【2026年版】多裂筋の起始・停止、作用からトレーニングの方法、腰痛予防・コアスタビリティまで解説 – STROKE LAB 東京/大阪 自費リハビリ | 脳卒中/神経系
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【2026年版】多裂筋の起始・停止、作用からトレーニングの方法、腰痛予防・コアスタビリティまで解説

今回は、脊柱の安定化において世界的に注目されている多裂筋(Multifidus)について、解剖学的な位置・起始停止・神経支配から、深層・浅層の機能差・腹横筋との協調メカニズム・腰痛エビデンス・脳卒中患者への影響・超音波評価・段階的エクササイズプロトコルまで徹底解説します。「多裂筋と腹横筋の連携メカニズムは?」「深層と浅層でなぜ役割が異なるのか?」「脳卒中後にどう変化するのか?」「エクササイズの正しい順序は?」という臨床現場のリアルな疑問にも根拠を示しながら答えます。

STROKE LAB:片麻痺患者の体幹機能安定化の実際

多裂筋(Multifidus)は、脊柱の深部に位置する横突棘筋群の中で最も太く、脊椎安定化において最も重要な役割を担う固有背筋です。仙骨から頸椎まで脊柱全長にわたって存在し、腰部で最も発達します。両側収縮で脊椎伸展、片側収縮で対側への椎骨回転を生み出しますが、本質的な役割は「運動中の椎骨の安定」にあります。腹横筋・骨盤底筋と協調して「局所安定システム(Local Stabilization System)」を形成し、腰痛・脊椎疾患のリハビリで中心的役割を担います。慢性腰痛患者では脂肪浸潤を伴う萎縮がMRI・超音波で確認されており、特異的な多裂筋再教育プログラムが腰痛の再発率を有意に低下させることが複数のRCTで示されています(Hides et al. 1996, 2001)。

📊 多裂筋:臨床家が必ず押さえるべき事実とエビデンス

  • 分類:深部固有背筋>横突棘筋群(半棘筋・多裂筋・回旋筋)の中間層。横突棘筋群の中で最も太い
  • 走行:各椎骨の横突起から2〜4椎骨(最大5椎骨)上方の棘突起へ斜走。腰部が最も発達
  • 起始:仙骨後面・後上腸骨棘(PSIS)・脊柱起立筋膜・仙腸関節靱帯・腰椎乳頭突起・T1〜3横突起・C4〜C7関節突起
  • 停止:C1(環椎)を除くすべての椎骨の棘突起
  • 神経支配:脊髄神経後枝内側枝(各椎骨レベル)。セグメント的に高度に分化
  • 深層と浅層の機能差:深層(2椎骨間)=椎骨間圧縮固定・固有感覚|浅層(3〜4椎骨間)=伸展・回旋の動力。深層のほうが遅筋線維(TypeⅠ)比率が高く疲労耐性に優れる(Ward et al. 2009)
  • 腹横筋との協調:胸腰筋膜を介して機械的連結。健常者では四肢運動の約30ms前に先行収縮(APA)。慢性腰痛患者ではこのAPAが有意に遅延・消失する(Hodges & Richardson, 1996)
  • 腰痛エビデンス(修正済):急性腰痛後の多裂筋萎縮は自然回復しない(Hides et al. 1994)。特異的再教育で1年後再発率は約30%(通常治療群は約83%)に低下(Hides et al. 1996)
  • 脳卒中後の変化:麻痺側多裂筋の筋萎縮・左右非対称性が報告。骨盤後傾による姿勢変化が多裂筋の有効な作用を妨げる可能性がある(臨床的知見:エビデンスレベルは限定的)
  • 超音波評価:リアルタイム超音波(RUSI)で安静時・収縮時の筋厚を計測可能。L4/5レベルで約0.5〜1.5cm(個人差あり)。収縮時の増加率が多裂筋の活性化指標として使用される
  • エクササイズの原則:深層単独収縮(Stage1)→腹横筋との共収縮(Stage2)→表層との協調(Stage3)→日常動作への統合(Stage4)の4段階。深層ファースト・低負荷・質優先

多裂筋とは ― 位置・構造・横突棘筋群での役割

多裂筋は、脊柱の両側の傍脊柱溝(横突起と棘突起の間の溝)を埋めるように走行する小さな三角形の筋と腱の束の集合体です。名前の通り「多く(multi)裂けた(fid)」形状を持ち、複数の筋束が積み重なる羽状構造を示します。

🦴 多裂筋の解剖学的位置づけ

筋群の分類 深部固有背筋 → 横突棘筋群
半棘筋(表)→ 多裂筋(中)→ 回旋筋(深)
走行の特徴 横突起 → 2〜4椎骨上方の棘突起へ斜走。上方・内側方向。腰部では多層の筋束が重なる
最も発達する部位 腰部(L1〜S1)。仙骨起始部が特に太く、腰椎の360°安定化に最大貢献
隣接する重要構造 表層:脊柱起立筋(最長筋・腸肋筋)
内側:椎弓・椎間関節
筋膜:胸腰筋膜(腹横筋と連結)

横突棘筋群の3筋の比較

半棘筋(Semispinalis)
走行:4〜6椎骨上の棘突起に停止。頸部・胸部に発達。最も長い走行
最表層
多裂筋(Multifidus)← 今回の主役
走行:2〜4椎骨上に停止。腰部で最大発達。横突棘筋群中で最も太い
中間層
回旋筋(Rotatores)
走行:1〜2椎骨上に停止。最も短い。主に固有感覚受容として機能するとされる
最深層

💡 多裂筋が横突棘筋群の中で「最も重要」な臨床的理由

多裂筋は横突棘筋群の中で最も横断面積が大きく(最も太い)、腰部での発達も突出しています。回旋筋より長く半棘筋より短い中間走行は、「遠くから引く」大きなモーメントアームを持ちながら、椎骨に近い位置で安定化力を発揮できる最適な力学条件を生み出します。

