パーキンソン病の家族ができること|介助・声かけ・共倒れを防ぐ工夫
手を貸すことより、待つことです。
「早く早く」と急かすほど、動けなくなる。手伝うほど、本人の力が出せなくなる——パーキンソン病の介助には、こうした逆説がよくあります。声かけと介助の工夫、そして家族自身を守る考え方を、今日から使える形で整理します。

「もう限界かもしれない」と、感じたら。
着替えに時間がかかる。歩き出しでつまずきそうになる。つい「早く」「気をつけて」と口に出てしまい、本人はますます固まってしまう——。手伝えば手伝うほど、本人の表情が曇っていく気がする。そんな悪循環に、心当たりのある方は多いのではないでしょうか。
知ってほしいのです。これは家族の接し方が悪いのではなく、症状のしくみを知り、声かけと介助の型を少し変えるだけで、驚くほど変わることがあるということを。
パーキンソン病は、本人だけでなく、支える家族の生活も大きく変えていく病気です。介助の負担は少しずつ積み重なり、気づいたときには家族自身が疲れ切っている、いわゆる共倒れの状態に近づいていることもあります。この記事では、症状のしくみに合った声かけと介助のコツ、そして家族自身を守る考え方を整理します。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
介助が、うまくいかない理由。
介助がかみ合わないとき、多くの場合その背景には「本人の性格」ではなく「症状のしくみ」があります。家族がよかれと思ってする働きかけが、実は症状と噛み合っていないことがあるのです。代表的な症状と、家族がしてしまいがちな対応、そのヒントを整理しました。
| 症状 | 起こりやすいすれ違い |
|---|---|
| 動作緩慢 | 急かす言葉をかけると、緊張が強まりかえって動けなくなる |
| すくみ足 | 手を引っ張ると、バランスを崩しやすく転倒のリスクが上がる |
| 姿勢反射障害 | 後ろから急に支えると、驚いてよけいにふらつくことがある |
| 意欲低下・気分の落ち込み | 「怠けている」と誤解し、本人も家族もつらくなる |
ここに、介助を立て直すヒントがあります。急かして悪化するなら、急かすのをやめればよい。引っ張って崩れるなら、引っ張らずに寄り添えばよい。次の章から、この考え方を具体的な声かけの型にしていきます。

STROKE LABの視点:3つの声かけ「待つ・見せる・区切る」。
パーキンソン病のリハビリでは、動きを引き出す「合図(キュー)」を使います。これは専門施設だけの技術ではありません。家庭での声かけにも、同じ考え方を応用できます。合言葉は「待つ・見せる・区切る」の3つです。
1. 待つ。動き出しには、いつもより時間がかかります。声をかけたら、急かさずにワンテンポ待ちましょう。「ゆっくりでいいですよ」のひと言が、緊張をゆるめます。
2. 見せる。言葉だけより、家族が先に動作をやって見せる、床に一歩分のテープを貼るなど、目で見える合図のほうが動きが引き出されやすいことがあります。
3. 区切る。「立って、歩いて」と一度に言うのではなく、「まず、お尻を前に」「次に、膝を立てて」と動作を小さく区切って伝えると、一つひとつに集中しやすくなります。
この3つは、歩行のすくみ足にも応用できます。すくんで足が出ないときは、「1、2」とリズムをとる、またぐ目印を示す、といった合図が有効なことが知られています。合う合図の種類は人によって異なるため、作業療法士や理学療法士と一緒に、その方に合う方法を見つけるのが近道です。
音・光・振動の合図を使った練習を自宅で6週間行った無作為化比較試験(RESCUEトライアル)では、すくみ足のある方に限って見ると、合図を使った練習でその重さが有意に軽減したと報告されています。合図は、専門的な装置がなくても、声かけや目印といった身近な工夫として応用できます。
限界:この研究は専門の療法士による訓練装置を用いたもので、効果はすくみ足のある方に限って確認されています。訓練をやめると効果が薄れる傾向も報告されており、継続や専門職によるフォローが前提です。効果には個人差があります。

