パーキンソン病でラグ・コード類の片づけ方|原因と対策・自宅でできる工夫
床の段差は、見えない敵です。
住み慣れた部屋のラグの端、延長コード、わずかな段差。それが、パーキンソン病では思いがけない転倒のきっかけになります。理由はすり足やすくみ足だけではありません。複数の原因が重なって起こる転倒を、床の片づけ方から防ぐ方法を整理します。

「まさかここで」、転んだ。
外を歩くときは注意していたのに、リビングの見慣れたラグでつまずいた。台所の延長コードに足が絡まりそうになった。ご本人もご家族も「なぜここで」と驚かれることが少なくありません。
実は、住み慣れた自宅だからこそ、気を抜きやすく、小さな段差や線が転倒の引き金になりやすいのです。
パーキンソン病の転倒は、外出先の階段や坂道よりも、実は自宅の中で起こることが多いと言われています。ラグの端、コード、少しの段差、家具の脚。どれも見慣れているために油断しやすく、しかも歩き方や体の反応がパーキンソン病によって変化しているため、健康なときと同じ感覚では対応しきれません。まずは、なぜ転びやすくなるのか、そのしくみから見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
転びやすくなる、5つの背景。
「不注意だから」ではありません。パーキンソン病では、歩き方・バランス・見え方・血圧の調整・注意の配分など、複数の変化が重なって、床の小さな障害物に対応しにくくなります。ひとつずつ整理します。
| 背景 | ラグ・コードとの関係 |
|---|---|
| すり足歩行 | 足が十分に上がらず、ラグの端やコードの盛り上がりに爪先を引っかけやすい |
| すくみ足 | ドアの前や狭い通路、床材が変わる境目で足が止まり、体だけ前に傾いてバランスを崩す |
| 姿勢反射障害 | つまずいた瞬間にバランスを立て直す反応が遅れ、転倒に直結しやすい |
| 視覚・空間認知の変化 | 床の色や模様が似ていると、段差や境目の高さを判断しづらくなる |
| 起立性低血圧・二重課題 | 立ち上がった直後のふらつきや、話しながら歩くなど「ながら動作」で注意が散り、足元への意識が薄れる |
これらは単独ではなく、重なって起こるのが特徴です。だからこそ、体の対策(運動・リハビリ)だけでなく、環境の対策(床の片づけ方)を同時に行うことが、転倒予防では欠かせません。次の章から、具体的な片づけ方を見ていきましょう。

STROKE LABの視点:床を「つまずきゼロ動線」に変える。
転倒予防でいちばん手早く効くのは、よく歩く経路(動線)を、障害物のない一本の道にすることです。玄関からトイレ、寝室からリビングなど、毎日通る道を思い浮かべながら、次の3ステップで見直してみてください。
ステップ1:動線を見える化する。玄関からベッド、リビングからトイレなど、よく歩く経路に何があるか、実際に自分の足で歩いて確認します。ラグの端、コードの這わせ方、家具の脚の位置を、紙に簡単な図を書き出すと見落としが減ります。
ステップ2:段差と境目をゼロに近づける。動線上のラグは思いきって撤去するのが最も安全です。どうしても必要な場合は、四辺すべてを滑り止めテープや両面テープで床に固定し、端がめくれないようにします。床材の切り替わり部分(フローリングと畳の境目など)は、段差解消スロープで緩やかにつなぎます。
ステップ3:配線を動線から追い出す。延長コードは壁沿いに配線カバーやモールでまとめ、歩く経路を横切らないルートに変えます。可能ならコンセントの位置自体を動線の外に移す、コードレス家電に置き換えるのも有効です。
さらに、すくみ足が出やすい場所(ドアの前や曲がり角)には、床に色の違うテープで一定間隔の線を引くと、それが歩幅の目印(視覚のキュー)となり、足が止まりにくくなることがあります。片づけと同時に、この目印づくりも取り入れてみてください。合う配置や間隔は人それぞれなので、理学療法士や作業療法士と一緒に調整すると近道です。