また、深層線維が遅筋線維(タイプⅠ)を多く含むことから、直立・歩行・座位といった抗重力活動において継続的に活動できる疲労耐性を持ちます(Ward et al. 2009)。これが「多裂筋はすべての抗重力活動で持続的に活動する」という臨床的観察を支持しています。

多裂筋の解剖図(VISIBLE BODY)

多裂筋の走行(図引用:VISIBLE BODY)。腰部に最も太い線維束が集中していることがわかる。

起始・停止・神経支配の詳細

項目 詳細
起始(Origin) ① 仙骨後面(S1〜S4)
② 後上腸骨棘(PSIS)
③ 脊柱起立筋膜(腰部後面)
④ 仙腸関節靱帯(後仙腸靱帯)
⑤ 腰椎乳頭突起(L1〜L5)
⑥ 胸椎横突起(T1〜T3)
⑦ 頸椎関節突起(C4〜C7)
停止(Insertion) 2〜4椎骨(最大5椎骨)上方の棘突起。C1(環椎)を除くすべての椎骨の棘突起に停止
走行方向 横突起から上方・内側へ斜走。傍脊柱溝(横突起〜棘突起間の溝)を走行
神経支配 脊髄神経後枝内側枝(Medial Branch of Posterior Primary Ramus)
各椎骨レベルで高度にセグメント化。L1〜S3の内側枝がそれぞれのレベルを支配。L5神経根は後枝の内側枝・外側枝両方を介して多裂筋に関与する
血液供給 内側後椎骨動脈(Medial posterior vertebral arteries)・腰動脈背枝
筋腹の構造 複数の筋腹が重なった羽状(pennate)構造。深層は短い筋束(2椎骨間)、浅層は長い筋束(3〜4椎骨間)が積み重なる。腰部では5〜6層の筋束が重なる
胸腰筋膜との関係 胸腰筋膜(Thoracolumbar fascia:TLF)を介して腹横筋・腹内斜筋と機械的に連結。この連結が多裂筋と腹部筋の協調収縮を可能にする重要な解剖学的基盤

🔑 神経支配の臨床的意義 ― 内側枝との関係

多裂筋を支配する脊髄神経後枝内側枝は、腰椎後関節(ファセット関節)の感覚神経も同じルートを共有しています。後関節由来の腰痛に対する内側枝ブロック(Medial Branch Block:MBB)では、ブロック薬液が多裂筋の運動枝に影響を及ぼし、一過性の多裂筋活動低下が生じる可能性があります(介入後の体幹安定性の一時的低下に注意が必要です)。

また椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症による神経根障害では、当該レベルの多裂筋に神経原性変化(筋電図上の脱神経所見・萎縮)が生じることがあります。これは「疼痛による廃用性萎縮」とは発生機序が異なり、神経圧迫の解除なしに筋力回復が困難なケースも存在します。MRI・神経伝導検査との総合評価が重要です。

作用と機能 ― 深層・浅層の違いと安定化メカニズム

多裂筋の基本的な作用(3つの役割)

両側収縮 伸展 脊椎伸展
体幹後屈の補助
片側収縮 対側回旋 右多裂筋収縮
→左回旋方向
持続的活動 椎骨安定 直立・歩行・動作中の
椎骨間固定
体幹回旋時、腹斜筋の収縮は回旋力と同時に「屈曲力」も生み出します。多裂筋はこの屈曲方向への力に拮抗することで「純粋な軸回転(Pure Axial Rotation)」を維持するスタビライザーとして機能します。多裂筋の活動なしには、回旋動作が「曲がりながら回る」不安定なパターンになります。

深層 vs 浅層:走行の違いが機能の違いを生む

🔵 深層多裂筋(Deep Multifidus)

走行:2椎骨間のみにまたがる短い筋束(「エクスカーション」が短い)。

機能:収縮時の筋長変化が小さいため、大きな伸展力よりも隣接椎骨を圧縮固定する安定化力を発揮。椎骨間の微細な位置変化(セグメンタル・モーション)を感知する固有感覚受容器としても機能し、脊椎位置情報を脊髄・脳にリアルタイムでフィードバックする。

線維タイプ:遅筋線維(タイプⅠ)の比率が高く、低強度で持続的な活動が可能(Ward et al. 2009)。

臨床的意義:腰痛後に最初に萎縮し、自然回復しにくい層。リハビリの最優先ターゲット。

🔴 浅層多裂筋(Superficial Multifidus)

走行:3〜4椎骨間にまたがる長い筋束。

機能:より大きな筋長変化が生じるため、脊椎伸展・回旋の動力として機能。脊柱起立筋(最長筋・腸肋筋)と協調して体幹後屈・側屈・回旋を支援。表層は大きな筋力を発揮できる。

線維タイプ:深層より速筋線維(タイプⅡ)の比率が高く、瞬発的な力発揮にも対応。

臨床的意義:深層が安定化の基盤を確保した後に、浅層を強化することで動的な脊柱安定性が向上する。バックエクステンション・デッドリフト類で主に動員される。

📊 深層 vs 浅層の機能比較

椎骨間固定(深層)

深層 ◎◎

椎骨間固定(浅層)

浅層 △

脊椎伸展力(深層)

深層 △

脊椎伸展力(浅層)

浅層 ◎◎

固有感覚フィードバック(深層)

深層 ◎◎

疲労耐性(深層)

深層 ◎

腰痛後に萎縮(深層)

