NSDAとは?脳卒中後の更衣を工程別に評価する方法|採点・エラー分析・臨床活用
「着替えられない」を、
支援できる一工程へ。
Nottingham Stroke Dressing Assessment
脳卒中後の更衣を、実際の動作と必要な介助から捉える
袖を探せないのか、腕を通せないのか、最後まで引き下ろせないのか。同じ「更衣に介助が必要」でも、練習する場所は違います。NSDAはその違いを、衣服ごとの工程に分けて確認する評価です。

1.NSDAは、何を明らかにする評価か
Nottingham Stroke Dressing Assessment(NSDA)は、脳卒中後の更衣能力を観察する評価です。衣服を着る過程を複数の動作に分け、それぞれにどの程度の援助が必要だったかを記録します。全体の得点だけでなく、更衣中のエラーを分析する点にも特徴があります。[1–3]
たとえば、前開きの上着が着られない方でも、袖口を見つける段階と、背中側に布を回す段階とでは必要な支援が違います。「上衣は一部介助」で止めず、「どの工程で、何を助けたか」までチームで共有するときに役立ちます。
対象は更衣の自立度や困難の内容を確認したい脳卒中患者です。使い慣れた衣服、安定した椅子、原票、筆記具を準備します。必要な眼鏡・補聴器・普段の更衣用具も確認します。
今回確認した原資料・論文では、全員に共通する固定の総所要時間は確認できませんでした。衣服の数、動作の難しさ、休憩の必要性で変わります。準備・実施・休憩を分け、実際に要した時間を記録してください。「5分」は検査全体の所要時間ではありません。
2.実施は「環境をそろえる→見守る→援助を記録する」
① いつもの衣服と、観察できる環境を用意
原実施要領では、肘掛けのある椅子で上体を起こし、衣服を本人の視野内・手の届く範囲に置きます。最初から着る順番に整え過ぎると、衣服の選択や扱いの難しさを見逃す可能性があります。麻痺側、痛み、座位の安定、理解の状態を確認し、必要な安全確保を優先します。[1]
② 「できるはず」ではなく、実際の動作を見る
衣服ごとの原票の工程に沿って観察します。手が止まったときは、何を見ていたか、どの手でどこを触っていたか、衣服がどうなっていたかを具体的に残します。介助が必要なら行い、内容を採点に反映します。初めから繰り返し教えてしまうと、普段の遂行との区別が難しくなります。
③ 援助の種類で工程ごとに採点
| 工程の得点 | 基本的な意味 | 記録で残したいこと |
|---|---|---|
| 2点 | 自立して実行できた。使い慣れた用具を用いる場合も含む。 | 何を使い、どの方法で完了したか。 |
| 1点 | 言葉による促し・援助で実行できた。 | 実際に伝えた短い言葉と回数。 |
| 0点 | 身体介助を必要とした。 | 手・腕・衣服のどこに、どの程度触れて助けたか。 |
採点の基本:[2,4]。単なる声かけと、腕を誘導する・布を引くなどの身体介助を混同しないことが重要です。項目ごとの完了条件は原票を確認します。
原版付録には、最終の試行を採点すること、動作の促通も身体介助に含めること、5分後も困難が続く場合、または明らかな苦痛がある場合に援助を要するものとして扱うことが示されています。医学的理由による該当外には「9」を用いる規定があります。9を得点として加算せず、対象項目と除外理由を原票に沿って整理します。苦痛がある人を時間いっぱい続けさせる運用にはしません。[1]

3.得点は「自立度の割合」。回復確率ではない
各工程の満点は2点です。着る衣服によって対象項目数が変わるため、得点を満点に対する割合で表します。[4] 原票で評価対象とした項目を用い、未実施や該当外を勝手に0点にしません。
計算例:対象が10工程で満点20点、合計14点なら70%です。これは「7割の確率で退院できる」「7割の工程が完全自立」という意味ではありません。1点の工程も合計に含まれるためです。この例の10工程は計算の説明であり、NSDAの固定項目数ではありません。
同じ50%でも、全工程で声かけが必要な人と、半分は自立・半分は身体介助の人では支援が違います。合計と一緒に0・1・2点の分布、衣服、介助内容を読むことが実践につながります。
新人が追いやすい臨床例:左袖が見つからない
左片麻痺のあるAさんは、上着を取り上げましたが、右側の布ばかり探して止まりました。「左の袖口を見てください」と伝えると袖口を見つけ、腕を通せました。その後、背中側の布が引っかかり、療法士が布を引いて助けました。
この場面では、声かけで進んだ工程と身体介助が必要だった工程を分けて記録します。前者を「手が弱いから」と一括りにせず、左側への注意、衣服の向きの理解、視野、指示理解を追加確認します。後者では肩の動き、痛み、体幹、布の摩擦などを確認します。これは臨床場面の説明例であり、原票の項目を置き換える採点例ではありません。

4.「できなかった」から、試す支援を具体化する
以下は評価後に試す臨床上の工夫です。NSDAの追加得点ではありません。支援を変えた後は、何が変わったかを動作で確認します。
| 観察された場面 | 追加して確かめること | 介入の例と確認点 |
|---|---|---|
| 袖口の場所が分からない | 視野・半側空間無視・衣服の向きの理解 | 袖口を示す短い合図、衣服の置き方を一定にする。合図を減らしても見つけられるか。 |
| 袖口は見つけるが腕が通らない | 関節可動域・疼痛・筋緊張・手の位置 | 麻痺側から通す方法、滑りやすい衣服、袖幅を調整。肩を引っ張らず通せるか。 |
| 途中で次の動作へ進めない | 注意・順序・疲労・理解 | 一工程ずつの短い言葉、工程を絞った反復。途中の声かけが減るか。 |
| 小さなボタンで止まる | つまみ・感覚・視認性・片手操作 | 大きい留め具や補助具を試す。本人が使いたい衣服で実用的か。 |
| 足元に届かずバランスが崩れる | 座位・体幹・疼痛・下肢の扱い | 安定した座位、足台、長柄の用具を検討。無理な前屈や立位を減らせるか。 |

