(CMOP-E・MOHO・PEOP)の中でスピリチュアリティを明示的に中核へ据えているのはCMOP-Eだけです。
Iwama et al.(2009, Disabil Rehabil)は、CMOP-EやMOHOが自己を環境・自然から分離した存在として描いている点を批判し、東アジア的な「人は自然・集団と一体」という視座を取り込んだ川モデル(Kawa Model)を提案しました[専門家合意]。日本では「私は何をしたいか」に加え「家族の中で私はどんな役割でいたいか」を問う二重の視点が推奨されます。田中さんのケースでも「家族と一緒に笑って過ごしたい」という語りが、スピリチュアリティの表現として抽出されました。
CMOP-E・MOHO・PEOPは、どこが違うのか。
Wong & Fisher(2015, Occup Ther Health Care)は作業中心モデル3つを体系的に比較し、CMOP-EとMOHOが「人」を中心に据える傾向、PEOPが「人と環境の適合」に重点を置く傾向を示しました[専門家合意]。どのモデルを選ぶかで、目標設定の切り口が変わります。
| 比較モデル | CMOP-Eとの共通点 | 使い分けのポイント |
|---|---|---|
| MOHO(人間作業モデル) | クライエント中心・意味の重視 | 役割喪失・意欲低下・アイデンティティ変化が主課題のとき有効 |
| PEOP | 人・環境・作業の相互作用 | 環境調整が介入の主軸(職場復帰・在宅復帰計画)のとき有効 |
| ICF | 環境因子・活動・参加の枠組み | 多職種カンファレンスの共通言語として、統計的比較が必要なとき有効 |
COPMの採点基準を、迷わず使いこなす。
COPM(Canadian Occupational Performance Measure)はLaw, Baptiste, McColl, Opzoomer, Polatajko, Pollockらにより1990年に発表され、CMOP-Eに準拠した唯一の規定評価ツールです[専門家合意]。2019年に第5版が発行され、35カ国以上・20言語以上で使用されています。

採点基準テーブル(完全版)
| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 重要度 | 1(全く重要でない)〜10(極めて重要) | 上位5問題を選定 | 介入目標の優先順位づけに使用 |
| 遂行度 | 1(全くできない)〜10(完全にできる) | 従来2点/最近3点変化が目安(下記参照) | 介入前後の量的変化を示す主要指標 |
| 満足度 | 1(全く満足していない)〜10(非常に満足) | 同上 | 生活実感を反映。遂行度と乖離することがある |
信頼性[単独RCT非該当・観察研究]:Cup et al.(2003, Clin Rehabil)は脳卒中患者26名で8日間隔の再検査を実施し、遂行度r=0.89、満足度r=0.88という優秀な再検査信頼性を報告。問題の再特定率は56%で、選ばれた作業自体は変動しやすいがスコアは安定していた。
妥当性[観察研究]:同研究でCOPM抽出問題の25%以下しかBarthel Index等の標準ADL尺度で捉えられておらず、相関も低〜非有意。これは既存尺度では測れない独自情報を測定している(弁別的妥当性)ことを示す。
MCID[単独研究/スコーピングレビュー]:McColl et al.(2023, Can J Occup Ther)が1991〜2020年の100研究をレビューし、「2点変化=臨床的意義あり」に経験的根拠が不足していると結論。Tuntland et al.(2016)は地域高齢者で3点を提案しており、集団特性による違いが示唆される。

脳卒中リハビリに、CMOP-Eをどう落とし込むか。
COPM面接は初回20〜40分を目安に実施し、介入後2〜12週で再評価します[専門家合意]。田中さんのケースでの実施手順を、パラメータとともに示します。

「発症前、毎日の生活で一番大切だったことは?」から開始し、優先作業5つと重要度を採点。田中さんでは「孫を抱っこして絵本を読む(重要度10)」「家庭菜園(9)」等が抽出された。
人(身体・認知・情動)、作業(セルフケア・生産活動・レジャー)、環境(物理・社会・文化・制度)の4側面から、優先作業の遂行を阻む要因を洗い出す。
「孫との絵本タイム」を目標に、座位保持訓練+左手での絵本保持・ページめくり+音読練習を1回40〜60分・週5回・12週で統合実施。単発の機能訓練ではなく意味のあるタスクとして設計する。
田中さんは退院時、遂行度平均2.4→6.0(+3.6)、満足度平均1.8→6.4(+4.6)に改善。「孫との絵本の時間が何より楽しみになった」とGlobal Rating of Changeで大きく改善と評価された。
[単独RCT]:Chiu et al.(2017, J Phys Ther Sci)の系統的レビューでは、脳卒中患者へのCOPMを用いた介入前後比較を含む複数研究において、COPMは統計的に有意な変化を検出できる反応性の高い評価であることが示された。ただし重度認知障害例では適用に限界があると指摘されている。

STROKE LABでは、COPMのようなクライエント中心の評価を目標設定の起点に据え、機能訓練を「意味のある作業」の文脈に位置づけたリハビリを提供しています。
CMOP-Eを、多職種でどう共有するか。
カンファレンスでの3視点
「この方は何ができるようになりたいか(Occupation)」「何が妨げているか(Person)」「周りはどう支えられるか(Environment)」という3視点で議論すると、職種を超えたゴール共有が容易になります。COPM結果はチーム全体で共有することが推奨されます。