深層 ⚠️ 高リスク

Ward et al. 2009(J Bone Joint Surg Am)の筋線維組成分析をもとに作成。比率は相対的なもので絶対値ではない。

腹横筋・骨盤底筋との協調と脊椎安定化メカニズム

🔗 胸腰筋膜(TLF)を介した機械的連結

多裂筋は胸腰筋膜(Thoracolumbar Fascia:TLF)の後葉と密接に関係し、TLFの中葉・前葉を介して腹横筋・腹内斜筋と機械的に連結しています。腹横筋が収縮するとTLFの張力が増加し、腰椎後面からの圧縮力が増大します。同時に多裂筋が収縮することで腰椎の前方引き込み力が加わり、腰椎を三次元的に安定化します(Barker et al. 2014)。

この連結の臨床的意義:腹横筋のDrawing-in(腹部引き込み)を行うと、TLFを介して多裂筋も同時に活性化しやすくなることが確認されています。逆に、多裂筋の等尺性収縮を促すと腹横筋のEMG活動も増加します。このため「どちらか片方だけを使う」という戦略よりも「両方の同時活性化(共収縮)」を狙うアプローチがより効果的です。

予測的姿勢調節(APA)のメカニズム

APA

フィードフォワード制御:四肢運動より早く脊椎を安定させる仕組み

提唱者・根拠Hodges & Richardson(1996, 1997, Spine)の古典的研究
対象筋腹横筋・多裂筋・骨盤底筋が「先行する筋群」として同定されている
健常者での計測上肢挙上開始の約30ms前に腹横筋・多裂筋が収縮開始
腰痛患者ではAPAが有意に遅延または消失。動作開始後にようやく収縮し始める反応的パターンへ変化
🔬 Hodges & Richardson 1996 の研究概要(正確な数値)
研究デザイン:表面EMG・ファインワイヤーEMGを用いたクロスセクショナル研究
測定課題:立位での突発的な上肢屈曲・伸展・外転課題
健常者:腹横筋は上肢筋(三角筋等)よりも平均30±23ms早く活動開始。多裂筋も同様に早期活動
腰痛患者:腹横筋のAPA遅延が有意(p<0.01)。多裂筋の先行収縮パターンも乱れる
臨床的含意:慢性腰痛の原因の一つは「先制的脊椎安定化の失敗」にあることを示した

⚠️ APAに関してよくある誤解

APAの「30ms早い」は腹横筋に関するデータです。多裂筋の先行収縮タイミングも同様の傾向を示しますが、四肢の動く方向・課題・測定部位によって数値は変動します。「30ms」という数字を多裂筋に直接適用して引用することは不正確です。また、APAは運動技能や練習によって変化するため、腰痛患者での「消失」は可逆的なニューロモーター変化として、適切なトレーニングで回復が見込めることが示されています(Tsao & Hodges, 2008)。

🔵 骨盤底筋との三者連携

多裂筋・腹横筋に加えて骨盤底筋(恥骨尾骨筋・腸骨尾骨筋)も局所安定システムの構成員です。骨盤底筋の収縮が腹横筋・多裂筋の活性化を促す神経反射ループが存在し(Lee & Hodges, 2016)、「骨盤底を締める(ケーゲル運動的な感覚)」というキューイングが多裂筋の誘導に有効なことがあります。

→ 産後腰痛・骨盤底機能不全を合併する場合、骨盤底筋の回復が多裂筋機能回復の前提条件となることもあります。

🔴 仙腸関節安定化への寄与

多裂筋の仙骨起始部は仙腸関節(SIJ)の後面を直接覆い、Force Closure(圧縮による関節安定化)に貢献します(Vleeming et al. 2012)。腹横筋・多裂筋の同時収縮によってSIJへの圧縮力が増大し、関節面のせん断力が減少します。

→ 仙腸関節障害・産後SIJ不安定症のリハビリでは、多裂筋の特に仙骨部線維の活性化が重要な介入目標となります。

多裂筋と椎間板 ― セグメント安定化の力学的メカニズム

🦴 多裂筋が椎間板を守る仕組み

椎間板(Intervertebral Disc:IVD)は脊椎の各椎骨間に位置する線維軟骨性クッションであり、衝撃吸収・脊椎運動の軸となります。椎間板の健康維持には適切な圧縮負荷と、過度なせん断力・回旋力の回避が重要です。

多裂筋(特に深層)は椎骨を圧縮方向に固定することで、椎間板へのせん断力(前後・左右方向のずれる力)を減少させます。逆に多裂筋が機能不全に陥ると、椎骨間の微細な前後動・回旋が増加し、椎間板の線維輪(Annulus Fibrosus)に繰り返しの機械的ストレスが加わります。これが椎間板変性・ヘルニアの一因となると考えられています(Panjabi, 1992)。

また、Wilke et al.(1995)は体幹筋群の収縮が椎間板内圧に影響することを示し、多裂筋・腹横筋の適切な共収縮は椎間板への均等な圧縮負荷を実現することを報告しています。「強い腹圧をかける」だけでは椎間板内圧が過剰に上昇するリスクがある一方、多裂筋との協調収縮では適切な圧縮パターンが生まれることが示されています。

状態 椎間板へのせん断力 椎間板内圧のバランス 長期的リスク
多裂筋が正常に機能 低い(圧縮固定) 均等な圧縮 低い
多裂筋が機能不全・萎縮 高い(せん断力増大) 不均等な圧縮・偏荷重 変性・ヘルニアのリスク上昇
過剰な腹圧(Valsalva的)単独 中程度 過剰な内圧上昇 前方ヘルニア・椎間板変性リスク
多裂筋+腹横筋の協調収縮 低い 最も均等で適切 最も低い

腰痛エビデンス ― 萎縮・脂肪浸潤・介入効果の科学的根拠

⚠️ ハレーション修正:よく引用される数値の正確な解釈

「多裂筋の再教育で再発率が39%から30%に下がった」という記述が一部の記事・研究紹介で見られますが、Hides et al.(1996)の正確な結果は次の通りです:

特異的運動群(多裂筋再教育):1年後の再発率 約30%(12ヶ月フォローアップ)
通常治療群(医師のマネジメントのみ):1年後の再発率 約83%
→ 再発率の絶対差は約53ポイント(相対リスク減少は約64%)。「39%→30%」という表記は誤りです。

また「3年後フォローアップ(Hides et al. 2001)」では特異的運動群の再発率はより低く維持されており、長期的な予防効果が確認されています。

エビデンス Level Ib(RCT)

急性腰痛後の多裂筋萎縮は自然には回復しない(Hides et al. 1994, 1996)

Hides et al.(1994, Spine)は超音波画像を用いて急性腰痛患者(n=26)の多裂筋を評価し、症状消失後も患側の多裂筋に萎縮が持続することを示しました。その後のRCT(Hides et al. 1996, Spine)では、急性腰痛後に特異的な多裂筋再教育を行ったグループと通常治療(医師のマネジメント)グループを比較。1年後フォローアップでの再発率は特異的運動群:約30%、通常治療群:約83%と大きな差が確認されました(p<0.001)。この研究が「多裂筋を特異的に訓練することの重要性」を臨床に広めた礎となっています。

エビデンス Level Ib(RCT)

特異的エクササイズ vs 一般的エクササイズ(Hides et al. 2001)

Hides et al.(2001, Spine)の3年間フォローアップ研究では、特異的コアスタビライゼーション(多裂筋・腹横筋再教育)と一般的な運動療法を比較。特異的訓練群では3年後の腰痛再発率が有意に低く(p<0.02)、多裂筋の筋厚回復も確認されました。この研究は、短期的な症状改善だけでなく長期的な腰痛予防効果において特異的多裂筋訓練の優位性を示した重要なエビデンスです。

エビデンス Level II(コホート研究)

慢性腰痛における脂肪浸潤を伴う多裂筋萎縮(Hides et al. 2008, 2011)

慢性腰痛患者のMRI分析では、患側の多裂筋に脂肪組織の浸潤(Fat Infiltration)を伴う筋萎縮が確認されています。脂肪浸潤が進行すると収縮性組織が失われ、コアスタビライゼーション訓練だけでは回復が困難になります。このため急性期の早期介入(発症直後からの多裂筋再教育開始)が脂肪浸潤の進行防止に重要です。特にプロスポーツ選手・高齢者・脳卒中患者での脂肪浸潤リスクが高いことが報告されています。

腰痛の種類 多裂筋の特徴的変化 推奨アプローチ(根拠レベル)
急性〜亜急性腰痛(発症〜12週)
急性腰痛(非特異的) 患側多裂筋のIPSILATERAL萎縮。APAの遅延・消失 発症直後から深層多裂筋再教育(Hides 1996:Level Ib)
急性腰痛+仙腸関節障害 仙骨部多裂筋(S1〜3起始)の活動低下・非対称性 SIJ安定化エクササイズ+多裂筋の対称的活性化(Level IV)
慢性腰痛(12週以上)
慢性非特異的腰痛 両側多裂筋の萎縮・脂肪浸潤・APAパターンの慢性的乱れ 段階的コアスタビライゼーション(4段階)(Level Ib)
腰椎変性すべり症 L4/5多裂筋の著明萎縮。筋線維のタイプⅡへの移行傾向 保存療法として低負荷持久的コアトレ(手術後は術後早期から開始:Level III)
腰椎椎間板ヘルニア(神経根症状) 障害レベルの神経原性変化・EMG活動低下 急性期は鎮痛優先。症状軽減後に低負荷から段階的に開始(Level IV)
脊柱管狭窄症 複数レベルの多裂筋萎縮・脂肪浸潤(高齢者では進行しやすい) 間欠的跛行の管理+コアスタビライゼーション(Level III)

超音波を用いた多裂筋評価(RUSI)

🔍 リアルタイム超音波(RUSI)による多裂筋の客観的評価

多裂筋は深部走行のため視覚的確認ができませんが、リアルタイム超音波画像診断(Real-time Ultrasound Imaging:RUSI)を使えば、多裂筋の形態(筋厚・断面積)・収縮時の変化をベッドサイドで非侵襲的に評価・可視化できます。触診と違いセラピストの技術依存度が低く、患者へのリアルタイムのバイオフィードバックとしても機能します。

測定方法(腰部):腹臥位または座位。L4/5棘突起レベルの外側2〜3cmにプローブを横断方向に当てる。安静時と等尺性収縮時(腹部引き込み・骨盤底収縮等の指示後)の筋厚(Thickness)を計測する。

正常参考値(L4/5レベル):安静時の筋厚は約0.5〜1.5cm(性別・体格・年齢・腰痛歴によって大きく異なる)。収縮時の増加率(%Change)が活性化指標として使用される。

腰痛患者での所見:患側の安静時筋厚の低下、収縮時の筋厚増加率の減少、左右非対称性の増大(健側比10〜20%以上の非対称が臨床的サインとされることが多い)。

バイオフィードバックとしての活用:患者がモニターで自分の多裂筋収縮をリアルタイムで確認できるため、「深層を使っている感覚がわからない」段階での学習に有効。Teyhen et al.(2005)は、RUSIバイオフィードバックが腹横筋・多裂筋の収縮学習を促進することを示しています。

👆 触診による多裂筋収縮の確認方法

超音波がない環境でも、以下の触診で多裂筋収縮を評価できます:

手順:① 患者を腹臥位または座位にする ② L4〜L5棘突起を触知し、その外側1〜2cmに2〜3本の指先を置く(浅いプレッシャーで) ③「腰の奥の深いところを優しく引き締めてください(腹部・臀部は動かさずに)」と指示 ④ 指先に「firmness(硬さ・張り)の微細な変化」を感じれば収縮が確認できる

注意点:「腰を反らせる」「お腹に力を入れる」という指示では表層筋の代償が生じやすく、深層多裂筋の単独収縮を確認できません。また脊柱起立筋との鑑別のため、同側の棘突起外側1cmと3cmの双方で触診を行い、より深部(外側3cmよりは内側)での硬さ変化を確認します。

脳卒中患者における多裂筋の変化と介入

🧠

脳卒中後の多裂筋:3つの変化メカニズムと臨床的影響

主な変化麻痺側多裂筋の萎縮・活動低下・左右非対称性
エビデンスレベル萎縮・非対称性はLevel III(観察研究)。姿勢変化との関係は臨床的知見(Level V)
臨床的影響体幹制御障害・座位安定性低下・歩行時体幹動摇・転倒リスク上昇
上位運動ニューロン障害による脊髄運動ニューロン活動変化

脳卒中による上位運動ニューロン障害は、脊髄の体幹・四肢の運動ニューロンに影響を与えます。麻痺側の多裂筋(脊髄神経後枝支配)でも運動ニューロンの活動パターンが変化し、EMG活動量の低下・タイミングのずれが生じます。体幹は「両側性脊髄支配を受ける」とされますが、特に腰部での非対称性は多施設の観察研究(Dickstein et al. 2004など)で報告されています。

廃用・不動による萎縮と脂肪浸潤

麻痺・痙縮・長期臥床・車椅子生活により多裂筋の活動機会が低下すると、慢性腰痛患者と同様の廃用性萎縮・脂肪浸潤が進行するリスクがあります。早期離床・早期体幹訓練の開始が萎縮の防止に重要であるという臨床的コンセンサスがあります(エビデンスレベルは脳卒中特異的な研究が少なく現時点ではLevelIV程度)。

骨盤後傾・腰椎後弯による多裂筋の機能的変容(臨床的仮説)

車椅子での長期座位では骨盤が後傾し腰椎後弯が強くなります。本来、多裂筋は横突起(起始)から棘突起(停止)へ上方斜走することで腰椎伸展・椎骨安定化に作用します。しかし骨盤後傾・腰椎後弯が著明な場合、起始停止の位置関係の変化により多裂筋が有効な伸展力を発揮しにくくなる可能性があります。

⚠️ 注記:この「骨盤後傾で多裂筋が屈曲方向に作用する」という仮説はSTROKE LABの臨床的知見(Level V)に基づくものです。ヒト体内での多裂筋の起始停止関係がどの程度の骨盤後傾で有意に変化するかを直接計測したRCTは現時点では存在せず、力学モデル的な推論であることを理解した上で参考にしてください。

✅ 脳卒中リハビリへの実践的推奨(エビデンス+臨床的コンセンサス)
① 急性期から「骨盤中間位・腰椎ニュートラル」を維持するポジショニングを徹底する(エビデンスレベル:IV)
② 覚醒・全身状態が安定したら早期に座位・立位訓練を開始し、多裂筋を含む体幹筋の廃用を防ぐ(Level IV)
③ 体幹等尺性収縮訓練(多裂筋・腹横筋の共収縮)を早期から組み込む(Level IV)
④ 体幹安定性が向上することで上下肢の随意運動・歩行・ADLが改善するという「体幹ファースト」の考え方は、複数の観察研究・臨床試験で支持されている(Level III)
脳卒中動作分析と体幹

出典:金子唯史「脳卒中の動作分析」医学書院。体幹の安定化が上下肢の動作質に与える影響を示している。

段階的エクササイズプログラム ― 4段階プロトコル

Stage 1
深層単独
再教育
Stage 2
腹横筋との
共収縮
Stage 3
表層との
協調・負荷増加
Stage 4
日常動作への
統合

各Stageは段階を守って進む。次のStageへは「現Stageが確実に実施できてから」が原則。Richardson et al. 1999 のアプローチを参考に改変。

📋 なぜ「深層ファースト」なのか ― 段階的プロトコルの根拠

腰痛後・脳卒中後・廃用後において、深層多裂筋の自然回復はほとんど起こらないことがHidesらの研究で明らかになっています。この状態で高負荷のエクササイズ(プランク・デッドリフト等)から始めると、深層は活性化されず表層の脊柱起立筋・腹直筋が代償するパターンが強化されます。深層が適切に機能しないままの高負荷訓練は、椎間板への不均等な荷重を生み出すリスクもあります。

段階的プロトコルの核心は「深層の選択的再活性化→共収縮の学習→負荷の段階的増加→日常への自動化」という神経筋制御の再学習プロセスにあります。

Stage 1:深層多裂筋の選択的再教育

🛏️

dMF(Deep Motor Fiber)リクルートメント訓練 ― 背臥位・側臥位

開始肢位:背臥位または側臥位。腰椎ニュートラルポジション(椎骨と床の間に手がわずかに入る程度のカーブ)。膝は軽度屈曲。

  • 1
    左右の仙腸関節(SIJ)を結ぶ水平線をイメージし、「この線に沿って左右を引き合わせる」感覚を持つ
  • 2
    股間(恥骨の裏側)と活性化したい腰の多裂筋を結ぶ対角線をイメージする
  • 3
    息を吸い、吐くタイミングで「腰の深いところを1mm優しく引き上げる」感覚で深層収縮を試みる。骨盤・脊椎は動かさない
  • 4
    腹部を膨らませない、臀部を締めない、息を止めないことを確認する
  • 5
    セラピストはL4/5棘突起外側1〜2cmに指を置いて収縮時の硬さ変化を確認(RUSIがあれば同時に可視化)
  • 6
    3〜5秒間収縮を保持 → 解放 → これを10回繰り返す。1回のセッションで2〜3セット。1日2〜3回程度を目安に継続する
【キューイングのバリエーション(効果的だった報告例)】
・「腰の奥の小さな筋に、弱い電流を流すイメージで」
・「骨盤底を軽く締める感覚と同時に腰の奥も締める」(骨盤底筋との連携を利用)
・「ズボンのウエストを締めるベルトが腰の奥から引っ張られる感覚」
→ 患者によって響くキューイングが異なります。RUSIで視覚的フィードバックを与えながら最も効果的なキューを探すことが推奨されます。

