パーキンソン病で家の中の照明の工夫|原因と対策・自宅でできる工夫
影は迷路、光は道しるべです。
夜中、トイレへの廊下で急に足が止まる。薄暗い部屋で何かが見える気がする。パーキンソン病では、こうした場面に「光」が深く関わっていることがあります。しくみを知り、家の中の暗がりの継ぎ目を消していく、今日からできる工夫を整理します。

「暗いところが、こわい」。
寝室を出て、暗い廊下の途中で足が動かなくなる。トイレの明かりをつけると、今度はまぶしくてふらつく。日が暮れると、部屋の隅に人がいるような気がすると本人が言い出す——。ご家族からは、こうした「夜」にまつわる困りごとをよくうかがいます。
実は、こうした場面の多くに「光の当たり方」が関わっていることがあります。原因を知れば、家の中でできる工夫はたくさんあります。
パーキンソン病の症状というと、震えや歩きにくさを思い浮かべる方が多いと思います。しかし実際には、「見え方」や「光への反応」に関わる変化も少なくありません。これは自宅の照明という、比較的整えやすい環境から対策できる部分でもあります。まずはしくみを知り、そのうえで具体的な工夫を見ていきましょう。運動面のリハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
光と症状の、しくみ。
パーキンソン病で照明が大切になる理由は、ひとつではありません。いくつかの原因が重なって、暗い場所での動きにくさや、見え方の変化につながっていると考えられています。代表的なものを整理します。
| 関わる原因 | どういうことか |
|---|---|
| コントラスト感度の低下 | 明暗の差を感じ取る力が弱まり、段差や物の境目が分かりにくくなる |
| 暗がりの継ぎ目とすくみ足 | 明るさが急に変わる場所や、狭く暗い戸口で足が止まりやすい |
| 光への慣れの遅さ | 暗い所から明るい所へ移った時、目が慣れるまでに時間がかかりやすい |
| 見間違い・幻視 | 薄暗い環境や影の中で、物を見間違えたり、実際にないものが見えたりすることがある |
| 睡眠・体内リズムの乱れ | 日中の光を浴びる機会が減ると、昼夜のリズムが崩れやすくなることがある |
ここで大切なのは、原因が一つではないぶん、対策も一つではないということです。「暗さそのもの」だけでなく「暗さと明るさの継ぎ目」「影」「まぶしさ」にも目を向けると、工夫の幅が広がります。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。
STROKE LABの視点:暗がりの「継ぎ目」を消す3ステップ。
照明の工夫というと「明るくする」ことだけを考えがちですが、それだけでは不十分なことがあります。私たちが大切にしているのは、家の中にある「暗がりの継ぎ目」を消していくという視点です。次の3ステップで、動線をひとつずつ見直してみてください。
ステップ1:動線の暗闇を消さない。寝室からトイレまで、玄関から居間までなど、よく通る道に人感センサーライトを置きます。スイッチを探す間の真っ暗な時間そのものをなくすことがねらいです。
ステップ2:光を切らさず、影をつくらない。天井の一灯だけに頼ると、家具や体の影が濃く落ちて、それが見間違いや歩行のきっかけになることがあります。フットライトや壁付けの補助照明を足して、影が薄く広がる配置にします。
ステップ3:段差・出入口は照らし「分ける」。階段の一段一段や、部屋の出入口には、周囲より少し明るい照明やコントラストのあるテープを使い、「ここに境目がある」と分かるようにします。均一に明るくするのではなく、大事な境目だけ際立たせるのがコツです。
この3ステップは、一度に全部やろうとしなくて大丈夫です。まずは夜間にいちばん困っている一箇所(多くはトイレへの動線)から始め、少しずつ広げていくのがおすすめです。合う明るさや色味には個人差があるため、実際に本人と一緒に歩いて確かめながら調整すると失敗が少なくなります。

