肩関節インピンジメント症候群|原因・検査・リハビリ【評価表PDF付】
脳卒中後の肩の痛み
原因・リハビリ・SPADI評価
「着替えると肩が痛い」「腕を動かすのが怖い」 「家族がどう支えればよいかわからない」。 脳卒中後の肩の痛みは、リハビリだけでなく、 睡眠や毎日の介助にも影響します。
大切なのは、痛みの原因を確かめ、 肩を守りながら生活で使える動きを増やすことです。 この記事では、ご本人・ご家族に向けた対応と、 専門職が使うSPADIの評価方法を分けて紹介します。

- 原因は一つとは限りません。 腱や関節の問題、筋肉のつっぱり、神経に関係する痛みなどを確認します。
- 痛みを我慢して腕を引っ張ったり、強く伸ばしたりしない。 介助方法と運動の範囲を担当者に確認しましょう。
- SPADIは、肩の痛みと生活の困りごとを記録する質問票です。 痛みの原因を診断する検査ではありません。
脳卒中後に肩が痛くなるのは、なぜ?
脳卒中後は、腕を支える力や動きの調整、感覚が変化します。 そのため、肩に負担がかかることがあります。 ただし、肩の痛みをすべてインピンジメントで 説明することはできません。 複数の要因が重なる場合もあります。[1]
腕を支える力の低下
腕の重さを支えにくくなり、関節や周囲の組織に負担がかかります。 肩の亜脱臼を伴う場合もあります。
筋肉のつっぱり・動かしにくさ
筋肉の緊張が強くなる「痙縮」や、関節の動く範囲の制限が 痛みと関係することがあります。
腱・滑液包・関節の問題
腱板や上腕二頭筋腱、滑液包、関節包などの問題を確認します。 脳卒中前からの肩の病気が関係する場合もあります。
神経に関係する痛み
触れるだけで痛い、焼けるように痛むなど、 筋肉や関節の問題だけでは説明できない痛みもあります。
痛みに加えて、手の腫れ、皮膚の色や温度の左右差、 軽く触れたときの強い痛みがある場合は、 複合性局所疼痛症候群(CRPS)なども含めて医師が評価します。 自己判断でストレッチを強めないようにしましょう。 [1]
インピンジメントと、脳卒中後の肩痛の関係
インピンジメントは、肩の組織同士の接触や圧迫に着目した言葉です。 腕を上げるときの肩の痛みを説明するために使われますが、 「骨に挟まっているから痛い」とだけ考えると、 原因を見落とすことがあります。

| 用語 | 主に扱う問題 | この記事での位置づけ |
|---|---|---|
| 脳卒中後の肩痛 | 麻痺、痙縮、関節・腱の問題、神経に関係する痛みなど。 | 複数の原因を確認し、対応を選ぶことが中心です。 |
| 肩峰下の痛み | 腱板や滑液包など、肩峰の下にある組織に関連する痛み。 | 脳卒中後の肩痛に関わる可能性がある要因の一つです。 |
| 関節内インピンジメント | 投球など、腕を大きく外に開いて回す動作に関連して検討される病態。 | スポーツ選手の評価・運動を、そのまま麻痺のある肩に適用しません。 |
元記事で紹介していたCoolsらの論文は、 テニス選手の関節内インピンジメントを扱っています。 脳卒中後の肩痛とは対象が異なるため、 ストレッチや運動の方法は個別に判断する必要があります。 [5]
評価では「痛む場所」だけでなく、生活で困る場面を確認します。
肩痛の対応は、原因の評価から始まります。 「どの動きができるか」に加え、 いつ痛むか、睡眠や介助にどの程度影響しているかを 医師・療法士に伝えてください。[2]
ご本人・ご家族から伝えること
- 痛みが始まった時期と、きっかけ
- 安静時・夜間・動作時の違い
- 痛む場所と、腫れ・しびれの有無
- 困っている着替えや介助の場面
- 最近変えた運動や介助方法
専門職が確認すること
- 肩や腕の位置、筋緊張、動かせる範囲
- 感覚や痛みの特徴
- 腕の支え方と生活動作
- 質問票による本人の困りごと
- 必要に応じた画像検査など
後方インピンジメント徴候などの結果は、 検査の対象や実施条件によって意味が変わります。 「陰性だから腱板断裂はない」とは断定せず、 問診・身体所見・必要な検査を組み合わせます。 MRIが全員に必要というわけでもありません。
転倒や外傷の後に強く痛む、急に腫れた・変形した、 発熱や赤みを伴う、今までと違う強い痛みが続く場合は、 運動を続けず医療機関に相談してください。 胸痛や息苦しさ、突然の新しい麻痺・言葉の異常を伴う場合は、 救急対応が必要です。
SPADIとは? 肩の痛みと生活の困難さを記録する評価
