最大舌圧の測定|測定方法・30 kPaの意味・嚥下評価とリハビリへの活用
STROKE LAB / TONGUE PRESSURE
最大舌圧の測定
Maximum Tongue Pressure
舌の「押す力」を、
食べる支援につなぐ。
測定手順・30 kPaの読み方・予後と介入を、ひとつの流れで。

01|最大舌圧で、何がわかるのか
最大舌圧は、舌で口蓋(上あご)を最大努力で押すときの圧力を、kPaで表す指標です。国内で用いられるJMSのバルーン式測定器では、舌と口蓋の間の小さなバルーンを押しつぶして測ります。舌を外へ突き出す力や、実際の嚥下中の圧力そのものを測る検査ではありません。[1], [2]
臨床では「口の中で食べ物がまとまりにくい」「送り込むまでに時間がかかる」といった所見に、舌が押す力の情報を加えます。ただし、十分な圧が出ても、タイミング・感覚・咽頭や喉頭の働きに問題があれば飲み込みにくさは残ります。
02|準備・実施者・所要時間
本記事はJMS TPM-02系のバルーン式測定を中心に説明します。初回は説明・練習・休憩・記録を含め5〜10分程度を確保する運用例です。検査で規定された制限時間ではありません。

電子添文では、医師・歯科医師、または医師の指示監督下にある看護師・言語聴覚士・歯科衛生士による使用とされています。作業療法士・理学療法士は、測定結果を姿勢・食事動作・活動性の評価につなげる際も、機器の使用条件に沿って担当職種と連携します。[1]
| 準備 | 臨床で確認すること |
|---|---|
| 機器と消耗品 | 本体、適合する連結チューブ、新しい舌圧プローブ、記録用紙。機器・プローブの種類を記録する。 |
| 本人の状態 | 覚醒、指示の理解、口腔内の痛み、歯・義歯の状態、疲労、呼吸状態。 |
| 姿勢 | 座位で足と体幹を安定させ、頭頸部を無理なく保つ。変更した姿勢は記録する。 |
| 説明 | 「飲み込む検査ではなく、舌で上あごへ押す力を測ります」と伝える。 |
指示を認識できない、前歯でプローブを保持できない、舌で押しつぶす動作ができない場合は、電子添文上の適応を確認します。「失語症」という診断名だけで一律に除外せず、指示理解と動作の成立を見ます。判断が難しい場合は医師・歯科医師に確認します。[1]
03|実施手順:新人が押さえる6つの段階
| 段階 | 操作・声かけ | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 1 接続・調整 | 取扱説明書に沿ってプローブと本体を接続し、内圧調整を完了する。 | 調整中は口へ入れず、バルーンを触らない。 |
| 2 位置を決める | 硬質リングを前歯で軽く保持してもらう。 | バルーンの平らな面を舌側へ。義歯使用者は装着して測定する。 |
| 3 動きを練習 | 「歯で強く噛まず、舌で上あごへ押します」と説明する。 | 噛む動きや、外へ舌を突き出す動きと区別する。 |
| 4 最大努力で押す | 合図に合わせて、舌でバルーンを上あごへ強く押す。 | 数秒間。カタログでは約7秒が目安。 |
| 5 値を読む | 終了の合図で力を抜き、各試行の「最大圧」を記録する。 | 終了後に低下した「現在圧」を記録しない。 |
| 6 休んで繰り返す | リセットし、休憩を挟んで次の試行へ。 | 実務例は3回、試行間約30秒。採用する方法を事前に決める。 |
機器操作は電子添文・カタログ、練習と休憩は学会ポジションペーパー、3試行・30秒間隔は研究方法を参照した整理です。すべてが一つの公式プロトコルに規定された組み合わせではありません。[1], [2], [3], [6]
同一患者の連続測定でも、終了後のプローブを保存して再使用しません。また、訓練に使用したプローブで最大舌圧を測り直す場合は、新しいプローブへ交換します。詳細は現行の電子添文・取扱説明書を優先してください。[1]
04|「最大値」と「平均値」を混同しない

「最大舌圧」という名前でも、1回の押圧中に得られたピークと、複数試行をまとめた代表値は別です。代表値には、各試行のピークの平均を使う研究と、最も高い1回を使う研究があります。
| 資料・研究 | 測定・集計 | 使うときの注意 |
|---|---|---|
| Utanoharaら 2008 | 7秒の最大努力を3回。各回の値の平均。 | 健常者データとの比較で最高値へ置き換えない。 |
| 日本老年歯科学会ポジションペーパー(2018) | 練習後、休憩を挟んで複数回測定し、平均を用いる。 | 30 kPaの説明は、この資料で確認した方法と併記する。 |
| Nakamoriら 2021 | 7秒、3回、間隔30秒。3回中の最高値。 | 食事形態との研究結果はこの条件で得られたもの。 |
| Ohashiら 2025 | 5秒、3回、間隔30秒。3回の平均。 | 同じJMS系でも測定時間・集計条件が異なる。 |
各研究の方法を確認して整理しました。[3], [4], [6], [7]
経過比較では、機器、プローブ位置、義歯、姿勢、声かけ、押圧時間、休憩、代表値の計算をそろえます。初回だけ平均、次回だけ最高値にすると、集計方法の違いが改善に見えてしまいます。
05|30 kPa未満は、何を意味するのか
