【2026年版】多裂筋の起始・停止、作用からトレーニングの方法、腰痛予防・コアスタビリティまで解説
多裂筋の評価と再教育を、迷わず実践するための完全ガイド。
多裂筋は脊柱を陰で支える深部筋です。腰痛後の萎縮は自然には回復せず、脳卒中後も変化が報告されています。起始停止から段階的エクササイズまで、明日の臨床で使える視点を先輩の立場で整理しました。

要点5項目。
臨床現場でこう出会う。

65歳女性。右中大脳動脈領域の脳梗塞、発症4か月(回復期)。下肢BRS(Brunnstrom Recovery Stage:運動機能の回復段階を6段階で評価する指標)はステージⅣ、FIM(機能的自立度評価法)の座位保持は部分介助レベル。主訴は「座っているとすぐ右に倒れそうになる」。
初回評価では骨盤が後傾し腰椎が後弯していました。L4/5棘突起外側の触診では多裂筋の収縮がほとんど確認できず、脊柱起立筋で腰を反らせる代償パターンが優位でした。
この症例のように、体幹の不安定感を訴える患者の多くで「表層筋は過活動なのに深層の多裂筋が働いていない」という現象が起こります。新人時代は「体幹が弱い」と一括りにしてしまいがちですが、実際には筋群ごとの役割分担を評価する視点が欠けています。
この記事では、脊柱安定化の要となる多裂筋という一つの深部筋を軸に、解剖・神経支配から評価・段階的エクササイズ・脳卒中への応用まで、明日から使える形で整理していきます。
多裂筋の定義と疫学。
多裂筋(Multifidus)は、脊柱の両側の傍脊柱溝を埋める横突棘筋群(半棘筋・多裂筋・回旋筋からなる深部背筋群)の一つです。表層から半棘筋・多裂筋・回旋筋の3層構造をとり、多裂筋はその中間層に位置しますが、3筋の中で最も太く、腰部(L1〜S1)で最も発達します。「多く裂けた(multi-fid)」という名の通り、複数の筋束が重なる羽状構造を持ちます。
半棘筋は4〜6椎骨上方の棘突起に停止し、頸部・胸部に発達します。多裂筋は2〜4椎骨上方に停止し、腰部で最大発達します。回旋筋は1〜2椎骨上方に停止し、主に固有感覚受容器として機能すると考えられています[専門家合意]。
腰痛の疫学とリハビリでの位置づけ
慢性腰痛患者の多裂筋には、脂肪浸潤(筋組織内に脂肪細胞が入り込み収縮性が低下する状態)を伴う萎縮がMRIで確認されています[観察研究]。Hides et al.(2008, 2011)は患側の萎縮が広く報告されることを示していますが、脂肪浸潤の程度と腰痛の重症度との相関は中程度〜弱いとされ、単独の予後指標としての使用には限界があります。
横突棘筋群の中間層に位置し、3筋の中で最も太いことを押さえます。
仙骨・PSIS・腰椎乳頭突起などから2〜4椎骨上方の棘突起へ斜走します。
急性腰痛後の萎縮は自然回復しないという事実を押さえます[単独RCT](Hides et al. 1994)。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは、脳卒中後の体幹機能・腰痛に対して個別の評価とプログラムをご提供しています。ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いした上で、最適な方向性をご提案します。
神経支配と安定化のメカニズム。
多裂筋は各椎骨レベルで脊髄神経後枝内側枝(medial branch:椎骨後方の関節・筋を支配する神経枝)に高度にセグメント化して支配されています。この内側枝は腰椎後関節(ファセット関節)の感覚神経も共有しており、内側枝ブロック後には一過性に多裂筋活動が低下する可能性があります[専門家合意]。
深層と浅層で走行が違うと、機能も変わる
深層(2椎骨間の短い筋束)は筋長変化が小さく、椎骨間の圧縮固定と固有感覚受容が主な役割です。遅筋線維(タイプⅠ)の比率が高く、疲労耐性に優れます[観察研究](Ward et al. 2009)。浅層(3〜4椎骨間の長い筋束)は脊椎伸展・回旋の動力として機能し、速筋線維の比率も高くなります。

