【2026年版】MAS(Modified Ashworth Scale)とは?評価方法・判定基準・1と1+の違いをわかりやすく解説
MASは、なぜ新人を「1点と1+点」で迷わせるのか。
脳卒中後の筋緊張亢進を評価する世界標準ツール、MAS(修正アシュワーススケール)。器具不要・所要5分という手軽さの裏で、採点基準の理解不足が誤判定につながりやすい評価法でもあります。開発の背景から全関節の実施手順、最新エビデンスの限界まで、先輩から後輩へ引き継ぐつもりで解説します。
— MAS(修正アシュワーススケール)の実施方法・採点のコツを動画で確認できます。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
左片麻痺(右利き)。SIAS筋緊張項目は上肢1A(3点)・下肢2(3点)。主訴は「左腕が縮んで動かない」「左足がつっぱって歩きにくい」。
初回評価でMASを測定すると、肘関節伸展3点・手指伸展3点という高度な筋緊張亢進が判明。「なんとなく硬い」という主観を、数値と根拠に変換できるかどうかが新人と先輩の分かれ道です。
新人セラピストが最初につまずくのは、「筋緊張が高い」という所見をどう記録し、どう他職種に伝えるかです。MASは、この主観的な感覚を0〜4の6段階で客観化する最も基本的なツールです。この記事では、田村さんのような症例を想定しながら、MASの正しい実施方法とエビデンスに基づいた介入の考え方を、先輩から後輩へ引き継ぐつもりで解説していきます。
評価尺度と採点基準。
実施は必ず仰臥位(最も筋緊張が低い姿勢)で行い、可動域評価(ROM測定)より前に実施します。開始肢位から全可動域を1秒間(目安130°/秒)で動かし、3秒以上の間隔をあけて最大3回実施、最も低いスコアを採用します。この採用ルールはBohannon & Smith(1987)の原著に明記された規定ではなく臨床慣行であるため、施設内でプロトコルを統一してください。
MAS採点基準の完全網羅
表形式ではなく、グレードごとにカード形式で整理しました。各グレードの下には臨床写真を挿入するスペースを設けています。
信頼性[SR/MA]:Meseguer-Henarejos et al.(2018, Eur J Phys Rehabil Med 54(4):576-590)のメタ分析で評価者間Kappa 0.53〜0.77。上肢遠位(手関節 weighted kappa 0.61〜0.78)は下肢近位(膝 ICC 0.47〜0.62)より高い傾向。
妥当性[観察研究]:Pandyan et al.(1999, Clin Rehabil 13(5):373-383)は、MASを「1と1+の曖昧さが解決されるまで名義尺度として扱うべき」と結論づけました。統計処理は中央値・Wilcoxon符号順位検定などノンパラメトリック手法を用いてください。
MCID[単独RCT]:Shaw et al.(2010, BoTULS試験, Health Technol Assess 14(26))では、ボツリヌス療法後にMASスコア約1点の改善が臨床的に意味のある変化とされています。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは、MAS・Tardieu Scaleなどの専門評価をもとに、痙縮が機能回復のどこを阻んでいるかを丁寧に分析します。医療機関との連携実績も豊富です。
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
MASは器具不要で簡便な分、我流の解釈が入りやすい評価です。新人が陥りやすい3つのつまずきを紹介します。
クォーター法で「1点・1+点・2点」を直感的に掴む
可動域(ROM)を4等分し、抵抗が最初に出現するクォーターで判断する方法が実用的です。第4クォーター(最終25%)のみの引っかかりなら1点、第3クォーターから抵抗が続けば1+点、第1〜2クォーターから全域で亢進していれば2点と整理できます。
「1と1+で迷ったら、まず『抵抗はROMの半分を超えて続いたか』だけを自問してください。それだけでかなりの割合が整理できます。」
介入のエビデンス。
MASスコアに応じて介入の優先度とパラメータ(時間・回数・頻度・強度)は明確に変わります。以下、スコア別に整理します。
MAS 0点(弛緩性麻痺・正常)
廃用予防・感覚入力促通・神経筋電気刺激(NMES/FES)を優先。肩亜脱臼予防のポジショニングを早期から開始する[専門家合意]。
MAS 1〜1+点(軽度亢進)
毎日のポジショニング、持続的伸張訓練(30分以上・低強度)、課題指向型訓練を実施[専門家合意]。
MAS 2点(BTX主要適応)
