【2026年版】上腕二頭筋の作用と起始停止・筋トレーニング・リハビリの基本・痛みや断裂にも注意!
上腕二頭筋の解剖・機能・リハビリを、臨床視点から整理する。
「力こぶの筋肉」として有名な上腕二頭筋は、3つの関節にまたがる多機能筋です。解剖の基礎から脳卒中後の痙縮・拘縮管理、エビデンスに基づく介入まで、新人セラピストが臨床で迷わないよう体系的に解説します。

要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
右片麻痺。上腕二頭筋の痙縮(Modified Ashworth Scale 2)が強く、肘関節伸展ROMが−20°に制限されています。ADL動作のリーチや更衣に支障をきたしています。
「痙縮だから仕方ない」と諦める前に、上腕二頭筋の機能解剖を正確に理解したうえでの徒手的アプローチとポジショニングが拘縮悪化を防ぐ鍵です。
上腕二頭筋(Biceps Brachii、略称BB)は、脳卒中リハビリの現場で日常的に問題になる筋肉の一つです。スポーツ障害の現場では腱症・断裂の評価対象となり、整形外科・スポーツ外来でも頻繁に出会います。
「力こぶ」として認知度は高いですが、その多関節機能や他筋との協調関係を正しく理解しているセラピストは意外と少ないのが現実です。この記事で基礎から整理しましょう。
解剖学的基礎と疫学。
上腕二頭筋は上腕前面に位置する大きな筋肉で、短頭(内側)と長頭(外側)の2つの頭部から構成されます。3つの関節(肩甲上腕関節・肘関節・腕尺関節)にまたがる点が、臨床的に重要な特徴です。

Visible bodyより引用
起始(短頭):肩甲骨の烏口突起(Coracoid Process)の頂点。起始(長頭):肩甲骨の関節上結節(Supraglenoid Tubercle)から起始し、肩関節の関節内を通過します。
停止:両頭は合流して筋腹を形成し、橈骨結節(Radial Tuberosity)と前腕筋膜(上腕二頭筋腱膜を介して)に停止します。橈骨への付着の際に約90°回旋することで、前腕回外の機械的優位性が生まれます。
解剖学的変異と臨床的注意点。
成人の約30%に起始部の何らかの変異が報告されています(Postacchini & Ricciardi, 1989)。最も多いのは上腕骨から第3の頭部が生じるもので、2〜5%では3〜7頭の超多発性頭部が存在することもあります。
新人セラピストへのアドバイス:触診や筋力評価の際に「解剖通りの走行でない」と感じたら、変異の可能性を念頭に置いてください。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABは脳卒中後の上肢機能回復に特化した自費リハビリ施設です。上腕二頭筋の痙縮・拘縮管理から、日常動作への応用まで、経験豊富なセラピストが個別プログラムを提供しています。まずはお気軽にご相談ください。
神経支配・血管と機能機序。
神経支配:筋皮神経(Musculocutaneous Nerve、C5・C6・C7)。臨床では特にC5・C6が重要で、頸椎疾患や腕神経叢損傷の評価でキーとなります。
血管支配:上腕動脈(Brachial Artery)の分枝から血液が供給されます。
「最強の屈筋」は上腕筋?実は違う。
上腕二頭筋は上腕で最も目立つ筋肉ですが、一般的なイメージとは異なり、前腕屈曲の最強筋は上腕筋(Brachialis)です。上腕二頭筋は主に回外動作が加わった状態での屈曲において機械的有利性を発揮します。
橈骨への付着時に約90°回旋するという構造的特徴が、この機能的優位性の根拠です。上腕筋は回外なしで最強の肘屈筋ですが、回外と屈曲を組み合わせると上腕二頭筋の方が機械的優位となります。
肘屈曲:上腕二頭筋・上腕筋・腕橈骨筋の3筋が共同で働きます。
肩屈曲補助:烏口腕筋・三角筋前部とともに働きます(補助的役割)。
前腕回外:回外筋(Supinator)とともに前腕を回外させます。
Kumar et al. (1989): LHB腱は肩関節挙上初期30°において上腕骨頭の安定化に寄与することを示しました。ただし挙上中〜終盤では安定化への寄与は限定的です。(J Bone Joint Surg Am)
エビデンスレベル:観察研究・エビデンス限定的。臨床的には挙上初期の痛みや不安定感をLHB腱の問題と関連付けて評価してください。
関連疾患と鑑別。
上腕二頭筋はスポーツ(野球・クリケット・テニス・バドミントン)や反復動作に関与するため、腱症が好発します。以下に代表的な病態を整理します。
| 病態 | 特徴・原因 | 臨床上の注意点 |
|---|---|---|
| LHB腱症(長頭腱症) | RC病変・肩峰下インピンジメント・肩甲骨下筋損傷に関連。RC断裂の90%に合併 | 肩前面の圧痛・結節間溝部の痛みで疑う |
