最長発声持続時間(MPT)|測定方法・参考値・短いときの見方とリハビリへの活用
MPT
最長発声持続時間
「あー」が続く時間と、声の終わり方をみる。
3回の測定から、息と声の課題を整理し、暮らしで伝わる会話へつなげます。

「あー」を何秒続けられるか。その理由まで考える
最長発声持続時間(Maximum Phonation Time:MPT)は、十分に息を吸った後、一息で母音を出し続けられる最長の時間です。一般的には「あー」を用い、秒で記録します。簡便ですが、短いという結果だけでは原因まで特定できません。[1]
息を十分に吸えていない、発声中に空気を多く使う、声の出し方が安定しない、教示が伝わらず早く止めるなど、同じ秒数にも異なる背景があります。本記事では「何秒か」に加えて「どのように終わったか」を記録し、次に調べることを決める流れを示します。
基本情報と実施時間
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 最長発声持続時間/Maximum Phonation Time(MPT)。最大発声持続時間と表記されることもあります。 |
| 測るもの | 一定の母音を、一息でどの程度長く持続できるか。単位は秒。 |
| 道具 | ストップウォッチ、記録用紙、安定して座れる椅子。必要に応じて録音機器。 |
| 代表的な方法 | 十分な吸気後、楽な高さ・強さで「あー」を持続。3回測り、最長値を採用。[1],[2] |
| 所要時間 | 説明・試し発声・3試行・休息を含め、数分程度の枠を確保する運用例。固定の標準所要時間ではなく、休息や理解支援により延長。 |
| 主な用途 | 発声持続の状態把握と、条件をそろえた経過観察。AMSDでは発声機能の一項目。[8] |
| 適用範囲 | 本記事は成人の臨床を想定。小児や異なる発声方式に成人の参考値をそのまま当てはめない。 |
実施手順:吸う・声を出す・休む・記録する
本記事では、国内の公開手順と研究で用いられる「母音/a/・3試行・最長値」を基本にします。採用する検査や研究に別の規定がある場合は、その条件を記録してください。[1],[2]

| 順番 | 実施すること | 勘所 |
|---|---|---|
| 1|状態を確認 | 息苦しさ、声の痛み、疲労、発声制限の有無を確認。 | 強い息苦しさや痛みがある場面では最大努力の測定を優先しない。 |
| 2|姿勢を決める | 体幹が安定する座位にし、足底を支持する。頸部を反らせず楽に構える。 | 座位が難しければ支持や角度を調整し、体位を必ず記録する。 |
| 3|説明と確認 | 短い見本で、途中で吸い直さず母音を伸ばす課題だと伝える。 | 短い試し発声で理解を確認。最大試行を何度も練習させない。 |
| 4|十分に吸う | 一度、できるだけ十分に息を吸ってもらう。 | 何度も深呼吸を繰り返してから測る手順にしない。 |
| 5|持続発声 | 楽な高さ・強さで「あー」をできるだけ長く続ける。 | 叫び声、ささやき声、検者の声への追従で条件を変えない。 |
| 6|計時する | 声の出始めから、持続する声が終わるまでを計時。 | 吸気時間や、声が終わった後の呼気だけの時間を加えない。 |
| 7|休息して計3回 | 呼吸と負担が落ち着いたことを確認して次の試行へ。 | 各値と声の状態を記録し、有効な試行の最長値を採用する。 |
声かけ例:「息を十分に吸ってから、出しやすい高さと大きさで『あー』を一息で、できるだけ長く続けてください」。これは手順を伝えるための説明例です。途中で「もっと大きく」など条件を変える指示を追加せず、必要な説明は試行前にそろえます。
息を吸い直した二つの発声は合計しません。咳や笑い、教示の取り違えで中断した試行は理由を記し、休息後の再試行を別欄に残します。発声が途切れた場合も、時間だけを合算せず経過を記録します。
採用値の決め方と、報告の書き方
| 記録項目 | 架空の記載例 |
|---|---|
| 第1~3試行 | 8.2秒、10.4秒、9.7秒 |
| 採用MPT | 10.4秒(3回中の最長値) |