場面別、介助のコツ。
「待つ・見せる・区切る」を、日常の場面に当てはめてみましょう。立ち上がりでは、いすの前で足を引き、お辞儀するように上体を倒す動きを見せると、勢いがつきやすくなります。歩行では、後ろから押さず横に並び、すくんだら足元に目印を置いて「またいで」と声をかけます。着替えでは、袖を通す・ボタンをとめるなど、動作を一つずつ区切って伝えると混乱が減ります。手や体を日頃から動かしておくと、介助そのものも安定しやすくなるので、体操・自主トレ大全もあわせてご覧ください。
自宅での工夫がその日その場面をしのぐための声かけだとすれば、専門施設で目指すのは、家族全体の介護負担そのものを軽くしていく、計画的な支援です。STROKE LABでは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 家族への実技指導。ご本人だけでなく、実際に介助するご家族にも、立ち上がり・歩行・移乗などの介助方法を、その方の体格や住環境に合わせて具体的にお伝えします。
2. 症状の理解と見通しの共有。今の症状がどのしくみで起きているか、今後どう変化しうるかを共有することで、「なぜこうなるのか分からない」という不安を減らします。
3. 家族自身の負担の把握。介助にかかる時間や身体的な負担、睡眠状況などを一緒に確認し、利用できる制度やサービスにつなぐタイミングを一緒に考えます。
STROKE LABが大切にしているのは、「ご本人のリハビリ」と「ご家族の負担軽減」を、別々にではなく一緒に考えるという姿勢です。効果には個人差があり、進行に伴って必要な支援も変わります。薬の調整は主治医の役割です。
パーキンソン病の方を介護する家族60名を対象にした無作為化比較試験では、症状の理解・問題解決・教育参加・振り返りの4段階からなる家族参加型のプログラムを4回受けたところ、介護負担の指標(Zarit介護負担尺度)が、通常ケアの対照群と比べて有意に改善したと報告されています。
限界:イランの2施設で行われた研究で、対象人数は60名と多くありません。プログラムの内容や期間が異なると効果も変わる可能性があり、効果には個人差があります。家族支援は専門的な治療の代わりではなく、医療やケアと組み合わせて使うものです。
脳リハ.comのYouTubeでは、手や体を大きく動かす体操を配信しています。介助の負担を減らす土台づくりとして、ご本人と一緒に、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
共倒れを、防ぐために。
介助は、思っている以上に体力と気力を使います。「まだ大丈夫」のうちから、使える手段を知っておくことが、共倒れを防ぐいちばんの対策です。デイサービスやショートステイ、訪問リハビリなど、外部の力を借りることは、本人を見捨てることではありません。家族が余裕を持って接することは、本人にとっても良い環境につながります。
相談の目安は、介助する家族自身の睡眠や体調が崩れてきた、気持ちの余裕がなくなってきた、といったときです。家族の不調は、我慢するものではなく、相談していいサインです。まずはケアマネジャーや主治医、リハビリ専門職に、今の負担を率直に伝えてみてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 「早く早く」と言ってしまいます。声のかけ方を変えるコツはありますか?
Q. どこまで手伝えばいいのか、どこまで本人に任せるべきか分かりません。
Q. 家族が共倒れにならないために、今日からできることはありますか?
Q. デイサービスやショートステイを使うのは、見捨てるようで気が引けます。
Q. 本人が怒りっぽくなった、気力がないように見えます。これも病気のせいですか?
Q. 介助の相談は誰にすればいいですか?

介助のご相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。ご本人のリハビリだけでなく、実際に介助されるご家族への実技指導や、負担の相談にも力を入れています。困っている場面を一緒に確認し、その方の体格や住環境に合わせた介助方法を具体的にお伝えします。薬の調整は主治医を尊重し、私たちは動作と生活、そしてご家族の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
支えられていい。

介助に悩むご家族の多くは、とても真面目で、優しい方たちです。「もっとうまく手伝えないだろうか」「自分が至らないから、うまくいかないのではないか」——そう自分を責めてしまう声を、たくさん聞いてきました。
お伝えしたいのは、うまくいかないのは、あなたのせいではなく、症状のしくみを知らなかっただけということです。待つ、見せる、区切って伝える。ちょっとした型を知るだけで、介助はぐっと楽になります。
そして何より、支えるあなた自身も、一人で抱え込まず、支えられていい存在です。介助でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。ご本人とご家族、両方の毎日が少しでも軽くなる方法を、一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。介助の負担や本人の症状変化には個人差があります。気になるときは、必ず主治医・ケアマネジャー・リハビリ専門職にご相談ください(最終確認日:2026年8月6日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Nieuwboer A, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(自宅での合図を使った練習が、すくみ足のある方の症状を有意に軽減したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Bagheri S, et al. Effect of implementing family-centered empowerment model on burden of care in caregivers of the elderly with Parkinson’s disease. J Evid Based Care. 2019;9(3):40-48.(家族参加型の支援プログラムが、介護負担の指標を有意に改善したと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- Aamodt WW, et al. Caregiver Burden in Parkinson Disease: A Scoping Review of the Literature from 2017-2022. J Geriatr Psychiatry Neurol. 2024.
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)