ABC Scale日本語版(ABC-J)|採点・67%の目安・FES-Iとの違いと臨床での使い方
歩ける。でも、自信がない。
その差を、生活場面から捉える。
Activities-specific Balance Confidence Scale 日本語版(ABC-J)
本人の自信を、評価・練習・外出支援へつなぐための臨床ガイド。

01|何を測る?「できる自信」を生活場面ごとに聞く
Activities-specific Balance Confidence Scale(ABC Scale)は、さまざまな活動について、バランスを崩さずに行える自信を本人が答える質問票です。日本語版はABC-Jと呼ばれます。16項目を0〜100%で回答し、値が高いほど自信が高いと読みます。[1][2]
例えば、診察室では安定して歩けても、「買い物に行くと人を避けられる気がしない」と外出を控える人がいます。ABC-Jを使うと、歩行速度だけでは分からない、活動をためらう場面を聞き取りやすくなります。
質問に答える評価です。回答を得るために、椅子の上に立つ、滑りやすい場所を歩くといった動作を実演してもらう必要はありません。実際の動作観察や練習は、質問票を終えた後に別の目的で行います。
02|FES-I・BBS・FGAとの違い
| 評価 | 中心となる問い | 結果の使い道 |
|---|---|---|
| ABC-J | その活動を安定して行える自信はどの程度か | 自信が低い場面と、取り戻したい活動を特定する |
| FES-I | その活動で転倒することがどの程度心配か | 転倒への心配を把握する。高得点ほど心配が強い |
| BBS・Mini-BESTest | 指定されたバランス課題を実際に遂行できるか | 姿勢制御の課題と必要な援助を観察する |
| FGA・TUG・歩行速度 | 歩行や移動課題をどのように遂行するか | 移動能力・歩行条件と本人の自信を照合する |
ABC-JとFES-Iは同じ点数に換算して使う尺度ではありません。ABC-Jは高いほど自信があり、FES-Iは高いほど心配が強いという方向の違いがあります。[2][10]
実務では「ABC-Jで生活場面を聞く→該当する動作を観察する→支援を決める」という順序が役立ちます。毎回すべての尺度を実施するより、本人の目標と今回の疑問に合わせて選びます。
03|準備と所要時間
日本語版原票、筆記用具、本人が見やすい回答表示を用意します。自記式で答えられる人は本人が記入し、読み書きが難しい場合は質問を読み上げ、本人が選んだ回答を記録します。回答を代わりに推測して埋めないことが大切です。[2][4]
- 時間:5〜10分程度を予定し、説明や回答の確認が必要なら余裕を確保します。日本語版論文では一般的な所要時間として5〜20分が紹介されています。
- 条件:使用版、回答方法、杖・歩行器・他者の支え、想定した環境を記録します。
- 理解:自信の程度を尋ねていると理解できるか確認します。「何回したか」「成功した割合」の回答と混同していないかを見ます。
日本語版の検証は主に発症6か月以降の地域在住脳卒中者を対象としています。重い言語・認知の問題で回答の意味を理解しにくい場合は、無理に合計点を出すより、本人の発言と動作観察を残す方が次の支援につながります。[2]
04|実施の流れ|説明から記録まで
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① 何を答えるか共有する
「それぞれの場面で、どのくらい安定して行えそうと感じるかを伺います」と導入します。これは理解を助ける説明例です。実際の質問は日本語版原票に沿って読みます。
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② 0〜100%の意味を確認する
0%は自信がない側、100%は十分な自信がある側です。原票の0、10、20…100の11段階を見て選びます。数字を選ぶのは本人で、検者が「歩けているから80%ですね」と誘導しません。
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③ 普段の支えを含めて想定する
普段、杖や他者の支えを使う活動は、その支えがある状態での自信を回答します。ただし、質問に手すりの有無など具体的な条件が示されている場合は、その条件を勝手に変更しません。
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④ 行っていない活動も、想定できるか尋ねる
最近行っていなくても、今行うとしたらどの程度自信があるかを考えてもらいます。「最近していない」だけで0%にはしません。場面を理解できない・想定できない場合は、その理由を記録します。
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⑤ 方向で自信が異なる活動を確認する
