パーキンソン病の薬はいつから始める|早期治療の考え方
早いか、遅いかより、今どれだけ困っているか。
パーキンソン病の薬は、いつから始めればよいのか。「早く始めないと進行が早まるのでは」という不安と、「早く始めると効かなくなるのでは」という不安、両方を抱える方は少なくありません。実際の臨床試験が示す事実と、判断のために整理しておきたい考え方をまとめます。

「今、始めるべきですか?」
診断を受けたばかりのご本人・ご家族から、こんな声をよく伺います。今は薬を出さずに経過をみましょう、と言われたけれど、本当にそれでいいのか。逆に、薬を勧められたけれど、始めたら一生手放せなくなるのではないか。どちらの立場でも、迷いは尽きません。
大切なお伝えしたいのは、「いつから」という問いには、実は年齢や病期で区切る一律の正解がないということです。まずは、なぜこの問いが難しいのかを整理していきましょう。
パーキンソン病の治療は、薬物療法とリハビリテーションを組み合わせて進めるのが基本です。その中で「薬をいつ始めるか」は、診断直後に多くの方が直面する最初の意思決定です。ここでは、実際の臨床研究をもとに、判断のための考え方を整理します。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
なぜ「いつから」は、難しいのか。
「いつから薬を始めるか」が難しいのは、方向の違う二つの不安が同時にあるからです。整理してみましょう。
| 不安の方向 | よく聞かれる声 |
|---|---|
| 先延ばしへの不安 | 「今始めないと、進行が早まるのでは」「治療の機会を逃すのでは」 |
| 早期開始への不安 | 「早く始めると、後で効かなくなるのでは」「一生手放せなくなるのでは」 |
| 医師によって違う説明 | 病院や医師によって重視するポイントが異なり、何を信じればよいか迷う |
実は、この二つの不安はどちらも、長年にわたって研究の対象になってきました。「薬を早く始めるグループ」と「必要になるまで待つグループ」を比較する臨床試験が、海外で複数回行われています。次の章から、その結果をもとに考え方を整理していきます。

STROKE LABの視点:判断の軸を変える。
「いつから」を、年齢や発症からの年数といった数字で区切ろうとすると、答えは出ません。実際、そうした一律の基準は医学的にも定められていません。かわりに有効なのは、「今の症状が、生活のどの場面に、どれくらい支障をきたしているか」を基準にするという考え方です。
これは私たちの独自の主張ではなく、実際の臨床試験の結論とも一致しています。オランダで行われたLEAP試験は、症状が軽く、まだ薬による治療が必須ではない早期パーキンソン病の患者さんを、早く薬を始めるグループと、40週待ってから始めるグループに分けて比較しました。その結果、80週間の時点で、運動症状の進行速度に統計的な差は見られなかったと報告されています。
つまり、「薬の開始時期そのものが、病気の進行の速さを決める」という単純な図式は、少なくともこの試験では確認されなかったのです。この結果を受けて、研究者たちは「臨床的に必要がなければ治療を遅らせても不利にはならないが、必要であれば遅らせる理由もない」という立場を示しています。数字による線引きより、生活への影響を基準にする考え方は、こうした研究の流れに沿ったものです。

1. 仕事や家事に、支障が出ているか。利き手の使いにくさで作業のスピードが落ちた、書類の記入がつらい、料理の細かい作業がしにくいなど、具体的な場面があるかを振り返ります。
2. 外出や人との関わりに、影響が出ているか。歩行への不安から外出を控えるようになった、表情の変化から人との会話を避けがちになった、といった生活範囲の変化も大切な手がかりです。
3. 本人が、困っていると感じているか。周囲から見て軽く見えても、本人がつらいと感じていれば、それは治療を考える理由になります。逆に症状があっても本人が困っていなければ、経過観察という選択もあります。
こうした振り返りを、診察の場で具体的に伝えることが、主治医との判断のすり合わせを助けます。次の章で、医師がどのような視点から総合的に判断しているかを見ていきましょう。
オランダで実施された無作為化二重盲検試験(LEAP試験)では、早期パーキンソン病の445名を、レボドパ/カルビドパを80週間服用するグループと、40週間プラセボの後に40週間服用するグループに割り付けて比較しました。その結果、80週後の運動症状スコア(UPDRS)の変化に、統計的に意味のある差は見られなかったと報告されています。5年間の追跡調査でも、進行速度や運動合併症の発生率に明確な差は確認されませんでした。

限界:この試験は「症状が軽く、まだ薬が必須ではない」患者を対象にしたものです。すでに症状が生活に支障をきたしている場合には、この結果をそのまま当てはめることはできません。また早期開始グループでは、服用開始から40週間の間、吐き気の頻度がやや高かったという報告もあり、開始時期には症状面・副作用面の両方を考慮する必要があります。治療方針は必ず主治医が個別に判断します。
医師が、見ているポイント。
治療開始の判断は、主治医が複数の要素を総合してくださいます。ご本人・ご家族が事前に知っておくと、診察でのやりとりがスムーズになる主な視点を紹介します。
症状が生活・仕事に与える影響の大きさがもっとも重視される視点の一つです。加えて、年齢や社会的な役割(現役で仕事をしているか、家庭内での役割があるか)、併存する病気や体質、本人と家族の希望や治療への考え方なども考慮されます。どの薬から始めるか(レボドパを中心にするか、他の薬を先に使うか)という選択肢も含めて、これらは主治医の専門的な判断に委ねられる領域です。
英国で行われたPD MED試験では、初期治療としてレボドパを使う場合と、レボドパを温存して他の薬(ドパミンアゴニストやMAO-B阻害薬)を先に使う場合を、長期にわたって比較しました。どちらの戦略にも一長一短があり、画一的にどちらが優れているとは言えないというのが、この分野での現在地です。だからこそ、ご自身の生活や希望を主治医にしっかり伝えることが、納得できる選択につながります。