| 条件 | 支持座位、母音/a/、楽な高さ・強さ、試行間に呼吸が整うまで休息。 |
| 声の状態 | 後半に声量低下。声が消失して終了。痛みなし。 |
| 測定状況 | 短い見本で理解を確認。録音あり。測定中の追加指示なし。 |
0.1秒単位で記録する方法が公開されていますが、ストップウォッチの表示桁数が、そのまま測定の正確さになるわけではありません。施設内で単位と開始・終了の判断をそろえます。[1]
参考値:「男性30秒・女性20秒」はどう使うか
従来の成人参考値として、平均は男性約30秒、女性約20秒、短い側の正常範囲の目安は男性約14秒、女性約9秒が紹介されています。これは平均と下限の目安が別物という点が重要です。平均未満を一律に異常とはしません。[7]
| 資料・対象 | 報告された値 | 読み方 |
|---|---|---|
| 従来の成人参考値[1],[7] | 平均:男性約30秒、女性約20秒。短い側の目安:男性約14秒、女性約9秒。 | 声門閉鎖不全などを疑って追加評価する手がかり。特定疾患の確定診断値ではない。 |
| 日本の地域在住者380人[3] | 平均年齢72.7歳。報告平均は男性18.7秒、女性16.1秒。直立座位・通常の話声の大きさ・2試行。 | 高齢者を含む実際の集団データ。対象・試行数が異なるため、3試行最大値の基準として直接置き換えない。 |
例えば高齢女性で12秒だった場合、「20秒未満だから異常」と結論せず、声の変化、会話の困りごと、呼吸や喉頭の所見と合わせます。反対に20秒続いても、痛みや強い力み、会話の不自由があれば、それらを評価する必要があります。
性別ごとの値は原著・資料の集計区分に基づきます。年齢、体格、疾患、発声方法、本人の以前の状態を考慮し、参考集団との違いを記します。
短いときは、どこから調べるか

| 観察した状態 | 考える仮説 | 次に確かめること |
|---|---|---|
| 吸気が浅く、すぐ声が終わる | 吸気量、姿勢、呼吸機能、課題理解の影響。 | 吸う動作と姿勢を観察。必要に応じて呼吸機能の評価へ。 |
| 息の漏れるような声で短い | 発声時の気流や声門閉鎖の問題を含めて考える。 | 声質、発症経過、喉頭の評価。短いだけで声帯麻痺と断定しない。 |
| 喉を締め、力んで長く続ける | 秒数を延ばす代償的な出し方。 | 痛み・疲労・声質を確認。長さを増やす指示を重ねない。 |
| 途中で急にやめるが、苦しそうではない | 課題理解、注意、合図の取り違えの可能性。 | 短い見本や簡潔な説明で確認し、説明変更を記録。 |
| 繰り返すと短くなる | 疲労、休息不足、声の負担など。 | 休息して状態を再確認。無理に試行数を増やさない。 |
この表は臨床推論の例で、MPTだけから原因を診断する表ではありません。新たな強い嗄声、持続する声の変化などがあれば、耳鼻咽喉科で喉頭所見を確認する流れにつなげます。
何秒伸びたら改善? 再現性と誤差を読む
Shinodaらの地域在住者380人の研究では、2試行間のICCは0.87でした。一方で2回目が長くなる傾向があり、一致限界は−5.0~7.7秒でした。相関が高くても、同じ人の測定値が毎回同じになるとは限りません。[3]
この一致限界は、その研究の2試行間のばらつきを示します。全患者共通の最小可検変化量(MDC)や、意味のある改善量(MCID)ではありません。「8秒から10秒へ延長」だけで治療効果を確定せず、条件、他の試行、別日の経過、会話の変化も見ます。
Johnson・Goldfine(2016)の20人の研究でも、試行間のMPTと発声時の総気流量の関係は一定ではありませんでした。MPTは持続時間として役立ちますが、秒数を声門の効率や肺活量そのものとして扱わないことが大切です。[4]
| 再評価でそろえるもの | 理由 |
|---|---|
| 姿勢・支持・頸部の位置 | 体の構えが変わった効果を、機能の回復と混同しない。 |
| 母音・高さ・強さ・教示 | 違う声の出し方で得た時間を単純比較しない。 |
| 試行数・休息・採用方法 | 1回の値と3回の最長値、平均値を混在させない。 |
