反復唾液嚥下テスト(RSST)|30秒の測定手順・判定基準と嚥下評価へのつなげ方
STROKE LAB / SWALLOWING SCREENING
反復唾液嚥下テスト
Repetitive Saliva Swallowing Test / RSST
30秒の「飲み込み」から、
次の評価へ。
触診・数え方・判定基準と、食べる支援へのつなげ方。

01|RSSTとは:30秒間の唾液嚥下を数える
反復唾液嚥下テスト(Repetitive Saliva Swallowing Test:RSST)は、唾液を繰り返し飲み込むよう指示し、30秒間の嚥下回数を数えるスクリーニングです。検者が舌骨・喉頭の動きを軽く触診し、必要な追加評価につなげます。日本で小口らが開発・検証しました。[1], [2], [3]
食物や一定量の水を飲み込ませるテストとは異なり、随意的に唾液嚥下を反復できるかをみます。ただし、回数には嚥下機能だけでなく、指示理解、注意、口腔の状態、年齢等も関わります。
02|対象と準備:検査が成立する条件を確認する
タイマーまたはストップウォッチ、記録用紙を用意します。測定そのものは30秒ですが、説明・触診位置の確認・記録を含めて2〜5分程度を確保する運用例とします。これは公式の所要時間ではありません。
| 確認すること | 具体的な確認・対応 |
|---|---|
| 本人の理解と協力 | 唾液を飲み込む指示が伝わり、30秒間取り組めるか。失語症という診断名だけで可否を決めず、実際の理解と動作を確認する。 |
| 覚醒・呼吸・体調 | 眠気が強い、呼吸が苦しい、痛みがある場合は検査を優先しない。 |
| 口腔の状態 | 乾燥、唾液の貯留、義歯、口腔内の痛みを確認する。 |
| 姿勢 | 安定した座位を基本に、頭頸部は無理なく保つ。必要な支持やリクライニングを用いた場合は条件を残す。 |
| 触診への同意 | 「飲み込む動きを確かめるため、のどに軽く触れます」と説明する。頸部術後や疼痛部への触診は個別に判断する。 |
指示が理解できず実施できない場合と、理解して試みたが嚥下を確認できない場合は分けます。前者を単純に「0回」として嚥下機能だけの異常に帰属させず、検査不成立と理由を記録します。
03|触診:指の位置と、1回として数える動き

人差し指を舌骨、中指を甲状軟骨の喉頭隆起付近に置き、指腹を軽く接触させます。舌骨は甲状軟骨より上方にあります。位置には個人差があるため、見た目だけで決めず、指導を受けて触診位置を確認してください。[3], [4]
嚥下では、舌骨・喉頭が上前方へ動き、戻ります。原著では、上前方への移動後に下降する時点を嚥下完了として記録しました。わずかな上下動や飲み込もうとする試みを、すべて1回と数えるわけではありません。[1]
イラストは外からの触診場面を示すものです。骨・軟骨の位置を厳密に示す解剖図ではありません。新人は、経験者と同じ嚥下を観察して「どの動きを1回としたか」をすり合わせると、数え方を共有できます。
04|実施手順:説明から記録までの6段階
| 手順 | 実際に行うこと | 勘所 |
|---|---|---|
| 1 説明 | 「30秒の間、唾液をできるだけ何回も飲み込んでください」と伝える。 | 3回だけで終えるような指示にしない。 |
| 2 動作・位置の確認 | 必要に応じて、指示理解と嚥下動作を確認してから測定準備を整える。 | 説明中の嚥下を本番の回数へ混ぜない。 |
| 3 計時開始 | 検者の開始合図と同時にタイマーを始める。 | 最初の嚥下が起きてから30秒を測り始めない。 |
| 4 触診して数える | 30秒間、確認できた嚥下を数える。 | 口を動かすだけ、喉頭の小さな動きだけを数えない。 |
| 5 終了・観察 | 終了の合図を出し、咳、湿った声、呼吸の変化、疲労等を確認する。 | 苦痛や呼吸の悪化があれば途中でも中止し、時点と理由を残す。 |
| 6 記録・判断 | 回数、成立状況、姿勢、口腔条件、追加評価の方針を記録する。 | 陽性/陰性の二択だけで終えない。 |
30秒間の反復嚥下と触診は原著・学会教材に基づき、声かけや記録の進め方は臨床導入のために整理しています。[1], [3]
30秒間の回数として記録する場合、3回に達してもそこで打ち切らず、原則として30秒まで観察します。中止した場合は「15秒で2回・中止」などと記載し、「2回/30秒」と同じ条件の結果にしません。
05|乾燥と再測定:条件変更を記録する
口腔が乾いて飲み込みにくそうでも、「回数が少ないのは乾燥だけ」と決めつけません。原著では空嚥下と人工唾液を使用した条件を比較していますが、健常者の結果が重度嚥下障害者の安全性を保証するわけではありません。[1]
必要な口腔ケアや保湿は、嚥下状態と施設の手順に合わせて実施します。検査を成立させるために一律に水を飲ませたり、口へ流し込んだりしないことが大切です。保湿後に再測定した場合は、方法・時刻・休憩・回数を別に記録します。
