パーキンソン病で布団で寝起きすると危ない|原因と対策・自宅でできる工夫
仰向けは敵、横向きは味方です。
朝、布団から起き上がろうとして体が動かず、ふらついて転びそうになった――。パーキンソン病では、床に敷いた布団からの起き上がりが、思った以上に危険な動作になることがあります。起き方の順番を変えるだけで、体への負担もリスクもぐっと減らせます。しくみと、今日から自宅でできる工夫を整理します。

「起き上がれない」、その朝。
朝、様子を見に行くと、布団の中でもがくように体を動かしているのに、うまく起き上がれない。慌てて手を貸そうとしたけれど、どう支えればいいか分からず、二人ともバランスを崩しかけた――。そんな経験をされたご家族は、少なくありません。
でも、知ってほしいのです。これは珍しいことではなく、起き方の順番と、布団まわりの環境を変えるだけで、ぐっと安全になるということを。
パーキンソン病では、布団のような低い寝床からの起き上がりが、日中の歩行以上に難しく、転倒のリスクが高い動作になることがあります。体を大きく使う動作であるうえ、朝は特に体が動きにくい時間帯と重なりやすいためです。まずはしくみを知り、そのうえで具体的な工夫を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
布団が、危ない理由。
布団からの起き上がりには、複数の要因が重なっています。ひとつずつは小さくても、朝の布団の中では重なって出やすいという点が大切です。特徴を整理しておきましょう。
| 要因 | どういうことか |
|---|---|
| 床が低い | 布団はベッドより低いため、体を起こすのに強い脚力とバランスが必要になる |
| 体幹をひねりにくい | 体幹の硬さで、横向きになる寝返り動作がスムーズに行えないことがある |
| 朝は特に動きにくい | 起床時は前夜の薬の効果が切れやすく、動きが一時的に鈍くなりやすい |
| 立った瞬間にふらつく | 急に立つと血圧が下がる起立性低血圧が重なり、めまいが起きることがある |
ここに、立て直しのヒントが隠れています。仰向けのまま起きようとするから負担が大きいなら、起き方の順番を変えればよい。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。
パーキンソン病の方64名を対象に、三軸加速度センサーで一晩の寝返り動作を調べた研究では、布団やベッドで寝返りが困難だと感じる方は45〜82パーセントにのぼると報告されており、その困難さは日中の眠気や睡眠の質、気分の落ち込みとも関連していたとされています。
限界:関連を示した観察研究であり、原因と結果の向きまでは確定できません。報告される割合には調査方法による幅があり、症状は薬の効いている時間帯や進行度によって変動します。

STROKE LABの視点:布団を「支えのある寝床」に変える。
起き上がりの対処でいちばん手早く効くのが、布団まわりに「支え」を足すことです。何もない布団で仰向けから無理に起きようとするのではなく、動線と環境を先に整えます。次の3ステップで、今日から見直せます。
ステップ1:横向きから起きる動線を決めておく。仰向けのまま起きようとせず、まず横向きになり、下側の肘と手のひらで体を支えながら起き上がる順番を、日中の落ち着いた時間に家族と一緒に確認しておきます。
ステップ2:布団の脇に「支え」を置く。介護用の手すりや、動かない丈夫な家具を布団の脇に配置し、起き上がる途中で手をかけられるようにします。夜間用の足元灯も、暗がりでの動きにくさを減らす助けになります。
ステップ3:布団そのものの高さを見直す。布団の下にすのこや台を入れて座面の高さを出す、脚付きマットレスに替えるなど、無理なく起きられる高さに近づけます。転倒が続く場合は、介護用ベッドへの切り替えも選択肢になります。
大切なのは、体一つで頑張って起きようとしないこと。支えのある動線を先に作り、体はその動線をなぞるだけにする。合う支えの種類や配置は住まいによって異なるので、作業療法士や理学療法士と一緒に確認すると近道です。