脳血管障害が多裂筋の制御に及ぼす影響
脳卒中による上位運動ニューロン障害(脳から脊髄への運動指令経路の障害)は、体幹筋の運動ニューロン活動パターンにも影響します。麻痺側多裂筋のEMG(筋電図)活動低下・左右非対称性は複数の観察研究で報告されています[観察研究]。
Dickstein et al. 2004[観察研究]:Arch Phys Med Rehabil誌にて、脳卒中後片麻痺患者を対象に体幹筋の予測的姿勢調節(APA)を計測し、麻痺側での活動異常を報告した。
腰痛の鑑別診断。
腰部の疼痛・不安定感を訴える患者では、多裂筋の機能不全以外の要因も必ず鑑別します。以下に代表的な鑑別疾患を整理します。
| 鑑別疾患 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 腰椎椎間関節性疼痛(ファセット症候群) | 体幹伸展・回旋時の疼痛 | 内側枝支配領域に一致した圧痛、伸展位での再現痛 | 内側枝ブロックへの反応 |
| 腰椎椎間板ヘルニア(神経根症状) | 下肢への放散痛 | SLRテスト陽性、デルマトームに沿った感覚障害 | MRI、神経伝導検査 |
| 仙腸関節障害(SIJ dysfunction) | 骨盤帯周囲の疼痛 | SIJ誘発テスト(圧縮・牽引)陽性 | 診断的関節内注射 |
| 脳卒中後の体幹機能低下(中枢性) | 座位・立位での体幹動揺 | 麻痺側での多裂筋活動低下、左右非対称性 | 表面EMG、超音波(RUSI) |
評価方法と採点基準。
多裂筋は深部にあり視診できないため、触診とリアルタイム超音波(RUSI:Real-time Ultrasound Imaging)による客観的評価が中心になります。
| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 触診グレード | Grade0:収縮を触知できない | Grade0 | 深層収縮が全く生じていない |
| 触診グレード | Grade1:わずかな硬さの変化 | Grade1 | 深層収縮は生じているが微弱 |
| 触診グレード | Grade2:明確な硬さの変化、保持可能 | Grade2 | 深層収縮が良好に生じている |
| 触診グレード | Grade3:抵抗を加えても保持可能 | Grade3 | 深層収縮が十分に機能的 |
| RUSI筋厚変化率 | 安静時から収縮時への増加率 | 健側比10〜20%以上の左右差 | 左右非対称性の臨床的サインとされる[観察研究](Teyhen et al. 2005) |
RUSIによる多裂筋厚計測は、経験を積んだ検者間で概ね良好な信頼性が報告されています[観察研究]。ただし正常参考値は年齢・体格・性別による個人差が大きく、標準化されたMCID(臨床的最小変化量)は確立されていません[専門家合意]。触診による段階評価も検者内・検者間信頼性の報告が限定的であり、可能な限りRUSIとの併用が推奨されます。
介入のエビデンスと段階的エクササイズ。
多裂筋の再教育は「深層ファースト」が原則です。段階を踏まずに高負荷トレーニングを始めると、表層の脊柱起立筋が代償し、深層は活性化されないままになります。
背臥位・側臥位でdMF(深層多裂筋)の選択的収縮を練習します。3〜5秒保持×10回×2〜3セット、1日2〜3回が目安です。
側臥位クラムシェルで腹横筋との共収縮を練習します。左右各10回×2セットが目安です。
背臥位ニーリフト→レッグエクステンション→デッドバグの順に負荷を上げます。各10回、代償が出ない範囲で実施します。
立ち上がり・移乗・歩行前の「プレ活性化キュー」を統合し、日常動作への汎化を目指します。

Hides et al. 1996; 2001[複数RCT]:Spine誌にて、急性腰痛後の特異的多裂筋再教育により1年後再発率が特異的運動群約30%、通常治療群約83%(p<0.001)であったことを報告。3年後フォローアップでも再発率の低さが維持された。

