パーキンソン病で浴槽をまたぐのがこわい|原因と対策・自宅でできる工夫
境界の前で、足が止まります。
浴槽の縁を前にすると、足がすくんで動けない。無理にまたごうとして、ふらついて怖くなる。それはパーキンソン病でみられるすくみ足や姿勢のコントロールの変化、血圧の変動など、いくつかの原因が重なって起こっていることがあります。しくみを整理し、今日から自宅でできる工夫をまとめます。

「またごうとすると、足が止まる。」
片足を上げようとしても出ない。無理に力を入れると、今度はぐらついて怖くなる。一人で入浴するたびに、また止まってしまうかもしれないという不安がつきまとう——。毎日のことだけに、気持ちの負担も小さくありません。
でも、知ってほしいのです。「またぐ」という動作にはいくつかの原因が重なっていることが多く、原因ごとに合う工夫があるということを。
パーキンソン病では、浴槽の縁のような狭い境界を越えようとした瞬間に、足が動かなくなることがあります。これは一つの症状だけで説明できるとは限りません。動き出しのしくみ、バランスを保つしくみ、血圧のしくみ、そして「怖い」という気持ちまで、いくつもの要素が絡み合って起こります。まずは原因を整理し、そのうえで具体的な工夫を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
考えられる原因を、整理する。
「またげない」という一つの困りごとの裏には、性質の異なるいくつもの原因が隠れています。どれが強く出ているかによって、必要な工夫が変わります。
| 原因 | どういうことか |
|---|---|
| すくみ足 | ドアの敷居や狭い通路と同じく、浴槽の縁のような「越える境界」で動き出しの合図が伝わりにくくなる |
| 姿勢反射障害・バランスの変化 | 片足立ちになる一瞬、体を立て直す反応が遅れ、ぐらつきやすくなる |
| 動作緩慢・筋強剛 | 股関節や膝が曲げにくく、足を高く上げる動作そのものに時間と力を要する |
| 起立性低血圧 | 温かい湯や湿度の高い浴室、座位からの急な立位で血圧が下がり、ふらつきが強まる |
| 視空間認知の変化 | 浴槽の高さや縁までの距離を実際より遠く、または近く感じてしまうことがある |
| 転倒への恐怖 | 過去にふらついた経験などから体がこわばり、それがすくみ足やバランスの乱れをさらに強める |
大切なのは、「すくみ足」への対処と「転倒への恐怖」への対処は別物として考えることです。動作の工夫だけでなく、環境を整え、成功体験を積み重ねることが、両方に効いてきます。次の章から、具体的な手順を見ていきましょう。

STROKE LABの視点:またぐ動作を「一歩」に区切る。
すくみ足への対処でいちばん手早く効くのが、「またぐ」という一続きの動作に、目印とリズムを足して区切ることです。境界をひとまとまりの大きな動作として捉えると足が止まりやすくなりますが、区切りを与えると動き出しの合図が伝わりやすくなります。次の3ステップで、今日から試せます。

ステップ1:浴槽の縁に「またぐ位置」の目印をつける。縁の外側と内側にテープを一本ずつ貼り、そこを踏むことを目標にします。何もない縁より、線が引かれているほうが足が出やすくなります。
ステップ2:またぐ前に、その場で足踏みをする。「1、2、1、2」と声に出しながら2〜3回足踏みをしてリズムを作ってから、そのままの勢いで一歩を踏み出します。急に動こうとするより、リズムに乗ったほうが動き出しやすくなります。
ステップ3:「大きく、またぐ」と声に出す。頭の中で思うだけでなく、声に出すことで動作への意識が高まります。介助者がいる場合は、同じ言葉で合図を送るのも効果的です。
目印やリズムは、慣れてきたら少しずつ減らしていき、最終的には目印がなくても動けることを目指します。合う目印の種類や声かけのタイミングは人それぞれなので、作業療法士や理学療法士と一緒に調整すると近道です。
パーキンソン病の方を対象に、自宅で目印やリズムを使う練習を3週間行った研究では、歩く速さ・歩幅・バランスの検査結果が改善し、日常生活の動作への自信も高まったと報告されています。
限界:この研究では、練習をやめて6週間後には効果がかなり弱まっていました。一度身につけて終わりではなく、目印やリズムを生活の中に残し続けたり、練習を継続したりすることが大切だとされています。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。
環境と、道具の工夫。
動作の工夫にあわせて、浴室そのものの負担を減らすことも欠かせません。道具や環境の調整は、恐怖心を和らげるうえでも大きな意味を持ちます。
浴槽の内外に踏み台やバスボードを置くと、またぐ高さそのものを低くできます。しっかりした位置に手すりを取り付け、床には滑りにくいマットを敷きましょう。入浴の時間帯を、薬がよく効いている時間帯に合わせるのも有効な工夫です。起立性低血圧が疑われる場合は、お湯の温度を上げすぎない、湯船から出るときは手すりを持ってゆっくり立ち上がる、立ち上がる前に足首を動かして血流を促す、といった配慮も助けになります。浴槽の縁を低くする、またぎやすい形状に替えるといった住宅改修は、介護保険の住宅改修費用制度が使える場合があるので、ケアマネジャーや工務店に相談してみてください。体を動かす習慣は下肢の柔軟性や筋力の維持にもつながるので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。

