ボールを蹴るのが苦手な子|片足支持とタイミングの見方
動かす脚よりも、反対側の脚で体を支え続けられるかが成功を左右します
「ボールの横を空振りする」「蹴ろうとするとよろける」「足で押すだけになる」。ボールを蹴る動きは、足の力だけで決まりません。ボールを見る、近づく、支持足を置く、片足で支える、反対の脚を振る、当てる瞬間を合わせる、蹴ったあとに立て直すという連続した課題として見ることが大切です。家庭での見方、遊び方、相談の目安、専門施設でできることまで整理します。

何歳ごろから、ボールを蹴るようになる?
前へボールを蹴る様子は、2歳ごろから見られ始めます。ただし、この時期の「蹴る」は、上手にねらって飛ばすことまでを意味しません。ボールに近づいて足が当たる、前へ押し出せる、といった初期の段階も含まれます。
その後、支持足をどこに置くか、片足で身体を支えられるか、転がるボールへタイミングを合わせられるかといった質の部分が少しずつ育っていきます。ですから、2歳代でフォームが未熟なことだけで異常と判断することはできません。
一方で、年齢が上がっても、ボールの横を空振りする、蹴るたびに転ぶ、園や学校のボール遊びを避けるといった困りごとが続く場合は、単に経験不足だけではないことがあります。
STROKE LABの視点|キックを7つの局面に分けて見る
ボールを蹴る動きを、「脚力が弱い」「片足立ちが苦手」の一言で片づけると、見落としが増えます。私たちは、次のような一続きの流れとして見ます。
- ボールと目標を見る
- ボールへ近づく
- 支持足を置く
- 支持足へ体重を移し、片足で身体を支える
- 反対の脚を後ろから前へ振る
- ボールへ当てる瞬間を合わせる
- 蹴ったあとに姿勢を立て直す
たとえば「空振りする」子でも、見えていないのではなく、近づきすぎているのかもしれません。「蹴ると転ぶ」子でも、静かな片足立ちではなく、両足支持から片足支持へ移る瞬間に崩れているのかもしれません。
ここで大切なのは、どの局面で動きが止まるのかを見つけることです。医療や健診が先に必要な場合はその判断を優先し、私たちは生活の中で見える困りごとを、観察しやすい形に翻訳して併走します。

よくあるつまずき方と、その背景
| 見た目の困りごと | 背景として考えること |
|---|---|
| ボールの横を空振りする | 距離の取り方、支持足の位置、蹴り脚を出す時刻、視線の使い方のずれ |
| 蹴ろうとするとよろける | 支持足への体重移動、片足支持での姿勢制御、蹴ったあとの立て直し |
| 足で押すだけになる | 蹴り脚を後ろから前へ振る準備が少ない、膝と股関節の使い分けが未熟 |
| 止まったボールは蹴れるが、転がると難しい | 移動を予測する力、タイミング合わせ、視覚情報から動作を始める力 |
| 家ではできるが、園ではできない | 注意の分散、周囲の速さ、順番待ち、失敗への不安、指示の多さ |
とくに見落としやすいのは、「片足立ちができるのに、キックでは崩れる」ケースです。キックでは、静かに立つ力だけでなく、歩いてきた流れから一瞬で支持足へ乗り移る力が求められます。
また、「空振りする」ことを目と足の協調だけで説明しないことも大切です。大きいボールなら当たるのか、助走をなくすと当たるのか、支えがあると当たるのかを比べると、つまずいている局面が見えやすくなります。
研究でわかっていること
様子見と相談の目安
| 家庭でまず見てよいこと | 相談が安心なサイン |
|---|---|
| 2歳代で、蹴る動きがまだ不安定 | 年齢が上がっても著しい困難が続き、遊びを避ける |
| 静止した大きいボールでは当たる | 痛み、腫れ、跛行、極端な左右差がある |
| 支えを使うと成功しやすい | 以前できていたことが急にできなくなった |
| 緊張が少ない一対一の場面でできる | 走る、跳ぶ、階段など他の基本運動にも困りごとがある |
痛み、急な左右差、転倒の多さ、以前できていたことが急にできない場合は、フォーム練習よりもまず相談が優先です。診断や医学的評価は医療機関の領域であり、私たちはその後の生活や遊びの場面で、何が困りごとを作っているのかを丁寧に見ていきます。
家庭でできること|成功しやすい条件から始める
家庭でのポイントは、強く蹴ることより、当たることと、本人が「できた」と感じる回数を増やすことです。最初から小さいボールや速い球を使うより、条件を整えて段階を作るほうが、動きの学習が進みやすくなります。
避けたいのは、「もっと強く」「ちゃんと片足で立って」と細かく言い続けることです。言葉が増えるほど動きにくくなる子もいます。まずは難易度を下げ、当たりやすい条件で反復し、できた体験を積み上げましょう。

