【2026年版】脳卒中後疲労(Post-Stroke Fatigue:PSF)の原因と対策とは?最新エビデンスを徹底解説
脳卒中後疲労は、なぜ安静で回復しないのか。
脳卒中患者の23〜59.5%が経験するとされるPSF(Post-Stroke Fatigue)。通常の疲労と根本的に異なる慢性的なエネルギー不足として理解し、適切な評価・介入・患者教育を実践するための完全ガイドです。
急性期から慢性期まで出現しうる最悪症状の一つ。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
70代男性、脳梗塞後3か月。ADL自立に向けてリハビリ中だが、週に2〜3回「体がだるい」「気力がわかない」と訴える。神経学的所見に変化はなく、感染症も否定的。リハ室での動作は問題ないのに、自室ではほとんど動けていない。
この患者の訴えは「怠け」でも「うつ病」でもありません。脳卒中後疲労(PSF)として適切に把握・対応することが求められています。
PSFは、脳卒中後のうつ病・麻痺と並ぶ重大な続発症です。しかし「疲れているだけ」と見落とされやすく、患者も周囲も適切な対応を知らないまま過ごすことが多い現状があります。

新人セラピストにとって重要なのは、「疲労の訴え=努力不足」と短絡しないことです。疲労の質を評価し、PSFとして正確に把握することが、適切な介入の出発点になります。
PSFの定義と疫学。
数十年にわたり、疲労は脳卒中後うつ病の症状の一つとして理解されていました。しかし、うつ病のない患者でも疲労を訴えることが多いことが明らかになり、現在では「脳卒中後疲労(PSF: Post-Stroke Fatigue)」という独立した症候群として扱われています(Duncan et al., 2010)。
PSFは「慢性的かつ持続的な過度のエネルギー不足を特徴とする疾患状態」です。日常生活活動に広く影響を及ぼします。
現時点では国際的に合意された明確な定義はありません。この複雑さが有病率の報告に幅(23〜59.5%)を生んでいます(Lerdal et al., 2009; Choi-Kwon & Kim, 2005)。
通常の疲労とPSFの3つの本質的な違い
通常の疲労は過度の運動から生じ、安静によって緩和されます。PSFは安静では十分に回復せず、翌日も持続するエネルギー不足が特徴です。
PSFは発症直後の急性期から長期にわたる慢性期まで、脳卒中後のさまざまな時点で出現します。一過性ではなく持続的に悩まされる患者が多い点が特徴です。
PSFはうつ病のない患者にも生じます。うつと合併する場合もありますが、PSF単独でも深刻な生活障害を引き起こします。二者を混同しない鑑別が求められます。
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神経メカニズムと責任病巣。
PSFを理解するうえで有用な比喩があります。通常の疲労が「電池を使い切った状態(過放電)」だとすれば、PSFは「充電器が壊れていて電池が回復しない状態」です。
脳卒中によって、エネルギー代謝を調整する脳内ネットワーク(前頭前野・視床下部・脳幹の網様体賦活系)が障害を受け、疲労回復機構そのものが機能不全に陥ると考えられています。
PSFに関連する神経基盤
PSFの明確な単一責任病巣は特定されていませんが、複数の研究から以下の領域の関与が示唆されています(Lerdal et al., 2011; Harbison et al., 2018)。
| 関連脳領域 | 機能・関与の可能性 | 臨床的含意 |
|---|---|---|
| 前頭前野 | 意欲・実行機能の調整。障害で慢性的倦怠感が出現 | 注意・遂行機能評価を同時に行う |
| 視床下部 | 睡眠・覚醒サイクルの制御。障害で睡眠の質が低下 | 睡眠評価をPSF評価に組み込む |
| 脳幹・網様体賦活系 | 覚醒・注意の維持。障害で処理速度が顕著に低下 | 処理速度低下はPSFのサインとして意識する |
| 炎症系(全身) | CRPなど炎症マーカー上昇との関連が示唆される | 栄養状態・感染症の有無も確認する |
関連因子の統合的整理:Naess et al.(2012年;Acta Neurol Scand)は、PSFに関与する因子として感情的障害・注意障害・疼痛・睡眠・脳卒中前疲労・炎症プロセスの複合的な関与を示しました。PSFは単一の神経因子では説明できず、多因子モデルで捉える必要があります。
認知とPSFの関係:脳卒中後の急性期から長期を調査した11研究では、FSSなどの疲労スコアとMMSEの間に有意な相関は観察されませんでした。うつ病のない患者のみを対象とした場合にこの関連が消えることから、認知障害はうつ病を介して間接的にPSFに影響する可能性が示唆されています。
鑑別診断:うつ病・アパシーとの違い。
