運動でパーキンソン病の進行は遅らせられるのか?|強さ(強度)と量の話
運動量とパーキンソン病との関係|予後予測と強度は?
「運動が大事」とはよく聞く。けれど、どのくらいの強さで、どれだけやれば意味があるのかは、あまり語られません。近年の研究は、ある程度きつめの運動が、進行に関わる可能性を示しています。治すためではなく、経過に関わるために。強さと量を、根拠から整理します。

運動の位置づけが、変わってきた。
毎日散歩はしている。体操もやっている。でも、これで進行に関われているのか分からない。もっとやるべきなのか、今のままでいいのか。誰も具体的な強さや量を教えてくれない——。
この問いに、近年の研究は少しずつ答えを出しつつあります。ポイントは「何をするか」だけでなく「どのくらいの強さでやるか」。運動は、症状をやわらげるだけの手段から、経過に関わりうる手段へと、位置づけが変わってきています。
これまで運動療法は、「今ある症状をやわらげ、体力を保つための対処」として位置づけられてきました。それはもちろん正しく、大切なことです。日本神経学会のガイドラインでも、薬物療法や手術療法とあわせて運動療法を行うことが、運動症状の改善に有用とされています。
ここに、近年もう一歩踏み込んだ見方が加わりました。ある程度きつめの運動を続けると、症状の進み方そのものがゆるやかになる可能性を示す研究が出てきたのです。運動は「症状への対処」から「経過に関わる介入」へ。ただし、ここで誤解してほしくないことがあります。運動でパーキンソン病そのものが治るわけではありません。誇大な宣伝には注意が必要です。この記事は、治すためではなく、経過に前向きに関わるために、どんな運動を・どのくらいの強さで・どれくらい続ければよいのかを、根拠から整理するものです。
リハビリ全体の地図はリハビリ完全ガイドにまとめています。具体的な体操の続け方は体操・自主トレ大全で扱っています。本記事は、その中でも特に「強さと量」に絞って掘り下げます。

研究で、わかってきたこと。
「運動が進行に関わる」という主張は、印象論ではありません。診断からまもない方を対象に、運動の強さを変えて比べた研究が、その手がかりを与えています。中でも代表的なのが、次のエビデンスボックスで紹介する試験です。
診断から5年以内で、まだ薬を始めていないパーキンソン病の方128名を、高強度(最大心拍数の80〜85%)・中強度(60〜65%)・運動なしの対照の3グループに分けて、半年間追跡した研究があります。その結果、高強度の運動を続けたグループは、6か月後も運動症状が悪化せずに保たれたのに対し、運動をしなかったグループでは悪化がみられました。ある程度きつい強さが、進行への関わりの鍵になりうることを示した結果です。ただし、これは半年間の比較的元気な方を対象にした研究で、効果を保つには続けることが前提であり、同じ強さが誰にでも安全とは限りません。強さは必ず主治医と相談して決めてください。
この研究が投げかけるメッセージは、シンプルです。運動をするなら、楽な強さで終わらせず、無理のない範囲で少し強度を上げたほうが、進行への関わりという点では期待が持てる。逆に言えば、「やるかやらないか」だけでなく「どのくらいの強さでやるか」が問われているということです。次の章では、その「強さ」をどう捉えればよいかを整理します。

強さの3段階を、知る。
「ある程度きつい強さ」と言われても、どのくらいか分かりにくいものです。運動の強さは、大きく3段階に分けて考えると整理できます。研究で進行への関わりが注目されたのは、下の表でいう「きつめ」の水準です。ご自身が今どのあたりで運動しているかを、当てはめてみてください。
| 強さ | 体感の目安(会話・息づかい) | 心拍数の目安 |
|---|---|---|
| 軽い | ふつうに会話できる。息はほとんど乱れない。ゆっくりの散歩 | 最大心拍のおよそ50〜60% |
| 中くらい | 会話はできるが、少し息がはずむ。うっすら汗ばむ速歩 | 最大心拍のおよそ60〜70% |
| きつめ | 短い返事が精一杯。会話がとぎれがち。しっかり息がはずむ | 最大心拍のおよそ80〜85% |
※最大心拍数のおおよその目安は「220−年齢」で概算できますが、薬や持病で変わります。実際の目標心拍は必ず主治医・療法士に確認してください。数値はあくまで参考です。
多くの方は、自分では運動しているつもりでも、実際には「軽い」にとどまっていることがあります。もちろん軽い運動にも価値はありますが、進行への関わりを期待するなら、無理のない範囲で「中くらい」から「きつめ」を目指したいところです。とはいえ、いきなり最高強度を狙う必要はありません。次の章で、心拍数に頼らずに強さを測る、現実的な方法をお伝えします。

