運動遊びを嫌がる子|怖さ・失敗経験・感覚の背景を考える
「やりたくない」の手前にある、動き出せない条件を見つける。
公園へ行っても遊具から離れる。園の体操になると固まる。一度失敗すると「もうやらない」と言う——。こうした姿を「運動嫌い」「怖がり」だけで片づける前に、どの瞬間から難しくなるのか、何を変えると参加できるのかを見てみましょう。動きの予測、姿勢の準備、感覚の負荷、過去の失敗、周囲の環境を分けて考えると、家庭でできる関わりと専門相談の目安が整理しやすくなります。

嫌がる場面には、理由の手がかりがある。
「公園に行っても走らない」「ブランコを見るだけで逃げる」「体操の時間になると泣く」「一度転んでから、同じ遊具に近づかない」。保護者からは、こうした相談がよく聞かれます。
大切なのは、「やらない」という結果だけを見ないことです。同じ遊具を嫌がっていても、遊具を見た瞬間に離れる子、階段までは上れる子、頂上で止まる子、滑ったあと二回目を拒否する子では、考える背景が違います。
近づく、姿勢を準備する、始める、続ける、止まる、失敗後に戻る。このどこで表情・視線・体の固さ・手の握り・逃避が変わるかを見ると、家庭で変えられる条件が見えやすくなります。
怖さは、動き始める前から生まれる。
運動は、体を動かしてから始まるわけではありません。遊具を見る、周囲の速さを確認する、足場を予測する、姿勢を準備する、次の動きを決める——こうした「動く前の処理」があります。そこに余裕がないと、子どもにとって動かないことが最も安全な選択になる場合があります。
たとえば、ブランコそのものが嫌なのではなく、「足が床から離れる」「自分で止められない」「後ろへ動く瞬間が見えない」ことが怖い場合があります。逆に、床に足がつく、自分で揺れを始められる、すぐ止められる条件では参加できるかもしれません。
拒否をつくる、5つの背景。
運動遊びを嫌がる理由は一つではありません。ここでは保護者が観察しやすいように、5つに分けます。どれか一つに決めるのではなく、条件を変えたときの反応の差から優先順位を考えます。

一人ならできる、親が先に見せるとできる、足が床についていればできる、自分で開始・停止を決められるとできる、人が少ない時間ならできる。こうした成立条件の差は、単なる「できる・できない」より介入選択に役立ちます。
研究から見える、支援の考え方。
「運動遊びを嫌がる未診断の幼児」だけを対象にした研究は多くありません。そのため、ここでは幼児の運動遊びに関する公的指針と、運動参加に困りやすい発達性協調運動症(DCD)の近接研究を分けて読みます。DCDの研究結果を、運動遊びを嫌がるすべての子へそのまま当てはめることはできません。
幼児の遊び:文部科学省の幼児期運動指針では、大人が一方的に運動させるのではなく、子どもの興味や関心に基づく自発的な遊びを通して多様な動きを経験することが重視されています。
運動の困りごと:DCDの国際臨床推奨では、実際に改善したい遊び・生活活動に近い活動志向・参加志向の介入と、家庭や学校への般化が推奨されています。
感覚への介入:米国小児科学会は、感覚の困りごとを単独の診断に結びつけず、感覚を用いた介入を行う場合も、具体的な生活目標と期間を決めて効果を確認するよう勧めています。
限界:このテーマそのものに対する直接的な介入研究は限定的です。DCDの課題志向型介入についても、Cochraneレビューでは運動検査上の改善可能性が示される一方、エビデンスの質は低く、心理面や生活参加への効果は確実ではないとされています。診断・年齢・重症度・介入量・環境により結果は異なります。
家庭では、練習より先に条件を変える。
嫌がる活動をそのまま何度も繰り返すより、「どこまでなら参加できるか」「何を変えると動き出せるか」を探します。家庭の役割は、療法士のように訓練することではなく、失敗や負担が続きすぎない環境を作ることです。
| 変える条件 | 家庭での例 | 見る変化 |
|---|---|---|
| 高さ・速さ | 低い段差、ゆっくりしたボール、揺れを小さくする | 近づけるか、体の固さが減るか |
| 支え | 手すり、壁、足が床につく条件から始める | 手を離せるか、視線が上がるか |
| 見通し | 先に見本を見せる、順番を短く伝える | 開始までの時間、拒否の強さ |
| 自己選択 | 「1回・2回」「速い・ゆっくり」「見る・やる」を選べるようにする | 自分から始めるか、途中で戻れるか |
| 人・音 | 空いている公園、一対一、列に並ばない時間から試す | 集団条件との反応差 |

