パーキンソン病で箸が使いにくい|食事動作を助ける道具と練習
箸は、工夫でまた使えます。
つまんだつもりが、こぼれる。運んでいる途中で、力が抜ける。パーキンソン病では、箸を使う細かい動きが少しずつ難しくなることがあります。皿・道具・動きの3つを整えるだけで、食事はもう一度、楽なものに変わります。しくみと、今日から自宅でできる工夫を整理します。

「うまくつまめない」と、気づいた日。
箸を持つ手は変わらないのに、つまんだつもりが指の間からこぼれる。運んでいる途中で力が抜けて、口元まで届かない。食事は1日3回ある、いちばん身近な動作だからこそ、うまくいかないたびに気持ちが沈む、という方は少なくありません。
でも、知ってほしいのです。これは食事動作の困難で、皿・道具・動きの練習を変えるだけで、ぐっと食べやすくなるということを。
パーキンソン病では、箸で食べ物をつまむ・運ぶ・離すという一連の動作が少しずつ難しくなることがあります。指先の細かい動きは、力の調整とタイミングの両方を必要とする複雑な作業です。まずはしくみを知り、そのうえで具体的な立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
箸が使いにくくなる、しくみ。
箸を使う動作には、大きく分けて3つの症状が関わることがあります。動作緩慢(動きが小さく・遅くなる)、固縮(筋肉がこわばる)、振戦(じっとしているときの震え)です。それぞれしくみが異なるため、まずは自分の困りごとがどれに近いかを整理しておきましょう。
| 症状 | 箸の場面での現れ方 |
|---|---|
| 動作緩慢 | 箸を開閉する幅が小さくなり、つまむ動作が小刻みで途切れやすい |
| 固縮 | 指や手首がこわばり、なめらかに開いたり閉じたりしにくい |
| 振戦 | 箸を構えた瞬間や運ぶ途中に、手先が細かく揺れる |
| 急ぐと悪化 | 早く食べようとするほど、つまみ損ないや取りこぼしが増えやすい |
ここに、立て直しのヒントが隠れています。動きが小さくなるなら、動きを大きく引き出す環境を作ればよい。急ぐと悪化するなら、動作を分けてゆっくり行えばよい。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。

STROKE LABの視点:皿・道具・動きを「使いやすい形」に変える。
箸の使いにくさの対処でいちばん手早く効くのが、食卓の環境を「つまみやすい形」に整えることです。皿が動かず、道具が扱いやすく、動作が分かりやすければ、指先の負担はぐっと減ります。次の3ステップで、自宅の食卓から見直せます。
ステップ1:皿を動かなくする。皿の下にすべり止めシートを敷くだけで、押さえる手の負担が減り、箸を動かす手に集中できます。ふちの高い皿を使うと、すくう動作も安定します。
ステップ2:道具を変える。太めで軽い持ち手の箸や、バネの力で開閉を補助する箸は、指先の力が弱くても扱いやすくなります。うまくいかない食材だけ、フォークやスプーンに変えるのも現実的です。
ステップ3:動きを分解して練習する。「つまむ・運ぶ・離す」を一つずつ区切り、それぞれをゆっくり行う練習をします。慣れてきたら、区切りを減らして自然な一連の動きに近づけていきます。
豆やスポンジの小片など、つまみやすい物で練習すると、失敗してもこぼれるだけで済み、気軽に続けられます。大切なのは、環境の工夫でうまくいく体験を積み重ね、少しずつ普段の食卓に近づけていくこと。合う道具や練習の量は人それぞれなので、作業療法士と一緒に調整すると近道です。

