STEF(簡易上肢機能検査)とは|10項目・実施手順・採点と臨床での活用
つかめる。その先の
「使える手」を見つける。
簡易上肢機能検査 STEF
秒数と得点から、動作のつまずきと次の介入へ。

01|STEFとは|「つかむ・運ぶ・離す」を時間で捉える
簡易上肢機能検査(Simple Test for Evaluating Hand Function:STEF)は、形や大きさの異なる物品を操作する速さから、上肢の動作能力を評価する検査です。日本で開発され、専用の検査台と10種類の課題を使います。握力の強さだけでなく、物へ手を伸ばし、つかみ、運び、離すまでの一連の動作が結果に表れます。[1][2][3]
- 10項目を、左右の手でそれぞれ評価する。
- 所要時間を項目ごとの基準に照合して得点化する。
- 右100点・左100点満点。左右を足した100点ではない。
- 所要時間は約20分が目安。準備・説明・休憩には別に余裕を取る。
合計点を出した後は、「何を扱う時に、動作のどこで時間がかかったか」を見ます。同じ60点でも、大きな物を運ぶ段階で遅い人と、薄い物を拾う段階で遅い人では、確かめることが変わります。
02|10項目と観察の焦点
項目名と順序は下表のとおりです。右欄は、結果を介入につなげるための臨床観察の例で、独自の加点・減点基準ではありません。[8]
| 項目 | 物品 | 実施中に見たいこと |
|---|---|---|
| 1 | 大球 | 手を十分に開いて包み、運ぶ間に落とさず、目的位置で離せるか |
| 2 | 中球 | 球へ手を合わせるタイミングと、持ち替え・転がりの有無 |
| 3 | 大直方 | 大きな物を保持したまま運ぶ時の肩・肘・体幹の使い方 |
| 4 | 中立方 | 指の開きと接触位置を合わせ、次の物へ滑らかに移れるか |
| 5 | 木円板 | 円板の縁を捉えるまでの試行と、運搬中の握り直し |
| 6 | 小立方 | 小さな角へ指を合わせる正確さと、置く時の手放し |
| 7 | 布 | 薄い端を拾って裏返す時、指先と前腕がどう協調するか |
| 8 | 金円板 | 薄い円板を拾う時に、滑らせる・何度も触り直すことがないか |
| 9 | 小球 | 小さい球の位置を捉え、転がさずに保持できるか |
| 10 | ピン | 細い物の向きを整え、穴に合わせるまでの時間と調整 |
特定項目の遅さだけで「肩の障害」「感覚障害」「失行」と決めるのではなく、実際に止まった場面を手がかりに、関節運動・感覚・視覚・課題理解を確認します。

03|準備|同じ条件で比べられる環境を作る
専用キット、付属の手引書・検査シート、ストップウォッチ、筆記用具を準備します。市販の積み木や硬貨は練習には使えても、寸法・材質・配置が変わるため、正式なSTEF得点へ換算する用途には使いません。[1]
安定した椅子と適切な高さの机を用い、足底と座位を整えます。車椅子の使用や座位条件は記録し、再評価でもそろえます。検者は本人と同じ側から見本を示すと、動きの方向を共有しやすくなります。[4]
物品を並べる前に、今日の状態を確認する
「肩の痛みはありますか」「眼鏡は普段どおりですか」「今日は疲れが強くありませんか」と確認します。麻痺側、利き手、疼痛、疲労、座面と机の関係を記録すれば、次回の点数が変わった時に条件の違いを振り返れます。
姿勢や上肢を検者が支え続ける必要がある場合は、何を支えたかを明記します。正式測定と、支援を加えてできる条件を探す試行は、記録を分けて扱います。
04|実施手順|見本→計時→左右別の記録
以下は公開された手引の基本規則を短くまとめたものです。各物品の正確な配置・移動先・制限時間は、使用キットの付属手引書で確認します。[4]
-
課題を示す
項目ごとに見本を示し、どこからどこへ動かすかを共有します。
-
開始位置をそろえる
検査する手を、体の中央にある検査台の手前縁へ置きます。
-
合図と同時に計時する
開始の合図で計時し、最後の物品が指定位置へ収まった時に終了。0.1秒単位で記録します。
-
片側を記録して、反対側へ
原則は右→左。非麻痺側・軽症側がある場合はそちらを先にし、左利きへの対応を含めて手引に従います。
-
失敗・時間超過を残す
落下・誤配置はやり直し、3回目も失敗なら当該項目を不能とします。制限時間では中止し、そこまでの完了個数を記録します。
「早く」と繰り返し促したり、途中で持ち方を教えたりすると、再評価の条件が変わります。助言を加えて試すなら正式測定を終えてから行い、その反応を臨床所見に残します。
全項目を一律の移動方向で実施する検査ではありません。布の裏返しやピンの操作を含め、課題ごとの違いを実施前に確かめます。説明イラストを配置図の代わりにはしません。
