パーキンソン病の声・飲み込み・表情|小さくなる、そして気づけないを越えて
パーキンソン病の構音・嚥下・表情の変化|仕組みの理解とリハビリの進め方
ちゃんと話しているのに聞き返される。食事でむせる。表情がないと誤解される——。声も飲み込みも表情も、根っこは同じです。小さくなり、そして自分では気づきにくい。その仕組みを知れば、向き合い方が見えてきます。

聞き返される、むせる、というつらさ。
自分では普通に話しているつもりなのに、家族に「聞こえない」と言われる。電話が苦手になった。食事でむせることが増えた。表情がないと言われ、怒っているのかと誤解される——。声と飲み込みと表情の変化は、人と関わる自信を少しずつ奪っていきます。
でも、これらはバラバラの問題ではありません。共通の根っこがあり、共通の向き合い方があるのです。仕組みを知ることが、最初の一歩になります。
声が小さくなる症状は、パーキンソン病の発症初期から現れることもある、よくある変化です。多くの方が経験します。飲み込みにくさや表情の乏しさも、進行とともに現れやすい症状です。これらは、人と話す、食事を楽しむ、気持ちを伝えるという、暮らしの根っこに関わります。だからこそ、早めに知って向き合う価値があります。
この記事では、まず声・飲み込み・表情の3つに共通する仕組みを整理し、そのうえで、それぞれに家庭でできることをお伝えします。ただし一つだけ、先にお約束したいことがあります。飲み込みの安全は、命に関わる大切なことです。危険なサインについては、後で詳しくお伝えし、専門家への相談をおすすめします。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
3つに共通する、根っこ。
声・飲み込み・表情は、別々の症状に見えます。けれど、その根っこは同じです。パーキンソン病では体全体の動きが小さくなりますが、それは手足だけでなく、顔・口・喉の動きにも起こります。この共通の仕組みが、3つの症状を生み出しています。
| 症状 | 動きが小さくなる場所 | 現れ方 |
|---|---|---|
| 声が小さい | 息を送る筋肉、声帯を動かす喉の筋肉 | 声量が下がる、抑揚が乏しい、聞き返される |
| 飲み込みにくい | 舌、喉、飲み込みに関わる筋肉 | むせる、食事に時間がかかる、気づかない誤嚥 |
| 表情が乏しい | 顔の表情を作る筋肉 | 無表情に見える、感情が伝わりにくい、誤解される |
同じ根っこから生じるということは、向き合い方も共通するということです。どれも、動きが小さくなっているのなら、あえて大きく動かすことが対策の柱になります。声なら大きく、口なら大きく開け、顔なら大きく表情を作る。ただし、ここにもう一つ、見落とされがちな共通点があります。それが、次の章でお伝えするこの記事の核心です。

STROKE LABの視点:小さくなる、そして気づけない。
前の章で、3つの症状は「動きが小さくなる」という共通の根から生じるとお伝えしました。ここにもう一つ、当施設が最も大切だと考える共通点があります。それは、本人が、その小ささに気づきにくいということです。
これは、姿勢の記事でお伝えした「まっすぐの感覚のずれ」と、同じ仕組みです。パーキンソン病では、自分の状態を感じ取る感覚がずれます。だから、声は「ふつうに話しているつもりで小声」、飲み込みは「むせないのに誤嚥している」、表情は「無表情の自覚がない」。3つとも、小さくなっているのに、本人はそれに気づけないのです。周りが気づいて指摘しても、本人はピンとこない。ここに、この症状の難しさがあります。
だからこそ、対策は2つをセットにする必要があります。ひとつは、意識して大きく動かすこと。もうひとつは、録音・録画・家族の指摘で客観的に確かめること。大きくするだけでは、本人は「大きすぎるのでは」と感じてやめてしまいます。実際にはちょうどよい大きさなのに、感覚がずれているからです。だから、外からの手がかりで「これで届いている」と確認することが欠かせません。この意識と客観視のセットが、声にも飲み込みにも表情にも、共通して効く考え方です。次の章から、それぞれ具体的にお伝えします。