泣いている状態で最後までやらせる、失敗した直後に何度も再挑戦させる、他の子と比較して励ますといった関わりは、運動そのものより「また失敗する」「逃げられない」という予測を強めることがあります。近づく・見る・触るも参加の一部として扱います。
様子を見るより、相談したいサイン。
運動遊びを嫌がるだけで、発達の問題や病気と判断することはできません。ただし、遊びや園生活への影響が広がっている場合は、困りごとを早めに整理する価値があります。
- 複数の運動遊びを長期間避けている
- 公園、園行事、友達との遊びが狭まっている
- 失敗への恐怖が強く、挑戦全般を避ける
- 走る、階段、ボール、手先など複数領域にも困りごとがある
- 家庭と園で反応が大きく違う
- どの条件なら参加できるか周囲だけでは整理しにくい
- 以前できていた動きが急にできなくなった
- 急な左右差、片側の動かしにくさがある
- 痛み、腫れ、跛行がある
- 強い頭痛、繰り返す嘔吐、強いめまいがある
- けいれん様の動き、意識・呼吸・顔色の変化がある
- 転倒や外傷を繰り返している
STROKE LABでは、できる・できないだけでなく、動き出す前の構え、予測、姿勢、感覚、失敗後の戻り方、家庭と園の環境差まで確認します。医療・健診での判断を尊重しながら、生活の中で参加しやすい入口を一緒に整理します。
専門施設では、「嫌がる瞬間」から参加の入口を設計する。
専門施設の目的は、泣かずに課題を完遂させることでも、すべての運動を好きにさせることでもありません。目標は、子どもが動きを予測し、自分で選び、試し、失敗しても再び参加できる条件を増やすことです。
「姿勢を整える」「感覚を入れる」で終わらせず、その所見が何を難しくし、どの条件を変え、生活の何が変わったら介入が意味を持ったと判断するのかまでつなげます。
| 観察される困りごと | 考えるボトルネック | 確認する評価・観察 | 選ぶ介入系統 | 難易度・量の調整 | 生活で確認する変化 |
|---|---|---|---|---|---|
| ブランコやすべり台を見るだけで離れる | 高さ・速度・停止位置の予測、自分で止められない不安 | 足が床につく条件、自己開始・自己停止、見本の有無で反応を比較 | 見通しの提示、自己選択、低い・遅い条件から段階的に再接近 | 一度に変える条件は1つ。強い不安が出る前に終了 | 公園で自分から見る・近づく・触れる・1回試す |
| ボール遊びを避ける | 軌道予測、衝撃への恐怖、捕球姿勢の準備 | 風船・大きな柔らかいボール、距離、速度で身体の引き方を比較 | 遅い物体、広い捕球面、予測しやすい軌道で目標課題を練習 | 連続失敗を避け、成功率を見ながら距離・速度を1段階ずつ上げる | 家族とのやり取りが続く、失敗後もボールを返す |
| 家では動くが園の体操では固まる | 騒音、模倣、順番、指示処理、他児の視線 | 一対一と集団、前方と端、事前予告の有無を比較 | 動作の事前経験、視覚的な順番、短時間からの集団参加 | 見学→一部分→短時間参加。全種目を一度に求めない | 園で最初の活動に加わる、途中離脱後に戻れる |
| 転倒後から同じ遊びを拒否する | 痛みの残存、恐怖の記憶、成功予測の低下 | 痛みの有無、低い・遅い・支えあり条件での表情と姿勢を比較 | 安全な類似課題から再構築し、本人が条件を選ぶ | 元の難易度へ急がず、近づく・触るも参加として評価 | 同じ場所へ再び行ける、別の日に再挑戦できる |
| 課題では拒否するが追いかけ遊びではよく動く | 運動能力より課題の意味、主導権、評価される感覚 | 自由遊びと課題場面、本人選択と大人指定を比較 | 好きな物語・目的の中へ目標動作を組み込む | 修正指示を減らし、本人の選択を残して難易度を調整 | 自発的な運動時間、遊びの種類、他児との共有が増える |
運動遊びを嫌がる子を「筋力不足」「感覚過敏」「怖がり」の一語で説明すると、介入が固定されます。たとえば高い遊具で止まる子でも、足場が見えれば動けるのか、手すりを離す瞬間だけ固まるのか、自分で止まれる条件なら動けるのかで仮説は変わります。
最初に見るのは、拒否が起こる最小の条件です。そこで高さ・速度・支持面・視覚情報・自己選択などを一つだけ変え、その場で表情、呼吸、視線、姿勢、開始までの時間、成功率がどう変わるかを確認します。反応が良ければその条件を足場に課題そのものを練習し、反応が変わらなければ仮説を見直します。
もう一つ重視するのが、失敗後の回復時間です。1回失敗しても数十秒で戻れる課題と、その日すべての運動を避ける課題では難易度設定が違います。成功回数だけでなく、再挑戦のしやすさを見ながら負荷を調整します。
最後に、施設でできた条件を公園・家庭・園へ移します。同じ遊びでも人の多さや音、順番待ち、他児の速度が加わると再び崩れることがあります。そこで生活場面の動画や園からの情報を用い、同じ目標動作で再評価し、環境側の調整も含めて更新します。
近接領域:DCDの国際臨床推奨では、改善したい活動や参加場面そのものに近い介入を用い、家庭・学校など異なる環境への般化機会を作ることが推奨されています。ただし、本記事の対象すべてがDCDではありません。
介入原理:課題志向型介入には運動スキル改善の可能性がありますが、Cochraneレビューではエビデンスの質が低く、参加や心理面への効果は不確実です。そのため、訓練室の成功だけで効果を判断しません。
感覚への配慮:感覚刺激を使う場合も、刺激を与えたこと自体を成果にせず、「公園で近づけた」「園の体操へ短時間参加できた」など、具体的な生活目標で変化を確認します。
限界:運動遊びの拒否は、運動機能だけでなく、発達特性、不安、痛み、視覚・聴覚、神経・筋疾患、家庭・園環境など多くの要因で生じます。研究対象・診断・年齢・介入量が異なるため、特定の手技や刺激法の効果を一般化できません。医学的評価や治療の代替ではありません。

