パーキンソン病で靴の選び方|すくみ足の原因と対策・自宅でできる工夫
止まる足は、靴と床で変えられます。
歩き出そうとした瞬間、足が床に張り付いたように動かなくなる。それはパーキンソン病のすくみ足かもしれません。原因は一つではなく、靴底の摩擦や床の模様、そして不安な気持ちまでが重なって起こります。靴と床の選び方・使い方ひとつで、足の出やすさは変わります。しくみと、今日から自宅でできる工夫を整理します。

「足が、床に張り付いた。」
歩き出そうとした一歩目、廊下を曲がる瞬間、エレベーターに乗り込むとき。まるで足だけ床に張り付いたように動かなくなる。本人は「動かそう」としているのに、体がついてこない――家族から見ると、ある日突然そうなったように感じることもあります。
でも、知ってほしいのです。これはすくみ足という症状で、靴・床・歩き方の工夫によって、止まる回数を減らせることがあるということを。
パーキンソン病では、歩き出しや方向転換、狭い場所の通過などで、足が一瞬止まってしまうすくみ足(freezing of gait)がみられることがあります。歩行は本来、意識しなくても脳が自動的に進めてくれる動作ですが、その自動化のしくみがうまく働かなくなることで起こると考えられています。まずはしくみと原因を知り、そのうえで具体的な立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
すくみ足が起こる、しくみと原因。
すくみ足は、運動の症状だけで説明できるものではありません。脳の中でドパミンが減ることで歩行の自動化プログラムが乱れるのに加え、いくつもの要因が重なって「今、この瞬間」に足を止めてしまいます。起こりやすい場面と、背景にある要因を整理してみましょう。
| 起こりやすい場面 | 背景にある要因 |
|---|---|
| 歩き始めの一歩目 | 静止から動作へ切り替える「立ち上がりの号令」が出にくくなる |
| 方向転換・狭い場所 | 進む方向の切り替えに、体の複数部位の協調が追いつかない |
| 考え事をしながら歩く | 二重課題(会話・計算など)に注意を取られ、歩行への配分が減る |
| 目的地・戸口に近づく | 「間に合わせなきゃ」という焦りや不安が、かえって足を止めてしまう |
| 靴・床の状態 | 靴底の引っかかり、床の模様や段差の見えにくさが引き金になる |
つまりすくみ足は、脳・気持ち・環境が重なって起こる現象です。薬の効き方が弱まる時間帯(いわゆるオフの時間)に強く出ることも知られており、その調整は主治医の役割になります。私たちができるのは、足元と床という「環境」の側から、足を出しやすくする工夫です。次の章から、具体的な手順にしていきましょう。

STROKE LABの視点:足元を「キュー付き」に変える。
すくみ足の対処でいちばん手早く効くのが、足元に「今、一歩出す」ための手がかり(視覚・聴覚のキュー)を足すことです。止まっていた自動化のプログラムを、外からの合図で切り替えるイメージです。自宅の玄関や廊下で、次の3ステップで用意できます。

ステップ1:靴底を選び直す。グリップが強すぎる靴底は、床に引っかかってすくみのきっかけになることがあります。滑りすぎず、引っかかりすぎない、なめらかに足を運べる靴底を選びます。
ステップ2:床にラインを引く。すくみやすい玄関・曲がり角・戸口に、養生テープなどで色のついた線を貼ります。その線を「またぐ」意識を持つと、止まっていた足が出やすくなります。
ステップ3:音や声で合図する。「いち、に」と声に出す、一定のリズムを刻むメトロノームアプリを使うなど、聴覚の合図も有効です。慣れてきたら、線や音がなくても歩き出せるように少しずつ減らしていきます。
大切なのは、目印を使って「止まらずに歩けた」という成功体験を積み重ねること。合うキューの種類(視覚か聴覚か、線の色や太さ)は人によって異なるので、理学療法士・作業療法士と一緒に調整すると近道です。
すくみ足のあるパーキンソン病の方を対象に、足もとに光の線を照らす携帯用の器具を使ってもらった研究では、その線をまたぐ動作を手がかりに、すくみ足のエピソードが減ったと報告されています。床に引く線と同じ発想を、より手軽な道具で実現したものといえます。
限界:対象人数は多くなく、非公開試験(オープンラベル)での検討です。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。専用の器具がなくても、床に貼ったテープで同様の考え方を試すことができます。
靴選びと、歩き方のコツ。
足元のキューに加えて、靴そのものの選び方でも、歩きやすさは変わります。合言葉は「滑りすぎず、引っかかりすぎず、脱ぎ履きが楽」。この3つを軸に選んでみてください。

