【2026年版】脳卒中後に体幹脂肪はなぜ増える?サルコペニア・内臓脂肪・体組成変化を徹底解説
体幹脂肪は、なぜ脳卒中後に増えるのか。
「足は細いのにお腹だけ太る」——この訴えは臨床でよく耳にします。脳卒中後の体組成変化は四肢と体幹で異なる挙動を示し、慢性期患者の約半数がサルコペニアを抱えていることが報告されています。本記事では、DXA法を用いた研究エビデンスをもとに、新人セラピストが明日の臨床で使える体組成管理の知識を整理します。
— 脳卒中後の体組成変化(体幹脂肪増加・サルコペニア)について、臨床的視点から解説しています。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
脳梗塞発症から10か月、回復期病棟を経て在宅生活に移行した60代男性。歩行は見守りレベルまで改善したものの体重は増加傾向。家族から「お腹だけ太った」と相談があった。
この変化は偶然ではありません。脳卒中後の体組成変化は、体幹と四肢で異なるメカニズムによって引き起こされます。データで正確に理解することが適切な介入の第一歩です。
脳卒中後のリハビリでは麻痺回復や歩行能力に焦点を当てがちです。しかし体組成の変化——特に体幹脂肪の増加とサルコペニアの進行——は、長期的なADL・QOLに深く影響します。「なぜ四肢は変わらないのに体幹だけ?」という疑問に答えるには、脳卒中後の身体活動低下・神経障害・代謝変化を統合的に理解する必要があります。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
そのお気持ちに、寄り添います。
STROKE LABは脳神経系に特化した自費リハビリ施設です。体組成・筋力・歩行能力など多角的な視点から、ご本人の回復目標に合わせた個別プログラムをご提案します。まずはお気軽にご相談ください。
定義・疫学と研究の背景。
サルコペニア(Sarcopenia)とは、加齢や疾患によって骨格筋量と筋機能(筋力・身体機能)が低下した状態を指します。もともと高齢者の概念でしたが、脳卒中後では若年層でも発症することが報告されています。

脳卒中患者の四肢と体幹の体組成変化を健常対照群と比較・評価することを目的とした研究です。発症6か月以上の慢性期脳卒中患者37名と、年齢・性別が一致する健常対照者37名が参加しました。
体重・身長・握力・歩行速度を測定し、DXA法(二重エネルギーX線吸収測定法:2種類のエネルギーのX線を照射し骨・筋・脂肪を精密に区別する方法)によって体組成を評価しました。
研究が示した3つの核心
脳卒中患者は対照群と比べて体幹の脂肪量が有意に増加していました。しかし四肢の脂肪量は両群間で有意差がありませんでした。「体幹だけ太る」のは、神経・代謝レベルで裏付けられた現象です。
骨格筋指数(SMI)のカットオフ値(男性7.0 kg/m²・女性5.14 kg/m²)を適用すると、脳卒中群のサルコペニア有病率は48.6%でした。約半数がサルコペニアを抱えているという事実は、臨床上非常に重要です。
骨量低下および上肢の除脂肪量低下は、麻痺の有無にかかわらず脳卒中患者全体で観察されました。非麻痺側を「正常」と見なさず、全身的な体組成評価の視点が必要です。
神経メカニズムと病態生理。

脳卒中によって大脳—脊髄間の神経制御が遮断されます。これは工場で中央管理室が機能を失い、現場の機械(筋肉)が誤作動・停止する状態に似ています。指令が届かない筋肉は萎縮し、使われないエネルギーは脂肪として蓄積されます。
体幹に特異的な脂肪増加は、内臓脂肪と皮下脂肪の両方が関与します。交感神経障害による代謝異常、炎症性サイトカイン(TNF-α・IL-6など)の増加、身体活動量の急激な低下が複合的に働きます。
麻痺側の「筋質」低下:量的変化と質的変化
麻痺側の変化は単純な萎縮(量的変化)にとどまりません。筋内脂肪(Intramuscular Fat)の蓄積という質的変化も同時に起こります。筋内脂肪が増えると筋収縮効率が低下し、筋量があっても実際の筋力・機能が低下するという乖離が生じます。「筋電図的には反応があるのに力が出ない」という臨床場面の一因になります。
Scherbakov & Doehner(2011):麻痺側の速筋線維(Type II)が特に萎縮しやすく、遅筋線維(Type I)への移行が起こることを報告。Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle, 2(2), 81–88.
Ryan et al.(2011):慢性期脳卒中患者の麻痺側大腿部でCT画像による筋内脂肪の有意な増加を確認。非麻痺側との差は平均2倍以上。Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 92(12), 2004–2008.
Bonekamp et al.(2019):DXA法による体組成比較。体幹脂肪は脳卒中群で有意増加・四肢は差なし。歩行速度・握力・骨格筋指数は有意低下。BMC Neurology, 19(1), 220.
体幹vs四肢の体組成変化の違い。
Bonekamp et al.(2019)が示した最も重要な知見は、体幹と四肢で脂肪変化のパターンが異なる点です。以下の比較表で整理しましょう。