PSFが最も混同されやすいのは「脳卒中後うつ病」と「アパシー(意欲低下)」です。三者はしばしば合併しますが、介入戦略が異なるため、丁寧な鑑別が必要です。
評価尺度と採点基準。
PSFの評価に使われる主な尺度は3種類です。臨床では簡便なFSSが最も使用されやすく、研究ではMFI-20も用いられます。いずれも「PSFの有無」を判定するスクリーニングとして機能します。
FSS(Fatigue Severity Scale)採点基準【完全版】
評価方法:各項目を1(全く当てはまらない)〜7(非常に当てはまる)の7段階で評価します。9項目の合計点(9〜63点)または平均点(1〜7点)で判定します。
カットオフ値:合計36点以上(平均4点以上)でPSFありと判定することが多いです(Valko et al., 2008)。
FSS 9項目一覧:
主要評価尺度の比較
| 尺度名 | FSS | FAS | MFI-20 |
|---|---|---|---|
| 項目数 | 9項目 | 10項目 | 20項目 |
| 評価段階 | 7段階 | 5段階 | 5段階 |
| カットオフ | 合計36点以上 (平均4点以上) |
合計22点以上 | 5下位尺度で個別判定 |
| 臨床での推奨 | ◎ 最も簡便・使用頻度高 | ○ 精神・身体疲労の区別可 | △ 研究向け・多次元評価 |
介入の段階とエビデンス。
PSFへの介入は「心理教育→ペーシング→段階的活動→多因子対応」の順で段階的に進めます。各段階にパラメータを明記して計画することが重要です。
PSFとは何かを患者・家族に説明します。「怠けではない」「脳卒中の後遺症として認められた症状である」と伝えることで、罪悪感・誤解・孤立を防ぎます。所要時間:初回15〜20分。以降は適宜確認。
活動と休息を計画的に配分します。「活動20〜30分→休息10〜15分」を基本サイクルとし、疲労が出る前に休息を入れる「プロアクティブ休息」が重要です。過活動・過少活動の両方を避けます。毎日の活動日誌で記録し、週1回の振り返りを行います。
低負荷の有酸素運動から開始し、2〜4週ごとに段階的に強度を上げます。推奨強度:最大心拍数の40〜60%、頻度:週3〜5回、時間:1回20〜40分(Mead et al., 2007)。過度な疲労が翌日まで残る場合は強度を一段階下げます。
うつ・睡眠障害・疼痛が合併する場合は、それぞれの専門的対応が必要です。単一介入でPSFが改善しない場合は、感情的障害への心理療法(CBT等)や睡眠衛生指導、疼痛管理を追加します。多職種チームとの連携が不可欠です。
主要知見:PSFの有病率は23〜59.5%。急性期から長期まで継続して出現し、リハビリ中の回復の主観的な感情に悪影響を及ぼすことが示されました。
情報提供の問題:2つの研究において、患者がPSFに関する情報をほとんど受けておらず、疲労感を適切に理解できていないことが示されました。これが不安・うつ・罪悪感・自尊心低下を招きます。
過度な要求の危険性:患者の能力を超えた活動要求は不安や抑うつを招き、特定の活動・社会生活からの離脱につながります。リハビリプログラムのペーシング設計が重要です。

脳卒中後の疲労は、本人も家族も「なぜこんなに疲れるのか」がわからず孤立しがちです。STROKE LABでは脳科学に基づいた個別プログラムで、PSFも含めた包括的なリハビリ支援を行っています。
多職種連携と環境調整。
PSFは単一職種で解決できる問題ではありません。医師・看護師・PT・OT・ST・MSWが情報を共有し、患者を中心に据えたチームアプローチが求められます。
多職種の役割分担
| 職種 | PSFへの主な関与 | 具体的な連携ポイント |
|---|---|---|
| 医師 | PSFの診断・除外診断・薬物療法 | 炎症マーカー・甲状腺機能・貧血の確認を依頼 |
| PT | 段階的活動・運動プログラムの立案 | 心拍数・疲労感でセッション強度を毎回調整 |
| OT | ADL・IADL場面でのエネルギー保存戦略 | 役割の優先順位づけ・活動の簡略化・自助具検討 |
| ST | 認知負荷の軽減・コミュニケーション支援 | 処理速度低下・注意障害と疲労の関係を共有 |
| 看護師 | 日常生活での疲労モニタリング | 睡眠記録・疲労日誌の管理をチームと共有 |
| MSW | 社会参加・在宅復帰支援 | 外出頻度・デイサービス導入のタイミングを協議 |
家族・環境への介入
「家族への説明が一番難しい。『怠けている』と誤解している家族にPSFを正確に説明できるセラピストになることが大切です。」
「過度な要求は患者に罪悪感を生む。家族が『もっとがんばって』と言いたくなる気持ちは理解できますが、PSFでは逆効果になることを丁寧に伝えましょう。」
「活動と休息のスケジュールを紙に書いて渡すと、家族も管理しやすくなります。視覚化は患者・家族の両方に有効です。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