SPADI(Shoulder Pain and Disability Index)は、 肩の問題による痛みと日常生活の困難さを、 ご本人の回答から評価する質問票です。 痛みの強さだけでなく、生活への影響を経過に沿って確認できます。 [3]
疼痛:5項目
肩の痛みについて回答する領域です。 数字が大きいほど、痛みが強い状態を表します。
機能障害:8項目
肩を使う日常生活の困難さについて回答する領域です。 数字が大きいほど、困難さが強い状態を表します。
結果は0〜100で表します。
0は痛み・困難さがない方向、100は最も強い方向です。 再評価で値が下がれば、本人が感じる負担が減っている方向の変化です。 ただし、点数だけで原因や治療の必要性を決めることはできません。
採点方法は、使用する版の手順に統一します。
SPADIにはVAS版と数値回答版があり、 総合点の集計方法にも資料間の違いがあります。 使用する質問票・言語・採点方法を記録し、 再評価でも同じ方法を使ってください。
たとえば疼痛の合計が25点なら50、 機能障害の合計が24点なら30です。
RehabMeasuresが紹介する 2つの下位尺度の平均を用いる方法では、 総合点は(50+30)÷2=40となります。 [3]
13項目の合計を130で割る方法では、この例は約37.7となり、 同じ値にはなりません。方法を混在させないでください。 欠測がある場合は、使用版の有効回答数・欠測処理の規則に従います。
脳卒中後に使うときの注意
麻痺のある方では、動作が難しい理由に、 肩痛だけでなく麻痺・感覚障害・失行などが含まれる場合があります。 SPADIの変化を「肩の痛みだけの改善」と解釈しないことが 臨床上の注意点です。
失語症などで回答に支援が必要な場合は、 ご本人の意思を確認できる方法を工夫し、支援内容を記録します。 家族による代理回答は、ご本人の回答と区別してください。
Sekiguchiらは、肩疾患のある100人を対象に日本語版を検証し、 信頼性と妥当性を報告しています。 この研究結果を、脳卒中後の肩痛全般にそのまま当てはめることはできません。 [4]
日本語で評価する場合は、出典が確認できるSPADI-Jpを用い、 質問文を独自に短縮・言い換えしたものと区別してください。
何点下がれば「意味のある改善」?
臨床的に重要な変化の目安は、対象疾患や研究条件によって異なります。 すべての脳卒中患者に使える一律の合格ラインは設けません。 同じ方法で測った点数に加え、 「夜間に目が覚める回数」「着替えの介助」「本人が再開したい動作」を 一緒に確認しましょう。
SPADI評価シートを
日本語訳PDFでダウンロード
肩の痛みと生活動作の困りごとを記録する SPADI (Shoulder Pain and Disability Index)を、 日本語で読みやすい評価シートにまとめました。 数字に丸をつけて回答でき、印刷して評価時に使用できます。
PDFに含まれる内容|A4・全3ページ
- 痛みの評価:5項目・0〜10の回答欄
- 生活動作の困難さ:8項目・0〜10の回答欄
- 採点方法・計算例・経過比較の記録欄
- 評価条件や回答支援の方法を残せる記入欄
SPADI評価シートをダウンロード
日本語訳・PDF/A4・3ページ
本資料は英語版質問票をもとに作成した 参考日本語訳です。 信頼性・妥当性が検証された日本語版 「SPADI-Jp」とは異なります。 研究や正式な尺度評価では、使用目的に適した版と その採点手順をご確認ください。
脳卒中後は、肩の痛みに加えて麻痺や感覚障害も 生活動作の回答に影響します。点数だけで判断せず、 身体所見や実際の動作と合わせて確認してください。
リハビリは、肩を守りながら生活の動きへつなげます。
全員が同じストレッチや筋力トレーニングを行うわけではありません。 原因と状態に合わせて、姿勢・運動・生活動作を調整します。 以下は、取り組みを理解しやすくするための整理です。

痛みが出る場面と、腕の支え方を見直す
座っているとき、寝ているとき、移乗するときの腕の位置を確認します。 痛みが増える介助や運動があれば、方法を変更します。
状態に合った範囲で、動きを練習する
肩だけでなく、肩甲骨や体幹の動きも確認します。 動かす範囲・支え方・負荷は、痛みの反応や麻痺の状態に合わせて調整します。
着替え・洗身・寝返りなどに応用する
「腕が何度上がるか」に加えて、 本人が行いたい動作や、家族の介助が楽になったかを確認します。 必要に応じて環境や道具も調整します。
運動だけで痛みが落ち着かないときは?