「歩行訓練を”孫を迎えに公園まで歩く”に結びつけると、患者さんの意欲が目に見えて変わります。」
「発語訓練も”孫に絵本を読む”という目的があると、練習課題そのものが意味のある作業になります。」
| 職種 | 評価項目 | 主な介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|---|
| OT | COPM・ADL・上肢機能 | 優先作業に基づくタスク指向訓練 | COPM結果をチーム目標のハブとして共有 |
| PT | 立位・歩行・バランス | 優先作業に紐づく歩行・移動訓練 | OTの目標(例:家庭菜園への動線)を歩行訓練に反映 |
| ST | 発語・嚥下・高次脳機能 | 意味ある会話場面を用いた発語訓練 | 優先作業(例:電話でおしゃべり)を課題設計に反映 |
| 看護師 | 全身状態・生活リズム | 病棟生活での作業機会の見守り・促進 | 病棟での自主練習・生活場面の情報共有 |
| 医師 | 医学的重症度・予後予測 | リハビリ処方・全身管理 | 安全域の共有(離床基準・禁忌動作) |
| MSW | 社会資源・住環境・制度 | 住宅改修・介護保険調整 | 環境側の制約(制度的環境)をチームに翻訳 |
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
COPM実施は一見シンプルですが、新人が陥りやすい落とし穴があります。田中さんのケースでも、面接の進め方一つで抽出される作業が変わります。

重度失語・認知症例での運用
「面接が成立しないから目標設定を諦める、ではなく、家族代理回答や行動観察でその人の作業の痕跡を探しましょう。」
「無理な実施は信頼性を損ないます。難しいと感じたら、まず情報収集の方法を変えることを検討してください。」
予後とゴール設定 ― 数字の先にあるもの。
田中さんの症例では、機能面(Brs)の改善はIII→IV程度にとどまりましたが、COPMで測定した遂行度・満足度は大きく改善しました[観察研究]。単に「筋力を上げる」だけでは、ここまでの満足度改善は得られなかったと考えられます。
意味のある目標設定はアドヒアランス(治療継続)と結びつきやすいとされます[専門家合意]。ゴールを機能の数値だけで語るのではなく、それが本人の生活の何につながるかをセットで共有することが、予後の説明にも役立ちます。
よくある質問。
基本構造(人・作業・環境、3つの遂行要素、スピリチュアリティ)はCMOP(1997)とCMOP-E(2007)で共通です。最大の違いは末尾のE=Engagement(関与)の追加で、遂行を伴わない作業への関与まで支援対象を広げました。実臨床ではCMOP-Eが現行モデルであり、CMOPに言及するのは歴史的文脈のときのみでよいでしょう。2022年には後継としてCanMOPも発表されています。
はい、正確です。McColl et al.(2023)が100の介入研究のスコーピングレビューを行い、通説に経験的根拠が不足していることを示しました。ただし2点ルールが誤りというより検証が不十分だったという指摘であり、量的スコアと本人の生活実感を併せて解釈することが推奨されます。
「スピリチュアリティ」という言葉を直接使う必要はありません。大切にしていること・生きがい・自分らしさなど文化に馴染む言葉に言い換え、「病気になる前、一番大事だったことは?」「もう一度できるようになりたいことは?」と自然に尋ねましょう。強い喪失や抑うつがある場合はタイミングと関係性を見極めることも大切です。
直接の面接は困難ですが、家族代理回答・行動観察・人生史インタビューを組み合わせることでCMOP-Eの枠組みは活用できます。本人が意思表明できないから目標設定を諦めるのではなく、周囲の情報を統合して意味のある作業を推定する姿勢が重要です。
活用できます。クライエント中心実践・意味のある活動・人と環境の相互作用という理念は職種を問わず応用可能で、歩行訓練や発語訓練を具体的な生活場面の作業と結びつけることで訓練意欲と般化が高まります。
必要です。CanMOPはCMOP-Eを置き換えるものではなく発展させたモデルであり、現行の教育・臨床・COPMという評価ツールは今もCMOP-Eに紐づいています。CMOP-Eを理解したうえでCanMOPの新しい視点(参加・関係性・アクセス)を加える段階的な学習が推奨されます。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは脳卒中専門の自費リハビリ施設です。COPMのようなクライエント中心評価を起点に、機能訓練だけに偏らない目標指向型のリハビリを、急性期から生活期まで一貫して設計しています。
「回復期病棟で担当した70代女性は、COPM面接で”孫を抱っこしたい”を最優先に選びました。私は当初、上肢筋力訓練を中心に組もうとしましたが、座位保持+左手保持+音読を統合したタスク練習に切り替えたところ、退院時には遂行度が1から6まで改善し、本人が”訓練が自分のためのものに変わった”と語ってくれました。機能の数値だけを追わないことの大切さを実感した症例です。」— 作業療法士・臨床経験8年・回復期リハビリ専門
「COPMで抽出した課題が”家事全般”のように抽象的なまま止まっている新人をよく見ます。その際は”具体的にどの家事のどの場面が難しいか”を一緒に一つずつ言語化するようにしています。ある60代男性の患者さんでは”味噌汁を作る”まで具体化したことで、台所での立位耐久性訓練という明確な介入につながり、遂行度・満足度ともに改善しました。」— 作業療法士・臨床経験12年・地域包括ケア担当
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諦めないでください。

脳卒中の後遺症と向き合う日々の中で、「もう元のようにはできない」と感じる瞬間があるかもしれません。しかし、リハビリの目的は「元通り」に戻ることだけではありません。
大切なのは、あなたにとって本当に意味のある生活を、今の心身の状態から一緒に組み立て直していくことです。
STROKE LABでは、機能回復と生活の再構築の両方に向き合い、ご本人・ご家族と一緒に歩むリハビリを提供しています。まずはお気軽にご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)