| 腱部分断裂 | 外傷+加齢・反復使用による腱変性が主因。近位腱・遠位腱のいずれにも発生 | 画像(超音波・MRI)での確認が必須。保存療法適応多い |
| 腱完全断裂 | 腱が骨から分離。頻度は低め。「ポパイサイン」(上腕遠位膨隆)が特徴的な所見 | 視診で診断可能。手術適応の判断は医師と連携 |
| 停止部腱炎 | 腱と骨の付着部(橈骨結節・前腕筋膜)の炎症 | 前腕回外・肘屈曲時の肘前部痛が特徴 |
| 脳卒中後の痙縮・拘縮 | 上位運動ニューロン障害による持続的筋緊張亢進。肘屈曲位拘縮に移行しやすい | MAS(Modified Ashworth Scale)で痙縮の程度を定量化。早期ROM管理が重要 |
評価の実際(MMT・ROM・触診)。
評価は必ず病歴聴取から始めてください。どんな活動・スポーツをしているか、いつ・どのように痛みや機能低下が始まったかを確認してから、身体所見に進みます。
徒手筋力検査(MMT)の採点基準(完全版)。
| スコア | 英語表記 | 基準 |
|---|---|---|
| 5(Normal) | Normal | 最大抵抗に全可動域で抗えるいわゆる正常筋力 |
| 4(Good) | Good | ある程度の抵抗に全可動域で抗える |
| 3(Fair) | Fair | 抵抗なし・重力に抗して全可動域の運動が可能 |
| 2(Poor) | Poor | 重力を除いた肢位で全可動域の運動が可能(例:水平面での肘屈曲) |
| 1(Trace) | Trace | 筋収縮が触診・視診で確認できるが関節運動に至らない |
| 0(Zero) | Zero | 筋収縮が全く認められない |
肢位:仰臥位または座位。検者は前腕遠位部を手のひらで支えます。
開始肢位:肘関節を90°よりやや小さい角度・前腕を回外位に設定します。
抵抗方向:前腕遠位部に伸展方向(肘を伸ばす方向)への抵抗を加えます。
ROM確認:ゴニオメーターを使用して肘関節可動域を計測。触診でクレピタス(関節雑音)の有無も確認します。
腱断裂の視診:ポパイサイン。
上腕二頭筋長頭腱(BBLH)が断裂すると、筋腹が遠位方向に移動し、上腕遠位部に膨隆(こぶ状の変形)が生じます。アニメキャラクター「ポパイ」の腕に似ることから「ポパイサイン」と呼ばれます。
視診で発見できる重要なサインです。断裂が疑われる場合は医師への報告と画像精査を依頼してください。
介入の段階とエビデンス。
上腕二頭筋への介入は、病態(急性損傷・慢性腱症・脳卒中後の痙縮)によって異なります。以下のステップで整理してください。
POLICE原則を適用します:Protection(保護)・Optimal Loading(最適荷重)・Ice(アイシング:15〜20分、1〜2時間おき)・Compression(圧迫)・Elevation(挙上)。旧来のRICE原則から「安静(Rest)」ではなく「最適荷重(Optimal Loading)」に移行しています。完全免荷は筋・腱の回復を遅らせることが示されています。
上腕二頭筋のストレッチは、肘関節伸展+前腕回内+肩関節伸展の複合肢位で行います。肩関節の後方伸展を加えることで、近位部(長頭腱周囲)の線維までストレッチされます。1回20〜30秒×3セット、1日2〜3回を目安に実施してください。脳卒中後の拘縮予防には継続的な実施が特に重要です。
上腕二頭筋の腱症回復には遠心性収縮(Eccentric Contraction)が有効です。ダンベルカールでは「ゆっくり降ろす(3〜5秒かけて)」フェーズを意識します。上腕二頭筋は物を持ち上げるだけでなく、「遠くに置く動作(肘を伸ばしながら前方へ伸ばす)」にも使われます。このEccentric収縮を意識したエクササイズが腱の修復を促します。週2〜3回、3セット×10〜15回を目安に。痛みのある際は無理せず、炎症が強いときは医師の指示のもとで実施してください。
片麻痺がある場合は、非麻痺側で麻痺側の手を把持し、両手で上肢挙上・上肢突出を行う両手動作訓練が有効です。麻痺側筋力低下時は肩甲帯挙上などの代償が入りやすいため、鏡や口頭指示で代償を抑制します。痙縮が強い場合は非麻痺側で補助しながら肘伸展・前腕回内でストレッチし、拘縮を予防します。反復促通療法(Repetitive Facilitative Exercise)との組み合わせも有効です(後述参照)。
Alfredson et al. (1998): アキレス腱症に対する遠心性エクササイズの有効性を示したRCT。上腕二頭筋腱症への応用根拠となる。(Br J Sports Med、エビデンスレベル:RCT)
Ohberg & Alfredson (2004): 遠心性訓練が腱内の異常血管新生を減少させることを超音波で確認。(Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc)