| 疲労・服薬・体調・測定時刻 | その日の状態による違いを追えるようにする。 |
| 録音や計時の方法 | 終了の判断、再生条件、機器の違いを明らかにする。 |
2026年の研究:教示と声の出し方で時間が変わる
| 研究 | 方法と結果 | 臨床への示唆 |
|---|---|---|
| Bakerら(2026)[5] | 健常者21人で教示を変えて比較。MPTに加え、吸気時間や吸気量なども教示によって変わった。 | 「息を十分吸う」「一息で最後まで持続する」の伝え方をそろえる。説明を変えた直後の延長を機能回復だけで説明しない。 |
| Lãら(2026)[6] | 歌唱経験のある14人で、気息性・中立的・圧迫的などの発声を比較。MPTは気流量と発声様式の影響を受けた。 | 同じ秒数でも出し方は違う。声質と力みを記録し、長時間を目指して押し出す発声を強化しない。 |
どちらも2026年のオンライン先行公開論文です。健常者や歌唱経験者を対象としており、脳卒中患者の治療効果や共通カットオフを示した研究ではありません。測定条件をそろえる理由を補強する知見として扱います。
嚥下・咳嗽・排痰の判断には、どこまで使えるか
菊谷ら(2021)は医療・介護関連肺炎患者61例を、MPT3秒未満と3秒以上に分けて比較しました。3秒未満群では自己排痰が困難な例が多く、ADLや嚥下機能も低値でした。[2]
この「3秒」は研究内の群分けです。3秒以上なら誤嚥しない、経口摂取してよい、という判定線ではありません。対象は入院した肺炎患者であり、地域の元気な高齢者や全脳卒中患者へそのまま適用できません。
| 問い | MPTからできること | 追加する確認 |
|---|---|---|
| 痰を出せるか | 著しく短い場合に、排痰能力も詳しくみるきっかけにする。 | 咳の実際、痰の喀出、必要に応じて咳嗽時最大呼気流量。 |
| 安全に食べられるか | 発声機能の情報として嚥下評価に添える。 | 臨床嚥下評価と、必要に応じて嚥下内視鏡・造影。 |
| 退院後に自立できるか | 他の身体・認知・生活情報と並べる。 | ADL、支援体制、疾患経過。秒数から自立確率を算出しない。 |
秒数を延ばす練習から、本人に必要な会話へ
MPT測定は最大能力を確かめる課題であり、そのまま毎日の最大努力トレーニングの処方ではありません。短かった理由を整理し、専門的な評価に基づいて負担の少ない方法を選びます。以下は検査後に試す支援例です。
| 課題 | 支援の例 | 確かめる成果 |
|---|---|---|
| 姿勢が崩れると声が続かない | 座面・足底支持を調整し、楽に話せる位置を探す。 | MPTに加え、短い会話の声量・負担を確認。姿勢条件を記録する。 |
| 文の後半で息が足りなくなる | 予定や要望を、意味のまとまりで短く区切る。 | 大切な語を文末まで伝えられるか。 |
| 声を大きくしようとして力む | 大声を繰り返す前に、声質や喉頭の状態を確認。 | 痛みや疲労を増やさず、相手に届く方法を選べるか。 |
| 騒がしい場所で聞き返される | 雑音を減らし距離を調整する。 | 声を無理に張らず、要点が伝わるか。 |
| 会話の途中で疲れる | 短い発話と休息、文字・指さしなどを組み合わせる。 | 必要な用件を、続けられる負担で伝えられるか。 |

練習の回数・時間は原因や声の状態によって変わります。MPTが短いという理由だけで、一律に「毎日何十回も限界まで発声」と設定しません。
臨床ストーリー:8秒をどう支援につなぐか
以下は説明のための架空例です。脳卒中後のBさんは、「一文を言い終わる前に声が弱くなる」と訴えました。3試行は6.8、8.1、7.6秒。MPT8.1秒と記録し、後半の声量低下と体幹の崩れも残しました。
足底と座位の支持を整えると、発声しやすくなりました。この場の延長は姿勢条件を変えた反応として記録し、回復と即断しません。次に「明日/午前10時に/迎えをお願いします」と、意味のまとまりで区切って伝えてもらいました。
家族に内容を復唱してもらい、聞き返しと本人の疲れを確認します。次回は同じ支持条件でMPTを測り、別の用件でも自分で区切れるかをみます。目標は秒数の延長だけでなく、本人が必要な用件を最後まで伝えられることです。
