【2026年版】MAS(修正アシュワーススケール)完全解説|評価基準・1と1+の違い・最新エビデンス – STROKE LAB 東京/大阪 自費リハビリ | 脳卒中/神経系
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【2026年版】MAS(修正アシュワーススケール)完全解説|評価基準・1と1+の違い・最新エビデンス

今回は、脳卒中・脊髄損傷・脳性麻痺などの患者に生じる筋緊張亢進(スパスティシティ)を、他動運動中の抵抗感から定量評価する世界で最も広く使われているスケール、MAS(Modified Ashworth Scale:修正アシュワーススケール)について、開発背景から正式な採点基準・全関節の実施方法・最新エビデンス・介入戦略まで徹底解説します。「速度はどのくらい?」「1と1+の違いは?」「拘縮とどう鑑別する?」という臨床現場のリアルな疑問にもすべて答えます。

MAS(修正アシュワーススケール)の実施方法・採点のコツを動画で確認できます。

MAS(Modified Ashworth Scale:修正アシュワーススケール)は、1964年にAshworthが開発した筋緊張評価尺度を、1987年にBohannon & Smithが改良した臨床スケールです。受動的関節運動中に感じる他動抵抗の大きさを0〜4の6段階(0・1・1+・2・3・4)で採点し、中枢神経系疾患後の筋緊張亢進(ハイパートニア)を定量化します。
特殊な器具が不要で約5〜10分で実施でき、世界中の神経リハビリテーション臨床・研究で最も広く使われています。ただし「MASは痙縮の純粋な評価ではなく、神経性・非神経性の双方を含む筋緊張亢進(ハイパートニア)全体の評価」という現代的な理解が重要です。

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📊 MAS:臨床家が必ず知っておくべき数字と事実

  • 正式名称:Modified Ashworth Scale(修正アシュワーススケール)
  • 開発経緯:Ashworth(1964)の原著スケールを Bohannon & Smith(1987)が1+カテゴリーを追加して改良
  • 評価対象:脳卒中・脊髄損傷・多発性硬化症・脳性麻痺・外傷性脳損傷などの中枢神経系疾患後の筋緊張亢進(ハイパートニア)
  • 配点:0・1・1+・2・3・4 の6段階(0点=筋緊張亢進なし・4点=最重度硬直
  • 実施方法:仰臥位(最も緊張が低い姿勢)。全可動域を1秒間で動かす(重力速度)。最大3回実施し最も低いスコアを採用
  • 実施の順序:可動域評価よりに実施(先にROM評価するとストレッチ効果でスコアが低下する)
  • 所要時間:1関節あたり約5分・複数関節でも10〜15分以内
  • 信頼性:評価者間 Kappa 0.53〜0.77(中等度〜良好)・部位・評価者の習熟度・疾患により大きく変動(Meseguer-Henarejos et al., 2018)
  • MCID(最小臨床重要差):脳卒中でボツリヌス療法後 約1点の改善(Shaw et al. 2010)
  • 重要な限界:MASは「純粋な痙縮」の評価ではない。神経性(速度依存性反射亢進)と非神経性(拘縮・軟部組織の変化)が混在した「筋緊張亢進(ハイパートニア)」全体を評価する
  • 必要な器具:なし(徒手のみ)

MAS(修正アシュワーススケール)とは ― 開発背景と痙縮の理解

MAS(Modified Ashworth Scale)は、1964年にイギリスの医師 Bryan Ashworth が多発性硬化症患者における抗痙縮薬の効果を評価するために開発した「アシュワーススケール(Ashworth Scale:AS)」を、1987年にBohannon & Smithが改良したものです。1と2の間に「1+」というカテゴリーを追加することで感度を向上させ、特に下位スコア帯(1〜2点)での細分化を可能にしました。現在では世界の神経リハビリテーション臨床・研究で最も広く使用される筋緊張評価ツールです。

🔬 痙縮(スパスティシティ)とは ― MASを理解するための基礎知識

痙縮(Spasticity)は、Lance(1980)による古典的定義では「速度依存性の筋伸張反射の亢進を伴う筋緊張の増加で、上位運動ニューロン症候群の一成分」とされています。重要なのは「速度依存性」という点で、手足を速く動かすほど抵抗が強くなります。

しかし現代的な理解では、MASが評価するのは「痙縮」だけではありません。他動運動中の抵抗には①速度依存性の反射亢進(痙縮)②筋・結合組織の拘縮(非神経性)③ジストニア(持続的な不随意筋収縮)④固縮(rigidity)が混在します。MASはこれらを合わせた「筋緊張亢進(ハイパートニア)」の評価として捉えることが重要です。

脳卒中後の筋緊張亢進の有病率は発症6ヶ月で約42.6%(重度は15.6%)と報告されており、ADL・歩行・QOLに大きな影響を及ぼします(StatPearls 2025年版より)。

💡 MASの対象疾患と典型的な発症パターン

MASは以下の疾患・病態で使用されます:脳卒中(最多)・脊髄損傷・多発性硬化症(原著の対象)・脳性麻痺・外傷性脳損傷・中枢神経系腫瘍術後など。

脳卒中後の典型的な痙縮パターン:上肢では肩内旋・肘屈曲・前腕回内・手関節掌屈・指屈曲(屈筋優位)が多く、下肢では足関節底屈・膝伸展・股関節内転・内旋(伸筋優位)が典型的です。急性期は弛緩性麻痺(筋緊張低下)から始まり、数週間〜数ヶ月で痙縮が顕在化することが多い経過です。MASは筋緊張が正常以上の値(1〜4点)のみを評価するため、弛緩性麻痺(筋緊張低下)に対するスコアは存在しない点を理解することが重要です。

MAS(修正アシュワーススケール)と原著Ashworth Scaleの違い

比較項目 MAS(修正版・1987) AS(原著版・1964) MMAS(二重修正版・Ansari et al., 2008〜)
開発者 Bohannon & Smith Bryan Ashworth Ansari, Naghdi, Azarnia et al.(研究グループ)
スコア段階数 6段階(0・1・1+・2・3・4) 5段階(0・1・2・3・4) 5段階(0・1・2・3・4:1+を廃し再定義)
1+カテゴリー あり(1と2の間) なし 削除(代わりに各グレードの基準を再定義)
目的 AS の感度向上(1+追加) 抗痙縮薬効果の評価ツール MASの1+曖昧さを排除し信頼性を向上
信頼性の特徴 1+の定義曖昧さが課題(Pandyan 1999) MASより信頼性が高いという報告もある(Pandyan 1999) 手関節 weighted kappa 0.92と高信頼性(Naghdi et al., 2008)
現在の普及度 ✅✅ 世界標準・最多使用 △ MASに置き換えられつつある △ 普及は限定的
推奨される場面 臨床・研究の標準 古い文献との比較 信頼性重視の研究設定
専門家向け:MASの概念的・方法論的な課題と信頼性に影響する要因