⚠️ Stage 1で避けるべき代償パターン

① 腰を「反らせて」収縮させる(脊柱起立筋の代償)
② 腹部を「凹ませる・膨らませる」だけで終わる(腹横筋単独になりやすい)
③ 臀部・股関節筋を締める(骨盤位置が変わり多裂筋の収縮条件が変わる)
④ 息を止めてバルサルバ様になる(椎間板内圧が過剰上昇)

Stage 2:腹横筋との共収縮(側臥位クラムシェル)

🔄

側臥位クラムシェル ― TrA連携版

開始肢位:側臥位。股関節・膝関節を45°程度屈曲。骨盤中間位・腰椎ニュートラルを維持。

  • 1
    Stage 1の「dMF収縮感覚」を維持しながら、腹横筋も「おへそを軽く引き込む(Drawing-in)」感覚で同時に活性化する
  • 2
    足首をそろえたまま上の膝を上げる(クラムシェル)。TrA・多裂筋の共収縮を保ちながら、息を止めずにコントロールできる高さまで
  • 3
    内ももが外側を向く感覚(股関節外旋を意識)。骨盤が後傾・回旋しないよう注意
  • 4
    ゆっくり膝を戻す。共収縮を維持したまま次の反復へ。左右各10回×2セット
  • 5
    余裕があれば「膝を上げた状態で足首も上げる」動作を追加(難易度アップ)

Stage 3:背臥位での下肢負荷増加(段階的)

⬆️

背臥位ニーリフト → レッグエクステンション → デッドバグ

開始肢位:背臥位。両膝立て。腰椎ニュートラル(手が床との隙間にわずかに入る程度)。TrA・多裂筋を先行収縮させてから各動作を開始する。

  • 1
    Hip Rotation(膝の横移動):腰・骨盤を水平に保ちながら、片膝をゆっくり横(外側)へ移動させる → 中央に戻す。左右各10回。腰のクリック感・痛みが出ないことを確認
  • 2
    Knee Lift(ニーリフト):膝を曲げたまま片足を床から少し離す。下腹部を膨らませない・息を止めない・腰椎ニュートラルを崩さない。左右各10回
  • 3
    Leg Extension(レッグエクステンション):ニーリフト状態から、コアが維持できる範囲でゆっくり膝を伸ばす。伸ばしきれなくても構わない。腰が反らない範囲で実施。左右各10回
  • 4
    Dead Bug(デッドバグ):両足を浮かせ、右足を伸ばしながら左手を頭上へ伸ばす。交互に行う(対側の上下肢を同時に動かす)。腰椎ニュートラルの維持が最優先
✅ 各エクササイズの進め方の目安:各動作で「10回を腰椎ニュートラルを保ちながらスムーズにできる」ようになってから次の難易度へ進む。時間的な目安(10秒保持×10回等)よりも「代償なく正しく実施できること」を優先する。代償が生じる前に止めて繰り返す「量より質」の原則を徹底すること。

Stage 4:機能的動作への統合

💡 Stage 4の目標 ― 「動作前にコアが自動的に働く」状態を目指す

コアスタビライゼーションの最終目標は、「意識しなくても動作前にAPAが正常に起動する」という神経筋制御パターンの再学習です。これはStage 1〜3の訓練を繰り返すことで脳・脊髄が新しい運動プログラムを学習することで達成されます(Tsao & Hodges, 2008)。

椅子からの立ち上がり:立ち上がり開始前に「腰の奥を意識」してから前傾・立ち上がりを行う。「コアファースト(Core First)」の原則。

物を拾う・持ち上げる:腰を落として膝を曲げる前にコアを先に活性化する。腰椎ニュートラルを維持しながら股関節主導で持ち上げる。

歩行:最初の1歩を踏み出す前に軽くコアを意識する。片足支持相で多裂筋が腰椎を動的に安定させる役割を再強化する。

脳卒中患者への応用:立ち上がり・移乗・歩行前の「プレ活性化キュー」をセラピストが言語的・触覚的に提供することで、APAパターンの再学習を支援できる可能性があります(Level IV)。

STROKE LABによる片麻痺患者への体幹安定化アプローチの実際

よくある質問(FAQ)

多裂筋は触診できますか?どこを触ればいいですか?
触診は可能ですが、深部走行のため「直接触れる」というよりも「収縮時の変化を感じ取る」触診になります。

腰部多裂筋の触診手順:
① 患者を腹臥位または座位(腰椎ニュートラル)にする
② L4〜L5棘突起を触知し、その外側1〜2cmに2〜3本の指先を軽い圧力で置く
③「腰の奥を優しく締める」「骨盤底を軽く引き締める」と指示する
④ 指先に「わずかな硬さ・張りの変化」を感じれば収縮確認

落とし穴:表層の脊柱起立筋の収縮(腰を反らせる動作)でも指先に硬さを感じますが、これは深層多裂筋ではありません。「腰椎は動かさずに」という条件下での変化を確認します。RUSIがある環境では触診と併用することで精度が格段に向上します。