昇る/降りる、乗る/降りるで答えが異なるときは、両方を確認し、低い方を採用する規則があります。英語版の実施案内では項目2・9・11・14・15が対象です。使用する日本語原票と対応を確認します。
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⑥ 回答を確定してから理由を聞く
16項目の回答を終えてから、「この場面はどの部分が難しそうですか」と掘り下げます。深掘りした発言と検者の観察は、本人の回答とは別欄に残します。
基本の実施・採点規則は原版の案内に基づく要約です。[4] 日本語版の質問文は電子付録を参照してください。[3]

05|計算方法|合計を16で割る
範囲は0〜100%。高いほどバランスへの自信が高い。
例:16項目の合計が960なら、960÷16=60.0%です。満点は1600点ではなく、平均した100%として報告します。[2]
未回答を0%に置き換えると、「答えられない」と「全く自信がない」が混ざります。本記事の記録票は16項目がそろった場合の計算を基本とし、欠損があるときは該当項目と理由を残します。別の欠損処理を採用する研究・施設では、その規則と分母を明記して比較します。
本人が表した自信の平均です。転倒確率、歩行自立の確率、介助量へ直接変換する数字ではありません。
06|67%というカットオフをどう使うか
ABC Scaleでは67%という目安がよく紹介されます。Lajoieらの高齢者125名(転倒者45名・非転倒者80名)の研究に由来する値で、ABC単独の分類性能は感度約84%、特異度87.5%と報告されています。転倒歴による群の分類という研究条件を伴う値です。[5]
この値を、日本語版を使うすべての脳卒中者の「転倒する/しない」の境界にはしません。日本語版の信頼性研究が、そのまま67%という閾値を日本の脳卒中集団で検証したことにもなりません。
| 結果 | 次に確かめること |
|---|---|
| 総得点が低い | どの生活場面で低いか。身体能力、転倒経験、環境、活動機会を聞く |
| 総得点が高いが、歩行は不安定 | 本人の想定条件と実際の環境が合っているか。見守り・補助具の条件を再確認する |
| 総得点は中程度でも、一部だけ極端に低い | その場面が本人の目標を妨げているか。平均に埋もれた課題を拾う |
50%・80%を用いた身体機能水準の説明もありますが、点数だけで能力を判定する用途には広げません。病期・疾患・生活環境と、実際の動作を合わせて解釈します。[4]
07|変化量|MDCとMICは、別の問いに答える
| 指標・研究 | 数値 | 読み方 |
|---|---|---|
| MDC:日本語版・慢性期脳卒中 | 19.79ポイント | 測定誤差を超える変化の目安。臨床的な重要性そのものとは別 |
| MIC:亜急性期脳卒中・2025年 | 15.6ポイント 95%CI 10.4〜21.1 |
Mini-BESTestの4点以上の改善を基準に推定された、重要な変化の目安 |
Ishigeらは88名を評価し、69名を1〜2週後に再評価しました。ICCは0.92、Cronbachのαは0.95、SEMは7.14でした。[2] Kobayashiらは62名の基礎評価と39名の4週間の経過からMICを検討しています。2025年の数値は公開抄録で確認した範囲です。[6]
40%から60%は「20ポイント上昇」です。相対的に何%増えたかとは分けて表します。19.79と15.6は異なる病期・方法で得られた指標なので、同一患者の合否判定として二重に当てはめません。
例えば40→50%の変化だけなら、慢性期研究のMDCを超えたとはいえません。それでも「一人で玄関まで出られるようになった」「買い物に週1回行けた」という変化は、活動成果として別に記録できます。
08|2026年の研究から|自信と能力を両方測る
2026年10月20日公開のMoonの研究は、独歩可能な慢性期脳卒中者168名のデータを解析しました。ABCと客観的なバランス・歩行指標の関連は、開始時点でも変化量同士でも小さく、多重比較の補正後には有意ではありませんでした。公開抄録の範囲での確認です。[7]
これは「自信と能力は関係がない」と一般化する結果ではありません。臨床では、歩ける距離が伸びても自信が追いつかない人と、自信はあるが複雑な環境で崩れる人を、両方見落とさないための知見として使います。
①ABC-Jの自信 ②実際の動作・介助条件 ③生活での実行回数。どれが変わり、どれが残ったかが分かると、次の介入を選びやすくなります。
09|臨床ストーリー|階段への自信が戻らない人
平地は歩ける。でも、玄関の階段が怖い。
退院後、家の中を杖で歩いているAさん。外出を勧めると「降りるとき、前に落ちそう」と話します。ABC-Jの平均だけでなく、昇降で自信が異なることと、実際に想定した手すりを記録します。
