【2026年版】肩関節のインピンジメント症候群の原因、評価、リハビリ、治療について
肩の痛みは、なぜ脳卒中後に起こるのか。
脳卒中後のリハビリ中に「肩が痛い」と言われ、どう対応すればいいか迷ったことはありませんか。その痛みの多くは肩関節インピンジメント症候群と呼ばれる状態で、腱板と骨の「挟まれ」によって生じます。原因と対処を知ることで、ご家族もより安心してサポートできるようになります。
— 肩関節インピンジメント症候群の基本的な検査・評価の解説動画です。
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こんなお悩みはありませんか。
「リハビリの先生に肩を動かしてもらうたびに、本人が痛そうにする。」「可動域(かどういき:関節が動く範囲)を広げようとすると、かえって嫌がるようになってしまった。」このような声を、脳卒中後の患者さんをお持ちのご家族からよくお聞きします。
脳卒中後に肩の痛みが起きる原因の一つに、「肩関節インピンジメント症候群(けんかんせつ いんぴんじめんと しょうこうぐん)」があります。これは腱板(けんばん:肩関節を包む筋肉と腱のグループ)が骨に挟まれることで痛みが生じる状態です。この記事では、その原因と家族にできることを、わかりやすく解説します。
インピンジメント症候群とは。
肩関節のインピンジメント症候群とは、腕を動かすときに腱板(けんばん)が肩の「天井」にあたる骨の構造物(烏口肩峰アーチ)に繰り返し挟まれ、痛みや炎症が起きる状態です。
脳卒中による麻痺の影響で、肩甲骨(けんこうこつ)を支える筋肉の働きが弱まります。その結果、腕の骨(上腕骨頭)が正しい位置からずれやすくなり、インピンジメントが起こりやすくなります。
インピンジメントには関節内(前上方・後上方)と肩峰下の2種類があります。どちらも無視すると腱板損傷に進む可能性があるため、早期の評価と対応が重要です。
肩を守る3つの主な構造。
胸壁に沿って滑らかに動く平らな骨です。幅広くて薄い形状が特徴で、滑走動作と多くの筋肉の付着点を提供します。肩甲胸郭関節(けんこうきょうかくかんせつ)は靭帯がないため、安定性はすべて筋肉が担っています。
肩峰と烏口突起、烏口肩峰靭帯で構成される「屋根」のような構造です。その中には肩峰下滑液包(しょうほうかかつえきほう:クッション)と腱板が収まっています。大結節(だいけっせつ)がこのアーチに侵入するとインピンジメントが発生します。
棘上筋(きょくじょうきん)・棘下筋(きょくかきん)・小円筋(しょうえんきん)・肩甲下筋(けんこうかきん)の4つの筋肉と腱の総称です。上腕骨頭が前後上下に過度にずれないよう、肩を動かすときに絶えず安定させる役割を担います。
後上方インピンジメント(Posterior-superior):外転90〜110°・伸展10〜15°・最大外旋位で上腕骨頭大結節後面と関節窩後縁が接触。棘上筋/棘下筋の関節側断裂・後方関節唇損傷と関連します。最も頻度が高い型です。
前上方インピンジメント(Anterior-superior):挙上・屈曲内旋位でも生じるとされますが(Heyworth & Williams, 2009)、発生頻度はまれです。程度は最終可動域での関節圧に依存します。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABは脳神経系リハビリを専門とする自費リハビリ施設です。肩の痛みと脳卒中後の麻痺の両方を理解した上で、個別性に応じたアプローチを提供しています。まずは無料相談で、現状と方針をご確認ください。
なぜ痛みが起こるのか。
健康な肩は、腕を動かすたびに腱板(けんばん)が滑らかにアーチの下をくぐります。しかし筋肉のバランスが崩れると、上腕骨頭(じょうわんこっとう)が上にずれ上がり、腱板がアーチと骨の間に挟まれます。
これが繰り返されることで炎症が起き、さらに痛みが強くなるという悪循環に陥りやすくなります。
4つの主な原因。
インピンジメント症候群の背景には、いくつかの原因が絡み合っています。
関節包(かんせつほう:関節を包む袋)が繰り返し引き伸ばされることで、上腕骨頭が前方へ過剰にずれやすくなります。Jobeらはこれを「後天性不安定症使いすぎ症候群(AIOS)」と呼びました。脳卒中後には筋力低下でこの状態が起きやすくなります。
後方の関節包や棘下筋(きょくかきん)・小円筋(しょうえんきん)が硬くなると、内旋(ないせん:腕を内向きに回す動き)が制限されます。これを「GIRD(Glenohumeral Internal Rotation Deficit)」と言います。GIRDがあると上腕骨頭の接触部が後上方にずれ、腱板と関節唇の衝突が起こります。
脳卒中後の麻痺によって、肩甲骨を支える前鋸筋(ぜんきょきん)・僧帽筋(そうぼうきん)などの働きが低下します。これが肩甲骨の位置ずれ(「SICK scapula」)を招き、腱板全体の機能低下にもつながります。
