GRBAS尺度|5項目の聴き分け・0〜3の評定と、声のリハビリへの活用
STROKE LAB / CLINICAL ASSESSMENT
GRBAS尺度
「声がかすれる」を、
5つの聴こえで言葉にする。
聴き分け・評定・再評価から、会話を支える一手まで。

01|GRBASでわかるのは「声の質」
「声がかすれる」を、どんなかすれ方なのかまで共有するための尺度がGRBASです。Gは全体的な嗄声の程度、R・B・A・Sは声質の特徴を表し、各項目を0〜3の4段階で評定します。 [1], [2]
言葉の内容がどれだけ聞き取れるかという発話明瞭度や、話し方全体の自然度とは評価対象が異なります。たとえば、声がガラガラしていても言葉は明瞭な人もいれば、声質の異常が目立たなくても構音が不明瞭な人もいます。声質と伝わりやすさを別々に記録すると、支援の目標が明確になります。
02|5つの項目を、どう聴き分けるか
| 項目 | 聴くポイント | 混同しやすいこと |
|---|---|---|
| G|Grade 総合的な嗄声度 |
声全体として、どの程度異常に聞こえるか。 | RBASを足して算出しない。 |
| R|Roughness 粗糙性 |
ガラガラ、ざらつき、ばらつきのある声の印象。 | 低い声というだけでRを上げない。 |
| B|Breathiness 気息性 |
声に息漏れのような雑音が混じる印象。 | 発声前の吸気音やマイクの風切り音と区別する。 |
| A|Asthenia 無力性 |
声に力や張りが乏しく、弱々しく聞こえる印象。 | 小さな音量だけでは決めない。録音音量も確認する。 |
| S|Strain 努力性 |
押し出す、絞り出すような、力んだ声の印象。 | 顔や首の力みだけを見て採点しない。 |
日本語文献ではRough、Breathy、Asthenic、Strainedという形でも表記されます。いずれも聴覚印象の項目です。身体の動きや喉頭所見は別欄に残し、聴こえの評定と区別します。 [1], [2]
03|0〜3の意味と、点数の読み方
| 評点 | 意味 | 記録時の扱い |
|---|---|---|
| 0 | 異常なし/その特徴を認めない | 「検査できなかった」を0にしない。 |
| 1 | 軽度 | 軽く認める特徴。何を聴いてそう判断したかも記す。 |
| 2 | 中等度 | 中等度に認める特徴。課題や場面を併記する。 |
| 3 | 高度・重度 | 強く認める特徴。原因や生活機能は追加評価する。 |
この4段階は声質の程度を整理する順序尺度です。「2点は1点の2倍悪い」「1点減ったので50%改善した」とは解釈しません。点数と一緒に、語尾で息漏れが増える、会話後半で絞り出す声になる、といった変化を残します。 [1], [2]
本記事では、独自の合計点や診断カットオフを設けません。5項目のプロフィールから、次に何を確かめるかを決めます。Gが0でも、声の疲れ、音量の不足、会話場面での困難を本人が感じていれば、それらは別に評価します。
04|準備・所要時間・そろえる条件
必要なのは、静かな環境、評定を理解した評価者、記録用紙です。繰り返し聴いて確認するため、本人の同意を得た録音が役立ちます。専用の音響分析装置がない場面でも聴覚印象は評定できます。 [1], [3]
時間は、説明・音声採取・聴き直しを含め5〜10分を確保する運用例とします。GRBASに全国共通の固定所要時間が定められているという意味ではありません。疲労、理解、課題数、評定者間の相談によって調整します。
| そろえる条件 | 記録例 |
|---|---|
| 発声条件 | 座位/楽な高さ・大きさ/発声した母音/会話内容 |
| 録音条件 | 機器、アプリ、マイク位置・距離、録音設定、周囲の雑音 |
| 聴取条件 | イヤホン等の機器、再生音量、評価者 |
| 本人の状態 | 時刻、疲労、声の使用直後か、風邪症状、服薬との時間関係 |
声質を変える強いノイズ除去や音声加工を避け、前後比較では同じ設定を使います。録音が小さければ、無力性が強く感じられる可能性があります。採点の前に、音割れや聞き取りにくい録音になっていないか確認します。
05|新人向け:準備から記録までの6ステップ

- 目的を説明する。「声のかすれ方を確認します。いつもの楽な声でお願いします」と伝えます。録音の目的と扱いも説明します。
- いつもの声を確認する。挨拶や短い会話を聴き、本人が困っている場面を聞きます。最初から大声や長い発声を要求しません。
- 母音を採取する。「楽な高さと大きさで『あー』と声を出してください」と伝えます。3〜5秒程度を2〜3回採るのは実務上の一例です。これはGRBAS固有の必須秒数・回数ではありません。最長発声持続時間を測る課題とも区別します。