MASは「痙縮の評価」か「筋緊張亢進の評価」か:Pandyan et al.(1999, Clin Rehabil)のレビューは、ASは「受動運動に対する抵抗の順序尺度」として使用できるが、MASは「1と1+の曖昧さが解決されるまで名義尺度(nominal level measure)として扱うべき」と結論づけました。MASが評価するのは痙縮だけでなく、軟部組織の粘弾性・拘縮・ジストニアなども含めた「受動運動中の抵抗」全体であることも同論文で明確にされています。2025年のGal et al.(Movement Disorders 40(1):22-43)のレビューはアシュワース系スケールを現代的な痙縮評価の推奨から除外し、Tardieu Scaleとの組み合わせが推奨されています。

信頼性に影響する要因:①患者の体格(大柄な患者は膝で一定速度を出しにくい)②評価者の体格(小柄な評価者は近位固定が困難)③頭部・対側肢のポジション(頭部回旋・対側肢の緊張が評価側に影響)④足関節ROM(平均47°と狭く角速度が低くなりやすい)⑤評価者の習熟度(速度・固定方法の一貫性)。これらが上肢より下肢の信頼性が低い主因の一部です。

「速度」の標準化(Zurawski et al. 2019):【修正済み:元記事は誤って「Smith et al. (2002)」と記載していましたが、正しくはZurawski et al. (2019, Physiother Can, PMC6855344) です。】同研究では130°/秒のメトロノーム管理により、習熟度の低い評価者でも手関節 kappa 0.54(中等度)が達成されました。ただし足関節底屈筋では kappa 0.08(slight:ほぼ一致なし)にとどまり、速度標準化が手関節には有効でも足関節の信頼性改善には限界があることが示されています。速度の不統一はMAS信頼性の最大の問題の一つです。

スコアの統計的取り扱い:0→1→1+→2→3→4 は等間隔ではなく順序尺度です。平均値・t検定は不適切。中央値・Wilcoxon符号順位検定・weighted Kappa を使用してください。なおPandyan(1999)はMASを「名義尺度」として扱うことを勧告しましたが、これは「1と1+の区別が統計的に機能していない可能性がある」という意味であり、全体としては順序尺度として多くの研究で取り扱われているのが現状です。

MAS実施方向の議論:Bohannon & Smith(1987)の原著では屈筋群評価(例:肘屈筋)に対して「最大屈曲位から伸展方向へ」動かすプロトコルが採用されていますが、一部の文献(Physiopedia等)では「最大伸展位まで確認後、伸展→屈曲方向にMASを実施」とする記述もあります。施設内で評価方向を統一し、記録に残すことが信頼性を保つ上で重要です。

MAS 正式な採点基準と実施方法

MASの6段階採点基準(0・1・1+・2・3・4)

グレード0筋緊張亢進なし
グレード1軽度・一時的引っかかり
グレード1+軽度・ROM1/2未満で持続
グレード2全ROMで亢進・動かせる
グレード3著明亢進・他動困難
グレード4硬直・屈伸不可
グレード 正式な採点基準(Bohannon & Smith, 1987)
0 筋緊張の亢進はない(0点=正常筋緊張または低下。弛緩性麻痺も0点)
1 軽度の筋緊張亢進がある。屈曲または伸展の最終域で「引っかかりとその消失」または「わずかな抵抗」が認められる
1+ 軽度の筋緊張亢進がある。明らかな「引っかかり」があり、それに続くわずかな抵抗がROMの1/2以下で認められる
2 よりはっきりとした筋緊張亢進が全可動域にわたって認められる。しかし、他動運動は容易に可能
3 かなりの筋緊張亢進がある。他動運動は困難
4 患部は硬直し、屈曲・伸展ともに不可能(強直レベル)

⚠️ MAS採点で特に混乱しやすい3つのポイント

0点は「弛緩性麻痺」も含む:MASには筋緊張が正常以下(弛緩)の場合のスコアがありません。「0点=正常」ではなく「0点=筋緊張亢進なし(正常〜低下を含む)」です。急性期の弛緩性麻痺患者も0点となります。

1と1+の違い:「1点」は最終域での一過性の引っかかり(clasp-knife現象が軽い)または最終域でのわずかな抵抗。「1+点」は引っかかりが明確で、かつ残りのROMの一部(1/2未満)にわたって抵抗が続く点が違います。1+は1より重度です。

4点は「痙縮」か「拘縮」か不明:グレード4(硬直)は動かせないほど強い抵抗ですが、MASはその抵抗が速度依存性の痙縮によるものか固定した拘縮(非神経性)によるものかを鑑別しません。Tardieu Scale(速度を変えて評価)との組み合わせで鑑別します。

📐 ROMを4分割して考える「クォーター法」― 1・1+・2の採点を直感的に掴む

1点・1+点・2点の区別に迷う場合、可動域(ROM)を4等分(各25%)して「抵抗が最初に出現するのがどのクォーターか」で判断する方法が実用的です。

第1Q
0〜25%
第2Q
25〜50%
第3Q
50〜75%
第4Q
75〜100%
← 開始位置(最大屈曲)終了位置(最大伸展) →

0点 全クォーターで抵抗なし・スムーズ
1点 第4クォーター(最終25%)でのみ引っかかり・リリース、またはわずかな抵抗
1+点 第3クォーター(50〜75%域)で引っかかりが発生し、その後わずかな抵抗が続く(残りROMの半分未満=第4Q以内に収まる)
2点 第1〜2クォーター(開始後すぐ)から全域で亢進。最終域まで他動は可能
3点 全域で著明な抵抗。他動が非常に困難
4点 動かせない(硬直)

🔬 「引っかかり(Catch)」と「クラスプナイフ現象」とは?