専門施設では、困りごとを「片足支持」「タイミング」「予測」「環境」のように分けて評価し、育てたい機能と実際の遊びへの参加の両方へ働きかけます。診断、画像、手術、投薬などの医学的管理は主治医の領域であり、私たちは生活機能の側から併走します。
専門施設で、さらに期待できること
専門施設で目指すのは、「きれいなフォーム」だけではありません。友達に蹴り返せる、園のボール遊びに入れる、体育で端にいかずにすむといった、実際の参加につながる変化を目標にします。
| 観察される困りごと | 何を確認するか | 介入の考え方 |
|---|---|---|
| 蹴ると毎回よろける | 支持足への体重移動、片足での姿勢保持、蹴ったあとの立て直し | 支えの量や振り幅を調整しながら、支持足で支えつつ反対脚を動かす課題から組み立てます |
| 空振りが多い | 距離の取り方、支持足の位置、蹴り脚を出す時刻、大きい球での変化 | マーカーや球速の調整を使い、当たりやすい条件でタイミングを学びます |
| 止まった球はできるが、動く球が難しい | 予測、視線の使い方、動作開始の遅れ、環境刺激の影響 | 遅い直線の球から始め、方向、速度、人数を少しずつ変えて般化を目指します |
私たちは、キックを「足の力だけの問題」とは考えません。回数を増やすだけでは、園庭や体育の場面へそのまま移らないからです。
まず、支持足に乗る前の最後の一歩、支持足を置く位置、蹴り脚を出す時刻、蹴ったあとに何歩よろけるかを見ます。ここで、どの局面にボトルネックがあるか仮説を立てます。
そのうえで、支えを少し使う、大きいボールに変える、助走を減らす、球速を落とすといった条件調整を行い、その場で成功率がどう変わるかを確認します。変化が出た条件は、家庭や園で再現できる形へ変換します。
再評価では、訓練室で何回当たったかだけでなく、「友達に蹴り返せたか」「園の遊びにどれくらい参加できたか」を必ず見ます。機能が上がることと、生活で使えることを同じにしないためです。

相談時に伝えたいメモ
- いつから気になっているか
- 止まったボールと転がるボールのどちらが難しいか
- 右足と左足で違いがあるか
- 蹴るときに転ぶ、よろける、尻もちをつくか
- 痛み、腫れ、歩き方の左右差があるか
- 園や学校でボール遊びを避けているか
- できれば動画を撮ること。正面と横から、静止球と移動球の両方があるとわかりやすいです
よくある質問

STROKE LABの小児リハ
家庭では生活を守る工夫を。専門施設では、評価にもとづいて複数の方法を組み合わせ、できる力を生活で使える力へつなぎます。ボールを蹴る動き一つでも、背景は子どもによって異なります。困りごとを急いで一つの原因に決めず、実際の遊びや参加へ結びつけて考えることが大切です。

発達と動作を、機能解剖の視点からやさしく、深く理解したい方へ。保護者にも専門家にも、共通の土台となる一冊です。
- Centers for Disease Control and Prevention. Important Milestones: Your Baby By Two Years. CDC.
- Sacko RS, et al. Developmental sequences for kicking a ball in children aged 4–11 years. European Physical Education Review. 2021;27(3):493-511.
- Blank R, et al. European Academy for Childhood Disability recommendations on the definition, diagnosis and intervention of developmental coordination disorder. Dev Med Child Neurol. 2019;61(3):242-285.
- Suárez-Cadenas E, et al. Effects of soccer on motor skills in childhood: a systematic review. Children. 2023;10(1):110.
- 医学書院. 脳の機能解剖とリハビリテーション. 2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)