- 短文・会話を採取する。毎回同じ短文に加え、朝の過ごし方などを話してもらいます。読字が難しければ会話等に変更し、その条件を残します。短文の例は「今日は家でゆっくり過ごします」(本記事独自の例文)。
- 5項目を聴いて評定する。まず全体の声質を聴き、必要に応じ項目ごとに再聴します。迷った項目は基準音声や別の評価者との確認につなげます。
- 条件と根拠を残す。母音と会話で違う場合は別行に記録します。「会話後半でBが強い」など、採点の根拠を一文添えます。
母音の数秒間採取は音声評価プロトコルを参考にした運用案です。CAPE-Vの規定をそのままGRBASの正式手順と混同しないでください。持続母音と短文を組み合わせる意義は、日本の研究でも示されています。 [4], [6], [8]
06|母音と会話が違うときは、違いを残す
母音では安定していても、会話では息継ぎや声の立ち上がりが繰り返され、語尾や長い発話で声質が変わることがあります。反対に、短い会話では目立たない異常が持続母音でわかる場合もあります。前回が母音、今回は会話という比較では、点数の差に課題の違いが混ざります。
阿部ら(2023)は、経験ある評価者3名によるG・R・B等の評定を検討し、GRBAS型の段階評定では「持続母音+短文」の信頼性が高い結果を報告しました(ICC(2,1)=0.803〜0.925)。一部の項目では短文を加えると重く評定される傾向もありました。全項目・全患者で同じ結果になるという意味ではありません。 [4]
07|点数から何を考え、何を追加するか
| プロフィール・所見 | 次に確かめること | 支援を試す例 |
|---|---|---|
| Bが目立つ/語尾で息漏れ | 喉頭所見、MPT、息継ぎの位置、本人の息苦しさ | 短いまとまりで話す。相手との距離を縮める。 |
| Aが目立つ/声に力が乏しい | 体調・疲労、呼吸と姿勢、録音音量、日内変動 | 体幹を支えた姿勢で再確認。会話と休憩を区切る。 |
| Sが目立つ/絞り出す声 | 発声時の努力感、痛み、喉頭所見、声量要求 | 大声を求める前に騒音と距離を調整する。 |
| Rが目立つ/ざらつく声 | 持続性、発症経過、喉頭所見、他の声質特徴 | 受診情報を共有し、声の負担が大きい場面を整理する。 |
表は臨床推論と環境調整の例であり、点数ごとに検証された処方表ではありません。「Bが高いから声帯麻痺」「Sが高いから筋緊張性発声障害」と、聴覚印象だけで病名を決めることはできません。喉頭の状態、呼吸、本人の訴えを合わせて判断します。
専門的な音声治療は、原因の評価と喉頭所見を踏まえて選びます。米国の診療ガイドラインでは、音声治療前の喉頭観察が推奨されています。声がれが4週間以内に改善しない場合の喉頭評価に加え、重い原因が疑われれば期間を待たず評価する方針です。呼吸困難などがある場合は評定を続けず医療評価を優先します。 [7]
08|改善・予後・嚥下について言える範囲
GRBASが示すのは、その条件で聴いた声質の程度です。回復までの日数、復職の可否、会話の自立、誤嚥の有無を、この点数だけから予測する共通カットオフは本記事で示しません。Bが低いことを理由に嚥下が安全と判断する使い方もしません。
再評価でBが2から1になれば、同じ条件で気息性が軽く聞こえたと記述できます。ただし、1段階の差をすべて確実な治療効果と扱うと、評価者差や録音差を見落とします。今回確認した資料から、あらゆる対象に適用できる最小重要変化量(MCID)は設定できません。
09|評定のばらつきを減らす練習

溝尻ら(1996)の研究では、99例の録音音声に対する評定で、評価者ごとの内的基準や聴取条件の影響が示されました。再聴と共通基準の設定が重要です。 [3]
Takemotoら(2026)は、経験10年以上の言語聴覚士3名が74音声を2か月間隔で評価した研究と、熟練者5名による24音声の評価を報告しました。同一評価者内では中等度以上の一致が得られた一方、評価者間では特にR・Sに限界があり、Sは両研究で再現性が限られました。熟練者でも判断を共有する仕組みが必要です。 [5]
- 入手・利用条件を確認した基準音声を用い、まず各項目の特徴を聴き分ける。
- 同じサンプルを各自で採点してから、違った項目だけ再聴する。
- 「何秒付近のどんな聴こえか」を説明し、印象語だけの相談にしない。
- 経過比較は可能なら同じ評価者で行い、別評価者が担当した場合は記録する。
合成音声やイラストに付けた波形を、検証済みの評定基準として扱いません。この教材は手順の理解を助けるもので、基準音声教材の代わりではありません。
10|臨床ストーリー:声質と「伝わる」をつなぐ

以下は説明用の架空例です。脳卒中後のAさんは「夫に何度も聞き返される」と話します。母音はG(1) R(0) B(1) A(1) S(0)、会話はG(2) R(0) B(2) A(1) S(0)。会話の終わりで声が薄くなることを記録しました。