練習のコツと、自助具。
環境を整えたら、動き方と道具でさらに食べやすくなります。合言葉は「一動作ずつ、大きく、ゆっくり」。急がないことが何より大切です。
道具では、太めで軽い持ち手の箸、開閉をバネで補助する箸、柄を太くしたスプーンやフォークが扱いやすいことがあります。豆をつまんで小皿に移す、洗濯ばさみをつまむといった箸を使わない指の練習も、手指の動きの土台づくりに役立ちます。上肢全体を動かす運動も箸操作の安定につながるので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。無理に箸にこだわらず、スプーンやフォークと場面で使い分けるのも賢い方法です。
パーキンソン病の方103名を対象に、課題に特化した自宅での手指トレーニングプログラムを4週間行った無作為化比較試験では、一般的な運動を行った群に比べて、指先の細かい動き(巧緻性)と、それに関わる日常動作の両方が有意に改善したと報告されています。
限界:効果は12週間後には維持されておらず、続けることが前提の練習であることが示唆されています。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。手指の練習は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での工夫が、皿や道具を変えてその場で食べやすくする代償だとすれば、専門施設で目指すのは、指先の力と動きの幅そのものを引き出す回復的アプローチです。食事動作への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 手指の課題練習。粘土やペグなど、目的にあった課題を使い、つまむ力と細かい動きを繰り返し引き出します。
2. 上肢全体の運動学習。肩・肘から手首、指先まで、一連の大きな動きを繰り返し、食事動作を支える運動の土台を立て直します。
3. 座位と体幹の安定。食卓に向かう姿勢や体幹の安定を整え、腕や手先が余計な力を使わずに動ける身体の下地をつくります。
STROKE LABが軸足を置くのは、道具の工夫で成功体験を積みながら、並行して指先の力と動きの幅そのものを引き出していくという流れです。道具に頼るだけで終わらせず、身につけていく、その設計を専門的に組み立てます。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
パーキンソン病の方60名を対象に、粘土状の道具を使った15分間の手指運動セッションを検証した無作為化比較試験では、対照群と比べて、指先の細かい動きと、握る力・つまむ力の両方が直後に有意に改善したと報告されています。短時間の運動でも、その場の動きやすさに変化をもたらせることを示す結果です。
限界:これは直後の効果を調べた研究で、効果がどれくらい持続するかは示されていません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。手指運動は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。

脳リハ.comのYouTubeでは、手や体を大きく動かす体操を配信しています。食事動作の土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、その人の食事の癖や困る場面を一緒に確認し、皿・道具・動きの練習を、その人に合わせて調整します。「実際に食べにくい食材や場面」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは食事動作と生活の側から支えます。

受診の目安は、食べにくさで食事量や体重に変化が出てきた、むせやすくなった、字の変化や体の動きにくさなど他の症状も出てきた、といったときです。食べにくさの原因は指先の動きだけとは限りません。自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 箸が使いにくくなるのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 箸ではなく、スプーンやフォークを使ってもよいですか?
Q. 自宅でできる箸の練習はありますか?

Q. どんな自助具(道具)がありますか?
Q. 食事の時間と薬のタイミングは関係ありますか?
Q. 箸が使いにくいのは震えのせいですか、動作緩慢のせいですか?
食事動作の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている食事の場面を一緒に確認し、皿・道具・動きの工夫を、その人に合わせて組み立てます。実際に食べにくい食材や場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、食事動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
それだけで箸は変わります。

箸が使いにくくなると、毎日3回ある食事のたびに、うまくいかない自分を突きつけられます。「もう箸は無理かもしれない」とあきらめかけている方に、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、皿の下にすべり止めシートを1枚敷くだけで、箸は驚くほど扱いやすくなることがあるということです。皿を安定させ、道具を選び、動きを分解する。ちょっとした工夫で、食べられる物はまだまだ広がります。
食事動作でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている食材や場面そのものを題材に、その方に合う食べ方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。食べにくさには他の原因もあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月6日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Vanbellingen T, Nyffeler T, Nigg J, et al. Home based training for dexterity in Parkinson’s disease: a randomized controlled trial. Parkinsonism Relat Disord. 2017;41:92-98.(課題特化の自宅手指トレーニングが指先の細かい動きと関連ADLを有意に改善したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Mateos-Toset S, Cabrera-Martos I, Torres-Sánchez I, et al. Effects of a single hand-exercise session on manual dexterity and strength in persons with Parkinson disease: a randomized controlled trial. PM R. 2016;8(2):115-122.(15分間の手指運動セッションが直後の巧緻性・握力・つまむ力を有意に改善したと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)