Perssonらは健常者120名と老年期脳卒中患者40名を検討し、年齢や性別との関連を認めた一方、その研究では唾液分泌量や自覚的な口腔乾燥が成績に有意に影響しませんでした。乾燥の訴えとRSSTの関係は単純ではありません。[5]
06|判定:0〜2回、3回以上、測定不成立

| 結果 | 意味 | 次に行うこと |
|---|---|---|
| 0〜2回/30秒 | 従来基準では陽性。追加の嚥下評価が必要。 | 成立条件を確認し、病歴・口腔・神経所見・食事状況を評価。必要に応じVF/VEへ。 |
| 3回以上/30秒 | 従来基準では陰性。 | 症状や既往と照合する。むせ、湿性嗄声、肺炎反復、体重減少等があれば追加評価を進める。 |
| 指示理解困難・触診困難 | 数値の解釈に必要な条件が成立していない。 | 不成立の理由を残し、他の観察・評価方法を選ぶ。 |
| 途中中止 | 所定の30秒検査を完了していない。 | 中止時点、確認できた回数、症状を記録し、全身状態への対応を優先する。 |
陽性は誤嚥の確定診断ではなく、陰性も誤嚥を除外する保証ではありません。特に、咳が出ない不顕性誤嚥を、RSSTだけで否定することはできません。[2], [7], [8]
「3回以下」ではなく「3回未満=2回以下」が従来の陽性基準です。3回を陽性に含めてしまう誤記に注意します。[2]
07|原著と新しい研究:精度は対象によって変わる
| 研究 | 対象・比較基準 | 主な結果と読み方 |
|---|---|---|
| 小口ら 2000 | 機能的嚥下障害131名。VFでの誤嚥と比較。 | 2回以下で感度98%、特異度66%。この対象集団で得られた診断精度。 |
| Kidermanら 2025 | 嚥下外来87名。FEESでPAS 3以上の気道侵入と比較。 | AUC 0.64。研究内の最適値は6回以下、感度89%・特異度34%。喉頭侵入も含む評価。 |
| Chenら 2025 | MBSSを受けた246名。頭頸部癌164名、神経疾患47名、その他35名。 | 2回以下で誤嚥検出感度35.5%・特異度92.4%。陰性でも見逃し得る。 |
各論文の対象、参照検査、判定する現象を確認して掲載しています。[2], [7], [8]
感度98%とは、原著の集団で「VFで誤嚥がある人をどれだけ陽性として拾えたか」です。「陽性者の98%が誤嚥している」という意味ではありません。新しい研究で値が異なることからも、原著の感度をすべての患者へ固定して適用しないことが重要です。
Kidermanらの6回以下という値を、日本の標準基準が改訂されたかのように扱いません。参照したPAS 3以上には喉頭侵入も含まれ、誤嚥だけを判定する研究と同じ条件ではありません。[7]
08|正常値・加齢・予後をどう読むか
日本の正常値研究では、空嚥下の30秒平均は若年者30名で7.4回、高齢者30名で5.9回でした。これは集団の平均であり、「高齢者は6回できなければ異常」というカットオフではありません。[1]
Ben-Hayounら(2024)の健常成人280名では全体平均7.01±2.86回で、年齢、性別、BMI、処方薬数などとの関連が報告されました。嚥下困難の訴えや神経疾患歴等がある人は除外されており、患者の予後予測値としてそのまま使う研究ではありません。[6]
RSSTで2回だったことから、肺炎になる確率、経口摂取へ戻るまでの日数、退院時の食形態を個人単位で算出することはできません。本記事で扱った診断精度研究は、主にその時点での誤嚥・気道侵入との対応を調べたもので、回復までの時間を予測するモデルではありません。
再評価で2回から4回になった場合は、同条件で唾液嚥下の反復が増えたと記録できます。その変化が食事の安全性や食形態の改善を意味するかは、別の評価と食事場面で確かめます。
09|臨床ストーリー:同じ「2回」でも対応は変わる

架空例A:脳卒中後のAさんは指示を理解し、安定した座位でRSSTが2回。家族から「最近、食事後の声が湿っている」と情報がありました。測定条件と症状をST・医師へ共有し、病歴・口腔運動・現在の食事を確認。必要な嚥下精査へ進み、評価結果に基づいて一口量、姿勢、介助や食形態を調整します。RSSTの点数だけで頭部挙上訓練や強い努力嚥下を処方しません。
架空例B:Bさんは、説明中は飲み込めますが、計時を始めると課題が続かず2回。まず声かけの理解や注意、検査環境を確認します。課題の成立が不十分なら「2回だから嚥下筋が弱い」とせず、その理由を記録し、普段の分泌物管理や食事観察、他の評価を組み合わせます。
架空例C:Cさんは5回できましたが、食事で繰り返しむせ、体重が減っています。RSST陰性でも相談を終了せず、嚥下機能と栄養状態の評価を進めます。
| 見つかった課題 | 具体的な対応例 | 再評価すること |
|---|---|---|