ボツリヌス療法(効果は注射後2〜4週間で最大、再評価は4〜6週間目)、NMES、装具(AFO・スタティックスプリント)を組み合わせる[単独RCT](Shaw et al. 2010)。
MAS 3〜4点(重度・拘縮リスク)
高用量ボツリヌス療法、バクロフェン(経口・難治例は髄腔内バクロフェン)、シリアルスプリント、外科的介入(腱延長術)を医師と密に連携して検討[専門家合意]。
パラメータ[単独RCT]:Shaw et al.(2010, BoTULS試験)に基づき、注射後4〜8週間の筋緊張低下期に、課題指向型訓練・鏡療法・NMES・手指巧緻動作訓練を週複数回、集中的に実施することで機能改善効果が最大化されます。

MASだけに頼らず、Tardieu ScaleやSIASと組み合わせた多角的評価で、痙縮の本質的な原因にアプローチします。医療機関と連携したボツリヌス療法後の集中リハビリにも対応しています。
多職種連携と環境調整。
痙縮管理は一職種で完結しない
MASのスコアは、PT単独の情報ではなく、医師の治療方針決定・看護師の日常ケア・MSWの生活調整に直結する共有情報です。以下に職種別の役割を整理します。
| 職種 | 評価項目 | 主な介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | 下肢MAS・歩行・ROM | ストレッチ・歩行訓練・AFO適合 | BTX注射部位の判断材料をOT・医師と共有 |
| OT | 上肢MAS・手指ADL | スプリント作製・巧緻動作訓練・衛生指導 | 手掌損傷リスクを看護師へ即時共有 |
| ST | 顔面・頸部の筋緊張 | 摂食嚥下訓練・構音訓練 | 体幹・頸部緊張の情報をPT/OTと共有 |
| 看護師 | 皮膚状態・疼痛・褥瘡リスク | 体位変換・手掌衛生ケア・疼痛管理 | MAS3〜4点の皮膚トラブルをOTへ即報告 |
| 医師 | MAS・Tardieu総合判断 | ボツリヌス注射・バクロフェン処方 | セラピストのMASデータを注射部位選定に活用 |
| MSW | 生活環境・介護負担 | 福祉用具導入・サービス調整 | MASスコアの重症度を介護量算定の根拠として共有 |
「MASのスコアだけをカルテに書いて終わりにしない。数字の裏にある生活への影響を、他職種にも伝わる言葉で添えることが連携の第一歩です。」
「MAS3〜4点の手指拘縮は、看護師の日常ケアで最も気づきやすい皮膚トラブルの温床です。気づいたことをその日のうちに共有してください。」
MASの定義と疫学。
MAS(Modified Ashworth Scale:修正アシュワーススケール)は、1964年にイギリスの医師Bryan Ashworthが多発性硬化症患者の抗痙縮薬効果を評価するために開発した「Ashworth Scale(AS)」を、1987年にBohannon & Smithが改良したものです[単独RCT]。1と2の間に「1+」というカテゴリーを追加することで感度を向上させ、現在は世界の神経リハビリテーション臨床・研究で最も広く使われる筋緊張評価ツールとなっています。
Lance(1980)の古典的定義では、痙縮は「速度依存性の筋伸張反射の亢進を伴う筋緊張の増加で、上位運動ニューロン症候群の一成分」とされます[専門家合意]。ただし他動運動中の抵抗には、①速度依存性の反射亢進(痙縮)②筋・結合組織の拘縮(非神経性)③ジストニア④固縮(rigidity)が混在します。MASはこれらを合わせた「筋緊張亢進(ハイパートニア)」の評価として捉えることが、新人がまず押さえるべき前提です。
対象疾患と典型的な発症パターン
脳卒中(最多)・脊髄損傷・多発性硬化症(原著の対象)・脳性麻痺・外傷性脳損傷・中枢神経系腫瘍術後などで使用されます。疾患ごとに信頼性や適用の注意点が異なるため、対象疾患を必ず確認してください。
上肢は肩内旋・肘屈曲・前腕回内・手関節掌屈・指屈曲(屈筋優位)、下肢は足関節底屈・膝伸展・股関節内転内旋(伸筋優位)が典型的です。
急性期は弛緩性麻痺(筋緊張低下)から始まり、数週間〜数ヶ月で痙縮が顕在化することが多い経過です。MASは0〜4点のみで、筋緊張が正常以下の状態にはスコアが存在しない点に注意してください。
神経メカニズムと責任病巣。
MASで評価する「引っかかり」は、他動運動中に筋の伸張反射が突然発火して運動が一瞬止まる現象です。クラスプナイフ現象(折りたたみナイフ現象)は、この引っかかりの後に抵抗が急速に消失するパターンで、上位運動ニューロン障害の典型的な神経学的所見です。
責任病巣は上位運動ニューロン系全体
痙縮は特定の一箇所の病巣で生じるものではなく、皮質脊髄路をはじめとする下行性運動制御系の障害によって脊髄反射の抑制が失われることで生じます。MCA領域梗塞・被殻出血・視床出血など病巣の部位によらず、上位運動ニューロン系が障害されれば痙縮は出現しうる点を理解しておく必要があります。