関連する評価と組み合わせる
| 評価 | 主な役割 | MPTとの違い |
|---|---|---|
| 発話明瞭度・自然度 | 言葉が聞き取れるか、話し方が自然か。 | 母音の持続時間では、会話の聞き取りや自然さは判定できない。 |
| GRBASなどの声質評価 | かすれ、息漏れ、力みなどを聴覚印象で整理。 | MPTの秒数に声の質の情報を加える。 |
| AMSD | 発話と発声発語器官の機能を総合的に調べる。 | MPTはその一項目であり、AMSD全体の代用ではない。[8] |
| 肺機能・呼吸筋の評価 | 換気量や呼吸機能を調べる。 | MPTから肺活量の値を直接算出しない。 |
| 喉頭内視鏡など | 声帯の動きや病変を観察する。 | 短い原因が声門閉鎖不全かどうかを、時間だけで決めない。 |
PDF:3試行と声の状態を残す記録票
A4・2ページ。準備と発声の手順、3試行の秒数と最長値、声の状態・終了理由、生活場面での観察・支援・再評価を記録できます。
出典をもとに、記録しやすい形式に整理しています。実施・採点の詳細は原版をご確認ください。追加の臨床記録は得点に含めません。
参考文献と確認範囲
- 金原出版.「発声持続時間と声の高さの検査」公開試読頁,p.45.測定手順と従来の成人参考値。
- 菊谷大樹,大森政美,長神康雄,加藤達治.医療・介護関連肺炎患者における最長発声持続時間の有用性の検討.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌.2021;30(1):134–139.DOI:10.15032/jsrcr.30.1_134.
- Shinoda T, et al. The relative and absolute reliability of maximum phonation time in community-dwelling Japanese people. Aging Clin Exp Res. 2017;29(4):781–786. DOI:10.1007/s40520-016-0573-y. Online 2016.
- Johnson AM, Goldfine A. Intrasubject Reliability of Maximum Phonation Time. J Voice. 2016;30(6):775.e1–775.e4. DOI:10.1016/j.jvoice.2015.11.019.
- Baker CP, Miles A, Allen J. Task Instructions Significantly Affect Maximum Phonation Time. J Voice. 2026 Jun 6. Online ahead of print. DOI:10.1016/j.jvoice.2026.05.024.
- Lã FMB, Sundberg J, Barreda S. Effect of Phonation Type on Maximum Phonation Time. J Voice. 2026 Feb 9. Online ahead of print. DOI:10.1016/j.jvoice.2026.01.026.
- 竹本直樹,讃岐徹治.発声持続時間・音域の検査.耳鼻咽喉科・頭頸部外科.2022;94(5):288–291.DOI:10.11477/mf.1411203023.公開概要を参照。
- 日本音声言語医学会 編.Dysarthria 診療の手引き.2023.補足・資料B:AMSDの構成。
確認日:2026年10月27日。国内の公開測定手順、肺炎患者を対象とした原著本文、PubMed収載の信頼性・2026年の原著抄録を確認しました。英語論文の方法詳細は抄録で確認できた範囲です。参考値、研究内の群分け、独自の臨床例を区別しました。イラストは説明用で、実際の秒数や音声を示すものではありません。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)