部屋別、チェックポイント。
全部を一度に変える必要はありません。よく通る部屋から、ひとつずつ見直していきましょう。
リビングでは、テレビ台やこたつまわりのコード、ソファ前の小さなラグが要注意です。寝室では、ベッドサイドの敷物と、夜間にトイレへ向かう暗い動線が危険で、足元灯を置くだけでも安心感が変わります。廊下・トイレ前は幅が狭くすくみ足が出やすいため、床の目印テープが特に有効な場所です。台所は延長コードが集まりやすく、電気ケトルやポットのコードが足元を横切っていないか確認してください。玄関は上がり框の段差に加えて、靴を脱ぐ動作で二重課題(体を支えながら別の作業をする)になりやすい場所です。手すりや腰かけを置けるかどうかも検討してみましょう。
パーキンソン病の方を対象に、自宅で視覚・聴覚の目印(キュー)を使った歩行練習を行った研究では、練習を続けたグループで、すくみ足の頻度や転倒の回数が改善したと報告されています。
限界:対象人数は限られており、効果には個人差があります。進行に伴って必要な工夫も変わるため、定期的な見直しが必要です。目印を使った練習は、環境調整や薬物治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での片づけが危険そのものを取り除く対策だとすれば、専門施設で目指すのは、多少の段差や不意の障害物にも、体が対応できる力を養う回復的アプローチです。転倒予防への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. すくみ足へのキューイング訓練。視覚・聴覚・体性感覚など、その人にいちばん響く目印を見極め、実際の生活動線で使えるように練習します。
2. バランス反応の再学習。つまずいた瞬間に立て直す力(姿勢反射)を、安全な環境で繰り返し引き出し、実際の生活場面でも使えるように鍛えます。
3. 二重課題への対応力。歩きながら話す、荷物を持つといった「ながら動作」でも足元への注意が保てるよう、段階的に難易度を上げた練習を行います。
STROKE LABが軸足を置くのは、環境調整で危険を減らしながら、同時に体の対応力を底上げしていくという両輪の考え方です。片づけだけに頼らず、体そのものの安全マージンを広げる設計を専門的に組み立てます。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。血圧やふらつきに関わる薬の調整は主治医の役割です。
転倒歴のあるパーキンソン病の方を対象にした無作為化比較試験では、バランスと下肢筋力に焦点をあてた運動プログラムを継続したグループで、通常ケアのみのグループに比べて転倒の発生率が有意に低かったと報告されています。環境を整えるだけでなく、体の機能を保つ運動が転倒予防に直接寄与することを示す結果です。
限界:対象はすでに転倒歴のある方が中心で、効果には個人差があります。プログラムには専門的な評価と段階づけが前提となっており、自己流での実施はかえって転倒リスクを高めることがあります。運動は薬や環境調整の代わりではなく、組み合わせて使うものです。

脳リハ.comのYouTubeでは、バランス力や下肢の筋力を保つ体操を配信しています。環境調整とあわせて、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際の自宅の間取りや生活動線をうかがいながら、その人の歩き方の癖に合わせて「どこが危険か」「どう動けば安全か」を一緒に確認します。すくみ足が出やすい場所、姿勢反射が弱まっている方向など、外からは気づきにくい点を評価できるのが専門職の強みです。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作と環境の側から支えます。
受診の目安は、転倒を繰り返す、立ち上がったときのふらつきが強くなった、これまでなかった場所でもつまずくようになった、といったときです。転倒の原因はパーキンソン病の症状変化だけとは限りません。自己判断せず、神経内科や主治医に相談してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. なぜパーキンソン病になると、ラグやコードで転びやすくなるのですか?
Q. ラグは全部撤去したほうがいいのでしょうか?

Q. コード類はどう片づければ安全ですか?

Q. 床にテープで線を引くと、なぜ転倒予防になるのですか?
Q. 転倒予防は運動でも意味がありますか?
Q. 急に立ちくらみでふらつくのも、片づけと関係がありますか?
転倒予防の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。実際の生活動線をうかがいながら、環境調整の具体案と、体の対応力を高める運動の両方を組み立てます。転倒を繰り返して不安な方、外出が怖くなってしまった方も、まずはお気軽にご相談ください。薬の調整は主治医を尊重し、動作と環境の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
安心は変わります。

「一度転んでから、家の中を歩くのが怖くなった」というお話を、たくさん聞いてきました。慣れ親しんだ自宅で転ぶことは、体だけでなく心にも大きな影響を残します。
お伝えしたいのは、床のラグを1枚固定し、コードを1本壁沿いに動かすだけでも、安心して歩ける場所は確実に広がるということです。原因を理解し、環境を整え、体の力も同時に育てる。この両輪で、自宅がいちばん安全な場所になるよう、私たちはお手伝いします。
転倒が心配なとき、どうぞ一度ご相談ください。ご自宅の状況をうかがいながら、その方に合う片づけ方と体づくりを一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。転倒の原因は複数重なることがあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月22日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Nieuwboer A, et al. Cueing training in the home reduces freezing of gait in Parkinson’s disease patients: a randomised controlled trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(自宅での視覚・聴覚キュー訓練がすくみ足の頻度と転倒回数を改善したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Canning CG, et al. Exercise for falls prevention in Parkinson disease: a randomized controlled trial. Neurology. 2015;84(3):304-312.(バランス・下肢筋力に焦点をあてた運動プログラムが転倒発生率を有意に減少させたと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)