PSFは見落とされやすく、誤解を招きやすい症候群です。以下の3つの罠は、新人臨床家が陥りやすい典型的なパターンです。
臨床判断の分岐点
「疲労の訴えを聞いたとき、最初に確認すべきは『安静で回復するか』という一点です。回復しないならPSFを疑ってください。」
「女性・高齢というだけでPSFと決めつけないこと。男性・若年でも同様に出現します。スクリーニングを全例に実施する姿勢が大切です。」
予後とゴール設定。
PSFの自然経過は個人差が大きく、一部の患者では脳卒中後数年にわたって持続することが報告されています(Naess et al., 2012)。改善を期待しつつも、長期的な管理を視野に入れたゴール設定が必要です。
①「疲労ゼロ」を目標にしない:PSFは完全消失しないことも多いです。「疲労と上手に共存しながら生活の質を高める」をゴールの軸に置きます。
②参加レベルのゴールを設定する:「散歩30分できる」より「孫と公園に行ける」のように、患者が意味を感じる参加レベルのゴールを優先します。
③短期・中期・長期に分けて段階設定する:急性期は活動ペーシングの獲得、3か月以内に参加の拡大、6か月以降に地域・社会への参加を目標の柱にします。
よくある質問(新人臨床家の疑問)。
通常の疲労は過度の運動から生じ、安静によって緩和されます。一方PSFは慢性的・持続的な過度のエネルギー不足を特徴とし、安静だけでは十分に回復しない点が大きな違いです。
日常生活活動に広く影響を及ぼし、うつ病のない患者でも生じることが確認されています。
先行研究では、脳卒中患者の23%から59.5%にPSFが生じると報告されています。
有病率の幅が大きい理由の一つは、PSFの明確な定義が国際的にまだ統一されていないことにあります。
主に使用される評価尺度としてFSS(Fatigue Severity Scale)、FAS(Fatigue Assessment Scale)、MFI-20(Multidimensional Fatigue Inventory)があります。
FSSは9項目・7段階評価でカットオフ値は36点(9項目×4点)以上がPSFとされることが多く、臨床での使用頻度が高い尺度です。
感情的障害(うつ・不安)との関連が最も強く報告されています。その他、注意障害(特に処理速度の低下)、疼痛、睡眠障害、脳卒中前疲労、炎症プロセス(CRPなど)との関連も示唆されています。
女性・高齢患者でやや多い傾向がありますが、主要因とは言えません。
まず心理教育として患者・家族にPSFの存在と特徴を説明することが重要です。介入としてはエネルギー保存戦略(ペーシング)、段階的活動プログラムが推奨されます。
活動・休息の適切な配分、日中の活動スケジュール管理、環境調整も有効です。うつや睡眠障害が合併する場合は多職種で対応します。
PSFはリハビリ中の回復の主観的な感情に悪影響を及ぼすことが示されています。過度の要求は患者の能力を超え、不安・抑うつを招き、特定の活動や社会生活からの離脱につながる可能性があります。
また患者・家族間での行動の誤解を招き、罪悪感や自尊心の低下にもつながります。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳卒中に特化した自費リハビリ施設です。脳卒中後疲労(PSF)を含む脳卒中後の続発症に対し、脳科学と徒手技術を融合した個別プログラムを提供しています。「疲れているだけ」と片づけられてきた方も、一度ご相談ください。

— STROKE LABでの脳卒中リハビリの実際の様子です。
「PSFという言葉を患者さんに伝えたとき、『自分だけではなかったんだ』とほっとした表情になった瞬間が忘れられません。まず知ることが、回復の第一歩だと実感しました。」— OT・臨床経験8年・脳卒中リハビリ専門
「活動日誌をつけてもらうと、患者さん自身が『この日の後は必ず疲れが出る』というパターンに気づきます。自己管理の力がついていく過程を一緒に見られるのが、PSFリハビリの醍醐味です。」— PT・臨床経験12年・生活期リハビリ担当
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諦めないでください。

脳卒中後疲労は、まだ多くの患者さんに正確に伝わっていない症状です。「怠けている」「やる気がない」という誤解を受けながら、孤独に疲労と向き合っているご本人・ご家族がたくさんいます。
STROKE LABでは、PSFも含めた脳卒中後の続発症を脳科学に基づいて正確に評価し、個別のリハビリプログラムを設計しています。まず無料相談で、お気持ちと状況をお聞かせください。
あなたの回復を全力でサポートします。諦めないでください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)