空間認知が苦手な子の運動|距離感・方向感覚を育てる遊び
距離・方向をつかむ力は、「見る→予測する→動く」のつながりで育ちます
「人や机によくぶつかる」「ボールとの距離が合いにくい」「方向が変わると急に動けなくなる」。 こうした様子を見て、「空間認知が苦手なのかな」と感じることがあります。 けれど運動では、距離や方向を知るだけでなく、 周囲を見る、自分との位置関係を読む、次を予測する、身体を合わせる、途中で修正する という複数の力がつながっています。 この記事では、空間認知と運動の関係を、家庭で見られるポイントと専門的な動作分析の両方から整理します。

「距離感が苦手?」と感じるのは、こんな場面。
机の角に肩をぶつける。 友だちを避けようとして、同じ方向へ動いてしまう。 ボールが近づいてから慌てて手を出す。 公園の遊具では、どこへ足を置けばよいか迷って動きが止まる。
こうした場面では、 見えている情報を、身体の動きへ変えるところ で難しさが生じていることがあります。
「空間認知」という言葉から、右・左、上下、遠い・近いといった知識を思い浮かべるかもしれません。 しかし運動場面では、単に言葉で方向を答えられるだけでは足りません。 走りながら友だちとの距離を読み、狭い場所では自分の身体の向きを変え、 動いてくるボールでは数秒後ではなく次の瞬間の位置を予測する必要があります。
そのため、「よくぶつかる」「ボールが苦手」という一つの行動だけから、 空間認知に問題があると決めることはできません。 視力・視線、注意、身体の位置の感じ方、姿勢やバランス、動きの計画、速度調整なども関係します。 大切なのは、何ができないかより、どんな条件で難しくなるかを見ること です。
家ではぶつからないのに園ではぶつかる、 ゆっくり歩けば避けられるのに走ると難しい、 止まって矢印を見ると分かるのに動きながらだと迷う。 こうした条件による差は、専門家が原因を考えるうえでも重要な情報になります。
空間を使って動くには、5つの過程がつながる。
STROKE LABでは、空間認知と運動の関係を一つの能力ではなく、次の連続した過程として考えます。

たとえば、床に置かれたクッションをまたぐ場面。 クッションを見るだけではなく、どれくらい離れているかを読み、 自分の脚をどの高さ・長さで動かすかを予測し、 片脚で身体を支えながら足を運ぶ必要があります。 踏み切る位置が少しずれれば、その場で歩幅や姿勢を修正します。
つまり「距離感が苦手」という一言の中にも、 情報を取るところの難しさと、身体を動かすところの難しさが混在 している可能性があります。
STROKE LABの視点:「できる条件」と「崩れる条件」を比べる。
私たちが特に大切にするのは、できた・できなかったという結果だけではありません。 何を変えた瞬間に、動きが崩れたのか を見ます。
最初に道順を見せれば進めるのに、途中で障害物の位置が変わると止まる場合、 単純な筋力やバランス以外に、動きながら空間情報を更新する負荷が関係している可能性があります。
ゆっくりなら人を避けられるのに、走ると接触が増える場合、 能力が全くないのではなく、使える処理時間が短くなったことで、 視線・予測・姿勢修正のどこかが追いつかなくなる可能性があります。
この考え方は、家庭でも役立ちます。 うまくいかない遊びを何度も繰り返すのではなく、 速度を落とす、距離を短くする、物を減らす、目印を増やすなど、 一つだけ条件を変えてみます。 それだけで急に成功するなら、その変化自体が子どもの得意な情報・苦手な負荷を知るヒントになります。
家庭では、「少し考えればできる」遊びをつくる。
家庭で大切なのは、難しい課題をたくさん行うことではありません。 子どもが周囲を見て、自分で試し、成功と少しのずれを経験できる難易度にします。 失敗が続くときは、回数ではなく条件を変えましょう。
| 遊び | 育てたい要素 | 見るポイント | 難しければ |
|---|---|---|---|
| 線にぴったり止まる | 距離と速度調整 | 最後の2〜3歩で速度を落とせるか | 歩く速度を下げ、線を太くする |
| クッションの間を通る | 身体幅と通路幅 | 入る前に身体の向きを調整するか | 通路を広げる |
| 矢印で方向転換 | 方向と身体の変換 | 視線・頭・体幹・足がどう向きを変えるか | 静止した状態から始める |
| 風船タッチ | 動く物の予測 | 手を出す時点が早すぎないか・遅すぎないか | 大きな風船でゆっくり始める |
| 宝探しコース | 周囲を見る・経路を選ぶ | 目標だけ見て障害物を見落とさないか | 障害物を1つに減らす |