日本老年歯科学会のポジションペーパーでは、30 kPa未満を「低舌圧」としています。口腔機能低下症を構成する7項目のうちの1項目であり、舌圧だけで口腔機能低下症全体を診断するものではありません。同資料では7項目中3項目以上の該当を診断の枠組みとしています。[3]
| 数値の読み方 | 臨床での扱い |
|---|---|
| 30 kPa未満 | 舌の押す力の低下を検討する入口。測定の成立を確認し、口腔機能・食事・栄養を合わせて評価する。 |
| 30 kPa以上 | この低舌圧基準には該当しない。ただし嚥下の安全性や食形態の適否は別に判断する。 |
| 境界付近の小さな変化 | 条件差・ばらつきを確認する。一度の29→31 kPaだけで機能全体の改善を断定しない。 |
| 20 kPaなど別の目安 | 対象・目的・出典を確認する。「20未満なら誤嚥」「20以上なら普通食」とは扱わない。 |
健常者の参考値も、診断のカットオフとは役割が異なります。メーカーの参考値表には20〜59歳男性45±10 kPa、同女性37±9 kPaなどが掲載されています。これは集団の代表値とばらつきであり、全員が到達すべき目標値ではありません。[5]
Utanoharaらの基準研究は嚥下障害歴のない20〜79歳853名を対象とし、70歳代の値は若い年代より低い傾向でした。疾患、歯列・義歯、測定条件が異なる患者を、同じ数字だけで良否判定しないことが大切です。[4]
06|脳卒中では、どの予測につながるか
Ohashiらの前向き観察研究では、急性期脳卒中302名を対象に入院48時間以内の舌圧等を評価し、退院時FOIS 5以下を嚥下障害と定義しました。64名(21.2%)が該当し、舌圧の低さは年齢・握力とともに退院時の嚥下障害に関連しました。[7]
臨床では、低舌圧に加えて握力低下や高齢という情報があれば、早期から食事支援・栄養・退院後の支援を検討する材料になります。一方、この研究では指示に従って測定できない人などは除外されています。重度の意識障害や高次脳機能障害がある人に、そのまま予測を適用できません。[7]
Nakamoriらの急性期脳卒中80名の研究では、完全経口摂取に相当するFILS 7以上を識別する値として9.6 kPaが報告されています。これは研究内のROC解析の値であり、9.6 kPaを超えれば経口摂取を開始してよいという許可基準ではありません。[6]
07|低い値が出たときの確認順
| 観察されたこと | 考えること | 次の行動 |
|---|---|---|
| 説明を変えると値が大きく上がる | 課題の理解や測定への慣れが影響した可能性。 | 練習条件を残し、安定して動作が成立してから比較する。 |
| 歯で強く噛む・バルーンがずれる | 舌の力を適切に測れていない可能性。 | 位置と動作を確認。無効試行は理由を残し、0として平均に入れない。 |
| 1回目から順に低下する | 疲労、休憩不足、集中低下など。 | 休憩・実施時間帯・全身状態を確認する。 |
| 毎回低く、送り込みにも時間がかかる | 舌の押す力の低下が食事に関わる可能性。 | ST等と機能評価し、訓練・食事支援・栄養を組み合わせる。 |
| 圧は保たれるが食事でむせる | 舌圧以外の機序を検討する。 | 感覚、嚥下のタイミング、咽頭・喉頭機能などを評価する。 |
この表は臨床推論の整理です。試行差だけで疲労や失行を診断するものではありません。測れなかった場合は「未測定・測定不成立」とし、理由を具体的に残します。
08|介入例:力を出す練習から、食べる場面へ

架空例:脳卒中後のAさんは3回平均22 kPa。指示は理解でき、測定は安定していますが、食事では口腔内に食べ物が残り、後半に時間がかかります。ここで「30を超えるまで筋トレ」と決める前に、どこに残るか、舌が動くか、口腔乾燥、義歯、注意の偏り、疲労を確認します。
| 介入の柱 | 具体例 | 再評価 |
|---|---|---|
| 測定・姿勢を整える | 座位の支持と食器配置を調整し、無理なく口腔操作できる条件をつくる。 | 同じ姿勢での舌圧、食事動作の負担。 |
| 舌の抵抗運動 | 担当医療職が最大舌圧と耐容性に応じた目標を設定し、圧を見ながら押す練習を行う。 | 目標への到達、反復時の低下、痛み・疲労。 |
| 食事に合わせる | 専門評価に基づき一口量、食べる速さ、食形態、必要な介助を調整する。 | 口腔残留、食事時間、摂取量、本人の食べやすさ。 |
| 栄養・全身活動 | 摂取不足や体重変化を栄養職へ共有し、全身の活動も支える。 | 体重・摂取量・活動量と舌圧の経過。 |
JMSの講演報告では、1週目は最大舌圧の60%、2週目以降は80%を目標とする反復訓練例が紹介されています。仮に20 kPaなら60%は12 kPa、80%は16 kPaです。これは負荷計算の説明であり、全患者へ同じ回数・強度を処方する意味ではありません。[9]
Krekelerらの小規模RCT(最終解析19名)では、通常ケアに12週間の漸増抵抗運動を加え、8週時点のFOISに群間の改善差を認めました。一方、その他の評価項目では有意な群間差が認められませんでした。舌圧の向上と、誤嚥の減少・食形態の改善は別々に確認します。[8]
09|2026年の研究:舌圧と全身活動の関係
Kitamuraら(2026)は日本の通所リハ利用高齢者を調査し、98名のうち最終解析40名で、歩数・座位時間・低強度活動・BMIが舌圧と関連すると報告しました。横断研究であり、「歩けば舌圧が上がる」と因果関係を証明したものではありません。嚥下障害を伴う脳卒中や神経筋疾患などは除外されており、対象の違いにも注意が必要です。[10]
