TEARS-Qとは?脳卒中後の泣きやすさ・情動失禁の評価|【PDF評価付き】
涙が出る。
でも、悲しいとは限らない。
TEARS-Q|脳卒中後の泣きやすさを評価する質問票
本人の気持ちと、涙の出方を分けて確かめる。

01|TEARS-Qとは|涙の出方が変わった理由を考える
Testing Emotionalism After Recent Stroke–Questionnaire(TEARS-Q)は、脳卒中後の涙ぐみやすさや、突然始まって抑えにくい泣き方を評価する自己報告式質問票です。泣いている姿だけを見て「落ち込んでいる」「訓練がつらい」と解釈する前に、本人の気持ちと、涙の表出の変化を分けて確かめます。[1]
| 基本 | 内容 |
|---|---|
| 項目数 | 8項目。最初の2項目には中止条件がある |
| 対象期間 | 過去2週間。脳卒中になる前との変化を含めて回答 |
| 回答 | 強くそう思う/そう思う/分からない/そう思わない/まったくそう思わない |
| 得点 | 各2・1・0・0・0点。8項目合計0〜16点 |
| 評価する範囲 | 泣くことを中心とした情動失禁。病的な笑いを直接採点する尺度ではない |
| 実施時間 | 原著で標準所要時間の数値は確認できない。初回は説明・回答・面接を含め10〜15分の枠を確保する運用案 |
| 日本語版 | 今回の検索では、検証済みの正式日本語版を確認できなかった。掲載する質問は日本語参考訳 |
時間の目安はSTROKE LABの実施計画上の提案で、原著に報告された測定値ではありません。聞き取りや休憩が必要な場合は延長します。
02|抑うつとの違い|「泣く」と「悲しい」は同じではない
情動失禁では、涙が突然出たり、本人が止めようとしても抑えにくかったりします。悲しい話題をきっかけに始まることもあり、「悲しくないのに泣く」場合だけに限りません。抑うつとの併存もあるため、どちらか一方に決めつけないことが大切です。[4]
| 確認すること | 情動失禁を考える手がかり | 抑うつも別に確認する手がかり |
|---|---|---|
| 経過 | 突然始まり、エピソードとして出る | 泣いていない時間にも気分の落ち込みや楽しさの低下が続く |
| 本人の実感 | 気持ち以上に涙が出る、予想できない、止めにくい | 悲観、自責、興味の低下などがある |
| 生活への影響 | 泣くことを見られたくなくて会話や訓練を避ける | 広い活動で喜びや意欲が低下する |
これは面接の整理であり、表だけで鑑別診断するものではありません。TEARS-Qは泣き方、HADSやPHQ-9等は気分症状というように、知りたい内容を分けて評価します。
03|8項目で何を聞く?|原著掲載項目の日本語参考訳

| 項目 | 質問内容 |
|---|---|
| 1 | この2週間は、脳卒中になる前よりも涙ぐみやすくなったと感じます。 |
| 2 | この2週間は、脳卒中になる前よりも実際に泣くことが増えました。 |
| 3 | 泣き出すのは突然で、前触れは数秒しかないか、まったくありません。 |
| 4 | 予想していないときに泣き出します。 |
| 5 | 泣き出すと、自分で抑えたり止めたりすることができません。 |
| 6 | 脳卒中になる前なら泣かなかったような場面で泣きます。 |
| 7 | このような泣き方が、少なくとも週に1回、またはそれ以上あります。 |
| 8 | そのとき悲しいと感じていなくても、泣き出します。 |
出典:Broomfieldらの開発論文Table 2(© Authors 2020、CC BY 4.0)。STROKE LABが日本語参考訳・再編集しました。標準化された日本語版ではありません。[1][7]
1・2は「涙ぐみやすいという感覚」と「実際に泣くことが増えた」を分け、3〜8で突然性、予想外の発生、抑えにくさ、場面、頻度、悲しさとの関係を確認します。
04|実施手順|最初の2項目と残り6項目を分ける
- 落ち着いて答えられる環境を整える。周囲に聞かれにくい場所で、文字・聴力・言葉の理解を確認します。発症日と回答日を記録し、「過去2週間」を共有します。
- 本人の回答を聞く。「泣くことが悪いという評価ではなく、脳卒中後の変化を知るためです」と目的を説明します。必要なら一問ずつ読み上げ、回答への介助を記録します。