評価と計測の実際。
臨床でDXA測定ができる施設は限られています。リハビリ職がすぐに使える代替評価と、DXA結果の読み方を整理します。

| 評価項目 | カットオフ値・基準 | 臨床での活用法 |
|---|---|---|
| 骨格筋指数(SMI) DXA法 |
男性 <7.0 kg/m² 女性 <5.14 kg/m² |
DXA結果を参照して介入優先度を決定する |
| 握力 | 男性 <28 kg 女性 <18 kg(AWGS 2019) |
非麻痺側でスクリーニング。麻痺側は参考値として記録 |
| 歩行速度 | <0.8 m/s(AWGS 2019) | 10 m歩行テストで計測。転倒リスクとの相関も高い |
| 腹囲 | 男性 ≥85 cm 女性 ≥90 cm(メタボ基準) |
体幹脂肪の簡易スクリーニング。定期計測で変化を追う |
| 5回椅子立ち上がりテスト | >12秒で低下疑い | 下肢筋力と身体機能の複合評価として使いやすい |
介入戦略とエビデンス。
サルコペニア・体幹脂肪増加への介入は段階的に進めます。急性期から在宅期まで、フェーズに応じた戦略を整理します。

早期離床・端坐位・立位練習を積極的に行います。1日最低2回・1回15分以上の離床を目標とします。身体活動量の維持が急性期サルコペニア進行抑制の基本です。
レジスタンストレーニングを週2〜3回・1回20〜30分で実施します。負荷は最大筋力の60〜80%(高齢者は40〜60%)。下肢を中心に体幹筋(腹横筋・脊柱起立筋)を優先します。有酸素運動は中等度強度(Borg 12〜14)で週150分以上を目標とします。
退院後の身体活動量低下は体組成悪化の最大リスクです。デイサービス・通所リハ・訪問リハを活用しながら、在宅での自主トレメニューを具体的に指導します。歩数計で客観的な活動量把握も有効です。
サルコペニア予防にはタンパク質摂取(1.2〜1.5 g/kg体重/日)が重要です(強く推奨:ESPEN 2018ガイドライン)。運動後30分以内のタンパク質摂取で筋タンパク合成が促進されます。管理栄養士と情報共有し、摂取量と運動を組み合わせた支援が効果的です。
Saunders et al.(2020):脳卒中後のレジスタンストレーニングのメタアナリシス(RCT 20試験)。週2〜3回の実施で筋力・身体機能が有意改善。Neurorehabilitation and Neural Repair, 34(8), 681–693.
English et al.(2010):脳卒中後の身体活動と体組成の関係をレビュー。活動量低下が筋量減少・脂肪増加と直線的に相関することを報告。Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 91(11), 1772–1778.
Deutz et al.(2014):タンパク質1.2 g/kg/日以上の摂取で筋タンパク合成率が改善。ESPEN Expert Group推奨。Clinical Nutrition, 33(6), 929–936.

体幹脂肪の増加は転倒リスク・心血管疾患リスク・ADL低下と深く関わります。STROKE LABでは体組成の変化を定期的にモニタリングしながら、個別最適化された筋力トレーニングと生活習慣指導を組み合わせたプログラムをご提供しています。
多職種連携と環境調整。
体組成管理はリハビリ職だけで完結できません。チームで情報共有し、それぞれの専門性を活かした連携が不可欠です。