MASで評価する「引っかかり(Catch)」とは、他動運動中に筋の伸張反射が突然発火して運動が一瞬止まる現象です。クラスプナイフ現象(Clasp-knife phenomenon:折りたたみナイフ現象)は、この引っかかりの後に抵抗が急速に消失するパターンで、上位運動ニューロン障害(痙縮)の典型的な神経学的所見です。

クラスプナイフ(痙縮)vs リードパイプ(固縮)の鑑別:固縮(rigidity:パーキンソン病など基底核疾患)では、速度に関わらず全域で均一な抵抗が続き「引っかかりとリリース」のパターンが見られません。MASは痙縮(上位運動ニューロン障害)の評価ツールであり、固縮に対する適用は推奨されません。評価前に疾患病態を確認してください。

MAS実施手順 ― 4つのステップと信頼性を高める実践的コツ

🔑 実施前の大前提(必ず守る3原則)

原則1
仰臥位で実施する(最も筋緊張が低い姿勢)。座位・立位では全身緊張が増加し、痙縮が本来より強く評価されます。
原則2
可動域評価(ROM測定)より前に実施する。先にROMを測定するとストレッチ効果で筋緊張が一時的に低下し、MASスコアが本来より低くなります。
原則3
最大3回まで実施し、スコアを記録する。3回を超えると反復ストレッチの効果でスコアが低下します。各試技間は3秒以上間隔を空けます。Bohannon & Smith(1987)原著に明示的な採点回数・採用ルールはないため、施設内でプロトコルを統一して継続的に適用することが重要です(多くの臨床現場では「3回中の最も低いスコアを採用」が慣行)。
実施手順

MASの4ステップ(全関節共通)

1
患者を仰臥位にし、全身できるだけリラックスさせる。評価する関節の全可動域(または疼痛が出現するまでの範囲)をゆっくり一度確認する(この初回パスはROM確認のみで採点しない)
2
各関節の開始肢位をとる(屈筋を評価する場合は最大屈曲位から伸展方向へ動かす。評価方向は施設内で統一して記録すること)。Part 3の関節別詳細を参照
3
開始肢位から全可動域を1秒間で動かす(重力速度:目安130°/秒)。「非麻痺側肢が重力で自然に落下するのと同じ速度」と表現されることが多い。ゆっくり動かすと痙縮を引き出せず過小評価になる
4
同じ動作を最大3回繰り返す。各試技の間には3秒以上の間隔を空ける。3回のスコアのうち最も低いスコアを採用する(反復ストレッチの蓄積効果を排除するため)
【速度感覚の臨床的な掴み方と注意点】 「1秒で全ROM」の体感は、非麻痺側の肘を完全屈曲位から力を抜いて重力で落下させる速度を参考にします。多くの臨床家が「速い!」と感じる速度ですが、この速度が重要なのは痙縮の「速度依存性」を引き出すためです。

足関節は可動域が狭い(平均47°)ため、手関節(平均129°)と同じ「1秒」では角速度が低くなりやすく、痙縮が出にくいことに注意が必要です。Zurawski et al.(2019, PMC6855344)のメトロノーム管理(130°/秒)研究では、手関節の信頼性は中等度(kappa 0.54)に改善しましたが、足関節底屈筋ではkappa 0.08(ほぼ一致なし)にとどまり、速度標準化の効果が部位によって大きく異なることが示されています。

MAS 関節別の開始肢位と運動方向(全7部位)

以下の各関節は臨床で最も頻繁に評価される7部位です。すべて仰臥位で実施します。各関節の「開始位置=最大屈曲位(または底屈位)から伸展(または背屈)方向へ動かす」が基本ですが、特記がある場合は別途記します。

1

肘関節伸展(Elbow Extension)

開始位置肘を完全屈曲位(できるだけ深く)に保つ。前腕は中間位(回内・回外の中間)
運動方向最大屈曲位 → 最大伸展位へ、1秒間で動かす
評価筋上腕二頭筋・腕橈骨筋の痙縮(屈筋痙縮)
信頼性Spearman ρ 0.56〜0.90(上肢中比較的信頼性が高い)
グレード 肘関節伸展で観察される具体的所見
0 抵抗なし。スムーズに最大伸展まで動かせる
1 伸展の最終域(完全伸展に近い角度)で一瞬の引っかかりを感じる。その後すぐ解放される
1+ 伸展途中で明確な引っかかりがあり、その後 ROM の1/2以下の範囲で持続的な抵抗が続く。全ROMの半分以上は比較的スムーズに動かせる
2 肘の全伸展範囲にわたって常に抵抗があるが、力を入れれば完全伸展まで動かすことができる
3 著明な抵抗のため他動伸展が非常に困難。完全伸展まで到達できないことが多い
4 肘が屈曲位で硬直(固定)しており、伸展方向への他動運動がほぼ不可能
【臨床的意義・観察のポイント】 脳卒中後の上肢は屈筋優位パターン(肩内旋・肘屈曲・前腕回内・手関節掌屈・指屈曲)を呈することが多く、上腕二頭筋の痙縮が肘関節伸展の主な抵抗源となります。評価時は肩関節の内転・内旋も合わせて観察し、複合的な痙縮パターンを記録してください。引っかかり(clasp-knife現象)の出現するROM角度を記録しておくと、次回評価との比較に役立ちます。

2

手関節背屈(Wrist Dorsiflexion)

開始位置肘関節をできるだけ伸展位に保ち、前腕を回内位(手掌が下を向く)にする
運動方向最大掌屈位(手関節を完全に手掌側へ曲げた位置)→ 最大背屈位へ、1秒間で動かす
評価筋橈側手根屈筋・尺側手根屈筋の痙縮
信頼性weighted kappa 0.61〜0.78(遠位上肢は比較的良好)
グレード 手関節背屈で観察される具体的所見
0 抵抗なし。スムーズに最大背屈まで動かせる
1 背屈の最終域(完全背屈に近い角度)で一瞬の引っかかりまたはわずかな抵抗
1+ 背屈途中で明確な引っかかりがあり、ROMの1/2以下の範囲で持続的な抵抗
2 全背屈範囲で常に抵抗があるが、力を入れれば最大背屈まで動かせる
3 著明な抵抗のため他動背屈が非常に困難
4 掌屈位で硬直。背屈不可
【臨床的意義】 手関節掌屈筋群の痙縮は手指のADL(食事・書字・更衣)を著しく制限します。評価時は手関節と指の痙縮を分けて記録することが重要です(手関節痙縮が強いと指の評価も影響を受けます)。ボツリヌス療法の適応検討においても、手関節と手指の痙縮パターンの詳細な把握が治療薬量の決定に直結します。

3

手指伸展(Finger Extension)