- 項目1・2を確認する。両方が「そう思わない」または「まったくそう思わない」なら中止します。片方だけの否定では中止せず、「分からない」も中止条件には含めません。
- 該当しなければ項目3〜8へ進む。本人が泣き始めたときは、回答を急がず、続けるか休むかを相談します。
- 採点と追加面接を行う。点数だけでなく、実際の一場面を聞き、本人の負担と参加への影響を記録します。
中止条件は、現行の開発元の案内にある「両方が否定」を採用しています。開発論文の結果欄には“either”という記述もあり、混同しやすいためです。正式版で実施するときは、その版の教示を確認してください。[1][3]
開発研究では失語症のある方が除外されていました。家族の観察は有用ですが、本人の代わりに回答した点数を通常のTEARS-Qとして扱わず、代理情報として分けて記録します。[1]
05|採点|5段階でも、0〜4点ではない
| 回答 | 点数 |
|---|---|
| 強くそう思う | 2点 |
| そう思う | 1点 |
| 分からない | 0点 |
| そう思わない | 0点 |
| まったくそう思わない | 0点 |
8項目の合計は0〜16点です。逆転項目はありません。「分からない」は原法では0点ですが、未回答や質問の理解が難しいこととは区別します。空欄を勝手に0点として埋めないでください。[1]
最初の2項目で終了した場合は「2項目で終了」と記録します。未実施の6項目を回答済みの0点に置き換えて、8項目すべて答えたようには扱いません。
06|2点以上の意味と、0〜1/2〜5/6点以上の使い分け
開発研究では、2点以上を境界にした場合、面接で情動失禁があるとされた61人中53人を拾い、ないとされた156人中140人を陰性としました。感度約87%、特異度約90%です。[1]
| 得点 | 実践ガイドの考え方 | 次の行動 |
|---|---|---|
| 0〜1点 | 情動失禁の可能性は低い | 訴えや観察がなければ経過をみる。不一致があれば確認 |
| 2〜5点 | 追加評価で診断を明確にする範囲 | 突然性、コントロール、頻度、気分、生活への影響を面接 |
| 6〜16点 | 情動失禁の可能性が高い範囲 | 本人の負担と支援・治療の必要性を評価し、医師等と共有 |
実践ガイド研究では、面接による情動失禁の該当者は0〜1点群で9/159人、2〜5点群で11/21人、6点以上群で42/48人でした。これはその研究集団での割合であり、個人の将来の発症確率ではありません。[2]
この3区分を「軽度・中等度・重度」と呼ぶのは適切ではありません。また、原版の数値を本記事の日本語参考訳にそのまま保証するものでもありません。点数と具体的なエピソードを合わせて判断します。
07|研究からどこまで分かるか
| 研究 | 分かったこと | 臨床での読み方 |
|---|---|---|
| 開発・検証研究(2021) | スコットランド9病院、脳卒中後2週間以内に登録された224人。内的一貫性α=0.87 | 急性期、比較的軽症の対象が中心。慢性期や重い言語障害への適用は別に検討 |
| 実践ガイド(2021) | 228人を対象に、0〜1/2〜5/6点以上の分類を検討 | 同じTEARS研究に基づく解析で、独立した別集団での再検証とは区別 |
| トルコ語版(2025) | 急性期85人でα=0.883、再検査ICC=0.725 | 翻訳版にも検証が必要。日本語版の精度を示した研究ではない |
トルコ語版ではCNS-LSと中等度の関連があり、HADSの抑うつ下位尺度とは有意な相関が報告されませんでした。ただし、これだけで情動失禁と抑うつが併存しないとはいえません。[5]
「何点下がれば本人にとって意味のある改善か」という一律の基準は、今回確認した資料では確立していません。再評価では同じ版・方法・対象期間を使い、頻度、持続時間、負担、社会参加も一緒に追います。[1]
08|臨床のストーリー|泣いたから、訓練が嫌とは限らない

架空の例:退院後の楽しみについて話していると、突然涙が出たAさん。「悲しいわけではないのに止まらない」と話します。涙を見た家族は、外出の話題を避けるようになっていました。
