パーキンソン病で椅子から立ち上がりにくい|原因と対策・自宅でできる工夫
浅く座り直すだけで、体は驚くほど動きます。
何度も「せーの、せーの」と力んでも、なかなか腰が浮かない。それはパーキンソン病でみられる立ち上がりにくさかもしれません。深く沈んだ姿勢のままでは動き出しにくくても、座り方と合図を変えるだけで、体は動きやすくなります。しくみと、今日から自宅でできる立ち上がりの立て直し方を整理します。

「せーの」と言わないと、立てない。
ソファや座椅子から立とうとすると、一度目はうまくいかず、二度、三度とやり直す。やっと立てたと思ったら、今度は勢いがつきすぎてふらついてしまう——。ちょっとした立ち座りのたびに時間がかかり、外出や来客のときに気を遣う、という方は少なくありません。
でも、知ってほしいのです。これは立ち上がり困難という症状で、座り方と合図を変えるだけで、ぐっと立ちやすくなるということを。
パーキンソン病では、椅子から立ち上がる動きが小さく・遅くなり、何度もやり直したり、力んでしまったりすることがあります。立ち上がる動作は、体を前に倒し、腰を浮かせ、膝を伸ばすという一連の動きを、一瞬で切り替えて行うものです。その切り替えが少しずつ小さく・遅くなるために起こるのが、立ち上がりにくさです。まずはしくみを知り、そのうえで具体的な立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
立ち上がりにくさの、しくみと特徴。
立ち上がりにくさは、動きが小さく・遅くなる動作緩慢と、筋肉のこわばりである固縮が関わって起こります。よく似た症状に立ちくらみ(起立性低血圧)がありますが、しくみは別物です。混同すると対処を間違えてしまうため、特徴を整理しておきましょう。
| 特徴 | どういうことか |
|---|---|
| 動き出しに時間がかかる | 「立とう」と思ってから、実際に腰が浮くまでに間が空く |
| 深く沈んだ姿勢で悪化する | 柔らかいソファや低い椅子では、より力と時間が必要になる |
| 何度もやり直す | 一度で立てず、体を揺すったり力んだりを繰り返すことがある |
| 立った直後に不安定になる | 勢いがつきすぎたり、逆に前のめりのまま止まれないことがある |
ここで大切な区別があります。動き出しにくさは動作緩慢によるものですが、立った直後のふらつきや目の前が暗くなる感じは、血圧が急に下がる起立性低血圧が関わることがあります。しくみが異なるため、ふらつきや失神を伴う場合は自己判断せず、必ず受診してください。動き出しにくさだけであれば、次の章の工夫が役立ちます。

STROKE LABの視点:椅子を「合図付き」に変える。
立ち上がりにくさの対処でいちばん手早く効くのが、椅子の座り方に、動き出しの手がかり(合図)を足すことです。深く沈んだままでは動き出しにくくても、座面の高さと座り直し、動き出しのリズムを整えるだけで、体は動きやすくなります。自宅の椅子で、次の3ステップから始められます。
ステップ1:座面を少し高くする。クッションや座布団を1〜2枚敷き、座ったときに膝の角度が90度よりやや広くなる高さに調整します。低いソファや座椅子は、可能であれば普段の椅子に置き換えます。
ステップ2:浅く座り直し、足を椅子の真下まで引く。お尻を椅子の前のほうへ移動させ、つま先より膝が少し前に出るくらいまで足を引きます。この姿勢だけで、立ち上がりに必要な力がぐっと減ります。
ステップ3:体を軽く前後にゆすってから、声に出して立つ。座ったまま上体を2〜3回、前後に小さくゆすり、勢いがついたところで「せーの」と声に出しながら前に体重を乗せて立ちます。ゆする動き(ロッキング)と声が、動き出しの合図になります。
慣れてきたら、座面の高さや声かけを少しずつ減らし、いつもの椅子でも同じ流れで立てるように近づけていきます。大切なのは、合図を使って正しい立ち上がり方を体で覚えること。合う座面の高さやリズムは人それぞれなので、作業療法士と一緒に調整すると近道です。

