パーキンソン病の転倒予防ガイド|転びやすい場面と家の見直しポイント
パーキンソン病の転倒とリスク|減らすための理解とポイント
転倒は、骨折や外出への不安につながり、生活を一気に狭めてしまいます。けれど、やみくもに恐れて動かなくなると、かえって転びやすくなります。転倒は、減らせます。危ない場面を知り、練習と家の工夫を重ねれば、安全に動き続けられます。

転倒は、防げる現象です。
転んで痛い思いをしてから、また転ぶのがこわくて動かなくなった。動かないでいると、足腰が弱り、姿勢も丸くなる。すると、ますます転びやすくなる——。この悪循環に、多くの方がはまってしまいます。
でも、知ってほしいことがあります。転倒は、運と体質だけで決まるものではありません。危ない場面と原因を知り、備えれば、回数は減らせます。恐れて止まるのではなく、安全に動き続けることが目標です。
パーキンソン病の方は、年間でおよそ6割が転倒し、その多くが繰り返し転ぶと報告されています。これは同年代の一般の高齢者に比べて高い頻度です。転倒は骨折や頭のけがにつながるだけでなく、「また転ぶかもしれない」という不安から活動が減り、体力と自信を奪っていきます。だからこそ、転倒予防は単なるけがの防止ではなく、生活の広さを守る取り組みなのです。
この記事は、パーキンソン病リハビリの全体像を扱うリハビリ完全ガイドの中から、転倒予防だけを取り出して、家庭での実践に絞って掘り下げるものです。歩き出しで足が固まるすくみ足や、歩行障害は、転倒と深く関わるため、あわせてご覧ください。
なぜ、転びやすくなるのか。
パーキンソン病の転倒には、いくつかの原因が重なっています。ひとつではなく、複数が組み合わさって起こるのが特徴です。ご自身に当てはまるものを確認してみてください。
| 原因 | どう転倒につながるか |
|---|---|
| 姿勢を立て直す反応の低下 | バランスを崩したとき、とっさに足を出して立て直す反応が弱く、そのまま倒れやすい |
| すくみ足 | 足が急に止まり、上半身だけ前に行って転ぶ。方向転換や狭い場所で起こりやすい |
| 前かがみ姿勢と突進 | 重心が前に偏り、足が追いつかず加速して止まれない |
| 下肢の筋力低下 | 立ち上がりや踏ん張りが弱くなり、ふらついたときに支えきれない |
| 注意の分散(ながら動作) | 何かを持つ・話すなど、歩行以外に注意が向くと、とたんに歩きが乱れる |
| 薬の切れ目・立ちくらみ | 薬が切れて動きにくい時間や、血圧が下がって立ちくらみが起こると転びやすい |

どんな場面で、転びやすいか。
転倒は、いつでも同じ確率で起こるわけではありません。危ない場面には、はっきりした傾向があります。ご自身やご家族が「どこで危ないか」を知っておくと、その場面に絞って備えられます。
| 危ない場面 | なぜ危ないか | 備えの方向 |
|---|---|---|
| 方向転換・振り向き | 体をひねる瞬間にバランスを崩しやすく、すくみも出やすい | 大きく回る、一度止まってから向きを変える練習 |
| 立ち上がり・座り | 重心の移動が必要で、途中でふらつきやすい。立ちくらみも重なる | 手すりや肘掛けを使う、ゆっくり立つ、立ち上がりの練習 |
| ながら動作 | 物を持つ・話す・考えると、歩行への注意が減って乱れる | 歩くときは一つのことに集中、両手を空ける工夫 |
| 狭い場所・出入り口 | ドアや家具の間ですくみが出やすく、あわてて転ぶ | 動線を広げる、あわてない、リズムで通る |
| 夜間・暗い場所 | 見えにくく、寝起きで体が動きにくい。トイレへの動線で多い | 足元灯、手すり、就寝前の動線確認 |
| 薬が切れている時間 | 動きが鈍り、すくみやバランス低下が強まる | 動きやすい時間に活動を寄せる、無理な移動を避ける |

転倒を減らす、運動の柱。
転倒予防の運動には、大きく3つの柱があります。バランスの練習、下肢の筋力の練習、そして転びやすい動作そのものの練習です。薬が効いている時間に、手すりや壁の近くで、無理のない範囲で行ってください。
片足立ち、つぎ足歩行(かかととつま先をつけて一直線に歩く)、重心を前後左右に移す練習など。必ず手すりや壁の近くで、支えられる状態で行います。ふらつきに対して立て直す反応を養うことが目的です。
椅子からの立ち座りの繰り返し、かかと上げ、太ももを上げる運動など。立ち上がりや踏ん張りに必要な力を保ちます。回数より、正しい姿勢でゆっくり行うことを優先してください。
方向転換、立ち上がり、振り向きといった、実際に転びやすい動作を、安全な環境でゆっくり練習します。大きく回る、一度止まってから向きを変えるなど、その人に合う手順を身につけることが、実生活の転倒を減らします。
パーキンソン病の方210名を対象にした比較試験では、参加者を筋力を鍛える運動、動作の戦略を学ぶ運動、対照の3つのグループに分け、1年間追跡しました。その結果、運動に取り組んだグループは、対照のグループより転倒の回数が少なかったと報告されています。運動が転倒予防の実際の手段であることを示す結果です。ただし、効果を保つには続けることが前提で、症状の重さによって効き方が異なる点にも注意が必要です。
STROKE LABの視点:転ぶのは、動作の継ぎ目。
転倒予防というと、歩行の練習に目が向きがちです。けれど当施設で実際の転倒を伺っていると、多くはまっすぐ歩いているときではなく、動作が切り替わる「継ぎ目」で起きています。立ち上がって歩き出す瞬間、歩いていて振り向く瞬間、方向を変える瞬間、荷物を持ち上げようとかがむ瞬間。ひとつの動作から次の動作へ移るその一瞬に、バランスが崩れやすいのです。
この見方に立つと、備え方が変わります。歩行だけを練習するのではなく、生活の中の「継ぎ目」を見つけて、そこに手すりを置き、その動作をゆっくり練習する。ご家族には、ぜひ「どの動作の切り替わりで危なかったか」を一緒に思い出してほしいのです。転んだ場面ではなく、転ぶ直前に何をしようとしていたか。そこに、その人だけの対策のヒントがあります。私たちは、この動作の継ぎ目を一つずつ評価し、練習と環境の両面から備えを組み立てます。