家庭では生活を守り、失敗が重なりすぎない条件を作る。専門施設では、評価にもとづいて複数の方法を組み合わせ、「できる力」を「遊びに参加できる力」へつなぐ。両者は別々ではなく、同じ目標へ向かう連続した支援です。
よくある質問。
Q. 運動遊びを嫌がるのは、運動神経が悪いからですか?
Q. 怖がっていても、慣れるまで続けさせた方がよいですか?
Q. 家ではよく動くのに、園では運動を嫌がるのはなぜですか?
Q. 一度失敗してから、同じ遊びをしなくなりました。どう関わればよいですか?
Q. 感覚過敏や発達性協調運動症が関係しているのでしょうか?
Q. どのような状態なら、小児科やリハビリへ相談した方がよいですか?
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LAB(東京・大阪)では、運動遊びを嫌がる様子を、筋力やバランスだけで判断しません。動き出す前の構え、視線、姿勢制御、感覚情報、予測、運動計画、失敗後の戻り方、家庭と園の環境差まで見ながら、どの条件なら参加が生まれるかを整理します。
診断名を急いで付ける場所ではなく、医療・健診・発達支援と連携しながら、生活と動きの側から支える施設です。急な症状や痛みがある場合は医療機関を優先してください。
育ちに寄り添う関わりへ。

「運動を嫌がる」という姿を見ると、経験が足りないのか、もっと練習した方がよいのかと迷うことがあります。しかし、子どもの動きには、感じる、構える、予測する、動く、修正するという多くの過程があります。
私たちが大切にするのは、嫌がる行動を減らすことより、その子が安心して動き出せる条件を見つけることです。機能解剖と動作分析の視点を、遊びや園生活へつながる形に置き換えていきます。
家庭だけでは理由を整理しにくいときは、どうぞ一度ご相談ください。できることだけでなく、できる条件を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。運動がぎこちない理由を「筋力」だけで判断せず、感じる・構える・予測する・計画する・動くという流れとして捉える視点は、子どもの運動遊びを考えるときにも土台になります。
- 動きがぎこちない・運動が苦手|運動制御の視点で「なぜ」を分析する
- 体操教室で伸びない子|練習量以外に見るべき運動発達
- 体力がないと言われる子|持久力・姿勢・呼吸から見る運動発達
- 何度教えても運動が覚えられない子|運動学習の視点で支える
本記事は、国内外の公的情報・臨床推奨と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。「運動遊びを嫌がる」という行動だけで診断を行うことはできません。研究結果は対象や診断が異なるため、個々のお子さんにそのまま当てはまるものではありません(最終確認日:2026年8月7日)。
- 文部科学省:幼児期運動指針.幼児の自発的な遊び、多様な動き、家庭・園を含む環境づくりの基本。
- Blank R, Barnett AL, Cairney J, et al. International clinical practice recommendations on the definition, diagnosis, assessment, intervention, and psychosocial aspects of developmental coordination disorder. Dev Med Child Neurol. 2019;61(3):242-285. doi:10.1111/dmcn.14132.
- Miyahara M, Hillier SL, Pridham L, Nakagawa S. Task-oriented interventions for children with developmental co-ordination disorder. Cochrane Database Syst Rev. 2017;(7):CD010914. doi:10.1002/14651858.CD010914.pub2.
- American Academy of Pediatrics, Section on Complementary and Integrative Medicine; Council on Children with Disabilities. Sensory Integration Therapies for Children With Developmental and Behavioral Disorders. Pediatrics. 2012;129(6):1186-1189. doi:10.1542/peds.2012-0876.
- 発達障害情報のポータルサイト:発達性協調運動症.2024年8月22日更新。
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)