立ち方と、椅子・道具のコツ。
座り方を整えたら、立ち方と椅子選びでさらに立ちやすくなります。合言葉は「浅く座って、体を前に、声を出す」。急に立とうとせず、いったん前に体を倒すことが何より大切です。
椅子は、ひじ掛けがあり座面がしっかりしたものが立ちやすく、柔らかく深く沈むソファは避けたほうが安心です。立つときは、ひじ掛けや太ももに手を置いて、体を前に倒しながら押し返す感覚で立つと、力が伝わりやすくなります。「いち・にの・さん」と一定のリズムで声に出すと、動き出しのタイミングがつかみやすくなります。下肢の筋力やバランスを整えておくと、立ち上がりも安定しやすいので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。
パーキンソン病の方を対象に、合図を使った立ち上がり動作に特化した練習と、一般的な運動プログラムを比較した無作為化比較試験では、合図を使った立ち上がり練習のほうが動作の速さや滑らかさをより改善し、その効果が練習後にも維持されたと報告されています。
限界:対象人数は多くなく、進行度や年齢によって結果は異なる可能性があります。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。立ち上がりの練習は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。

自宅での工夫が、座面や声かけを足してその場で立ちやすくする代償だとすれば、専門施設で目指すのは、合図がなくても大きく動ける状態に近づける回復的アプローチです。立ち上がりにくさへの働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. キューイング。視覚(椅子の高さ・目印)だけでなく、聴覚(リズムやかけ声)や体性感覚(ゆすりの感覚)の手がかりも使い、その人にいちばん響くキューを見極めます。
2. 大きく踏み込む運動学習。あえて大きく重心を前に移す動作を繰り返し、脳が縮めてしまう動きの幅を、立ち上がりだけでなく歩行や姿勢全体から立て直します。
3. 下肢・体幹の土台。太ももやお尻の筋力、立ち上がるときの体幹の安定を整え、動作が崩れにくい身体の下地をつくります。
STROKE LABが軸足を置くのは、合図で正しい大きさの動きを引き出し、成功体験を積みながら、少しずつ合図を外して身につけていくという流れです。いつもの椅子でも立てるように近づけていく、その設計を専門的に組み立てます。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
動きの「大きさ」に焦点をあてた集中的な運動療法(LSVT BIG)を検証した無作為化比較試験では、別の運動や自宅練習より運動症状の指標が大きく改善し、その効果が16週間後にも維持されていたと報告されています。その場の合図だけに頼らず、大きな動きを繰り返し学習することで、立ち上がりを含む日常動作全体の持続的な変化をねらう考え方です。
限界:これは全身運動を対象とした研究で、立ち上がり動作そのものを主要な指標にしたものではありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。集中的な訓練には決められた頻度や条件があり、専門的な評価と指導が前提です。運動療法は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。より専門的な内容は、医療者向けのLSVT BIG解説もご覧ください。
脳リハ.comのYouTubeでは、下肢の筋力や体幹の安定を高める体操を配信しています。立ち上がりの土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、その人の立ち上がり方の癖や困る場面を一緒に確認し、椅子の高さ・合図の種類・動作の手順を、その人に合わせて調整します。トイレの便座、車の座席、外出先の椅子など「実際に困っている場面」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは動作と生活の側から支えます。
受診の目安は、立ち上がりにくさで生活に支障が出てきた、立った直後にふらついたり目の前が暗くなったりする、転倒やそれに近いことが増えてきた、といったときです。立ちにくさの原因は動作緩慢だけとは限りません。自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 椅子から立てないのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 何度も「せーの」を言わないと立てないのはなぜですか?
Q. 立ち上がるときにふらつく・立ちくらみがするのも同じ原因ですか?
Q. 自宅でできる立ち上がりの工夫はありますか?

Q. 立ち上がりの練習で改善しますか?
Q. 家族はどう介助すればよいですか?

立ち上がりの相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている立ち上がりの場面を一緒に確認し、椅子の高さ・合図・動作の手順を、その人に合わせて組み立てます。トイレや車の乗り降りなど、実際の場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
立ち方は変わります。

椅子から立てないと、来客のたびに時間がかかり、外出も億劫になります。「何度もせーのと言わないと立てない」「勢いをつけると危ない」と、悩みを打ち明けてくださる方に、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、座り直すだけで、立ち上がりは驚くほど変わることがあるということです。合図を味方につけ、浅く座って体を前に。ちょっとした工夫で、立てる場面はまだまだ広がります。
立ち上がりでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う立ち方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。立ちにくさには他の原因もあります。ふらつきや失神を伴う場合は、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月17日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Mak MK, Hui-Chan CW. Cued task-specific training is better than exercise in improving sit-to-stand in patients with Parkinson’s disease: a randomized controlled trial. Mov Disord. 2008;23(4):501-509.(合図を使った立ち上がり練習が一般的な運動より動作を改善し、効果が持続したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Ebersbach G, et al. Comparing exercise in Parkinson’s disease—the Berlin LSVT BIG study. Mov Disord. 2010;25(12):1902-1908.(動きの大きさに焦点をあてた集中的運動療法が運動症状を有意に改善し、16週後も効果が維持されたと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)