起き方のコツと、道具。
環境を整えたら、起き方そのものと道具でさらに安全になります。合言葉は「ひざを立てる、横向き、肘で支える」。急がず、ひとつずつの動きを大きく行うことが何より大切です。
具体的には、まず両ひざを立てて足の裏を布団につけ、ひざをゆっくり横に倒して体全体を横向きにします。そのまま下側の肘、続いて手のひらで体を支えながら、上体を起こしていきます。「1・2・3」と声に出しながら区切って動くと、動作のきっかけをつかみやすくなります。厚い掛け布団に体が絡まると余計な負担になるため、掛け布団は軽めのものを選ぶか、足元をゆるめに整えておくと動きやすくなります。体幹をひねる運動をふだんから行っておくと、この動きも安定しやすくなるので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。
自宅での工夫が、手すりや高さの調整でその場で起きやすくする代償だとすれば、専門施設で目指すのは、体幹のひねりそのものを引き出し、寝返り・起き上がりの動作自体を立て直すアプローチです。働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. カウントやリズムによる介助。「1・2・3」といった声かけや一定のリズムを使い、動作の区切りをつかみやすくします。
2. 体幹回旋の運動学習。ひざの左右倒しや、大きく体をひねる運動を繰り返し、寝返りに必要な体幹の可動性を引き出します。
3. 住環境の調整。布団やベッドの高さ、手すりの位置、動線の障害物などを実際の生活場面で確認し、その人に合う配置を一緒に考えます。
STROKE LABが軸足を置くのは、短時間でも繰り返し練習することで、寝返り・起き上がりの動作を体に覚え込ませていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
パーキンソン病の方を対象に、1回30分の起き上がり練習を1日3回、短期間集中して行った研究では、練習後にベッド上の動作評価と、寝返り動作・体の緩慢さの評価スコアが、いずれも統計的に有意に改善したと報告されています。1回あたりの時間を短くし、日に何度も繰り返すことが、動作の質の改善につながったと考察されています。
限界:対照群を置かない前後比較の小規模研究で、長期的な効果の持続は今後の研究課題とされています。効果には個人差があり、練習は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。

脳リハ.comのYouTubeでは、体を大きくひねる体操を配信しています。寝返り・起き上がりの土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際の布団やベッドの環境を確認したうえで、その人に合う起き方の動線、手すりの位置、寝具の高さを一緒に調整します。「実際に困っている場面」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。朝の動きにくさが強い場合は、薬の内服時間の調整で改善することもあるため、主治医への相談もあわせて行います。
受診の目安は、起き上がりに関連した転倒が起きた、または繰り返している、立ち上がった瞬間に強いふらつきや意識が遠のく感覚がある、朝の動きにくさが長く続いて生活に支障が出ている、といったときです。ふらつきの原因は起き上がりの動作だけとは限りません。自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 布団で寝起きすると転びやすいのはなぜですか?
Q. 仰向けからではなく横向きから起きるとよいのはなぜですか?
Q. 自宅でできる起き上がりの練習はありますか?

Q. 布団のままでも安全に過ごせますか?ベッドに変えるべきですか?
Q. 朝、特に体が動かないのですが、これは病気が進んでいるということですか?
Q. 立ち上がった瞬間にふらつくのですが、これも同じ原因ですか?
起き上がりの相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。実際に困っている起き上がりの場面を一緒に確認し、動線・道具・寝具の環境を、その人に合わせて組み立てます。朝の動きにくさが強い方には、生活リズム全体を見ながら練習の組み立てを行います。薬の調整は主治医を尊重し、動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
起き上がりは変わります。

「朝、布団から出るだけで一苦労なんです」。そう話すご本人・ご家族に、たくさん出会ってきました。一日のいちばん最初の動作で転びそうになる不安は、その日一日の気持ちにも影響します。
お伝えしたいのは、仰向けから頑張るのをやめ、横向きの動線を味方につけるだけで、起き上がりは驚くほど変わることがあるということです。支えを整え、ひざを立てて横向きに。ちょっとした工夫で、安心して迎えられる朝はまだまだ広がります。
起き上がりでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う起き方と環境を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。ふらつきや立ちくらみには他の原因もあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月21日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Uchino K, et al. Impact of inability to turn in bed assessed by a wearable three-axis accelerometer on patients with Parkinson’s disease. PLoS One. 2017;12(11):e0187616.(寝返り困難の頻度と、睡眠の質・気分との関連を報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Sankarapandiani VV, Lele DC, Pandian IJK. Short Duration, Intensive Bed Mobility Training in Idiopathic Parkinson’s Patients- One Group Pre-post Test Study Design. J Clin Diagn Res. 2019;13(10).(短時間・高頻度のベッド上動作練習が寝返り・起き上がりの評価スコアを有意に改善したと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)