場所別、照明の工夫。
3ステップの考え方を、場所ごとの具体策に落とし込んでみましょう。生活の中でよく使う動線から優先的に整えるのがおすすめです。
| 場所 | 工夫の例 |
|---|---|
| 寝室〜トイレの廊下 | 足元の人感センサーライト。まぶしすぎない暖色系の常夜灯で、目が慣れる時間を短くする |
| 玄関・戸口 | 扉の内外で明るさの差が急に出ないよう、両側にセンサーライトを設置する |
| 階段 | 踏み面の縁にコントラストテープ、上りきり・下りきりの位置に手元灯を追加する |
| トイレ・浴室 | 立ち上がってすぐの動作に対応できるよう、入室と同時に点灯するセンサー式にする |
| 居間・寝室 | 一灯だけに頼らず複数の光源で影を減らす。夕方以降は暖色系にして就寝への切り替えを助ける |
床の模様やつやのある素材は、光の反射によって段差のように見えてしまうことがあります。可能であれば、動線上のマットや敷物はシンプルな単色にし、光が乱反射しにくい状態にしておくのも工夫のひとつです。体を大きく動かす練習とあわせて、生活の土台を整えていくと、動きやすさにもつながります。体操・自主トレ大全もあわせてご覧ください。
パーキンソン病の方を対象に、床に引いた線などの視覚の合図(キュー)を使った練習を自宅で行った無作為化比較試験(RESCUE試験)では、練習を行った群で歩行速度や歩幅などの指標が改善し、日常生活での移動のしやすさにもつながったと報告されています。視覚の手がかりを環境側から整えることが、歩行の乱れに対する一つのアプローチになりうることを示しています。
限界:この研究は床の線を使った意図的な合図の効果を検証したもので、家庭内の照明そのものを直接評価したものではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。照明の工夫は、歩行訓練や薬物治療の代わりになるものではありません。
照明の工夫が環境側からすくみ足のきっかけを減らす代償だとすれば、専門施設で目指すのは、暗がりや戸口といった苦手な場面でも歩行が崩れにくい状態に近づける回復的アプローチです。すくみ足への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 多様なキューイング。視覚の合図だけでなく、聴覚(一定のリズム)や体性感覚の合図も組み合わせ、その人にいちばん効く合図を見極めます。
2. 苦手な場面を想定した歩行練習。戸口をくぐる、方向を変える、暗い場所を通るなど、実際に困る場面を安全な環境で繰り返し練習します。
3. 姿勢とバランスの土台づくり。すくみ足が起きたときに転倒につながらないよう、姿勢の立て直しやバランス反応を高めておきます。
STROKE LABが軸足を置くのは、環境の工夫で安全を確保しながら、少しずつ苦手な場面そのものに慣れていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。

脳リハ.comのYouTubeでは、姿勢やバランスを整える体操を配信しています。環境を整えることとあわせて、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
幻視・睡眠との関わりと、受診の目安。
薄暗い環境で、実際にはないものが見える幻視や、物を見間違える錯視は、パーキンソン病の方に比較的よくみられる症状です。部屋を明るく保ち、影ができやすい家具や柄物を減らすことは、環境側からできる工夫のひとつです。ただし、幻視の頻度や内容が急に変わったときは、薬の影響や他の要因が関わっていることもあるため、自己判断で様子を見続けず、主治医に相談してください。
また、パーキンソン病では昼夜のリズムが乱れやすく、日中の眠気や夜間の不眠につながることがあります。日中にカーテンを開けて自然光を取り入れる、決まった時間に明るい場所で過ごすといった工夫は、生活リズムを整える助けになると考えられています。

パーキンソン病に伴う日中の強い眠気や睡眠の問題を対象に、時間を決めて明るい光を浴びる光療法を検証した無作為化比較試験では、光療法を行った群で日中の眠気の指標が改善したと報告されています。光の当たり方が、動きだけでなく睡眠や覚醒のリズムにも関わることを示す研究のひとつです。
限界:光療法は専門的な機器と時間帯の管理を前提とした研究であり、家庭の照明を明るくするだけで同じ効果が得られるとは限りません。効果には個人差があり、症状や体調によって適した方法は異なります。睡眠の問題が続く場合は、自己判断せず主治医に相談してください。
受診の目安は、転倒やすくみ足が増えてきた、幻視の頻度や内容が変わってきた、睡眠の乱れが日常生活に影響しているといったときです。照明の工夫は生活の土台を整える手段であり、原因の見極めや薬の調整に代わるものではありません。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。
よくある質問。
Q. なぜパーキンソン病では、照明が特に大事になるのですか?
Q. 廊下やトイレへの道ですくみ足が出やすいのですが、照明でできることはありますか?
Q. 夜、暗い部屋で人影のようなものが見えると本人が言います。これは何でしょうか?
Q. 自宅でできる照明の工夫を教えてください。
Q. 照明を整えると、動きやすさや睡眠にも関係しますか?
Q. 照明を工夫しても転びやすさが心配です。専門家に相談したほうがよいですか?
生活環境の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。ご自宅の間取りや、実際に困っている場面をうかがいながら、照明を含めた生活環境の工夫と、歩行そのものへのアプローチを組み合わせてご提案します。薬の調整は主治医を尊重し、私たちは動作と環境の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
夜が変わることがあります。

夜中にご本人が転ばないか、ご家族が眠れずに耳をすませている——そんなお話を、これまで何度もうかがってきました。「気をつける」だけでは、不安は消えません。
お伝えしたいのは、家の中の暗がりの継ぎ目を一つ消すだけで、動きやすさも、見え方の不安も、驚くほど変わることがあるということです。光は、薬とは違う角度から、生活を支えてくれる味方になります。
照明や動きにくさでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。ご自宅の間取りを一緒に見ながら、その方に合う工夫を見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。転倒や見え方の変化には他の原因もあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月22日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Nieuwboer A, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(自宅での視覚キューを用いた練習が歩行関連の指標を改善したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Videnovic A, et al. Timed Light Therapy for Sleep and Daytime Sleepiness Associated With Parkinson Disease: A Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2017;74(4):411-418.(時間を決めた光療法が日中の眠気の指標を改善したと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)