231名のパーキンソン病の方を対象に、バランス・下肢筋力・すくみ足を狙った運動プログラムを6か月間行った無作為化比較試験では、身体機能と心理面の指標が改善し、症状が比較的軽い方では転倒の回数も減ったと報告されています。
限界:この試験では、対象者全体でみると転倒そのものは有意に減らせませんでした。症状が進んだ方では効果がはっきりしなかったとされています。運動療法は転倒を確実に防ぐ魔法ではなく、環境調整や動作の工夫と組み合わせて使うものです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。
自宅での工夫が、目印やリズムを足してその場で動きやすくする代償だとすれば、専門施設で目指すのは、目印が少なくても大きく動ける状態に近づける回復的アプローチです。またぐ動作への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. その人に合うキューイングの見極め。視覚(目印)・聴覚(リズム)・体性感覚(合図となる接触)のうち、どれがいちばん反応しやすいかを評価し、生活の中で使い続けられる形に落とし込みます。
2. 股関節・体幹の可動性と片足立ちの練習。足を高く上げる動きに必要な柔軟性と、片足になった瞬間のバランスを、段階を踏んで底上げしていきます。
3. 成功体験を積む練習設計。難易度を少しずつ上げながら「できた」という経験を重ね、転倒への恐怖そのものを和らげていきます。
STROKE LABが軸足を置くのは、キューで正しい動きを引き出し、成功体験を積みながら、少しずつキューを外して身につけていくという流れです。目印がなくても動けるように近づけていく、その設計を専門的に組み立てます。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。血圧や薬の調整は主治医の役割です。
脳リハ.comのYouTubeでは、股関節や体幹を大きく動かす体操を配信しています。またぐ動作の土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際に浴室でどの動作で止まるのか、どんな場面でふらつくのかを一緒に確認し、目印の種類や置き方、声かけのタイミング、環境の調整を、その人に合わせて組み立てます。「実際に困っている浴室」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬や血圧の調整は主治医の役割で、私たちは動作と環境の側から支えます。
受診の目安は、転倒やふらつきの頻度が増えてきた、入浴に限らず日常のさまざまな場面で足が止まるようになった、めまいや失神に近い感覚が出るようになった、といったときです。足が動かなくなる原因はすくみ足だけとは限りません。自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 浴槽をまたごうとすると足が動かなくなるのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. またぐ前にその場で足踏みすると楽になるのはなぜですか?
Q. 入浴中にふらつくのは、浴槽をまたぐ動作と関係がありますか?

Q. 自宅でできる浴槽まわりの工夫はありますか?
Q. 転倒が怖くて入浴そのものを避けてしまいます。どうしたらいいですか?
Q. すくみ足と転倒への恐怖は同じものですか?

入浴の不安の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている浴室での場面を一緒に確認し、目印の種類・声かけ・環境調整を、その人に合わせて組み立てます。実際の浴室動作を題材にするので、練習がそのまま生活の安心につながります。血圧や薬の調整は主治医を尊重し、動作と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
区切りという橋を。

浴槽の縁の前で足が止まり、それが毎日繰り返されると、入浴そのものが怖くなってしまいます。「もう一人では入れないかもしれない」と、ご本人もご家族も不安を抱えているご様子に、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、大きな一歩を求めなくていい、ということです。目印とリズムで一歩を区切れば、足はまた動き出します。原因は一つではないからこそ、動作・環境・気持ちの三方向から、少しずつ整えていく。それだけで、入浴の景色は変わります。
浴室でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。実際に困っている場面そのものを題材に、その方に合う工夫を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。足が動かなくなる・ふらつく症状には複数の原因が関わります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年9月5日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Nieuwboer A, Kwakkel G, Rochester L, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(自宅での目印・リズム練習が歩行速度・歩幅・バランスを改善し、日常動作への自信も高めたが、6週間後には効果が弱まったと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Canning CG, Sherrington C, Lord SR, et al. Exercise for falls prevention in Parkinson disease: a randomized controlled trial. Neurology. 2015;84(3):304-312.(バランス・筋力・すくみ足を狙った運動プログラムが身体・心理面を改善し、軽症者では転倒が減ったが、全体では転倒率に有意差がなかったと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)