STROKE LABの視点:強さは、数字だけで測らない。
研究で使われた「最大心拍の80〜85%」という数字は、とても分かりやすい指標です。けれど、当施設で在宅の自主トレを見ていて感じるのは、家庭で心拍数だけを頼りに強さを管理するのは、意外と難しいということです。心拍計がなければ測れませんし、パーキンソン病では薬や自律神経の影響で心拍が読みにくいこともあります。数字に縛られて、かえって運動が続かなくなっては本末転倒です。
そこで私たちが臨床で使うのは、「動きの大きさ」と「手ごたえ」の掛け算で強さを捉えるという見方です。強さは、心臓を追い込むことだけを指すのではありません。一歩を大きく踏み出す、腕を大きく振る、しっかり踏ん張る——動きを大きくすると、自然と使う筋肉と息づかいが増え、強さが上がります。パーキンソン病では動きが小さくなりやすいので、「大きく動く」ことが、そのまま「強さを上げる」ことにつながるのです。ここは、体操の記事でお伝えした「大きく動く」という原則が、進行への関わりという文脈で改めて効いてくるところです。
具体的な手ごたえの目安は3つです。ひとつ、少し息がはずんで、短い返事が精一杯なくらい。ふたつ、運動の後に心地よい疲れがあり、翌日には残らないくらい。みっつ、動きが小さく縮こまらず、大きく動けているか。この3つがそろっていれば、心拍を測らなくても、進行への関わりが期待できる強さに近づいています。数字はあくまで参考、体の手ごたえを主役にする。これが、続けられて、かつ効かせる強さの決め方です。

4つの運動を、どう組むか。
進行への関わりで注目されているのは有酸素運動ですが、それだけをやればよいわけではありません。運動は大きく4種類あり、役割が違います。有酸素運動を軸にしながら、他の3つを組み合わせるのが理想です。
速歩、自転車、トレッドミル歩行、水中歩行など。少し息がはずむ強さを続けることが、体力の維持と、進行への関わりの面で注目されています。まずはここを、週の運動の中心に置きます。安全に行える方は、無理のない範囲で強度を上げていきましょう。
立ち座りの繰り返し、かかと上げ、スクワットなど。姿勢を保ち、転倒を防ぐための体幹と下肢の力を維持します。回数を追うより、正しい姿勢で大きく動かすことを優先してください。週2〜3回が目安です。
片足立ち、体重移動、方向転換の練習など。転倒を防ぐ力を養います。必ず手すりや壁の近くで、支えられる状態で行ってください。太極拳やヨガのように、楽しみながらバランスを鍛えられる運動もおすすめです。
こわばりやすい胸、背中、股関節、首をゆっくり伸ばします。動きの土台になる柔らかさを保つ運動で、毎日行う価値があります。反動をつけず、息を吐きながら伸ばしてください。運動の前後に取り入れると、けがの予防にもなります。
量の目安は、中等度の運動で週合計150分程度が一つの基準です。たとえば、少し息がはずむ速歩を1回30分、週5回。これに筋トレとバランスを週2〜3回、ストレッチを毎日。ただし適量は病期や体力で異なります。ダンスやボクシング型のプログラムなど、楽しみながら続けられる運動も、この4種類の要素を含んでいれば同じように役立ちます。大切なのは種類そのものより、続けられて、かつ十分な強さがあることです。個別の体操の選び方は体操・自主トレ大全にまとめています。

脳リハ.comのYouTube(登録者約6.4万人)では、続けやすい体操を配信しています。まずは軽い強さから始め、慣れてきたら少しずつ大きく、力強く動かしてみてください。
安全に、強さを上げる。
強さが鍵だからといって、いきなりきつい運動を始めるのは危険です。安全に強度を上げるには、順序があります。次のステップで、少しずつ進めてください。
強度を上げることと、無理をすることは違います。目指すのは、続けられる範囲でいちばん大きく・力強く動くこと。疲れをためて運動が嫌になったり、転倒してけがをしたりしては、かえって逆効果です。転倒への備えは転倒予防ガイドもあわせてご覧ください。