| 説明・注意が影響 | 短い説明、静かな環境、覚醒がよい時間帯へ調整。 | 検査が成立するか。条件変更前後を分けて残す。 |
| 乾燥・口腔問題 | 口腔の観察、適切なケア・保湿、歯科や処方医への相談。 | 口腔所見と本人の不快感。回数だけに絞らない。 |
| 食事の困難が続く | 専門評価に応じて姿勢、食具、一口量、ペース、介助を調整。 | 摂取量、食事時間、症状、必要な検査結果。 |
| 嚥下機能の問題が確認された | 原因・病態に合ったリハビリと栄養管理を計画。 | RSSTとともに生活上の目標の達成を追う。 |
10|最大舌圧・MWST・VF/VEとの使い分け
| 評価 | 捉えること | RSSTと併せて考える点 |
|---|---|---|
| 最大舌圧 | 舌を口蓋へ押し付ける最大努力時の圧力。 | 力の値と、嚥下を反復できる回数は別。互いを換算しない。 |
| OHAT-J | 口腔状態、清掃、歯・義歯、痛み等。 | 乾燥や口腔問題を把握する。嚥下の安全性は確定しない。 |
| MWST・フードテスト | 所定の水や食物を用いた嚥下の反応。 | RSST陽性だから自動的に水へ進むわけではない。適応と手順を確認する。 |
| VF(嚥下造影) | 食塊の移動、嚥下運動、気道侵入等。 | 症状と検査結果を詳しく照合し、対応方法を検討する。 |
| VE/FEES(嚥下内視鏡) | 分泌物、咽喉頭の状態、残留や気道侵入等。 | 必要性や実施条件を専門職が判断する。 |
| FOIS・FILS | 経口摂取の状況。 | RSSTの回数と別に、食生活の変化を追う。 |
訴えやスクリーニング結果から、必要な精密評価へ進むという位置づけを共有します。[4]
11|記録用PDF:数値・条件・次の行動を残す
A4・2ページ。30秒間の触診・計数の手順、嚥下回数、検査の成立条件、判定とその後の観察・相談・再評価をまとめています。
出典をもとに、記録しやすい形式に整理しています。実施・採点の詳細は原版をご確認ください。追加の臨床記録は得点に含めません。
12|参考文献・確認範囲
- 小口和代,才藤栄一,水野雅康ほか.機能的嚥下障害スクリーニングテスト「反復唾液嚥下テスト」(RSST)の検討(1)正常値の検討.リハビリテーション医学.2000;37:375–382.原著PDF本文確認。
- 小口和代,才藤栄一,馬場尊ほか.同(2)妥当性の検討.リハビリテーション医学.2000;37:383–388.原著PDF・抄録確認。
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会.eラーニング:25. 摂食嚥下障害の評価(スクリーニングテスト).公開教材のRSST手順を確認。
- 菊谷武,戸原雄.第3章 食事,摂食・嚥下 3.摂食・嚥下障害の評価.長寿科学振興財団.2020年5月公開.
- Persson E, Wårdh I, Östberg P. Repetitive Saliva Swallowing Test: Norms, Clinical Relevance and the Impact of Saliva Secretion. Dysphagia. 2019;34:271–278(2018年オンライン公開).公開本文・抄録確認。
- Ben-Hayoun DH, et al. Normative Values of the Repetitive Saliva Swallow Test and Clinical Factors Affecting the Test Scores in Healthy Adults. Dysphagia. 2024;39:1193–1201. 公開抄録確認。
- Kiderman D, et al. Can the Repetitive Saliva Swallow Test Predict Airway Invasion in All Cause Dysphagia? Laryngoscope. 2025;135:1943–1949. PubMed抄録・研究条件確認。
- Chen YC, et al. Repetitive saliva swallowing test: Performance in aspiration prediction. J Formos Med Assoc. 2025年7月29日オンライン公開.PubMed抄録確認。
確認日:2026年10月27日。日本語原著・学会教材・専門家資料、英語原著とPubMedを検索し、近年の2024・2025年研究を確認しました。感度・特異度は対象と参照検査を併記し、研究内の閾値を一律の新基準として転用していません。所要時間の運用例、声かけ、架空症例、対応例は本記事の実務上の整理です。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)