開始位置肘関節をできるだけ伸展位。前腕は中間位。すべての指を一度に評価する
運動方向すべての指を最大屈曲位(握りこぶしに近い位置)→ 最大伸展位へ、1秒間で動かす
評価筋浅指屈筋・深指屈筋の痙縮
グレード 手指伸展で観察される具体的所見
0 全指がスムーズに最大伸展まで動かせる
1 伸展の最終域でわずかな引っかかりまたは抵抗を感じる
1+ 明確な引っかかりがあり、ROMの1/2以下で持続的な抵抗
2 全伸展範囲で抵抗があるが、指を完全に開くことは可能
3 著明な抵抗のため指の他動伸展が非常に困難。把持姿勢が固定化し始めている
4 指が屈曲位で硬直。伸展不可。爪が手掌に食い込んでいることがある
【3点・4点の注意点 ― 衛生管理】 3〜4点(他動伸展困難・硬直)では、爪が手掌に食い込んで皮膚損傷を起こすリスクがあります。特に4点では閉じた手掌内の皮膚の蒸れ・傷・感染(浸軟・マセレーション)が発生しやすいです。ボツリヌス療法・スプリント装具の積極的な適応検討とともに、日常的な手掌衛生ケアの指導が不可欠です。

4

母指伸展(Thumb Extension)

開始位置肘をできるだけ伸展。前腕・手関節は中間位
運動方向母指を最大屈曲位(母指が人差し指に当たる位置)→ 最大伸展(外転)位へ、1秒間で動かす
評価筋母指内転筋・短母指屈筋の痙縮
グレード 母指伸展で観察される具体的所見
0 抵抗なし。スムーズに最大伸展・外転まで動かせる
1 最大伸展に近い角度でわずかな引っかかり・抵抗
1+ 明確な引っかかりがあり、ROMの1/2以下で持続的な抵抗
2 全伸展範囲で抵抗があるが、最大伸展・外転まで他動可能
3 著明な抵抗のため母指の他動伸展が非常に困難。「握り母指(thumb-in-palm)」が顕著
4 母指が掌の中に硬直。伸展不可。「thumb-in-palm変形」
【臨床的意義:Thumb-in-Palm変形】 母指内転・屈曲の痙縮による「thumb-in-palm(掌内母指)」は手指ADLの大きな障壁です。把持・リリース・ピンチなど上肢の精緻な動作を阻害します。3〜4点ではボツリヌス療法(主に母指内転筋・短母指屈筋への注射)の積極的適応となります。スプリント(母指外転位保持)との組み合わせが有効です。

5

膝関節伸展(Knee Extension)― ハムストリングスの評価

開始位置仰臥位で足関節がベッドの端から出るように寝る(脚がベッドに落ちるスペースを確保)。股関節は内外旋中間位
運動方向膝関節を最大屈曲位 → 最大伸展位へ、1秒間で動かす
評価筋ハムストリングス(半膜様筋・半腱様筋・大腿二頭筋)の痙縮
信頼性ICC 0.47〜0.62(上肢に比べ信頼性が低い傾向。股関節の影響を受けやすい)
グレード 膝関節伸展で観察される具体的所見
0 抵抗なし。スムーズに最大伸展まで動かせる
1 伸展の最終域(膝が完全伸展に近い角度)でわずかな引っかかり・抵抗
1+ 明確な引っかかりがあり、ROMの1/2以下の範囲で持続的な抵抗(膝の中間域に入ると抵抗が出る)
2 全伸展範囲で抵抗があるが、力を入れれば完全伸展まで動かせる
3 著明な抵抗のため他動伸展が非常に困難。屈曲拘縮が生じ始めている可能性
4 膝が屈曲位で硬直。伸展不可
【下肢評価での注意:股関節の影響】 股関節屈曲角度によってハムストリングスの張力が変化するため、評価中は股関節を中間位(屈伸・内外旋とも中間)に保つことが重要です。また膝伸展痙縮の評価は「伸展方向への抵抗(ハムストリングス)」を評価しますが、歩行では膝伸展筋(大腿四頭筋)の痙縮も問題になることがあります。必要に応じて膝屈曲(大腿四頭筋の評価)も追加してください。

6

膝関節屈曲(Knee Flexion)― 大腿四頭筋の評価

開始位置仰臥位で足関節がベッドの端から出るように寝る。股関節は内外旋中間位。膝を最大伸展位から開始
運動方向膝関節を最大伸展位 → 最大屈曲位へ、1秒間で動かす
評価筋大腿四頭筋(特に直筋)の痙縮・伸展パターン優位の脳卒中に多い
グレード 膝関節屈曲で観察される具体的所見
0 抵抗なし。スムーズに最大屈曲まで動かせる
1 屈曲の最終域でわずかな引っかかり・抵抗(大腿四頭筋の軽度緊張)
1+ 明確な引っかかりがあり、ROMの1/2以下で持続的な抵抗
2 全屈曲範囲で抵抗があるが、力を入れれば最大屈曲まで動かせる
3 著明な抵抗のため他動屈曲が非常に困難
4 膝が伸展位で硬直。屈曲不可
【臨床的意義:大腿四頭筋痙縮と歩行】 下肢伸展パターン優位の脳卒中では大腿四頭筋(特に直筋)の痙縮が問題になります。立脚中期での膝の「曲がらない・ロックする」現象や、遊脚期の「膝屈曲不足による引きずり歩行」の原因となります。ボツリヌス療法での注射ターゲット(直筋が主)の判断にもMASスコアが指標となります。

7

足関節背屈(Ankle Dorsiflexion)

開始位置仰臥位。股関節は内外旋中間位。足関節を最大底屈位から開始
運動方向最大底屈位 → 最大背屈位へ、1秒間で動かす
評価筋腓腹筋・ヒラメ筋の痙縮。膝伸展位=腓腹筋中心、膝屈曲位(90°)=ヒラメ筋中心
信頼性r=0.82(検査・再検査);ICC 0.64〜0.68(評価者間)。なお速度標準化(130°/秒)後でも評価者間 kappa 0.08(slight)との報告あり(Zurawski et al. 2019)
グレード 足関節背屈で観察される具体的所見
0 抵抗なし。スムーズに最大背屈まで動かせる
1 背屈の最終域でわずかな引っかかり・抵抗。フットクローヌスが誘発されない
1+ 明確な引っかかりがあり、ROMの1/2以下で持続的な抵抗。unsustained clonusが一時的に出現することがある
2 全背屈範囲で抵抗があるが、最大背屈まで動かせる。unsustained clonusを伴うことがある
3 著明な抵抗のため他動背屈が非常に困難。sustained clonusが誘発されることがある
4 底屈位で硬直(尖足固定)。背屈不可
【腓腹筋とヒラメ筋の鑑別ポイント】 膝関節伸展位でのMASは腓腹筋(二関節筋)の痙縮を反映し、膝関節屈曲位(90°)でのMASはヒラメ筋(単関節筋)の痙縮を反映します。「膝伸展位でMAS 2点、膝屈曲位でMAS 0点」なら腓腹筋優位の痙縮と判断でき、ボツリヌス注射ターゲットや装具設計の参考になります。クローヌスが持続する(sustained clonus)場合は4点ではなく3点として採点することに注意してください。また足関節のMASは可動域が狭く信頼性が他部位より低い傾向にあるため、Tardieu Scaleとの組み合わせを特に推奨します。