続けるための、工夫。
どんなに良い強さで運動しても、続かなければ意味がありません。研究でも、効果を保つには続けることが前提でした。三日坊主にならないための、現実的な工夫を紹介します。
好きな運動を選ぶ。強さが同じなら、続けやすい運動がいちばんです。音楽に合わせる、外の景色を楽しむ、仲間と行う。楽しめる形を優先してください。
記録する。やった日、強さの手ごたえ、翌日の調子をメモします。続いている実感が力になり、主治医との相談材料にもなります。
生活に溶け込ませる。買い物を速歩で、階段を使う、家事を大きく動いて行う。研究でも、家事や仕事に伴う活動にも一定の意味があると示されています。運動の時間が取れない日も、日常の中で体を大きく動かせます。
できない日を責めない。調子の悪い日は軽い運動や休息でよいのです。ゼロにしないこと、そして長く続けることが、いちばん大切です。
やってはいけないこと。
| 避けたいこと | 理由 | 代わりに |
|---|---|---|
| 相談せず急にきつい運動を始める | 心臓や関節に負担がかかり、思わぬ事故につながる | 主治医に相談し、低い強さから慣らして上げる |
| 薬が切れた時間にきつい運動をする | 動きにくく転倒しやすい。失敗体験で自信も失う | きつい運動はオン時間に。オフ時間は軽い運動に |
| 数字にこだわり追い込みすぎる | 疲労がすくみや転倒を増やし、続かなくなる | 翌日に残らない範囲を守る。手ごたえを目安にする |
| 自己判断で薬を減らして運動に置き換える | 運動は薬の代わりにならない。症状が急に悪化しうる | 薬は主治医の指示どおりに。運動は薬と組み合わせる |
専門リハで、できること。
「どのくらいの強さが、自分にとって安全で効果的か」は、一人ひとり違います。専門のリハビリでは、その人の体力・心臓や関節の状態・薬の効く時間を評価したうえで、安全に取り組める強さと運動の種類を、その人に合わせて設計します。動きの大きさや踏ん張りが十分かも動作分析で確認し、より効かせられる体の使い方をお伝えします。進行のなかで身体機能を守るための考え方を、動画でもご覧いただけます。
進行を見すえ身体機能を守る7つの鍵(脳リハ.com)。効果には個人差があります。
よくある質問。
Q. 運動でパーキンソン病の進行を遅らせることはできますか?
Q. 軽い散歩だけでは足りないのですか?
Q. どのくらいの強さ・量が目安ですか?
Q. きつい運動は体に悪くないですか?
Q. 有酸素運動と筋トレは、どちらがよいですか?
Q. 運動はいつから始めるのがよいですか?
運動の強さと種類は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。進行への関わりを目指す運動では、その人の体力・状態・薬の効く時間を評価し、安全に取り組める強さと種類を、動作分析にもとづいて設計します。数字に頼りすぎず、体の手ごたえで強さを管理する方法もお伝えします。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動の強さや種類の選び方、続けるための考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
続けられる強さで、大きく動く。

「運動が進行に関わる」という研究は、大きな希望です。ただ、その希望を数字のノルマにしてしまうと、続かなくなる方をたくさん見てきました。
私が臨床で大切にしているのは、心拍計の数字より、その人が大きく、力強く動けているかという手ごたえです。動きを大きくすれば、強さは自然とついてきます。そして、続けられる強さこそが、いちばん効く強さです。
今の運動が自分に合っているか不安な方は、どうぞ一度ご相談ください。診断名ではなく、あなたの体力と生活から、安全で続けられる強さを一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。運動の可否や強度は、必ず主治医・担当療法士にご相談ください(最終確認日:2026年7月5日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- ParkinsonNet:European Physiotherapy Guideline for Parkinson’s Disease
- Schenkman M, Moore CG, Kohrt WM, et al. Effect of High-Intensity Treadmill Exercise on Motor Symptoms in Patients With De Novo Parkinson Disease: A Phase 2 Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2018;75(2):219-226.(診断5年以内・未服薬のPD患者128名を高強度・中強度・対照の3群に分けた第2相RCT。高強度群で6か月後の運動症状の悪化が抑えられたと報告。エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史・丸山聖矢:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)