声の、リハビリ。
声のリハビリの柱は、意識して大きく声を出すことです。前の章でお伝えしたとおり、大きくするだけでなく、録音で客観的に確かめることをセットにします。次の順序で、家庭でも始められます。薬が効いている時間に、無理のない範囲で行ってください。
声は息に乗って出ます。まず、ゆっくり大きく息を吸って、長く吐く練習をします。胸を開いて深く呼吸できると、声を支える力が育ちます。前かがみの姿勢だと息が浅くなるので、背すじを伸ばして行いましょう。
大きな声で「あー」とできるだけ長く発声します。自分では大きすぎると感じるくらいが、ちょうどよいことが多いです。感覚がずれているので、遠慮せず大きく出しましょう。朗読や歌も、大きく声を出す良い練習になります。
スマートフォンで自分の声を録音し、聞き返します。「大きすぎる」と思った声が、実際にはちょうどよいと分かることが多いです。家族に「今の声は届いた」と教えてもらうのも、同じく大切な手がかりです。感覚のずれを、外から補正しましょう。
パーキンソン病の声に対して、国際的に知られた集中的な発声プログラム(LSVT LOUD)の効果を調べた研究があります。このプログラムが効果を上げる理由は、単に大きく声を出す練習をするだけでなく、ふつうの声の大きさの感覚を再調整し、自分の声を客観的に感じ取れるようにする点にあると報告されています。つまり、動きを大きくすることと、感覚のずれを直すことの両方が鍵だという裏づけです。ただし、これは専門家による集中的な指導を前提としたプログラムで、効果には個人差があり、続けることが前提です。家庭での練習は、その考え方を取り入れる形になります。
この集中的なプログラムそのものについては、受けられる場所や進め方を含めて別の記事で詳しく扱う予定です。まずは家庭で、深呼吸と大きな発声、そして録音での確認から始めてみてください。
飲み込みの、安全を守る。
ここは、この記事でいちばん大切な部分です。飲み込みにくさは、命に関わることがあります。食べ物や唾液が誤って気管に入る誤嚥は、肺炎の原因になります。特に注意したいのは、むせないのに誤嚥している、気づきにくいタイプです。だからこそ、まず危険なサインを知ってください。
食事中や食後によくむせる。特に水分でむせやすいときは注意します。
食後に声がかれる、ゴロゴロする。喉に食べ物が残っているサインのことがあります。
食事に時間がかかる、体重が減る。飲み込みにくさで食べる量が減っている可能性があります。
熱を繰り返す。気づかない誤嚥による肺炎の可能性があり、特に注意が必要です。
これらのサインがあるときは、自己判断で様子を見ず、早めに主治医や言語聴覚士に相談してください。専門家が飲み込みの状態を評価し、安全な食べ方を一緒に考えます。そのうえで、日ごろの食事で気をつけられる基本の工夫を、次にまとめます。
| 場面 | 安全のための工夫 |
|---|---|
| 食べる姿勢 | 背すじを伸ばし、少しあごを引いて食べる。前かがみや上向きは避ける |
| 一口の量 | 一口を小さくし、口の中を空にしてから次を入れる。急がない |
| 水分の工夫 | さらさらの水分でむせるときは、とろみをつける。必ず専門家に相談して調整する |
| 飲み込みの確認 | 一度ごくんと飲んだあと、もう一度空で飲み込んで喉に残さない |
| 薬の飲み方 | 薬が飲みにくいときは自己判断で砕かず、主治医や薬剤師に相談する |
声を出す練習は、実は飲み込みにも良い影響があると言われています。喉の筋肉を使うからです。ただし、飲み込みの工夫は一人ひとり状態が違うので、とろみの濃さや食べ方は、必ず専門家に合わせてもらってください。ここは安全を最優先に、自己流を避ける部分です。

脳リハ.comのYouTube(登録者約6.4万人)では、声や口を大きく動かす体操を配信しています。毎日の習慣に取り入れてみてください。
表情の、リハビリ。
表情が乏しくなるのは、顔の筋肉の動きが小さくなるためです。仮面のような顔と表現されることもあります。ここで何より大切なのは、これは症状であって、本心とは別だと家族に知ってもらうことです。気持ちは変わらないのに、それが顔に出にくいだけ。この理解が、誤解による傷つきを防ぎます。
鏡を見ながら、大きく口を開ける、目を見開く、眉を上げる、頬を膨らませる。声と同じで、自分では大げさに感じるくらいが、ちょうどよいことが多いです。鏡が、感覚のずれを補う手がかりになります。
口角を上げて、はっきりと笑顔を作ります。声を出す練習と一緒に行うと、顔と口が同時に動いて効果的です。楽しい会話や、好きな歌を歌う時間も、自然に表情を動かす良い機会になります。
表情で伝わりにくいぶん、言葉で気持ちを伝え合うと誤解が減ります。家族の側も、表情が乏しくても本心は別だと理解しておく。この両方向の歩み寄りが、関係を守ります。