毎回「右だよ」「そこじゃないよ」と答えを教えるより、 まず子どもが自分で周囲を見る時間をつくります。 難しすぎるときは課題を簡単にして、成功したら少しずつ距離・速度・物の数を増やします。 遊びを嫌がるほど繰り返す必要はありません。
困りごとが生活へ広がるなら、相談を考えてよい。
幼児期は、距離や方向の理解も、走る・止まる・避けるといった運動も発達の途中です。 一つの失敗や、一時的な苦手だけで異常と考える必要はありません。
一方で、同じ困りごとが繰り返され、 遊び・園生活・体育・移動などへの参加が狭くなっている 場合は、一度専門家と整理してみる意味があります。
| 家庭で少し観察 | 相談を検討 |
|---|---|
| 初めての場所や難しい遊具だけで迷う | 慣れた場所でも人や物との接触が繰り返される |
| ゆっくりなら安全にできる | 園庭・体育・集団遊びになると参加できない |
| 少し難易度を下げると楽しめる | 失敗や接触への怖さから、遊びそのものを避けるようになっている |
急に物へぶつかるようになった、見え方が変わった、歩き方が急に不安定になった、 片側の手足が動かしにくい、けいれん、強い頭痛や繰り返す嘔吐、意識の変化などがある場合は、 発達の問題と自己判断せず医療機関へ相談してください。 見え方そのものが気になる場合は、眼科での確認も大切です。
専門施設では、「何を変えると動きが変わるか」まで調べる。
専門施設の目的は、「空間認知を鍛える」という抽象的な練習を増やすことではありません。 まず、子どもが本当に困っている場面を決めます。 「教室で人を避けて歩きたい」「ボール遊びに入りたい」「公園の遊具を怖がらず移動したい」など、 生活で変えたい具体的な目標 を起点にします。
1.困りごとを、複数のボトルネックへ分ける
| 困りごと | 仮説 | 確認すること | 介入系統 | 難易度調整 | 生活で再評価 |
|---|---|---|---|---|---|
| 人・机へぶつかる | 視覚探索/身体幅/経路選択/修正 | 視線、頭の向き、通過位置、歩行速度 | 実際の障害物回避課題 | 幅・速度・物の数を変更 | 教室・廊下での接触 |
| ボールを避けにくい | 軌道予測/タイミング/身体移動 | 見る時点と動き始める時点 | 速度を段階づけた実課題 | 大きさ・速度・方向・距離 | 園庭・体育で回避できるか |
| 方向を迷う | 方向変換/注意/運動計画 | 言葉・矢印・実演で成績を比較 | 方向転換+認知方略 | 静止→歩行→走行 | 集団遊び・体育の指示 |
| 障害物をまたぎにくい | 距離予測/足の軌道/動的バランス | 踏切位置、足先高さ、最後の数歩 | またぎ動作そのものの練習 | 高さ・幅・間隔・速度 | 園内・公園の移動 |
2.「空間」だけを練習せず、実際の課題へ戻す
パズルや机上課題が役立つ場面はあります。 しかし、教室で人を避けられない子が、机上で方向課題だけ上達しても、 その能力がそのまま歩行へ移るとは限りません。
そのため専門施設では、必要に応じて視覚情報や身体の使い方を整理したあと、 最終的には困っている動作そのものを練習する ことを重視します。 障害物を避けたいなら障害物回避へ、 ボール遊びに入りたいなら実際のボールと身体の関係へ戻します。
同じ障害物コースでも、最初に全体を見せればできるのか。 進行中に障害物を追加すると崩れるのか。 視線を足元へ固定すると安全だが前方の障害物を見落とすのか。 ゆっくりなら修正できるが速度を上げると接触するのか。 こうした差を一つずつ確認します。
たとえば前方を十分に見ているのに接触が起こるなら、 視覚探索だけを増やしても変化しないかもしれません。 身体の向きを変え始める時点、支持脚への重心移動、歩幅の調整など、 空間情報を身体へ変換する局面を確認します。
介入後は、その場で同じ動作をもう一度行い、 「接触回数が減った」「止まらず通れた」「見る位置が変わった」などを確認します。 そして訓練室だけで終わらせず、家庭・園・学校の同じ目標場面へ戻し、 一定期間後に同じ課題で再評価します。
3.難易度は「成功率」と「処理する情報量」で変える
難しい課題を失敗し続けることが、必ずしも良い練習になるわけではありません。 子どもが自分で試行錯誤できる範囲で、 距離、速度、方向の数、障害物の数、周囲の人、同時に行う課題などを一つずつ調整します。
さらに、療法士の指示に従うだけではなく、 子ども自身が「こっちから行く」「もう一回やる」と選択できる余地をつくります。 能動的に予測して、結果を見て、次の動きを変えること自体が運動学習の大切な部分だからです。
発達性協調運動障害(DCD)に関する国際的な臨床推奨では、 身体機能だけを見るのではなく、子どもが実際に困っている活動や参加を評価し、 課題に焦点を当てた介入を選択することが重視されています。
DCD児への介入をまとめた系統的レビュー・メタ解析でも、 課題志向型のアプローチは運動パフォーマンス改善の有力な方法として報告されています。 つまり、苦手な能力を抽象的に鍛えるだけでなく、 実際に行いたい動作を分析し、その動作を練習する という考え方には研究上の裏づけがあります。
この研究から言える範囲: これらは主としてDCDと診断された子どもを対象とした研究です。 「空間認知が苦手」と感じるすべての子どもにDCDがあるわけではなく、 DCDの介入効果をそのまま本記事のすべてのお子さんへ当てはめることはできません。 視覚、神経、発達など別の背景がある場合には、それぞれの専門的評価が必要です。
Smits-Engelsman BCM, et al. Efficacy of interventions to improve motor performance in children with developmental coordination disorder: a combined systematic review and meta-analysis. Dev Med Child Neurol. 2013;55(3):229-237.
4.訓練室でできることと、生活で使えることを分ける
専門施設で障害物を上手に避けられても、園の廊下で友だちが大勢いれば再び難しくなることがあります。 これは「練習が無駄だった」という意味ではありません。 環境が変わると、必要な注意量、速度、予測、同時処理が変わるからです。
そのため、生活でのアウトカムを決めます。 たとえば「教室移動で人にぶつかる回数」 「体育で方向転換の指示に入れる回数」 「公園で障害物の前に止まらず進める場面」などです。 機能が変わったかだけでなく、 生活の中で使える力へ移ったか を確認します。