05|採点|左右別に100点、秒数も保存する
右と左を別々に記録。高得点ほど、その検査条件で速く遂行できたことを表します。
所要時間を、正式な検査シートの項目別得点プロフィールに照合します。全項目に共通する「10秒なら何点」という計算式はありません。不能・時間超過の処理も原版に合わせます。[1][8]
記載例は「STEF:右62/100、左96/100。右麻痺、発症前右利き」。加えて、各項目の秒数と観察を残します。得点の段階が変わらなくても、所要時間や動作の様子には変化が出る場合があります。[9]
体幹を傾けた、肩をすくめた、指を何度も置き直したという所見は重要です。ただし、その所見を理由に検者が独自に点を引くのではなく、採点と動作所見を分けます。
06|何点なら実用手?|点数から言えること・次に見ること
STEFの点数は、年齢階級別の基準や過去の本人の結果と照合します。一方、単一の点数を、そのまま食事・更衣・復職の自立判定に置き換えることはできません。「検査台上で速くできること」と「生活の中で使っていること」を並べて確かめます。
| 結果のパターン | 次の確認 | 介入へのつなげ方 |
|---|---|---|
| 大きい物を運ぶ時に遅い | リーチ、肩の痛み、体幹の安定、把持の持続 | 持てる大きさ・距離・重さから、運んで離す動作を組み立てる |
| 薄い物・小さい物で遅い | 指先の接触、母指の対立、感覚、見え方、手関節の位置 | つまめる条件を探し、硬貨・留め具など本人の生活課題へ進める |
| 高得点だが生活で使わない | 両手動作、疲労、習慣、失敗への不安、使用機会 | 実際の食卓や更衣で役割を作り、使用回数を確認する |
| 0点の項目が多い | 課題理解と、届く・触れる・保持する段階の残存能力 | FMA-UEなどを併用し、最初に成立する動作を記録する |
点数だけから半年後の回復率を示すこともできません。予後を考える時は、病期、麻痺・感覚、認知面、生活課題と、繰り返し評価した経過を合わせます。
07|2026年のエビデンス|何点変わればよいか
Imaiらは亜急性期脳卒中者53名を対象に、入院時・翌日・4週後のSTEFを検討しました。再検査信頼性はICC 0.98、MDC95は12.7点でした。整数の合計点なら13点以上の変化が、この研究の測定誤差を超える目安に相当します。[6]
| 重要な変化を判断する基準 | MIC:ROC法 | 調整した予測法 |
|---|---|---|
| 本人の変化の実感(GRCS) | 14.5点 | 7.9点 |
| 療法士の変化の判断(GRCS) | 9.0点 | 8.6点 |
| FIMセルフケア | 11.5点 | 9.5点 |
| mRS | 16.0点 | 16.6点 |
MDCは測定誤差、MICは臨床的な重要性を考える指標です。基準と推定方法で値が変わるため、「STEFは何点上がれば必ず改善」と一つにまとめません。ここでは公開抄録で確認した値を示しています。
45→59点なら14点上昇で、上記MDC95を超えます。45→52点なら7点上昇で、このMDC95には届きません。ただし、いずれも痛み・測定条件・生活での変化を併記します。MDC未満を「リハビリの意味がなかった」と解釈する必要はありません。
08|信頼性と、他の上肢評価との使い分け
Shindoらの2015年研究では、発症60日以内の片麻痺者34名を3週間追跡しました。STEFの内的一貫性はα=0.98〜0.99で、ARAT・FMA・MALと強い関連、FIMと中等度の関連を示しました。この研究での標準化反応平均はSTEF 0.52、ARAT 0.95であり、同じ対象でも評価によって変化の捉え方が異なります。[5]
| 評価 | 臨床での主な使い道 |
|---|---|
| STEF | 物品操作の速さと項目ごとの得意・不得意を把握する |
| FMA-UE | 脳卒中後の上肢運動障害を捉える。操作課題が難しい時も運動面を確かめる |
| ARAT | 把握・握り・つまみ・粗大運動の課題遂行を評価する |
| MAL・実生活の観察 | 生活で患側上肢をどれだけ、どのように使っているかを捉える |
「STEFが上がったのに生活が変わらない」ときは、検査を増やすだけでなく、本人が困る動作をその場で見せてもらいます。片手の速度では捉えにくい、両手の役割分担や物品配置が見えてくることがあります。
modified STEFにも別の検証研究がありますが、原版STEFと同じものとして得点・基準を混用しません。[7]
09|臨床ストーリー|球は運べるが、薄い物を拾えない
「手は動くけれど、小銭が取れない」