医療機関では、原因に応じてテーピング、神経筋電気刺激、 注射や神経ブロックなどの選択肢を検討します。 どの方法が適するかは、診察と評価に基づいて判断されます。 [2]
麻痺のある肩を下にして体重をかけたり、 反対の手で強くひねったりすると、負担になる場合があります。 スリーパーストレッチやクロスボディストレッチは、 適応を確認し、担当者から具体的な方法を教わってから行ってください。
ご家族ができるのは、肩を守り、変化を伝えること。
ご家族が肩の位置を「正しく戻そう」としたり、 硬さを強く伸ばしたりする必要はありません。 教わった介助方法を共有し、痛みの変化を記録することが 日々のサポートになります。

腕を引っ張らない
起き上がりや立ち上がりで、麻痺側の腕を取っ手のように使わないでください。 ご本人に合う介助方法を、実際の動作で教わりましょう。
腕を楽に支えられる位置を探す
椅子やベッドで、腕が不安定に垂れ下がっていないか確認します。 クッションや肘掛けの使い方も担当者に相談できます。
自主練習の方法をそろえる
「どの姿勢で、どこまで動かすか」を家族間でも共有します。 痛みが増えたり、練習後まで強く残ったりする場合は報告します。
温め方にも注意する
感覚が低下していると、熱さに気づきにくいことがあります。 温熱を使う場合は担当者に確認し、熱い器具を直接当てないでください。
伝わりやすい痛みの記録例
「昨夜は肩の痛みで2回目が覚めた。 今日は着替えで袖を通すときに痛がった。 腕を支えると少し楽そうだった。」
これは記録の例です。実際に観察したことと、 ご本人が話したことを分けて書くと、状態が伝わりやすくなります。
回復期間は、点数や日数だけでは決まりません。
痛みの原因、麻痺や感覚の状態、関節の硬さ、生活でかかる負担によって 経過は異なります。 「何か月で治る」と決めつけず、 睡眠・介助・本人の希望する動作の変化を確認しながら、 方針を見直していきましょう。
よくある質問
Q. 脳卒中後の肩痛は、すべてインピンジメントですか?
いいえ。筋肉のつっぱり、関節や腱の問題、腕を支える力の低下、 神経に関係する痛みなど、複数の要因が考えられます。 原因の評価に応じて対応を選びます。
Q. SPADIの点数が高いと、腱板が切れているのですか?
点数だけでは判断できません。 SPADIは本人が感じる痛みと生活の困難さを記録する質問票です。 腱板断裂やインピンジメントを診断する検査ではありません。
Q. SPADIは家族が代わりに答えてもよいですか?
原則として本人の回答を用います。 回答の支援が必要な場合は、その方法を記録してください。 家族の観察や代理回答は、本人の回答と区別して扱います。
Q. 痛くても、動かさないと肩が固まるのでは?
動かし方と負荷の調整が大切です。 強い痛みを我慢して伸ばすのではなく、 担当者と安全に行える範囲や支え方を確認しましょう。
Q. 肩のMRIは必ず必要ですか?
全員に必要ではありません。 医師が症状、外傷の有無、身体所見などから、 画像検査の必要性と種類を判断します。
STROKE LABについて
脳神経疾患に向き合う、マンツーマンのリハビリ。
STROKE LABは、脳卒中・パーキンソン病・脊髄損傷・脳性麻痺など、 脳神経疾患に特化した自費リハビリサポート施設です。 完全マンツーマンのリハビリに加え、 療法士向けの教育や専門情報の発信にも取り組んでいます。 [6]
脳卒中後の生活を見据える
肩だけの困りごとに見えても、 麻痺や姿勢、普段の動作、介助との関係があります。 ご相談では、その背景もお聞かせください。
一対一で、目標を共有する
ご本人ができるようになりたいことと、 ご家族が困っていることを整理し、 リハビリで取り組みたい内容を相談できます。
肩の痛みがある方は、治療の状況もお知らせください。
医療機関での診断や運動の制限、薬・注射の治療、 現在のリハビリ内容がわかると、ご相談の際に役立ちます。 急な痛みや腫れなどがある場合は、医療機関への受診を優先してください。
- 今困っていること:痛む動作、睡眠、着替え、介助など。
- 現在の対応:治療、リハビリ、自主練習、使用している道具。
- これからの希望:負担を減らしたい動作、再開したい生活。
動画は情報提供のための参考資料です。 紹介されている動作を、ご自身の肩に無理に再現しないでください。
肩の評価に関する参考動画
徒手検査の紹介は専門職向けの参考情報です。 ご本人・ご家族が、痛みを誘発する検査を自宅で行うためのものではありません。
参考文献・評価用紙の出典
- Canadian Stroke Best Practices. Shoulder Pain and Complex Regional Pain Syndrome following Stroke.
脳卒中後の肩痛・CRPSに関する推奨 - NICE. Stroke rehabilitation in adults. NG236. Section 1.14: Managing shoulder pain.
ガイドライン本文 - Shirley Ryan AbilityLab. RehabMeasures Database. Shoulder Pain and Disability Index.
SPADIの概要・測定特性・採点方法 / 公開質問票PDF(英語) - Sekiguchi T, et al. Validation and reliability of a Japanese version of the Shoulder Pain and Disability Index: A cross-sectional study. Journal of Orthopaedic Science. 2021;26(4):595–598.
DOI: 10.1016/j.jos.2020.06.007 - Cools AM, et al. Internal impingement in the tennis player: rehabilitation guidelines. British Journal of Sports Medicine. 2008;42:165–171.
元記事掲載文献。対象はテニス選手であり、 脳卒中後の肩痛に対する一律の運動処方の根拠としては扱っていません。 - STROKE LAB公式サイト。
施設・サービスの案内
本記事は、肩の痛みと評価方法を理解するための一般的な情報です。 個別の診断・運動方法は、ご本人の状態を確認した医師・療法士にご相談ください。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)