MAS・Tardieu Scale・SIASの徹底比較

比較項目 MAS Tardieu Scale(修正版) SIASの筋緊張(項目6・7)
評価対象 筋緊張亢進全体(神経性+非神経性混在) 神経性成分(速度依存性)と非神経性成分の鑑別 筋緊張の亢進・低下(0〜3点)
スコア構成 0・1・1+・2・3・4の6段階 質:X0〜X5 / 角度:R1とR2を測定 0〜3点の4段階(1A/1B サブカテゴリーあり)
速度設定 1種類(重力速度:1秒で全ROM) 2〜3種類(超低速V1 / 重力速度V2 / 最大速度V3) 一定の中等速度
神経性・非神経性の鑑別 ❌ 不可(混在して評価) ✅ 可(R1−R2角度差で判定) △ 間接的(1Aと1Bの区別)
弛緩性麻痺の評価 ❌ 0点に統合(弛緩も正常も同じ0点) ❌ 評価しない ✅ 1B(筋緊張低下)として記録可能
信頼性(評価者間) Kappa 0.53〜0.77(中等度〜良好) 中等度(特に角度測定の誤差が課題) Kappa 0.83〜0.95(良好〜優秀)
所要時間 1関節5分・複数でも10〜15分 1関節10〜15分(複数設定が必要) SIASの一部(2項目・約3〜5分)
特殊器具 ❌ 不要 ゴニオメーターが必要 ❌ 不要
ボツリヌス療法の適応判断 ✅ MAS≧2点が一般的な目安 ✅✅ R1とR2の解離が最も精確な適応評価 △ 間接的指標として活用可
最適な使用場面 日常臨床のスクリーニング・経時的モニタリング・ボツリヌス前後評価 神経性・非神経性の鑑別・ボツリヌス適応の精密判断 SIASの一部として包括的評価

🆕 追加情報:Hypertonia Assessment Tool(HAT)とは ― 痙縮・ジストニア・固縮を鑑別する観察型評価

MASとTardieu Scaleの組み合わせでも鑑別が難しい「痙縮かジストニアか固縮か」の判断を助けるツールがHypertonia Assessment Tool(HAT)です。HAT(Jethwa et al., 2010)は特に小児脳性麻痺で開発された観察型ツールで、①運動誘発性の抵抗(痙縮)②固定的な姿勢(ジストニア)③均一な抵抗(固縮)を7項目の観察で鑑別します。

2025年のGal et al.レビューでは代替評価として Tardieu Scale が最も推奨されており、HATは小児・脳性麻痺領域での有用性が確認されています(kappa 0.80以上の良好な信頼性)。成人脳卒中では Tardieu Scale が一般的な選択肢です。

実践的な選択フロー:MASでスクリーニング → ①成人ならTardieu Scale(R1-R2鑑別)、②小児CPならHAT(ジストニア合併を疑う場合)→ 必要に応じてPenn Spasm Frequency Scale(脊髄損傷のスパスム)を追加。

💡 推奨:MAS × Tardieu Scale の組み合わせ使用フロー

Step 1:MASで筋緊張亢進を定量スクリーニング(0〜4点)。MAS 0点→ 追加評価不要。MAS 1〜4点 → Step 2へ。

Step 2(MAS ≧ 1の場合):Tardieu ScaleでR1(高速で catch が起きる角度)とR2(ゆっくり動かした最大ROM角度)を測定。R1 ≠ R2(差がある)→ 神経性成分(速度依存性痙縮)が主体。ボツリヌス療法の適応を検討。

Step 3(R1 ≈ R2の場合):神経性成分は少なく、非神経性の拘縮・軟部組織変化が主体の可能性が高い。持続ストレッチ・装具・手術(腱延長等)を検討。ボツリヌス療法の効果は限定的。

⚠️ MASの重要な限界点(2025年現在の最新エビデンスに基づく)

痙縮の純粋な評価ではない:MASは受動運動中の総抵抗を評価するため、神経性(速度依存性の反射亢進)と非神経性(拘縮・軟部組織の変化・ジストニアなど)を区別できません。Gal et al.(2025, Movement Disorders 40(1):22-43)のシステマティックレビューはアシュワース系スケールを「現代的な痙縮の定義(速度依存性の伸張反射亢進)に合致しない」として推奨リストから除外しました。

弛緩性麻痺(筋緊張低下)のスコアがない:急性期の弛緩性麻痺も0点となり、正常筋緊張との区別ができません。SIASの筋緊張項目(1B=低下)と組み合わせることで補完できます。

統計的取り扱い:MASは順序尺度で等間隔ではないため、平均値の計算・パラメトリック統計は不適切です。中央値・Wilcoxon符号順位検定などのノンパラメトリック統計を使用してください。

信頼性の部位差と速度標準化の限界:上肢(特に遠位)は比較的信頼性が高いですが、下肢(特に足関節)は信頼性が低い傾向があります。Zurawski et al.(2019)が示したように、速度を130°/秒に標準化しても足関節底屈筋のkappa値はわずか0.08にとどまります。施設内での定期的な評価者間キャリブレーションが重要です。

MASスコアからリハビリ・医療介入へ ― スコア別戦略

1
MAS 0点(筋緊張なし・弛緩性麻痺)への介入

弛緩性麻痺の場合は痙縮対策ではなく、廃用予防・感覚入力促通・神経筋電気刺激(NMES/FES)が優先です。正常筋緊張の場合は現行プログラムを継続。ポジショニング(肩の亜脱臼予防・ポジション管理)は弛緩性麻痺から早期に開始することで、のちの痙縮発生・拘縮予防に役立ちます。

2
MAS 1〜1+点(軽度の筋緊張亢進)への介入

痙縮は軽度で機能動作への影響は少ないですが、予防的対応が重要な段階です。①毎日のポジショニング(スプリント・タオルロール等)②持続的な伸張訓練(30分以上・低強度ストレッチ)③課題指向型訓練(機能的な動作を通じた痙縮の正常化)を実施します。ボツリヌス療法の適応はまだ積極的ではありませんが、進行している場合はTardieu Scaleで神経性成分を定量化して早期介入を検討します。