多職種連携の役割分担
| 職種 | 体組成管理における役割 | 共有すべき情報 |
|---|---|---|
| PT(理学療法士) | 筋力・歩行機能評価、レジスタンストレーニング立案、活動量増加の指導 | 歩行速度・握力・5回立ち上がりテスト |
| OT(作業療法士) | ADL場面での活動量確保、上肢機能訓練(除脂肪量維持)、生活リズムの構築 | 上肢筋力・ADL遂行状況・活動時間帯 |
| ST(言語聴覚士) | 摂食嚥下機能評価、食形態の適正化、十分な栄養摂取の保障 | 嚥下機能・食事摂取量・食形態 |
| 管理栄養士 | タンパク質・エネルギー摂取量の最適化、サルコペニア対策食事指導 | 体重推移・摂取カロリー・タンパク質量 |
| 看護師 | 日常生活内の活動促進、体重・腹囲の定期記録、体組成に影響する薬剤の確認 | 体重・腹囲・活動記録・服薬情報 |
| MSW(医療ソーシャルワーカー) | 退院後の通所・訪問リハ導入支援、地域資源の活用調整 | 退院後サービス利用状況・経済的背景 |
退院支援での臨床のヒント
「退院時に歩けるようになっても、在宅で動かなくなる患者さんがいます。退院前に1日の活動スケジュールを具体的に一緒に作ることが大切です」
「腹囲は毎月測るだけでいい。数字が増えていれば活動が落ちているサインです。シンプルだからこそ継続できます」
「サルコペニア評価は入院中だけではなく、外来・通所でも定期的に行います。変化を追うことが介入タイミングの把握につながります」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
体組成変化への対応で新人セラピストが陥りやすい罠があります。以下を意識するだけで、臨床の精度が一段上がります。
臨床判断の分岐点:どこから始めるか
「まず握力と歩行速度を測れば、おおよその体組成の状態が推測できます。この2つが低い患者さんには、必ずサルコペニアの評価ラインに乗せます」
「患者さんが体重を気にしているときが介入のチャンスです。体幹脂肪の話から入ると、訓練への動機付けがしやすくなります」
予後とゴール設定。
サルコペニア・体幹脂肪増加は、適切な介入で改善が期待できます。ただし、加齢・発症からの時間・発症前の体組成によって予後は異なります。現実的なゴール設定が重要です。
3か月目標:握力5%以上改善、歩行速度0.1 m/s以上の向上、腹囲の現状維持または減少。活動量(歩数)の10〜20%増加。
6か月目標:骨格筋指数のカットオフ値近傍への改善(または現状維持)。在宅での自主トレ週2回以上の定着。
加齢に伴う変化は不可逆的な面もあります。「悪化させない」「現状を維持する」ことも十分に意義のある目標です。患者・家族と一緒に言語化して共有しましょう。
よくある質問。
発症後は身体活動量が著しく低下し、エネルギー消費が減少します。交感神経障害による代謝異常や炎症性サイトカインの増加が、体幹部の内臓脂肪・皮下脂肪の蓄積を促進します。
Bonekamp et al.(2019)の研究では脳卒中群の体幹脂肪量が有意に増加した一方、四肢の脂肪量は増加しなかったことが示されています。
Bonekamp et al.(2019)が用いたカットオフ値は、男性SMI 7.0 kg/m²・女性5.14 kg/m²です。この基準を適用すると、同研究の脳卒中群のサルコペニア有病率は48.6%(37名中18名)でした。
慢性期脳卒中患者の約48.6%にサルコペニアが認められたとBonekamp et al.(2019)は報告しています。メタアナリシスでも30〜50%と高率であり、臨床上見逃せない頻度です。
麻痺側では筋量低下(量的変化)に加え筋内脂肪の増加(質的変化)も報告されています。骨量低下・上肢除脂肪量低下は麻痺の有無にかかわらず両側で観察されます。非麻痺側を正常と見なさず全身的な体組成評価が必要です。
週2〜3回のレジスタンストレーニング(負荷:最大筋力の60〜80%)と有酸素運動(中等度強度・週150分以上)の組み合わせが推奨されます。タンパク質摂取(1.2〜1.5 g/kg体重/日)との複合アプローチも有効です。退院時の生活指導と地域リハビリへの移行支援が長期管理の鍵です。
DXA(二重エネルギーX線吸収測定法)は2種類のエネルギーのX線を照射することで骨・筋肉・脂肪を精密に区別できる体組成評価法です。
リハビリ職は直接施行しませんが、検査結果を参照して筋量・骨密度・体幹脂肪の変化を把握し、介入の優先順位設定や目標設定に活用できます。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳神経系リハビリテーションに特化した自費リハビリ施設です。体幹脂肪の増加やサルコペニアにお悩みの患者さん・ご家族に対して、個別最適化されたリハビリプログラムをご提供しています。
— STROKE LABでの脳卒中リハビリの実際の様子です。

「患者さんが退院後に再び活動的になるきっかけを作るのが、私たちの役割です。体幹脂肪の話は患者さんにとって自分事として捉えてもらいやすいテーマです。そこから訓練への動機付けをしています」— PT・臨床経験12年・脳卒中リハビリ専門
「サルコペニアは発症後数か月で急速に進行します。急性期・回復期・生活期を通じて継続的に評価することが、長期的なQOL維持につながります。カットオフ値を知っているだけで、評価の優先度が変わります」— OT・臨床経験8年・地域リハビリ担当
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諦めないでください。

「足は細いのにお腹だけ太る」——その訴えを偶然の変化と見過ごさないでほしいと思っています。脳卒中後の体幹脂肪増加は、神経・代謝レベルで起こっている必然的な変化です。
STROKE LABでは、発症後どの時期からでも、体組成の改善に向けた取り組みを始めることができます。まずは現状の評価と目標を一緒に確認させてください。
退院後、慢性期、在宅——どのタイミングでも、ご本人の回復を全力でサポートします。一人で抱え込まず、まずはご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)