Aさんは大きな物品の移動は比較的滑らかですが、金円板では指先が滑り、何度も触り直します。療法士は「指の力が弱い」と決めず、接触の位置、母指の向き、感覚、視線、手関節の姿勢を確認しました。
- 止まる場所を分ける:触れる前なのか、拾う瞬間なのか、保持して運ぶ途中なのかを観察する。
- 一つの条件を変えて試す:検査終了後、少し厚い物や滑りにくい台面で把持が成立するかを見る。
- 生活へ戻す:財布から硬貨を取り出す場面で、置く場所と両手の役割を整える。
- 正式測定は標準条件へ戻す:練習で得た工夫と、STEFの経時変化を別々に記録する。

10|生活で使う手へ|点数の先に目標を置く
例えば目標が「自分でお茶を飲むこと」なら、カップの大きさ、取っ手、重さ、置く距離を確認します。動かしやすい条件から練習し、こぼさず戻せることや、疲れた時にも使えることを確かめます。STEFの変化と、実際にできた生活動作を両方残します。

家族への説明も「点数が上がりました」で終えず、「薄い物を拾う時間はまだかかりますが、取っ手のあるカップは自分で持てる場面が増えています」と具体化します。点数と本人の体験が結びつくと、次に練習することを共有しやすくなります。
11|記録PDFと正式資料
A4・2ページ。10項目の左右の秒数・得点、総得点、測定条件、動作観察、次の介入、再評価を記録できます。採点は付属の正式検査シートで行い、本用紙へ転記します。
出典:金子翼らのSTEF、および酒井医療の資料。実施・採点の詳細は原版をご確認ください。臨床観察・支援計画欄はSTROKE LABによる補足です。
12|よくある質問
全項目を実施できなかった時、空欄は0点ですか?
測定して不能だった項目と、疲労などで実施していない項目は区別します。未実施を機械的に0点として総得点に混ぜず、理由を残し、完了した評価と分けて扱います。
毎回、麻痺側だけを測ってもよいですか?
片側だけの経過を追う場合は、その実施範囲を明記します。初回には反対側も含めて把握すると、利き手や両側の操作能力を考える材料になります。
100点なら上肢に問題がないと考えてよいですか?
検査で高得点でも、痛み、疲労、両手作業、生活での不使用が残る場合があります。項目の秒数、動作の質、本人が困る作業を確認します。
短時間で測りたいので、項目を半分にできますか?
任意に省いた結果を、原版10項目・100点満点の得点として換算しません。何を実施したかを明示し、同じ条件の結果と比較します。
参考文献・原資料
- 酒井医療:ステフ SOT-3000・正式用具と検査シート
- 酒井医療:上肢機能評価・STEFの実施例
- 金子翼・生田宗博:簡易上肢機能検査の試作.理学療法と作業療法.1974;8(3):197–204.
- 金子翼:簡易上肢機能検査・検査者の手引(公開転載テキスト。平成18年の用具変更資料を含む)
- Shindo K, et al. Psychometric properties of the simple test for evaluating hand function in patients with stroke. Brain Inj. 2015;29(6):772–776.
- Imai T, et al. Minimal detectable change and minimal important change of the simple test for evaluating hand function in patients with subacute stroke. Top Stroke Rehabil. 2026;33(7):767–778.
- Irie K, et al. Development of the modified simple test for evaluating hand function (modified STEF): Construct, reliability, validity, and responsiveness. J Hand Ther. 2019;32(3):388–394.
- 五嶋渉ほか:重度手根管症候群に対する母指対立再建術の機能評価.日本手外科学会雑誌.2025;41(4):417–419.
- 酒井医療:ステフ計測ソフトウェア 7ステップスガイド(2012年版)
確認日:2026年10月31日。メーカー資料、国内論文、PubMedの原著抄録を照合しました。手引の公開転載テキストは確認できましたが、現行製品に付属する採点表全体は確認できていないため、秒数の換算表は再作成していません。声かけ・介入例・イラストは説明用に作成しています。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)