再評価は、衣服・環境・援助をそろえる
ボタンの多い服から面ファスナーの服に変われば、更衣は楽になっても運動機能が改善したとは限りません。その変化も生活上の成果ですが、得点だけを前後で比べず、使用した衣服、用具、座位、対象項目数を一緒に残します。「前回は身体介助、今回は一言でできた」という工程の変化も共有しましょう。
5.エビデンスと、2026年改訂版の位置づけ
観察者間の一致は良好。ただし予後の万能指標ではない
2010年の研究は、脳卒中後に更衣困難が続く20人を3人の作業療法士が評価し、最終割合の検者間信頼性ICCは0.988でした。一方で、項目単位の一致には差がありました。[2] 採点基準を共有する根拠にはなりますが、この値から「何点なら自宅退院」「何%改善すれば必ず実用的」とは判断できません。
1991年の60人を対象とした研究では、更衣と身体・認知機能の関連が調べられました。[3] 個々の動作の失敗だけで、失行や無視を診断する評価ではありません。必要に応じて身体・認知・言語の評価を組み合わせます。
練習の工夫は、効果を確かめながら選ぶ
DRESS試験は、認知面を分析して更衣練習を組む方法と従来の機能的練習を比較した70人の実行可能性試験です。両群で更衣成績は改善しましたが、6週間後の群間差は有意ではありませんでした。[5] 「認知に合わせた方法なら必ず優れる」と言い切らず、本人のエラーと反応を見ながら支援を選びます。
さらに2024年掲載(2022年オンライン公開)の小規模RCTでは、24人に対するエラーレス学習とアプリを用いた追加練習の、特異的な改善効果は示されませんでした。[7] これは重い更衣障害を対象とした研究で、すべての脳卒中患者の見通しや個々の工夫の無効を意味しません。
従来版NSDAと、NSDA-R/ENVI-Rを混ぜない
2026年には、原版を更新したNSDA-Rと、そのスペイン語版ENVI-Rの検証研究が報告されました。ENVI-Rは12カテゴリー・44項目で、110人での検証では内的一貫性α=0.92、検者内信頼性ICC=0.92と報告されています。[6] これは日本語版の検証結果ではなく、2010年の検者間ICCとも別の指標です。
従来版と改訂版では書式・構成が異なります。原票の版を記録し、異なる版の項目を組み合わせて「正式NSDA」としないことが重要です。今回の検索では、標準化された日本語版の検証論文は確認できませんでした。
| 評価 | 読み取りたい情報 | 使い分け |
|---|---|---|
| NSDA | 衣服・工程ごとの自立度と更衣エラー | 更衣の練習と介助の内容を具体化する。 |
| FIM/Barthel Index | ADL全体の介助量・自立度 | 生活全体の状態を共有。NSDAの割合を直接換算しない。 |
| 上肢・体幹・認知機能の評価 | 更衣困難の背景となる機能 | NSDAで立てた仮説を追加評価で確認する。 |
6.工程別の臨床記録PDF
原票の結果を、次の支援に結びつける
PDFは、原票と併用するSTROKE LABの記録用紙です。採点の要点、原票からの工程・結果の転記欄、声かけと身体介助の記録、環境の変更、再評価計画をまとめました。
正式な全項目票の翻訳ではありません。原版全体の翻訳・再配布条件を確認できず、2026年論文にも翻案物の共有を認めないライセンス条件があるため、今回は原票へのリンクと併用記録を用意しています。実施・採点の細部は使用版の原資料をご確認ください。
参考資料・原票を確認する
- Fletcher-Smith J. Stroke Dressing Rehabilitation: An evaluation of the limitations and acceptability of the neuropsychological approach. University of Nottingham, 2011. Appendix AにNSDA資料。学位論文・付録
- Fletcher-Smith J, et al. An Interrater Reliability Study of the Nottingham Stroke Dressing Assessment. British Journal of Occupational Therapy. 2010. 論文
- Walker MF, Lincoln NB. Factors influencing dressing performance after stroke. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1991;54:699–701. 原著
- Christie L, et al. Task-specific practice of dressing tasks in a hospital setting improved dressing performance post-stroke: A feasibility study. Aust Occup Ther J. 2011. 採点と練習研究
- Walker MF, et al. The DRESS trial: a feasibility randomized controlled trial of a neuropsychological approach to dressing therapy for stroke inpatients. Clin Rehabil. 2012;26:675–685. 全文
- de Blas-Zamorano P, et al. Update, translation, cross-cultural adaptation, and validation of Nottingham Stroke Dressing Assessment into Spanish. Sci Rep. 2026;16:13974. 改訂版研究・補足資料 / PubMed
- Ertas-Spantgar F, et al. Errorless learning and assistive technology did not improve the negative prognosis for severe dressing impairment after stroke if persisting for two weeks: A randomized controlled trial. Appl Neuropsychol Adult. 2024;31:939–947. PubMed
文献確認:2026年11月。図は臨床場面の説明用イラストです。記事中の介入例と本PDFの記録欄はSTROKE LABによる補助資料です。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)