多裂筋の機能を取り戻すことは、腰痛の再発防止だけでなく、脳卒中後の座位・立位・歩行の安定にも直結します。STROKE LABでは超音波評価も活用しながら、お一人おひとりに合わせたプログラムをご提案しています。
多職種連携と環境調整。
誰が何を見るか
多裂筋の機能不全は一職種だけで解決できるものではありません。ポジショニング・ADL場面・呼吸との連動まで、多職種で情報を共有することが重要です。
「腹圧をかけて」だけでは深層は働きません。私は必ず触診しながら「腰の奥が動いた感覚を一緒に確認しましょう」と伝えています。
車椅子姿勢が骨盤後傾のままだと、どれだけ運動を頑張っても多裂筋は働きにくい環境のままです。まずはポジショニングから見直します。
| 職種 | 評価項目 | 主な介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | 多裂筋の触診・RUSI評価、歩行時の動揺 | 段階的コアスタビライゼーション、歩行時のキューイング | 座位・移乗方法をOT・看護師と共有 |
| OT | ADL場面での体幹代償、車椅子姿勢 | シーティング調整、日常動作への統合練習 | 車椅子処方内容をPTと共有 |
| ST | 呼吸・発声と体幹の連動 | 呼吸パターンの評価と誘導 | 発声時の体幹安定をPTと共有 |
| 看護師 | 病棟でのポジショニング、疼痛の有無 | 体位変換、離床の声かけ | リハ場面での指示内容を病棟でも一貫させる |
| 医師 | 神経学的所見、MRI・レントゲン所見 | 薬物療法、ブロック注射の適応判断 | ブロック前後の多裂筋活動変化をPTへ共有 |
| MSW | 生活環境、介護保険サービスの利用状況 | 退院後の環境調整、社会資源の紹介 | 自主トレ継続のための環境をPTと相談 |
新人が陥りやすいつまずきポイント。
多裂筋の評価・介入では、新人時代に共通して陥りやすい落とし穴があります。先輩として特に気をつけてほしい3点を紹介します。
先輩からのもう一つの視点
「感覚がわからない」と言う患者には、超音波で見せるのが一番早いです。言葉だけで伝えようとしすぎないこと。
予後とゴール設定。
Stage1は2〜4週間、Stage2〜3は4〜8週間を目安に進めますが、時間ではなく「代償なく実施できること」を基準に次のStageへ進みます。
座位保持・立ち上がり・歩行など、患者にとって意味のある動作の中でAPAが自動的に働くようになることを最終ゴールとします。エクササイズ単体の完成度ではなく、生活場面への汎化を評価しましょう。
よくある質問。
触診は可能ですが、深部走行のため収縮時の変化を感じ取る触診になります。L4〜L5棘突起の外側1〜2cmに指を置き、腰椎を動かさずに深部を軽く引き締めるよう指示し、わずかな硬さの変化を確認します。腰を反らせる代償動作との違いを見分けることが重要です。
多裂筋は深部で椎骨間の微細な安定化と固有感覚を担う筋で、低負荷で持続的に活動します。脊柱起立筋は表層で体幹伸展の大きな力を発揮する筋です。リハビリでは多裂筋を先に再教育し、その後に脊柱起立筋を強化する順序が推奨されます。
高負荷のエクササイズでは表層筋が優先的に動員され、深層の多裂筋は活性化されないことが多いです。まず深層単独の収縮感覚を学習してから、段階的に負荷を上げてプランクなどへ移行することが推奨されます。
可能です。言語指示が難しい場合は触覚キューイングや視覚的フィードバックを活用し、まずは骨盤中間位での座位保持から始めます。体幹の安定性向上は上下肢の随意運動やバランス、歩行機能にも良い影響を与えると考えられています。
深層の再教育には2〜4週間、共収縮と負荷増加には4〜8週間を目安としますが、日常動作への統合は生涯継続することが理想です。症状改善後にやめるのではなく、習慣化を目指します。
現在の研究は主に特定の研究グループによるもので、大規模な追試は限られています。予測的姿勢調節の遅延と腰痛の因果関係も確立されておらず、相関関係として解釈するのが適切です。脳卒中患者への多裂筋特異的訓練の研究はまだ少数です。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは脳卒中専門の自費リハビリ施設として、体幹の深部機能から評価を行い、超音波(RUSI)も活用しながら個別のプログラムを組み立てています。腰痛・脳卒中後の体幹機能低下の両面に対応できる体制が特長です。
— STROKE LABでのアプローチの実際
「腰痛の患者さんに、いきなりプランクを指導していた時期がありました。改善が乏しく、触診で多裂筋の収縮を確認したところ全く反応がなかったんです。Stage1からやり直したところ、2週間で収縮感覚を掴んでもらえ、その後の運動療法の効果も明らかに変わりました」— 理学療法士・臨床経験8年・整形外科リハビリテーション専門
「脳卒中の患者さんが座位で右に傾き続けていた場面がありました。骨盤後傾姿勢を見て、まずポジショニングを見直す判断をしました。多裂筋が働きやすい姿勢を作った上で運動を追加すると、1か月で座位保持の介助量が減りました」— 理学療法士・臨床経験12年・脳血管疾患リハビリテーション専門
諦めないでください。

脳卒中後の体幹の不安定さは、ご本人にとっても「なぜ思うように動けないのか」がわかりにくい症状です。私たちはその原因を、多裂筋のような深部の機能まで含めて丁寧に評価します。
腰痛でお悩みの方も、脳卒中後の体幹機能でお悩みの方も、一人で抱え込まずにご相談ください。
評価から段階的なプログラムまで、専門スタッフが一緒に歩んでいきます。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)