専門施設では、評価にもとづいて「なぜ」を分け、できる力を生活で使える力へつなぐ。
STROKE LABでは、視線、身体の位置、姿勢、バランス、予測、運動計画などを、 お子さんが実際に困っている遊びや移動の中で確認します。 医学的な診断が必要な場合は医療機関を優先し、そのうえで生活と運動の側から支援を組み立てます。
よくある質問。
Q. 空間認知が苦手とは、どんな様子ですか?
Q. よくぶつかるのは空間認知が苦手だからですか?
Q. 家庭ではどんな遊びができますか?
Q. 左右が分からないことも空間認知と関係しますか?
Q. 専門施設では何を評価するのですか?
Q. どんなときに専門家へ相談したほうがよいですか?
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LAB(東京・大阪)では、お子さんの「運動が苦手」を一つの原因に決めつけません。 視線、感覚、身体の支え、運動計画、課題の難しさ、周囲の環境まで含めて動きを分け、 実際に困っている遊びや生活へつなげる方法を考えます。 医療・発達評価が必要な場合は医療機関を優先し、生活と運動の側から併走します。
できる条件を見つける観察へ。

「空間認知が苦手」「不器用」と言われると、一つの能力が足りないように感じるかもしれません。 しかし実際の運動では、見ること、身体を支えること、次を予測すること、途中で修正することが連続しています。
私たちが大切にしているのは、 「できない理由」を決めつけるのではなく、「できる条件」を探すこと です。 条件が分かれば、遊びや練習の難易度を調整し、子ども自身が成功と試行錯誤を重ねやすくなります。
家庭や園・学校での困りごとを整理したい場合は、実際の動きを一緒に確認しながら、 その子に合った関わりを組み立てていきます。

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。 動作を一つの筋力や関節だけで捉えず、感覚・姿勢・運動のつながりから考える視点は、 お子さんの運動を分析するときにも土台になります。
- 動きがぎこちない・運動が苦手|運動制御の視点で「なぜ」を分析する
- 転ぶよりもよくぶつかる子|身体イメージと空間認知の見方
- 方向転換で転びやすい子|止まる・曲がる・視線の使い方
- ボールをキャッチできない子|目と手の協調・予測の育て方
本記事は、子どもの運動発達・協調運動に関する研究、STROKE LABの臨床経験、 および下記書籍の機能解剖・動作分析の枠組みをもとに構成しています。 「空間認知が苦手」という表現は診断名ではなく、原因はお子さんごとに異なります。 診断・視力・神経学的問題などの医学的判断は、医師など適切な医療専門職へご相談ください。
- Blank R, Barnett AL, Cairney J, et al. International clinical practice recommendations on the definition, diagnosis, assessment, intervention, and psychosocial aspects of developmental coordination disorder. Dev Med Child Neurol. 2019;61(3):242-285.
- Smits-Engelsman BCM, Blank R, van der Kaay AC, et al. Efficacy of interventions to improve motor performance in children with developmental coordination disorder: a combined systematic review and meta-analysis. Dev Med Child Neurol. 2013;55(3):229-237.
- Jackman M, Sakzewski L, Morgan C, et al. Interventions to improve physical function for children and young people with cerebral palsy: international clinical practice guideline. Dev Med Child Neurol. 2022;64(5):536-549. (目標志向・実課題・本人と家族の希望を軸にする介入原理の参考)
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)