肩甲骨の適切な回転・傾きが失われると、肩峰下のすき間が狭くなります。その結果、腕を少し動かすだけでも腱板が圧迫されやすくなります。Burkhartらは、肩甲骨のプロトラクション(前方突出)がこれらの患者に多くみられると報告しています。
Tylerらは、肩甲骨リトラクション筋の疲労は肩甲骨安定筋の筋力低下だけでなく、ローテーターカフ全体の筋力低下をもたらすと報告しています。また、GIRDによる後上方インピンジメントでは、棘下筋・小円筋・上腕三頭筋のタイトネスが関与します。下関節上腕靭帯(IGHL)のハンモック機能低下により、投球動作時のインピンジメントリスクが増大します。
他の肩の痛みとの違い。
インピンジメント症候群の症状は多様で、他の肩の状態と重なることが多いため、「病歴だけで診断することは非常に難しい」と専門家の間でも認識されています。患者さんの年齢・活動レベル・症状の経過を総合的に評価することが重要です。
| 疾患・状態名 | インピンジメントとの違い | 主な確認方法 |
|---|---|---|
| 腱板部分・完全断裂 | 筋力低下が顕著。インピンジメントと合併することも多い。 | MRI・超音波検査 |
| SLAP病変 | 関節唇(かんせつしん)の損傷。引っかかり感が特徴的。 | 関節鏡検査・MRI |
| 肩峰下インピンジメント | 関節外での挟み込み。肩関節内の損傷とは区別が必要。 | インピンジメントテスト群 |
| 上腕二頭筋腱病変 | 肘の曲げ伸ばしでも痛みが出る。スピードテストで確認。 | スピードテスト・ヤーガソンテスト |
| 前方不安定症 | 亜脱臼感・不安感が主症状。外転外旋位で増悪する。 | アプリヘンションテスト |
評価・検査の方法。
インピンジメントの評価は、問診・身体検査・画像検査の組み合わせで行います。特に肩の問診だけで診断することは難しく、複数の検査を組み合わせることが重要です。
磁気共鳴画像(MRI)は、関節窩の内部断裂を検出できるという大きな利点があります。X線写真と組み合わせることで、より正確な診断が可能になります。身体検査の結果だけでなく、画像検査も含めた総合判断が推奨されます。
回復への3ステップ。
Coolsらは2008年に、インピンジメント症候群リハビリの3段階ガイドラインを発表しました。このガイドラインは臨床経験とエビデンスに基づいており、現在も広く参照されています。
筋のアンバランス・不安定性・関節可動域の問題を最初に修正します。軟部組織のほぐし、肩甲骨のセッティング(挙上・下制・後退)、GIRD改善のためのストレッチ、腱板強化、神経筋再教育などを行います。超音波・電気刺激も痛みと炎症の軽減に有用です。
より複雑で動的なエクササイズを追加します。肩甲骨の筋組織が動作前から適切に働いているか、セラピストが触覚・言語キューを使いながら確認します。肩・肩甲骨の全筋組織を対象とした筋力強化と、遠心性(えんしんせい:筋が伸びながら縮む)運動連鎖を導入します。
日常生活や希望する活動に戻るための機能的リハビリを行います。体幹安定性・バランス・対角線上の動きパターンを使い、全身の運動連鎖に肩を組み込んでいきます。エクササイズボールに座りながら外旋運動を行うなど、不安定な要素を加える工夫も有効です。
スリーパーストレッチは患側を下にして横向きに寝た状態で行い、肩の後部にストレッチを感じます(前部に感じる場合は強度を下げてください)。クロスボディストレッチは腕を水平に胸前に引き寄せる方法で、後方関節包のストレッチと内旋可動域改善に優れています。いずれも自主トレとして継続することが大切です。

—— その不安に、丁寧にお答えします。
脳卒中後の肩の痛みは、多くの場合「なぜ起きているか」が理解されていないまま、ただ我慢されていることがあります。STROKE LABでは、脳神経系の観点から身体全体を評価し、痛みの根本に働きかけるアプローチを行います。まずは現状をお聞かせください。
ご家族ができるサポート。
日常生活で気をつけたい7つのこと。
声かけの例。
「肩が痛かったら、すぐに言ってね。無理しなくていいよ。」
「今日のストレッチ、一緒にやってみようか。先生に教えてもらった方法でね。」
「昨日より腕が上がった気がする。少しずつよくなってるね。」
在宅復帰と公的支援制度。
脳卒中後に在宅復帰するにあたり、肩の痛みをかかえながらの生活をどう整えるかは大きな課題です。利用できる公的支援制度を把握しておくことで、ご家族の負担を減らし、本人の回復に集中できる環境を整えやすくなります。
在宅復帰チェックリスト。
主な公的支援制度。
| 制度名 | 内容・対象 | 窓口 |
|---|---|---|
| 介護保険 | 訪問リハビリ・デイサービス・福祉用具レンタルなど。要介護認定が必要。 | 市区町村の介護保険窓口 |
| 身体障害者手帳 | 障害の程度に応じ、税優遇・公共料金割引・補装具給付などが受けられる。 | 市区町村の福祉窓口 |