最初に大声練習を追加するのではなく、いつ困るかを聞くと、テレビをつけたまま離れた場所から話す場面でした。まずテレビを止め、向かい合って座り、ひとまとまりごとに息を継ぐ形を試します。夫に聞き返された回数と本人の話しやすさを、同じ会話課題で比較します。
同時に、持続する声がれについて喉頭評価の有無を確認し、MPTや発話明瞭度も別に測ります。GRBASがすぐ変わらなくても、会話が通じやすくなれば環境調整には意味があります。次の目標は「Gを0にする」だけでなく、「夕食の希望を、無理に声を張らず伝えられる」と設定できます。
11|ほかの評価との使い分け
| 評価 | 主に見ること | GRBASとの関係 |
|---|---|---|
| MPT(最長発声持続時間) | 1回の呼気で発声を続けられる時間 | 長さと声質を別々に捉える。 |
| 発話明瞭度・自然度 | 言葉の聞き取りやすさ、話し方の自然さ | GRBASの声質評定から点数を換算しない。 |
| CAPE-V | 声質等を視覚的アナログ尺度で評定 | 公開2019収載版は100mmの線を使用。GRBASとの単純換算はしない。 |
| VHI等の本人による評価 | 声の問題が本人の生活に与える影響 | 聞き手の印象と本人の負担の両方を残す。 |
| AMSD | ディサースリアに関わる発話・発声発語器官等 | 声質だけで運動性発話障害全体を説明しない。 |
| 喉頭観察・音響/空気力学的検査 | 構造・運動・音響特性・呼気の利用等 | 声の原因や機能を、聴覚印象と照合する。 |
12|記録用PDFをダウンロード
A4・2ページ。G・R・B・A・Sの5要素と0〜3の評定、使用課題・録音条件、生活での困りごとと支援・再評価をまとめています。母音と会話を分けて評価するときは用紙を分け、使用課題を記入してください。Gを他の要素の合計として計算しません。
出典をもとに、記録しやすい形式に整理しています。実施・採点の詳細は原版をご確認ください。追加の臨床記録は得点に含めません。
PDFを開いた後、ブラウザーの保存ボタンからダウンロードできます。採点に迷う場合は評点の根拠を残し、基準音声や経験ある評価者との照合に使ってください。
13|参考文献・確認した範囲
- 牧山 清.嗄声の聴覚心理的評価(GRBAS尺度).日本耳鼻咽喉科学会会報.2012;115:930–931.全文確認。
- 二藤隆春.聴覚印象評価.耳鼻咽喉科・頭頸部外科.2022;94(5):274–276.公開要約確認。
- 溝尻源太郎ほか.GRBAS尺度の再現性の向上に関する事柄.音声言語医学.1996;37:305–311.抄録確認。
- 阿部千佳ほか.音声課題が与える聴覚心理的評価への影響について―持続母音と短文―.音声言語医学.2023;64:1–9.抄録確認。
- Takemoto N, et al. Reliability of Auditory-Perceptual Voice Evaluation: An Investigation of GRBAS Scale Reproducibility Among Expert Raters. J Voice. 2026 Jul 2. Online ahead of print. doi:10.1016/j.jvoice.2026.06.024. PubMed抄録確認。
- PhenX Toolkit. Auditory-Perceptual Evaluation of Voice. CAPE-Vの公開プロトコル(2019収載版)。
- Stachler RJ, et al. Clinical Practice Guideline: Hoarseness (Dysphonia) (Update) Executive Summary. 2018. doi:10.1177/0194599817751031. 公開要約・学会解説確認。
- Patel RR, et al. Recommended Protocols for Instrumental Assessment of Voice: American Speech-Language-Hearing Association Expert Panel to Develop a Protocol for Instrumental Assessment of Vocal Function. 2018. doi:10.1044/2018_AJSLP-17-0009. 公開情報確認。
確認日:2026年10月27日。本文では公開全文・抄録・学会資料を区別して確認しています。固定所要時間、独自の合計点カットオフ、全疾患に共通する予後予測値は追加していません。具体的な声かけ、短文、支援例、記録様式は本記事の運用提案です。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)