3
MAS 2点(中等度・全ROM で亢進・他動は可能)への介入

ボツリヌス毒素注射の主要な適応段階です。「動かせるが抵抗がある」状態で、ADL(着衣・食事・歩行)への影響が出始めています。①ボツリヌス療法(2週間後に再評価)②NMES・経皮的電気刺激(TENS)③装具(AFO・スタティックスプリント)④ポジショニング強化を組み合わせます。ボツリヌス療法後のリハビリ(筋力訓練・巧緻運動訓練)を4〜6週間継続することで効果が最大化します。

4
MAS 3点(著明な亢進・他動が困難)への介入

ボツリヌス療法の最も積極的な適応段階です。他動運動が困難なレベルで拘縮発生リスクが高いです。①ボツリヌス毒素注射(複数筋・高用量)②バクロフェン(経口・難治症例では髄腔内バクロフェン:ITB)③シリアル・ダイナミックスプリント④集中的な物理療法(温熱・超音波・電気刺激)を医師と密接に連携して実施します。この段階での関節可動域維持が最優先です。

5
MAS 4点(硬直・屈伸不可)への介入

硬直レベルでTardieu Scaleによる神経性・非神経性の鑑別が不可欠です。神経性成分が主体なら高用量ボツリヌス療法・ITBを検討。非神経性(拘縮・結合組織の固定)が主体なら保存的なリハビリ効果は限定的で、外科的介入(腱延長術・筋解離術)の適応を整形外科医と検討します。衛生管理(手掌・腋窩の皮膚ケア)と疼痛管理(視床痛・筋緊張性疼痛への薬物療法)が介護・QOLの観点で最優先です。

MASのエビデンス ― 信頼性・妥当性・限界と最新研究

信頼性(システマティックレビュー)

評価者間 Kappa 0.53〜0.77・部位・疾患・習熟度によって大きく変動

Meseguer-Henarejos et al.(2018, Eur J Phys Rehabil Med 54(4):576-590)のシステマティックレビュー・メタ分析では、MASの評価者間信頼性はKappa 0.53〜0.77(中等度〜良好)で、部位・疾患・評価者の習熟度によって大きく変動することが示されました。一般傾向として上肢(特に遠位:手関節 weighted kappa 0.61〜0.78)は下肢(特に近位:膝 ICC 0.47〜0.62)より信頼性が高いです。Vidmar et al.(2023, Arch Phys Med Rehabil 104(10):1606-1611)の13筋群研究でも、グレード0での一致率が最高で、中間グレードでの一致率が低い傾向が確認されました。

妥当性・概念的問題

「痙縮の評価」として妥当性は限定的 ― ハイパートニア評価としては広く使用

Pandyan et al.(1999, Clin Rehabil 13(5):373-383)のレビューは、ASは「受動運動に対する抵抗の順序尺度」として使用できる一方、MASは「1と1+の曖昧さが解決されるまで名義尺度として扱うべき」と結論づけました。また評価中の実際の伸張時間(0.25〜0.33秒)とEMGのウィンドウ期間との不一致も問題点として挙げられています。しかし「ハイパートニア(筋緊張亢進)」の臨床的スクリーニングとしては広く認められており、現実の臨床では引き続き標準ツールとして使用されています。

介入効果の測定感度・MCID

MCID(最小臨床重要差):脳卒中でのボツリヌス療法後 約1点の改善(Shaw et al. 2010)

Shaw et al.(2010, BoTULS試験, Health Technol Assess 14(26))の研究では、脳卒中患者へのボツリヌス毒素療法後にMASスコアで約1点の改善が臨床的に意味のある変化(MCID)とされています。ただし分布ベースの手法による別研究(Chen et al.)では上肢MCID 0.48〜0.76と算出されており、推定方法によって値は異なります。MASは粗い順序尺度のため、微細な変化の検出には感度が限られています。経時的評価では2回以上の測定を行い、スコアの変化パターンで効果を評価することを推奨します。

専門家向け:2025年以降のMASへの批判的評価と代替評価ツール

Gal et al. (2025)の批判:Movement Disorders誌掲載の最新システマティックレビュー(Gal O et al., Mov Disord 2025 Jan;40(1):22-43)はアシュワース系スケール(ASおよびMAS)を痙縮評価の推奨リストから除外しました。理由は「現代的な痙縮の定義(速度依存性の伸張反射亢進)に合致する評価法ではなく、筋緊張の評価にすぎない」という点です。MDAの運動障害学会(MDS)のClinical Outcome Assessments Scientific Evaluation Committeeによる声明であり、権威ある批判的評価といえます。

代替評価として推奨されるもの:①Tardieu Scale(修正版):R1とR2の差から神経性成分を定量化できる最も有用な代替ツール。Gal et al.(2025)で唯一「推奨」に格付け ②Hypertonia Assessment Tool (HAT):痙縮・ジストニア・固縮を鑑別できる観察型評価(特に小児脳性麻痺に有用、Jethwa et al., 2010)③Penn Spasm Frequency Scale:脊髄損傷患者のスパスム頻度・重症度評価に特化

MASの現実的な位置づけ(2025年現在):批判はあるものの、MASは特別な器具が不要で短時間で実施できる実用的なツールとして世界中の臨床・研究で継続使用されています。「MAS単独での評価に限界がある」という認識を持ちつつ、Tardieu Scaleや機能評価(SIAS・FIM)と組み合わせて使うことが現代的な臨床実践です。

臨床ケーススタディ ― MASを活用した介入計画

📋 症例:田村さん(58歳・男性)右中大脳動脈梗塞 発症後3ヶ月

左片麻痺(右利き)。回復期病棟退院後にSTROKE LABを受診。「左腕が縮んで動かない」「左足がつっぱって歩きにくい」という主訴。SIASの筋緊張項目は上肢1A(3点 → 1点)・下肢2(3点 → 2点)と記録されている。

評価部位 MASスコア 主な観察所見 Tardieu(補足) 介入優先度
肘関節伸展(上腕二頭筋) 3点 他動伸展が非常に困難。引っかかりが強く全域で強い抵抗 R1−R2差大(神経性主体) ★最優先(BTX適応)
手関節背屈(手根屈筋) 2点 全背屈範囲で抵抗。力を入れれば最大背屈可 R1−R2差あり ◎(BTX検討)
手指伸展(指屈筋) 3点 他動伸展困難。第2〜5指が屈曲位に固定しがち。爪が手掌に触れている R1−R2差大 ★最優先(BTX適応+衛生ケア)
母指伸展(母指内転筋) 2点 thumb-in-palm傾向あり。全ROMで抵抗があるが他動は可能 R1−R2差あり ◎(BTX検討)
膝関節屈曲(大腿四頭筋) 1+点 屈曲途中で明確な引っかかり。ROM1/2以下で持続抵抗 ○(ストレッチ・NMES)
足関節背屈(腓腹筋:膝伸展位) 2点 全背屈範囲で抵抗。Unsustained clonus を時々認める R1−R2差あり ◎(BTX検討・AFO適応)
足関節背屈(ヒラメ筋:膝屈曲位) 1+点 腓腹筋の方が優位 △(腓腹筋が主ターゲット)