多裂筋と脊柱起立筋はどう違うのですか?
「背中の筋肉」という点では共通ですが、役割・位置・訓練方法が大きく異なります。

多裂筋:深部固有背筋。椎骨間の微細な安定化・固有感覚が主な役割。低負荷で持続的に活動(遅筋線維主体)。腰痛後に最初に萎縮する。特異的な低負荷等尺性収縮で再教育する。

脊柱起立筋(最長筋・腸肋筋等):表層の大きな動力筋。体幹伸展・側屈の大きな力を発揮。高負荷でも動員される(速筋線維も多い)。バックエクステンション・デッドリフト等で鍛えられる。

臨床的重要ポイント:腰痛リハビリでは「まず多裂筋(深層)を再教育し、その後に脊柱起立筋(表層)を強化する」順序が推奨されます。逆の順序(高負荷から始める)では表層のみが強化され、深層の機能不全が残ったままになりやすいことが示されています。

プランクやバードドッグでは多裂筋を鍛えられませんか?
プランク・バードドッグ・デッドバグなどでも多裂筋はある程度活動しますが、「深層多裂筋を選択的に活性化する」という目的には不十分なことが多いです。

これらの高負荷エクササイズでは、表層の脊柱起立筋・腹直筋・腹斜筋が優先的に動員され、深層多裂筋は表層の陰に隠れてしまいます。特に腰痛既往者や脳卒中後患者では、深層が「お休み中」のまま表層の代償が優先されるパターンが定着していることがあります。

推奨する順序:
① Stage 1(dMF再教育)で深層の収縮感覚を学習する(2〜4週間)
② Stage 2・3で共収縮・負荷増加を段階的に行う
③ その後にプランク・バードドッグへ移行する

この順序を経てプランクを行うと、深層が適切に活動した状態でのプランクになります。深層の準備なしに始めると「表層で姿勢を保つ」パターンのみが強化されます。

脳卒中後の患者でも多裂筋のエクササイズはできますか?
可能です。ただし脳卒中後は運動麻痺・感覚障害・注意障害・認知機能低下が合併するため、標準的な指示が届きにくいケースがあります。

工夫のポイント:
① 言語指示が難しい場合は触覚キューイング(腰部への軽い接触誘導)を優先する
② RUSIが使える環境では、患者にモニターを見せながら視覚的フィードバックを提供する
③「骨盤を締める」「おへそを引き込む」など、患者が理解しやすい言葉に置き換える
④ まず座位ポジショニング(骨盤中間位・腰椎ニュートラルの維持)から開始し、その姿勢を「保持する練習」をStage 1として行う
⑤ 非麻痺側から対称的な収縮を誘導し、麻痺側への波及を促す

体幹の安定性改善は上下肢随意運動・バランス・歩行機能に直接好影響を与えるため、脳卒中リハビリの早期(覚醒・全身状態が安定し次第)から体幹アプローチを組み込むことが推奨されています。

多裂筋トレーニングはどのくらいの期間続けるべきですか?
Hides et al.(1996)のプロトコルでは、急性腰痛後の特異的多裂筋再教育を4週間のプログラム(週数回の理学療法士指導+自宅練習)で行い、1年後・3年後の再発率低下が示されました。ただしこの「4週間」はプログラムの最低期間であり、その後もStage 4(日常動作への統合)として継続することが長期的な腰痛予防に重要です。

実践的な目安:
・Stage 1(深層再教育):2〜4週間(収縮感覚を確実に習得するまで)
・Stage 2〜3(共収縮・負荷増加):4〜8週間
・Stage 4(日常統合):生涯継続(意識しなくなるまで繰り返す)

「症状が改善したらやめていい」という発想ではなく、「日常動作の前にコアが自動的に活動する習慣」になるまで継続することが最終目標です。Hides et al.(2001)の3年後フォローアップでも、継続的に訓練を続けたグループは再発率が低く維持されていました。

研究者・上級臨床家向け:多裂筋研究の限界と今後の課題

方法論的な限界:
現在の多裂筋研究の多くはHidesら・Hodgesらのグループによるものであり、独立した追試・大規模RCTが限られています。また「特異的コアスタビライゼーション vs 一般的運動療法」の比較研究では、対照群の内容・評価者盲検化・フォローアップ期間のばらつきが大きく、効果量の推定が難しい状況です(Macedo et al. 2009のシステマティックレビュー)。

APAの解釈に関する注意:
Hodges & Richardson(1996)のAPA研究は重要な基礎研究ですが、「APAの遅延 = 腰痛の原因」という因果関係は確立されていません。「腰痛があるからAPAが遅延する(逆の因果)」可能性も除外できず、現時点ではAPAと腰痛の関係は相関関係として解釈するのが適切です。

脂肪浸潤の臨床的意義:
MRIで確認される多裂筋の脂肪浸潤は腰痛との相関が示されていますが、脂肪浸潤の程度と腰痛の重症度・機能障害の程度との相関は中程度〜弱いことが複数の研究で報告されています。脂肪浸潤を単独の指標として腰痛の予後予測に使用することには限界があります。

今後の課題:
① 脳卒中後の多裂筋変化を縦断的に追った高品質な研究がほとんど存在しない
② 脳卒中後患者への多裂筋特異的訓練のRCTがほぼない
③ 超音波(RUSI)による多裂筋評価の標準化(プローブ位置・正常参考値の人種・年齢別データ整備)が不十分
④ 深層と浅層を区別してEMG・超音波で独立に計測する方法論の確立が必要

まとめ ― 多裂筋を正しく理解することが脊柱リハビリの出発点

✅ この記事のKey Takeaway(修正版)