- 確認する:足の置き方、膝の支持、視線、手すりへの力、段差の高さ、疲労を観察。怖さが出る瞬間を本人に聞きます。
- 課題を小さくする:安定した手すり、低い段差、近接見守りなど、成立する条件を決めます。いきなり回数を増やしません。
- できた条件を言葉にする:「手すりを使って、足をここへ置くと安定しました」と具体的に共有します。
- 生活へつなぐ:家族と玄関の1段を確認し、外へ出る機会を作ります。自信、見守り、実行した回数を別々に残します。

介入の目標は、回答を高くしてもらうことではありません。本人が納得できる動作経験と、実生活で使える条件を増やすことです。上記は個別の臨床提案で、ABC-Jの標準実施手順ではありません。
10|人混み・外出への介入と、家族への伝え方
「店の中を歩く自信がない」という回答からは、人との距離、方向転換、視線移動、荷物、疲労などを確認します。最初は空いている時間帯に短い距離を歩き、混雑度・距離・荷物のうち一つだけを変えます。
家族には、「もっと自信を持って」よりも、「今日は空いている通路を、休む場所を決めて歩きましょう」と共有します。必要な支えがある条件をそろえた上で、本人の自信を聞き直します。

反対に、本人は高い自信を示すのに接触やつまずきが目立つ場合は、低い点数を答えさせるのではなく、実際に起きた場面を一緒に振り返ります。自信の回答は保持し、動作所見と環境条件を別に記録します。
11|原票・臨床記録PDF
A4・2ページ。原票で得た16項目の回答、平均値、回答条件、低い自信がある場面、客観的な動作、支援と再評価を一緒に記録できます。質問文は原票をご使用ください。臨床記録欄はSTROKE LABの補足です。
ABC質問票の改変・ウェブ掲載には許諾が必要なため、本PDFには質問文を転載していません。原票の利用条件は配布元でご確認ください。[9]
12|よくある質問
本人が答えられないとき、家族の点数で代用できますか?
本人の自信と、家族が推測する自信は区別します。家族からは生活の様子を聞き、本人回答と同じ総得点に混ぜません。
回答前に、その活動を一度練習してもらいますか?
通常の質問票評価のために実演は求めません。直前の練習で得た印象が回答に影響することもあるため、再評価では評価と練習の順序をそろえ、変更を記録します。
Short ABC-Jと途中で切り替えて比較できますか?
Short ABC-Jには別の検証研究があります。16項目版から任意に項目を抜いて同じ尺度として扱わず、使用版を明示します。経過比較は同じ版で行うのが基本です。[8]
100%なら屋外歩行は自立と考えてよいですか?
100%は本人の自信です。歩行自立は、実際の動作、環境、判断、補助具、見守りの必要性を合わせて決めます。
参考文献・原資料
- Powell LE, Myers AM. The Activities-specific Balance Confidence (ABC) Scale. 1995.
- Ishige S, et al. Reliability and validity of the ABC-J in community-dwelling stroke survivors. Phys Ther Res. 2020;23:15–22.
- Ishigeら:ABC-J日本語版・英語原版の電子付録(J-STAGE)
- ABC Scale:実施・採点案内(University of Delaware公開資料)
- Lajoie Y, Gallagher SP. Predicting falls within the elderly community. 2004.
- Kobayashi S, et al. Validity, responsiveness and interpretability of the ABC scale in subacute stroke. 2025.
- Moon HM. Balance confidence, balance, and gait capacity in chronic stroke: baseline and change correlations. 2026 Oct 20.
- Ishige S, et al. Psychometric properties of Short ABC-J. 2022(オンライン公開2021).
- RehabMeasures:ABC Scaleの利用条件・ウェブ掲載と改変の許諾案内
- FES-I:Manchester大学の公式案内
確認日:2026年10月31日。日本語版の検証論文本文、英語版の公開実施案内、原著抄録を照合。2025・2026年研究は公開抄録の範囲で記載しました。日本語版電子付録は公開先を確認しましたが、取得時にサーバーエラーがあり全文の再確認はできていません。声かけ・生活場面・介入例とイラストは説明用のオリジナルです。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)