分析と介入計画:

上肢(肘3点・手指3点)が最優先→ 主治医にボツリヌス毒素注射(上腕二頭筋・橈側手根屈筋・浅指屈筋への注射)を提案。手指の爪による手掌損傷防止のため即日スプリント(指伸展保持用)と手掌衛生ケアの指導を開始。② Tardieu Scale(肘・手指・足関節)でR1−R2の差分を測定し神経性成分主体を確認。ボツリヌス療法の根拠を医師に提示。③ 足関節(2点・腓腹筋優位)→ BTX足関節への注射後にAFO(背屈補助型)処方を提案。④ BTX注射後4〜8週をリハビリの「ゴールデンウィンドウ」として集中的な手指・上肢機能訓練を計画(課題指向型・鏡療法・NMES)。⑤ 4〜6週後にMAS再評価で効果確認(MCID:1点以上の改善を目標)。

よくある質問(FAQ)― MAS評価について

MASとSIASの筋緊張評価(項目6・7)はどう使い分けますか?
MAS:痙縮・筋緊張亢進に特化した詳細評価(0・1・1+・2・3・4の6段階)。ボツリヌス療法の適応判断・効果測定に最適。関節別・筋別に詳細な評価が可能です。

SIASの筋緊張(項目6・7):脳卒中機能評価SIASの一部として上肢・下肢をそれぞれ1項目(0〜3点・1A/1Bサブカテゴリーあり)で評価。SIASの利点は「弛緩性麻痺(1B)と痙縮(1A)を区別できる」点と「22項目包括評価の一部として位置づけられる」点にあります。

推奨フロー:包括的機能評価にはSIAS(筋緊張も含む22項目)、筋緊張亢進の詳細評価・ボツリヌス適応判断にはMAS+Tardieu Scaleの組み合わせが最も情報量の多い選択です。

「1点」と「1+点」の違いがわかりません。実際どう区別すれば?
最も実用的な区別方法は「引っかかりの後に抵抗が続くROMの半分を超えるかどうか」です。

1点のイメージ:「サクッ」と一瞬引っかかって、すぐ解放される(clasp-knife の軽い版)。または最終域だけでわずかな抵抗がある。残りのROMはスムーズ。

1+点のイメージ:引っかかりがあり、その後も抵抗が続く。ただし全ROMの半分以上は何とかスムーズに動かせる。「最初に捕まったが、あとは何とか動かせた」感覚。

慣れないうちは、「引っかかりの後の抵抗がROMの半分を超えたら2点、半分未満なら1+点、引っかかりだけなら1点」と覚えてください。施設内で同一患者を複数の評価者で評価し、採点基準を共有するキャリブレーション(合同評価)を定期的に行うことを推奨します。

3回試技して3回とも違うスコアが出た場合はどうすれば?
MASのプロトコルでは「3回中の最も低いスコアを採用」します。3回の試技で「2点・1+点・1点」という結果が出た場合、採用スコアは1点です。

これは「繰り返しストレッチによる一時的な筋緊張の低下(short-term stretch effect)を最も排除した値が最も正確な痙縮の評価を反映する」という考え方に基づいています。各試技の間に3秒以上の間隔を空けるのも、前の試技のストレッチ効果をリセットするためです。

注意:3回以上実施するとストレッチ効果がさらに蓄積してスコアが低下するため、最大3回までという制限があります。また、この「最低スコアを採用」というルールはBohannon & Smith(1987)の原著に明記されているわけではなく、臨床慣行として定着したものです。施設内でプロトコルを統一することが最も重要です。

MASはどんな順序で評価すれば良いですか?
①MAS評価は必ずROM(関節可動域測定)より先に行います。ROM測定では関節をゆっくり大きく動かすことでストレッチが行われ、直後のMASスコアが本来より低くなります。

評価の推奨順序(一例):MAS評価 → ROM測定 → MMT(筋力評価)→ 機能的評価(SIAS・FIM等)

関節の評価順序はどの順でも構いませんが、評価者・患者ともに一定の順序を守ることで評価の一貫性が保たれます。前回との比較のために評価順序を記録に残すことを推奨します。

MAS 4点は必ずボツリヌス療法や手術の適応ですか?
必ずしもそうではありません。4点の「硬直」が神経性の痙縮が主体か、非神経性の拘縮(固定した結合組織の変化)が主体かを鑑別することが先決です。

Tardieu Scaleで鑑別:高速で動かした時の角度(R1)とゆっくり動かした時の最大ROM(R2)を比較。R1≠R2(差がある)→ 神経性成分が主体 → ボツリヌス療法・バクロフェンが有効。R1≈R2(差がほとんどない)→ 非神経性(拘縮)が主体 → ボツリヌス療法の効果は限定的、外科的介入(腱延長術等)を検討。

発症直後からの適切なポジショニングと持続的なストレッチが4点への進行を予防する最善策であることを忘れないでください。

脊髄損傷患者にもMASは使えますか?
使用できますが、脊髄損傷での信頼性は脳卒中に比べ低いという研究報告があります(Craven & Morris, Spinal Cord 2010)。脊髄損傷では痙縮のパターンが脳卒中と異なり(屈筋と伸筋の双方が亢進することが多い)、また自律神経反射亢進(Autonomic Dysreflexia)が評価中に誘発されるリスクがあります。脊髄損傷での痙縮評価にはPenn Spasm Frequency Scale(スパスムの頻度・重症度)との組み合わせが推奨されます。なお、Akpinar et al.(Spinal Cord, 2017)は脊髄損傷においてMASよりModified Tardieu Scaleの評価者間信頼性の方が優れている可能性を示しています。
ボツリヌス療法後の効果確認は何週間後にMASを実施すれば?
ボツリヌス毒素の効果は注射後2〜4週間で最大となるため、効果確認のMAS再評価は注射後4〜6週間目に行うことを推奨します(注射後2週間は効果が出切っていない)。効果持続期間は通常3〜4ヶ月で、効果が減弱してきた段階(約3ヶ月後)での再評価と次回注射の判断に活用します。注射後のリハビリ(「ゴールデンウィンドウ:注射後4〜8週間の集中的な機能訓練」)との効果を合わせて、前回の注射前MASとの比較でスコア変化を評価してください。MCID(最小臨床重要差)は脳卒中での研究で約1点の改善とされています(Shaw et al. 2010)。