  • 多裂筋は横突棘筋群の中で最も太く、腰部で最も発達する深部固有背筋。椎骨間の微細な安定化(深層)と脊椎伸展・回旋(浅層)を担う
  • 胸腰筋膜(TLF)を介して腹横筋・腹内斜筋と機械的連結。健常者では四肢運動の約30ms前(腹横筋で計測)に先行収縮(APA)して脊椎を先制安定化。慢性腰痛患者ではこのAPAが遅延・消失する(Hodges & Richardson, 1996)
  • 急性腰痛後の多裂筋萎縮は自然回復しない。特異的再教育で1年後再発率は約30%(通常治療群は約83%)に低下(Hides et al. 1996)。「39%→30%」という表記は不正確
  • 深層(2椎骨間)は圧縮型固定・固有感覚が主な役割。遅筋線維が多く疲労耐性に優れる。腰痛後に最初に萎縮しリハビリの最優先ターゲット
  • 脳卒中後には麻痺側多裂筋の萎縮・活動低下が報告(観察研究レベル)。骨盤後傾による機能的変容は臨床的仮説(エビデンスレベルV)であり、biomechanicalな推論として参照する
  • エクササイズは4段階:①深層単独(dMF再教育)→②TrAとの共収縮→③表層との協調・負荷増加→④日常動作統合。「深層ファースト・低負荷・代償なし・質優先」が鉄則
  • RUSIを使った超音波評価が多裂筋の客観的モニタリングとバイオフィードバックに有効

リハビリを受けた方の声

長年の腰痛で「腹筋を鍛えれば治る」と信じてシットアップをやり続けていましたが、改善しませんでした。STROKE LABで「深層の多裂筋が弱っている」と教えていただき、まず腰の奥の収縮感覚を学ぶところから始めました。最初は全く感覚がわかりませんでしたが、超音波で自分の筋肉が動く様子を見せてもらい、2週間でコツをつかめました。3ヶ月後には朝の腰の重さがほとんどなくなりました。

50代男性・慢性非特異的腰痛(6年)

脳梗塞後に体幹が弱く、座位でふらついていました。まず車椅子のポジショニングを見直してもらい、骨盤を立てた姿勢から体幹の奥を意識するトレーニングを教えていただきました。「腰の奥に電球がついた感覚」というキューが私にはわかりやすく、それ以来座位が安定してきました。歩行訓練も前より自信を持って参加できるようになっています。

65代女性・右中大脳動脈梗塞後片麻痺 発症4ヶ月

参考文献

  • 1) Richardson CA, Jull GA, Hodges PW, Hides JA. Therapeutic exercise for spinal segmental stabilization in low back pain. Churchill Livingstone; 1999.
  • 2) Hides JA, Stokes MJ, Saide M, et al. Evidence of lumbar multifidus muscle wasting ipsilateral to symptoms in patients with acute/subacute low back pain. Spine. 1994;19(2):165-172.
  • 3) Hides JA, Richardson CA, Jull GA. Multifidus muscle recovery is not automatic after resolution of acute, first-episode low back pain. Spine. 1996;21(23):2763-2769. 【1年後再発率:特異的運動群 約30% vs 通常治療群 約83%(修正済)】
  • 4) Hides JA, Jull GA, Richardson CA. Long-term effects of specific stabilizing exercises for first-episode low back pain. Spine. 2001;26(11):E243-248. 【3年後フォローアップ:長期的腰痛予防効果を確認】
  • 5) Hodges PW, Richardson CA. Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain. Spine. 1996;21(22):2640-2650. 【APA:腹横筋は上肢運動の平均30ms前に活動開始。腰痛患者では遅延(正確なデータ出典)】
  • 6) Hodges PW, Richardson CA. Delayed postural contraction of transversus abdominis in low back pain associated with movement of the lower limb. J Spinal Disord. 1998;11(1):46-56.
  • 7) Tsao H, Hodges PW. Immediate changes in feedforward postural adjustments following voluntary motor training. Exp Brain Res. 2008;181(4):537-546. 【APAはトレーニングにより改善可能であることを示した研究】
  • 8) Ward SR, Kim CW, Eng CM, et al. Architectural analysis and intraoperative measurements demonstrate the unique design of the multifidus muscle for lumbar spine stability. J Bone Joint Surg Am. 2009;91(1):176-185. 【深層と浅層の筋線維組成分析(TypeⅠ・Ⅱ比率)】
  • 9) Wilke HJ, Wolf S, Claes LE, et al. Stability increase of the lumbar spine with different muscle groups. A biomechanical in vitro study. Spine. 1995;20(2):192-198.
  • 10) Barker PJ, Guggenheimer KT, Grkovic I, et al. Effects of tensioning the lumbar fasciae on segmental stiffness during flexion and extension. Spine. 2006;31(4):397-405.
  • 11) Vleeming A, Schuenke MD, Masi AT, et al. The sacroiliac joint: an overview of its anatomy, function and potential clinical implications. J Anat. 2012;221(6):537-567.
  • 12) Dickstein R, Shefi S, Marcovitz E, Villa Y. Anticipatory postural adjustment in selected trunk muscles in post stroke hemiparetic patients. Arch Phys Med Rehabil. 2004;85(2):261-267.
  • 13) Teyhen DS, Miltenberger CE, Deiters HM, et al. The use of ultrasound imaging of the abdominal drawing-in maneuver in subjects with low back pain. J Orthop Sports Phys Ther. 2005;35(6):346-355.
  • 14) Macedo LG, Maher CG, Latimer J, McAuley JH. Motor control exercise for persistent, nonspecific low back pain: a systematic review. Phys Ther. 2009;89(1):9-25.
  • 15) Panjabi MM. The stabilizing system of the spine. Part I. Function, dysfunction, adaptation, and enhancement. J Spinal Disord. 1992;5(4):383-389.
  • 16) 金子唯史:脳卒中の動作分析. 医学書院; 2018.

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