| 高額療養費制度 | 月の医療費が上限額を超えた分が払い戻される。長期リハビリ期間中の強い味方。 | 加入する健康保険の窓口 |
| 障害年金 | 脳卒中による障害が一定以上の場合に受給可能。1〜3級の認定あり。 | 年金事務所・社会保険労務士 |
| 自立支援医療 | 通院医療費の自己負担が原則1割に軽減される(対象疾患あり)。 | 市区町村の福祉・保健窓口 |
回復期間と予後の見通し。
インピンジメント症候群の回復期間は、症状の重さ・背景にある筋力低下の程度・リハビリへの取り組み方によって大きく異なります。「6ヶ月で必ず治る」というものではありませんが、適切なリハビリを継続することで多くの方が改善を経験しています。
①早期対応:痛みが出始めた段階でセラピストに相談し、原因を特定することが重要です。放置すると腱板損傷など二次的な障害に進展することがあります。
②継続性:スリーパーストレッチやクロスボディストレッチなどの自主トレを毎日続けることで、後方関節包の柔軟性が改善し、インピンジメントが起きにくくなります。
③全身への視点:STROKE LABの「姿勢連鎖セラピー」の考え方が示すように、肩だけを治療するのではなく、姿勢全体・体幹・脳神経系の観点からアプローチすることが回復の鍵になります。
よくあるご質問。
脳卒中後の麻痺により、肩甲骨を支える筋肉のバランスが崩れます。その結果、腕を動かすときに上腕骨頭が正しい位置からずれ、烏口肩峰アーチという肩の「天井」に腱板が挟まれる「インピンジメント」が起こりやすくなります。
適切なリハビリで筋肉バランスを整えることで、痛みの軽減が期待できます。
肩の後部・深部に感じる鈍い痛みが特徴です。腕を外側に広げたり、後ろや上に動かしたりするときに増悪します。慢性型では肩甲帯周辺のびまん性疼痛として現れ、急性型では怪我の後に突然強い痛みが出ることもあります。
症状は多様で非特異的なため、MRI検査や徒手検査を組み合わせた正確な評価が必要です。
主な徒手検査として「後方インピンジメント徴候」と「リロケーションテスト」があります。後方インピンジメント徴候は感度75.5%・特異度85%と報告されており、陰性であれば腱板後部断裂をほぼ除外できます。
画像検査ではMRIが有用で、関節鏡検査では見つけにくい関節窩内部の断裂も検出できます。評価スケールとしてSDQ・SPADIなどが使われます。
リハビリは3段階で進みます。第1段階では筋のアンバランスや関節可動域の問題を修正し、痛みと炎症を落ち着かせます。第2段階では動的な安定性と筋バランスの改善を目指し、より複雑な動きを練習します。
第3段階では日常生活や希望する活動への復帰を目標に、機能的なトレーニングを行います。
どちらも肩後方の関節包のかたさ(GIRD)を改善するストレッチです。スリーパーストレッチは患側を下にして横向きに寝た状態で、肩を内旋させるストレッチです。
クロスボディストレッチは立位・座位で腕を水平に胸の前に引き寄せるストレッチで、後方関節包のストレッチと内旋可動域の改善に優れています。症状に応じてセラピストが適切な方を指導します。
まず「痛みが強い動きを無理にさせない」ことが大切です。日常生活では、腕を使う動作の際に肩甲骨が正しく動いているか見守り、痛みが出た際はすぐに休ませてください。
自主トレーニングの声かけや記録のサポートも効果的です。また、肩の状態の変化(痛みの増減・可動域の変化)をセラピストに正確に伝えることが回復の助けになります。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳科学と徒手技術を融合した「姿勢連鎖セラピー」を提供する脳神経系専門の自費リハビリ施設です。肩関節の痛みも、脳卒中による神経・筋機能の変化と切り離さず、全身のつながりから評価・介入します。
— STROKE LABでの肩関節リハビリと姿勢連鎖アプローチの実際の様子です。
「リハビリのたびに肩が痛くて、本人が怖がっていました。STROKE LABで評価してもらい、なぜ痛いのかを丁寧に教えてもらえてから、本人も取り組む気持ちが戻ってきました。」— 60代・男性のご家族、脳梗塞後6ヶ月
「肩だけでなく、背中や姿勢ごと変えていくアプローチに驚きました。腕が上がりやすくなっただけでなく、歩き方も楽になってきた気がします。」— 70代・女性、脳出血後1年
諦めないでください。

「もう年だから仕方ない」「痛くてリハビリが続かない」そう感じているご家族や患者さんに、私は声を大にしてお伝えしたいことがあります。
肩の痛みには、必ず原因があります。そしてその原因を特定し、脳神経系と全身のつながりから正しくアプローチすれば、多くの場合で改善の余地があります。
STROKE LABでは、熟練したスタッフが個別性を大切にしながら、ご本人の「できる」を着実に増やしていくセラピーを提供しています。まずは一度、現状をお聞かせください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)