STROKE LABのMAS活用 ― 評価から介入まで

STROKE LABでは、MASを「筋緊張の数値記録」だけでなく「どの筋群のどの程度の痙縮がADLと機能回復の最大の障壁になっているかを特定する地図」として活用しています。MAS × Tardieu Scale × SIAS の三角分析によって神経性・非神経性成分を鑑別し、ボツリヌス療法・装具・集中リハビリの最適な組み合わせを設計します。

STROKE LAB式

MAS起点の痙縮リハビリ設計フロー

Step 1 評価:MAS(全関節の詳細スコア)+ Tardieu Scale(神経性・非神経性の鑑別)+ SIAS(9領域包括的機能評価)で初回評価を実施

Step 2 分析:MASスコアと神経性成分の大きさ(R1−R2差)を組み合わせて「ボツリヌス療法の適応・注射ターゲット・用量」の根拠データを構築。機能的影響(ADL・歩行・疼痛)を合わせて介入優先順位を決定

Step 3 医師との連携:MAS・Tardieu・動画記録を持参して主治医・リハビリ科医師とボツリヌス療法の適応・投与部位・用量を協議。注射後のリハビリプログラムを事前に設計

Step 4 ゴールデンウィンドウ介入:ボツリヌス注射後4〜8週間の筋緊張が最も低下した「ゴールデンウィンドウ」に集中的な機能訓練(課題指向型・鏡療法・NMES・手指巧緻動作訓練)を実施

Step 5 効果判定・再評価:注射後4〜6週にMASを再評価。1点以上の改善(MCID)を確認し、次サイクルの介入計画に反映

リハビリを受けた方の声

「肘が縮んで腕が身体にくっついてしまう」と諦めていました。STROKE LABでMASを測定してもらったら肘が3点・手首と手指が2〜3点という結果で、ボツリヌス療法の適応だとわかりました。注射後4週間の集中リハビリで手首の背屈ができるようになり、食事のときに左手でお茶碗を持てるようになりました。今は肘のMASが2点になり、まだ続けています。

60代男性・脳梗塞発症後8ヶ月

左足がつっぱって歩くたびにつまずきそうになっていました。MASで評価したら足首が2点(腓腹筋優位)とわかり、ボツリヌスを足首に打ってもらってAFOを作りました。歩き方が変わって、今は段差も安心して乗り越えられるようになりました。MASで「なぜ歩きにくいのか」が数字で見えたことで治療の方向性が定まった感じがします。

70代女性・脳出血発症後5ヶ月

参考文献・引用文献

  • 1) Ashworth B. Preliminary trial of carisoprodol in multiple sclerosis. Practitioner. 1964;192:540-542.
  • 2) Bohannon RW, Smith MB. Interrater reliability of a modified Ashworth scale of muscle spasticity. Phys Ther. 1987;67(2):206-207.
  • 3) Pandyan AD, Johnson GR, Price CIM, Curless RH, Barnes MP, Rodgers H. A review of the properties and limitations of the Ashworth and modified Ashworth Scales as measures of spasticity. Clin Rehabil. 1999;13(5):373-383.
  • 4) Meseguer-Henarejos AB, Sánchez-Meca J, López-Pina JA, Carles-Hernández R. Inter- and intra-rater reliability of the Modified Ashworth Scale: a systematic review and meta-analysis. Eur J Phys Rehabil Med. 2018;54(4):576-590.
  • 5) Vidmar T, Goljar Kregar N, Puh U. Reliability of the Modified Ashworth Scale after stroke for 13 muscle groups. Arch Phys Med Rehabil. 2023;104(10):1606-1611. DOI
  • 6) Ansari NN, Naghdi S, Arab TK, Jalaie S. The interrater and intrarater reliability of the Modified Ashworth Scale in the assessment of muscle spasticity: limb and muscle group effect. NeuroRehabilitation. 2008;23(3):231-237. ※元記事に「2006年」と誤記されていたが正しくは2008年
  • 7) Naghdi S, Ansari NN, Azarnia S, Kazemnejad A. Interrater reliability of the Modified Modified Ashworth Scale (MMAS) for patients with wrist flexor muscle spasticity. Physiother Theory Pract. 2008;24(5):372-379.
  • 8) Shaw LC, Price CIM, van Wijck FMJ, et al. Botulinum toxin for the upper limb after stroke (BoTULS): a multicentre randomised trial. Health Technol Assess. 2010;14(26).
  • 9) Morris S. Ashworth and Tardieu Scales: Their clinical relevance for measuring spasticity in adult and paediatric neurological populations. Physical Therapy Reviews. 2002;7(1):53-62.
  • 10) SRAlab Rehabilitation Measures Database. Ashworth Scale / Modified Ashworth Scale. sralab.org
  • 11) 【修正済み】Zurawski E, Behm K, Dunlap C, et al. Interrater Reliability of the Modified Ashworth Scale with Standardized Movement Speeds: A Pilot Study. Physiother Can. 2019;71(4):348-354. PMC6855344. ※元記事で「Smith et al. (2002)」と誤って帰属されていた文献。正しい著者・年はZurawski et al. (2019)。
  • 12) Gal O, Baude M, Deltombe T, et al. Clinical Outcome Assessments for Spasticity: Review, Critique, and Recommendations. Mov Disord. 2025;40(1):22-43. PMC11752990.
  • 13) Craven BC, Morris AR. Modified Ashworth scale reliability for measurement of lower extremity spasticity among patients with SCI. Spinal Cord. 2010;48(3):207-213.
  • 14) Akpinar P, Atici A, Ozkan FU, et al. Reliability of the Modified Ashworth Scale and Modified Tardieu Scale in patients with spinal cord injuries. Spinal Cord. 2017;55(10):944-949.
  • 15) Jethwa A, Mink J, Macarthur C, et al. Development of the Hypertonia Assessment Tool (HAT): a discriminative tool for hypertonia in children. Dev Med Child Neurol. 2010;52(5):e83-e87.
  • 16) StatPearls. Modified Ashworth Scale. Updated April 4, 2025. NCBI Bookshelf. NBK554572

MASで「どの筋がどれくらい固まっているか」を特定したら、
次は「どう変えるか」です。

MAS × Tardieu Scale の鑑別分析から、ボツリヌス療法・装具・集中リハビリの最適な組み合わせを設計します。
痙縮が機能回復の壁になっている方に、STROKE LABでは評価から介入まで一貫して対応しています。

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