鑑別のポイント[専門家合意]:固縮(rigidity:パーキンソン病など基底核疾患)では、速度に関わらず全域で均一な抵抗が続き「引っかかりとリリース」のパターンが見られません。MASは痙縮(上位運動ニューロン障害)の評価ツールであり、固縮への適用は推奨されません。評価前に必ず疾患病態を確認してください。
鑑別診断。
「他動運動時の抵抗」を訴える患者すべてが痙縮とは限りません。新人が見落としやすい4つの鑑別対象を整理します。
| 鑑別疾患 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 固縮(基底核疾患) | 他動抵抗の増大 | 速度に依存せず全域で均一な抵抗。引っかかりとリリースがない | 速度を変えて抵抗の変化を確認(Tardieu的手技) |
| 拘縮(非神経性) | 関節可動域制限 | 速度を変えても抵抗が変化しない(R1≈R2) | Tardieu Scale(R1-R2差) |
| ジストニア | 異常な筋緊張パターン | 持続的な不随意肢位。安静時にも出現しうる | Hypertonia Assessment Tool(HAT) |
| クローヌス優位病態 | 反射の過剰亢進 | 急速な背屈でsustained clonusが誘発される | 足関節クローヌステスト |
予後とゴール設定。
MASは単発の評価で終わらせず、経時的なモニタリング指標として活用することで真価を発揮します。ボツリヌス療法を実施する場合は注射前・注射後4〜6週・以降定期的にMASを再評価し、MCID(約1点)を目標値として設定します。
「MASを下げること」自体をゴールにせず、MASスコアの改善が具体的にどのADL・IADL動作の獲得につながるかを患者・家族と共有することが重要です。田村さんの例なら「肘MAS3→1+で、左手でお茶碗を支えられるようになる」といった具体的な機能目標が望ましい設定です。
よくある質問。
MASは詳細な関節別評価に、SIASは弛緩性麻痺(1B)と痙縮(1A)を区別できる包括的評価に向いています。詳細評価にはMAS+Tardieu、包括的機能評価にはSIASを併用するのが最も情報量の多い選択です。
「抵抗がROMの半分を超えて続くか」で判断してください。半分未満なら1+点、超えれば2点です。施設内での合同評価によるキャリブレーションも有効です。
3回中最も低いスコアを採用します。反復ストレッチの蓄積効果を排除するための臨床慣行で、各試技の間には3秒以上の間隔を空けます。
必ずROM測定より先に実施します。先にROMを測ると筋緊張が一時的に下がりMASが過小評価されるためです。
いいえ。Tardieu ScaleでR1とR2の差を確認し、神経性主体か非神経性主体かを鑑別してから方針を決定してください。
効果が最大となる注射後4〜6週間目の再評価を推奨します。MCID(約1点)を目標に効果を判定してください。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは脳卒中専門の自費リハビリ施設として、MAS・FMA・SIASを組み合わせた多角的評価から、ボツリヌス療法後の集中リハビリまで一貫して対応しています。痙縮が機能回復の壁になっている方に、評価から介入までを丁寧に伴走します。
「肘関節MAS3点で他動伸展がほぼ不可能な利用者様を担当しました。主治医にボツリヌス療法を提案。注射後4週間のゴールデンウィンドウで集中訓練を行った結果、MASが3点から1+点まで改善し、食事動作の自立度が向上しました。」— 理学療法士・経験5年目・脳血管領域担当
「手指MAS2〜3点で手掌の衛生状態が悪化していた症例を担当しました。詳細評価から爪の食い込みリスクを早期に発見し、スプリント作製と衛生ケア指導を並行。皮膚トラブルを未然に防ぎ、その後のボツリヌス療法導入もスムーズに進みました。」— 作業療法士・経験3年目
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諦めないでください。

「筋が固まって動かない」という状態は、多くの方にとって回復を諦めるきっかけになりがちです。しかしMASで数値化できるということは、変化も数値で追えるということです。
STROKE LABでは、評価に基づいた根拠あるリハビリで、痙縮が阻んでいる「できること」を一緒に取り戻していきます。
お一人で抱え込まず、まずは無料相談で今の状態をお聞かせください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)