TEARS-Qでは8項目を回答し7点。療法士は「泣き始める前は、どんな気持ちでしたか」「普段も気分が沈んでいますか」「泣くことが心配で避けていることはありますか」と確認します。本人は、友人と会うのを控えていると答えました。
チームは泣く頻度だけでなく、友人に会えなくなったことを支援目標にします。本人の希望を聞き、短時間の面会、休憩の合図、同席者への説明を相談。持続する症状や強い負担は主治医に共有します。7点だけで診断や薬物治療を決定するわけではありません。
09|具体的な支援|涙を責めず、参加の機会を戻す

| 場面 | 支援の例 | 確かめる変化 |
|---|---|---|
| 会話中に突然泣く | 「少し待ちますね」と中断し、続ける・休むを本人と選ぶ | 落ち着いて会話に戻れたか、本人が急かされなかったか |
| 人前で泣くのが怖い | 本人の同意を得て周囲へ説明し、少人数・短時間から再開する | 参加できたか、恥ずかしさや回避が減ったか |
| 家族がいつも慰め続ける | 本人の気持ちを確かめ、必要以上に悲しい理由を探さない | 本人の望む対応と一致しているか |
| 特定の場面で繰り返す | 場面・疲労・話題を記録し、時間や休憩を調整する | 生活を狭めすぎず、負担が減ったか |
これらは生活支援の具体例です。2024年のレビュー時点では非薬物療法のランダム化比較試験はなく、特定の声かけや練習で症状が治ると断定できません。本人の希望と反応を確認しながら調整します。[4]
薬物療法は医師が必要性と利益・害を検討します。2022年Cochraneレビューは7試験239人を収載しましたが、研究規模や測定法に限界があり、有効性・安全性には不確実性が残ります。抗うつ薬が検討されることと、本人がうつ病と診断されることは同じではありません。[6]
10|PDFと原資料|質問・採点・生活記録をまとめて
A4・3ページのPDFを用意しました。1ページ目:8項目の日本語参考訳と回答欄/2ページ目:採点と追加面接/3ページ目:エピソード・生活支援・再評価の記録です。
質問文はCC BY 4.0で公開された開発論文Table 2を翻訳・再編集しています。正式な尺度配布物については、開発元が非商用向けと商用向けの利用条件を別に案内しています。正式版の運用は下記から確認してください。
参考文献・公式資料
- Broomfield NM, et al. Psychometric evaluation of a newly developed measure of emotionalism after stroke (TEARS-Q). Clin Rehabil. 2021;35:894–903.
- Broomfield NM, et al. Practical guidance on use of TEARS-Q to diagnose post-stroke emotionalism. Clin Rehabil. 2021.
- University of East Anglia:TEARS-Q正式版・現行の中止条件・利用条件。
- Broomfield NM, et al. Post-stroke emotionalism: Diagnosis, pathophysiology, and treatment. Int J Stroke. 2024;19:857–866.
- Tasvuran Horata E, et al. Cross-cultural adaptation, validity and reliability of the Turkish version of the TEARS-Q. Top Stroke Rehabil. 2025;32:692–700.
- Allida S, House A, Hackett ML. Pharmaceutical interventions for emotionalism after stroke. Cochrane. 2022. 日本語要約。
- Creative Commons Attribution 4.0:開発論文の公開ライセンス。
確認日:2026年11月3日。質問の参考訳・編集:STROKE LAB。イラストは説明用のオリジナルです。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)