家庭でできる、自己チェック。
この記事の核心は、自分では気づきにくいということでした。だからこそ、気づくための仕組みを暮らしに置くことが役立ちます。次の3つは、感覚のずれを外から補い、変化に早く気づくための方法です。
声を、録音する。ときどき自分の声を録音し、以前と比べます。声の大きさの変化に、自分で気づけるようになります。
表情を、録画する。会話の様子を短く録画して見返すと、表情の動きを客観的に確認できます。月に一度など、定期的に見ると変化に気づけます。
家族に、率直に教えてもらう。「今の声は聞こえた」「むせていた」と、遠慮なく教えてもらう約束をします。家族の目と耳が、いちばん身近なセンサーになります。
大切なのは、指摘を責められたと受け取らないことです。感覚がずれているのは病気の仕組みで、あなたのせいではありません。外からの手がかりは、あなたを支える味方です。記録した変化は、主治医や言語聴覚士に相談するときの材料にもなります。

やってはいけないこと。
| 避けたいこと | 理由 | 代わりに |
|---|---|---|
| むせを我慢して様子を見続ける | 誤嚥性肺炎につながる危険がある。命に関わることも | 危険なサインがあれば早めに主治医・言語聴覚士へ |
| 自己判断でとろみや食形態を極端に変える | 濃すぎるとろみは、かえって飲み込みにくいこともある | とろみの濃さや食形態は専門家に合わせてもらう |
| 小さい声を「気のゆるみ」と責める | 感覚のずれが原因で、意志では直せない。自信を失う | 録音や声かけで、客観的な手がかりを一緒に使う |
| 表情の乏しさを「無関心」と誤解する | 症状であって本心とは別。誤解が関係を傷つける | 症状だと理解し、言葉で気持ちを補い合う |
専門リハで、できること。
声・飲み込み・表情の専門的なリハビリは、言語聴覚士が中心になります。専門のリハビリでは、まず今の状態を評価し、安全に取り組める練習を組み立てます。特に飲み込みは、専門家が飲み込みの様子を詳しく調べ、安全な食べ方を設計します。声については、意識して大きく出すことと感覚を再調整する集中的なプログラムがあり、効果が報告されています。当施設では、姿勢や呼吸の土台づくりから、動きを大きくする全身の観点も加えて、動作分析にもとづいて支援します。よだれ・むせ・飲み込みにくさを防ぐリハビリの考え方を、動画でもご覧いただけます。
流涎・誤嚥・嚥下障害を防ぐリハビリ方法(脳リハ.com)。効果には個人差があります。
よくある質問。
Q. パーキンソン病では、なぜ声が小さくなるのですか?
Q. 「ちゃんと話しているのに聞き返される」のはなぜですか?
Q. むせやすくなりました。放っておいて大丈夫ですか?
Q. 声のリハビリは、どんなことをしますか?
Q. 表情が乏しいと言われます。怒っているわけではないのに。
Q. 声・飲み込み・表情は、別々の問題ですか?
声・飲み込み・表情の悩みは、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。声・飲み込み・表情は、姿勢や呼吸、全身の動きとつながっています。当施設では、動きを大きくする全身の観点から、発声や表情の練習を支援し、飲み込みの安全については専門家と連携して向き合います。自分では気づきにくい変化を、客観的に確かめながら一緒に取り組みます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
声や表情を含む全身の動きを引き出す考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
気づく仕組みを一緒に作ります。

声が小さくなる、むせる、表情が乏しくなる。これらに共通する難しさは、本人が気づきにくいことです。だから、周りが指摘しても届きにくく、もどかしさが募ります。
私が大切にしているのは、意識して大きく動かすことと、外から客観的に確かめることを、セットで積み重ねることです。感覚がずれているのは病気の仕組みであって、ご本人のせいではありません。気づけないなら、気づく仕組みを一緒に作ればいい。それがリハビリの役割です。
声や飲み込み、表情のことでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。飲み込みの安全にも配慮しながら、あなたに合った向き合い方を一緒に考えます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。飲み込みの安全や訓練の可否は、必ず主治医・言語聴覚士・担当療法士にご相談ください(最終確認日:2026年7月5日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018(言語聴覚療法・嚥下訓練・LSVTの位置づけ)
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- ParkinsonNet:European Physiotherapy Guideline for Parkinson’s Disease
- Ramig L, et al. Speech treatment in Parkinson’s disease: Randomized Controlled Trial (RCT). Movement Disorders. 2018;33(11):1777-1791.(集中的な発声プログラムLSVT LOUDの効果を検証。声を大きくする運動に加え、ふつうの声量の感覚を再調整する点が効果の鍵と報告。エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史・丸山聖矢:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)