薬を待つ間に、できること。
「まだ薬を始めない」という判断は、「何もしない」ということではありません。むしろこの時期こそ、運動やリハビリに取り組む価値のある時間です。体を動かす習慣は、症状の管理や生活機能の維持に役立つと考えられており、薬物療法と並ぶ治療の柱として位置づけられています。
歩行、姿勢、バランス、声の大きさなど、パーキンソン病では体のさまざまな機能に影響が及びます。早い段階から体を大きく動かす習慣をつけておくことは、将来の生活のしやすさにもつながります。具体的な種目は体操・自主トレ大全で、症状別・病期別にまとめています。書字に困っている場合は小字症の記事もあわせてご覧ください。

英国で行われた大規模な実践的臨床試験(PD MED)では、初期治療としてレボドパを用いる群と、レボドパを温存してドパミンアゴニストやMAO-B阻害薬を用いる群を、長期間にわたり比較しました。生活の質の指標において、どちらか一方が明確に優れているとは言えない結果が示されており、初期治療の選択は個々の状況に応じて検討すべきことが裏づけられています。
限界:これは薬の「種類」の選び方に関する試験で、「開始時期」そのものを検証したものではありません。運動療法との組み合わせ効果を直接検証したものでもありません。運動やリハビリは薬物療法の代わりではなく、組み合わせて行うものです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。
脳リハ.comのYouTubeでは、自宅でできる体操を配信しています。診断されたばかりの今だからこそ、無理のない範囲で体を動かす習慣を始めてみてください。
相談すること、遠慮しないこと。
診察の限られた時間の中で、不安をすべて伝えきれない、と感じる方は多いものです。次の受診では、「困っている具体的な場面」をメモして持参することをおすすめします。「箸が使いにくい」「歩くのが遅くなって信号を渡りきれない」といった具体的な内容は、抽象的な「調子が悪い」より、主治医の判断材料になります。

説明に納得できない場合や、他の考え方も聞いてみたい場合は、セカンドオピニオンを検討することも一般的な選択肢です。治療方針への理解が深まれば、その後の通院や服薬にも前向きに取り組みやすくなります。私たちリハビリの立場からも、困っている生活場面を具体的にうかがい、主治医との対話を後押しする形でサポートします。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。
よくある質問。
Q. パーキンソン病と診断されたら、薬はすぐ始めるべきですか?
Q. 薬を早く始めると、後で効かなくなると聞きました。本当ですか?
Q. 薬を先延ばしにすると、症状の進行が早まりますか?
Q. 薬を始める・始めないの判断は、何を基準にするのですか?
Q. 薬を始めるまでの間、何もしなくてよいのですか?
Q. セカンドオピニオンを聞いてもよいのでしょうか?
迷いの相談も、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。薬の開始や種類の決定は主治医の専門領域として尊重しながら、今どんな生活場面で困っているかを丁寧にうかがい、運動やリハビリの側から治療をサポートします。診察で伝えたいことの整理や、セカンドオピニオンを検討する際の生活面の情報整理についても、ご相談いただけます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
ありません。

診断されたばかりの方や、ご家族から、薬のことをよく聞かれます。「始めるべきか、待つべきか」。どちらの選択にも不安がつきまとうことは、私たちもよく理解しています。
お伝えしたいのは、迷うこと自体は、悪いことではないということです。数字で割り切れない問いだからこそ、今の生活を丁寧に振り返り、主治医と対話を重ねることに意味があります。そしてその対話を待つ間も、体は前に進めることができます。
治療方針そのものは主治医と決めていただきたいことですが、生活の困りごとを一緒に整理し、運動の面から支えることは、私たちにできることです。どうぞ一度ご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報・実在の臨床試験と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。薬の開始時期や種類・量の決定は、必ず主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月11日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Verschuur CVM, Suwijn SR, Boel JA, et al. Randomized Delayed-Start Trial of Levodopa in Parkinson’s Disease. N Engl J Med. 2019;380(4):315-324.(LEAP試験。早期開始と待機開始で80週後の進行速度に有意差なしと報告。第3動線・エビデンスボックスの出典)
- Frequin HL, Schouten J, Verschuur CVM, et al. Long-Term Follow-Up of the LEAP Study: Early Versus Delayed Levodopa in Early Parkinson’s Disease. Mov Disord. 2024.(LEAP試験5年後の追跡調査)
- Gray R, Ives N, Rick C, et al. Long-term effectiveness of dopamine agonists and monoamine oxidase B inhibitors compared with levodopa as initial treatment for Parkinson’s disease (PD MED). Lancet. 2014;384(9949):1196-1205.(初期治療の薬剤選択に関する大規模長期試験。第4動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)