実務では、舌だけを観察して終わらず、食事量・体重・活動の落ち込みも確認する視点につながります。ただし、全身運動を舌・嚥下への個別介入の代わりにはしません。
10|ほかの評価との使い分け
| 評価 | 主にみること | 最大舌圧との関係 |
|---|---|---|
| OHAT-J | 口腔内の状態・清掃・歯や義歯・痛み | 測定や食事を妨げる口腔の問題を探す。 |
| オーラルディアドコキネシス | 発音時の反復速度・巧緻性 | 最大努力の圧力とは異なる運動面をみる。 |
| RSST・MWST等 | それぞれの課題による嚥下スクリーニング | 舌圧のみで置き換えない。 |
| VF・VE | 嚥下の機序、残留や気道侵入等 | 必要時に食事の安全性・介入方法を詳しく判断する。 |
| FOIS・FILS | 経口摂取の状況・レベル | 舌圧とは別の生活・摂取アウトカムとして追う。 |
| IOPI・センサーシート式測定 | 機器や設定に応じた舌圧・持続力・嚥下時の圧分布等 | JMS系の数値やカットオフをそのまま換算しない。 |
11|測定・介入・再評価ノートをダウンロード
A4・2ページ。JMS機器を用いた準備・測定の流れ、3試行、最高値・平均値、採用する代表値と測定条件をまとめています。食事場面の観察と支援・再評価も記録できます。機器の操作は使用機種の電子添文・取扱説明書に合わせてください。
出典をもとに、記録しやすい形式に整理しています。実施・採点の詳細は原版をご確認ください。追加の臨床記録は得点に含めません。
数値のみの判定表ではなく、測定の成立と臨床判断を残すために使用してください。
12|参考文献と確認した範囲
- JMS.JMS舌圧測定器 電子添文.2023年6月改訂(第6版).使用方法・適応・使用者・注意点を確認。
- GC/JMS.JMS舌圧測定器 TPM-02 カタログ・製品情報.機器構成・約7秒の測定目安を確認。
- Minakuchi S, et al. Oral hypofunction in the older population: Position paper of the Japanese Society of Gerodontology in 2016. Gerodontology. 2018;35:317–324. 本文確認。
- Utanohara Y, et al. Standard Values of Maximum Tongue Pressure Taken Using Newly Developed Disposable Tongue Pressure Measurement Device. Dysphagia. 2008;23:286–290. 公開抄録確認。
- JMS.Maximum tongue pressure: Reference Value.メーカー掲載の参考値。
- Nakamori M, et al. Relationship between tongue pressure and dysphagia diet in patients with acute stroke. PLoS One. 2021;16:e0252837. 本文確認。
- Ohashi M, et al. Tongue Pressure and Grip Strength as Indicators of Persistent Dysphagia After Acute Stroke. Dysphagia. 2025;40:660–667(2024年オンライン公開). 本文確認。
- Krekeler BN, et al. Effects of Device-Facilitated Lingual Strengthening Therapy on Dysphagia Related Outcomes in Patients Post-Stroke: A Randomized Controlled Trial. Dysphagia. 2023. 公開抄録確認。
- JMS.第29回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会 セミナーレポート:舌筋力訓練における舌圧測定器の活用方法と有用性.2023.講演報告であり、独立した比較試験ではありません。
- Kitamura M, et al. Association between physical activity and tongue pressure among older adults attending a daycare center in Japan. Discover Public Health. 2026;23:980. 本文・抄録確認。
確認日:2026年10月27日。日本語の電子添文・メーカー資料、英語の原著・ポジションペーパー等を照合しました。最新資料も検索し、確認できた2026年研究を掲載しています。本文の声かけ、所要時間、架空症例、介入の整理は実務上の提案です。保険算定・請求方法は対象外です。正式な機器操作は使用時点の電子添文・取扱説明書を確認してください。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)