靴底は、分厚いゴム底やクレープソールのように床への食いつきが強すぎるものより、なめらかに足を滑らせられる、ほどよい硬さの靴底が向いていることがあります。留め方は、細かい作業がしにくいひも靴より、マジックテープ式が扱いやすく、着脱の負担も減らせます。重さは軽いほど足が上がりやすく、サイズはつま先に少し余裕を持たせると安心です。屋内でも靴下だけでは、フローリングで滑る・カーペットで引っかかるという両方の危険があるため、室内用の軽い履物を用意しておくと安全です。歩き方では、小刻みに足を運ぶのではなく、かかとから着地し、大きく一歩を踏み出すことを意識すると、すり足によるつまずきを減らせます。方向転換は、その場でくるっと体をひねらず、いったん足を止めてから、まとまって体ごと向きを変えるほうが安全です。体力や柔軟性の土台づくりには、体操・自主トレ大全もあわせてご活用ください。
自宅の工夫が「今日、その場で足を出しやすくする」ための対症的な手立てだとすれば、専門施設で目指すのは、すくみ足の背景にある複数の要因それぞれに、専門的に働きかけることです。私たちは、大きく4つの方向から組み立てます。
1. 多様なキューイング。視覚(床のライン)だけでなく、聴覚(メトロノーム・音楽のリズム)、体性感覚(振動)、認知的方略(「大きくまたぐ」と自分に言い聞かせる)まで、その人に最も響くキューを一緒に見極めます。
2. 方向転換・二重課題の練習。すくみが起こりやすい「曲がる」「考えながら歩く」場面を、安全な環境で段階的に練習し、実生活の負荷に近づけていきます。
3. 不安・焦りへのアプローチ。「間に合わない」という焦りがすくみを誘発することも多いため、呼吸を整える、あらかじめ一呼吸おいてから動き出すといった心理面の工夫も取り入れます。
4. 環境と靴・歩行補助具の選定。ご自宅の動線や段差を一緒に確認し、靴や杖・歩行器といった補助具が今の状態に合っているかを見直します。
STROKE LABが軸足を置くのは、複数のキューを組み合わせて「止まらずに歩けた」経験を積み重ね、生活の中の負荷が高い場面にも少しずつ広げていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
視覚・聴覚・体性感覚のキューを組み合わせた歩行訓練を、自宅で3週間行ってもらった大規模な無作為化比較試験(RESCUE試験)では、歩行速度や歩幅、すくみ足に関連する生活動作の指標が改善したと報告されています。その場の目印だけに頼らず、複数のキューを日常生活の中で繰り返し使うことで、変化をねらう考え方です。
限界:効果の大きさや持続期間には研究間で幅があり、訓練終了後にどこまで維持されるかは個人差があります。専門的な評価と指導のもとで行われた訓練であり、自己流の負荷設定は転倒のリスクを高めることがあります。訓練は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
脳リハ.comのYouTubeでは、大きな一歩を意識する歩行体操や、方向転換の練習を配信しています。書字の土台づくりと同様、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際にすくみが起こる場面(玄関、トイレのドア、スーパーのレジ前など)を一緒に確認し、その方に合うキューの種類、靴、歩き方、ご自宅の動線を調整します。「実際に困っている場面」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整(オン・オフ現象への対応を含む)は主治医の役割で、私たちは体の使い方と環境の側から支えます。
受診の目安は、すくみ足が急に増えた・強くなった、転びそうになる回数が増えた、これまで効いていた工夫が効かなくなってきた、といったときです。急激な変化は、薬の効き方や別の要因が関わっていることもあります。自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。
よくある質問。
Q. 歩き出そうとすると足が床に張り付いたように動かなくなります。これはパーキンソン病の症状ですか?
Q. すくみ足の対策として、どんな靴を選べばよいですか?滑り止めのしっかりした靴が安心ですか?
Q. 床にラインを引くだけで、本当にすくみ足に効果がありますか?

Q. 家の中では靴下だけで歩いていますが、問題ありますか?

Q. すくみ足はリハビリで良くなりますか?
Q. 急にすくみ足がひどくなり、転びそうになることが増えました。どうすればよいですか?
歩行の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っているすくみ足の場面を一緒に確認し、キューの種類・靴・歩き方・ご自宅の環境を、その人に合わせて組み立てます。玄関やトイレなど、実際の場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、体の使い方と環境の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
一歩は出ます。

玄関で足が止まってしまうたびに、「情けない」「家族に迷惑をかけている」と感じる方に、たくさん出会ってきました。すくみ足は意志の弱さではなく、脳と体と環境が重なって起こる現象です。
お伝えしたいのは、床に一本の線を引く、靴底をひとつ見直すだけで、一歩は驚くほど出やすくなることがあるということです。原因が一つではないからこそ、対策も一つに絞らず、その方に合う組み合わせを一緒に見つけていきたいと考えています。
歩行やすくみ足でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う工夫を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。すくみ足による転倒は大きなけがにつながることがあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年7月6日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Donovan S, et al. Laserlight cues for gait freezing in Parkinson’s disease: an open-label study. Parkinsonism Relat Disord. 2011;17(4):240-245.(足もとの光の線をまたぐ動作を手がかりに、すくみ足のエピソードが減ったと報告。第3動線・エビデンスボックス1の出典)
- Nieuwboer A, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(視覚・聴覚・体性感覚のキューを組み合わせた自宅での歩行訓練により、歩行関連の生活動作が改善したと報告。第4動線・エビデンスボックス2の出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)