家の中を、見直す。
転倒の多くは家の中で起こります。運動と同じくらい、住環境の調整が効きます。お金をかけなくてもできる工夫から、手すりの設置まで、部屋ごとに見直しましょう。
| 場所 | 見直すポイント |
|---|---|
| 廊下・居間 | 床のコード・新聞・ラグを片づける。動線に手すりやつかまれる家具を置く。物を減らして通り道を広げる |
| 寝室・夜間の動線 | ベッドからトイレまでを足元灯で照らす。起き上がりやすい高さのベッド。手すりや伝い歩きできる家具を配置 |
| 浴室・トイレ | 滑り止めマット、手すり、シャワーチェア。立ち座りを支える工夫。ぬれた床に注意 |
| 玄関・段差 | 上がり框に手すり、腰かけて靴を履く椅子。段差を分かりやすく(色や照明で)。小さな段差も見直す |
| 履物・衣類 | かかとのある滑りにくい靴。脱げやすいスリッパは避ける。裾を踏まない丈の衣類 |

脳リハ.comのYouTube(登録者約6.4万人)では、転倒予防に役立つバランスと歩行の体操を配信しています。手すりや壁の近くで、無理なく取り入れてください。
もし、転んでしまったら。
どれだけ備えても、転倒をゼロにはできません。転んだときにあわてず対応できるよう、手順を知っておきましょう。
繰り返し転ぶ、転倒への不安が強い、転んだあと動きが変わった、という場合は、我慢せず主治医やリハビリの専門家に相談してください。転倒には必ず理由があり、原因を整理すれば対策が立てられます。
薬の時間と、転倒。
転倒と薬には、深い関係があります。薬が切れて体が動きにくくなる時間は、すくみ足やバランスの低下が強まり、転びやすくなります。反対に、薬が効きすぎて体が勝手に動いてしまう時間にも、思わぬ転倒が起こることがあります。
対策の第一歩は、記録です。動きやすい時間・動きにくい時間、転びかけた場面を簡単にメモしておくと、主治医が薬の調整を考える材料になり、運動や外出をどの時間に置くかの設計にも役立ちます。薬は決して自己判断で変えず、気になることは主治医に相談してください。薬の効き方の変動については、ウェアリングオフの記事(今後公開)でも詳しく扱う予定です。
専門リハで、できること。
専門のリハビリでは、その人がどの場面で・なぜ転ぶのかを、動作分析で細かく評価します。バランス反応、筋力、歩行、そして動作の継ぎ目を確認し、練習と環境調整を組み合わせた、その人だけの転倒予防プログラムを設計します。言葉だけでは伝わりにくいので、実際のバランスと歩行への介入の様子をご覧ください(30万回再生)。
バランスと歩行への評価・介入(30万回再生)。効果には個人差があります。

よくある質問。
Q. パーキンソン病では、どのくらい転びやすいのですか?
Q. どんな場面で転びやすいですか?
Q. 転倒を防ぐには、どんな運動がよいですか?
Q. 家の中で気をつけることはありますか?
Q. 転んでしまったとき、どうすればよいですか?
Q. 薬と転倒には関係がありますか?
転倒の不安は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。転倒予防では、その人がどの場面で・なぜ転ぶのかを動作分析で評価し、バランス・筋力の練習、動作の継ぎ目の練習、住環境の調整までを一続きに設計します。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
バランスや姿勢、歩行を含む転倒に関わる問題の評価と介入を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
安全に動き続けるために。

転倒でいちばんこわいのは、けがそのものより、「また転ぶかも」という不安から動かなくなることです。動かないでいると、体力も姿勢も落ちて、かえって転びやすくなります。
私が臨床で大切にしているのは、転んだ場面だけでなく、転ぶ直前に何をしようとしていたかを一緒にたどることです。動作の継ぎ目に備えを置けば、同じ場面でも結果が変わります。
転倒が心配になったら、どうぞ一度ご相談ください。診断名ではなく、あなたの生活の場面から、安全に動き続けるための一手を一緒に考えます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。診断・薬物治療に関する判断は、必ず主治医にご相談ください(最終確認日:2026年7月4日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- ParkinsonNet:European Physiotherapy Guideline for Parkinson’s Disease
- Morris ME, Menz HB, McGinley JL, Watts JJ, Huxham FE, Murphy AT, Danoudis ME, Iansek R. A Randomized Controlled Trial to Reduce Falls in People With Parkinson’s Disease. Neurorehabil Neural Repair. 2015;29(8):777-785.(PD患者210名の3群比較RCT。運動群が対照群より転倒回数が少なかったと報告。エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史・丸山聖矢:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)