エビデンスレベル:腱症全体では強く推奨(複数RCT・SR)。上腕二頭筋腱症への直接的なRCTは限定的。臨床的外挿が必要。

脳卒中後の上肢機能回復は、適切な介入を継続することで改善の可能性があります。STROKE LABでは、上腕二頭筋の痙縮・拘縮管理を含む個別プログラムをご提供しています。まずはお気軽に無料相談からご連絡ください。
多職種連携と環境調整。
上腕二頭筋の問題は、一職種だけで完結させるより、多職種でアプローチした方が良好な結果につながります。特に脳卒中後の痙縮・拘縮管理では連携が不可欠です。
| 職種 | 主な役割 | 上腕二頭筋との関連 |
|---|---|---|
| PT(理学療法士) | ROM管理・姿勢・歩行への波及評価 | 痙縮による上肢の肢位が体幹・歩行バランスに与える影響を評価 |
| OT(作業療法士) | 上肢機能・ADL訓練・装具選定 | 更衣・食事・整容での肘屈曲・回外機能の回復を主導。肘伸展スプリント処方 |
| 医師 | 診断・薬物療法・手術適応判断 | 腱断裂の手術判断、ボツリヌス毒素注射(痙縮管理)、画像診断指示 |
| 看護師 | ポジショニング・日常生活での介助方針 | 痙縮側上肢のポジショニング(枕・クッションでの上肢肢位保持)を病棟と統一 |
| 家族・介護者 | ホームエクササイズの継続・環境整備 | 自己ストレッチの実施方法を指導。日常での動作確認(無理な介助による腱への負荷を避ける) |
「病棟でのポジショニングとリハ室での介入が矛盾していると、痙縮は悪化します。看護師とポジショニングの目的を共有してください。」
「脳卒中後の拘縮予防は、退院後に誰がどのように継続するかを入院中から計画することが大切です。家族への指導を忘れずに。」
「スポーツ選手の腱症では、コーチや監督との対話も重要です。練習量の調整なしに回復は難しいことを共有してください。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
新人セラピストが上腕二頭筋の評価・介入で陥りやすい落とし穴を3つ挙げます。先輩から引き継ぐ最重要ポイントです。
臨床判断の分岐点。
「エクササイズ中に痛みが増悪したら即中止。炎症期に負荷をかけるのは逆効果です。痛みのVASが3以下を維持できる強度で行いましょう。」
「ポパイサインを発見したら、その場でリハビリを継続せず、まず医師に報告。手術適応の有無を確認してから介入計画を立てましょう。」
「代償動作(肩甲帯挙上で肘を屈曲する動き)を見落とすと、MMTで実際より高いスコアを付けてしまいます。動作全体を観察する習慣を。」
予後とゴール設定。
上腕二頭筋の問題は、ほとんどが手術なしで自然治癒します。ただし病態によって回復期間とゴールが異なります。
急性損傷(部分断裂なし):POLICE原則+段階的復帰で4〜8週間で回復見込み。
腱症(慢性):遠心性エクササイズを週2〜3回×12週継続することで疼痛改善が期待できます(Eccentric protocol)。
長頭腱完全断裂(保存療法):筋力は若干低下するが、日常生活機能は多くの症例で保持可能。高齢者や活動量が低い場合は保存療法が選択されることが多い。
脳卒中後の痙縮・拘縮:発症から6か月以内の早期介入で改善効果が高い。拘縮に移行した後は改善が限定的。ゴールは「拘縮悪化予防+ADL維持」に設定することが現実的。
よくある質問(新人臨床家の疑問)。
前腕の屈曲と回外が主機能です。ただし最強の肘屈筋は上腕筋であり、上腕二頭筋は回外動作が加わったときに特に有利な機械的優位性を発揮します。
また長頭腱は挙上初期30°における肩関節の動的安定化にも貢献します。
長頭腱断裂により筋腹が遠位に移動し、上腕前面下部に筋の膨隆(こぶ状の変形)が生じる外観です。アニメのポパイの腕に似ることからこの名称が使われます。
視診で確認でき、断裂の重要なサインです。発見したら即座に医師へ報告し、手術適応の評価を依頼してください。
筋皮神経(C5・C6・C7)が支配します。臨床上は主にC5・C6が重要で、頸椎症や腕神経叢損傷の評価でキーとなる筋です。
MMT(徒手筋力検査)で肘屈曲・前腕回外を確認することで、神経障害のスクリーニングに活用できます。
回旋筋腱板断裂の90%にLHB腱症を、45%にLHB不安定性を併発します。
肩関節評価では腱板病変と長頭腱病変を必ずセットで確認してください。単独で診断することは見落としリスクがあります。
痙縮が強い場合は上腕二頭筋の緊張が持続的に高くなります。非麻痺側で麻痺側を補助しながら肘伸展・前腕回内でストレッチする自己両手動作が有効です。
拘縮予防の観点からも継続的なROM管理が重要です。ポジショニングと訓練内容を病棟・看護師と統一することも忘れずに。
Protection(保護)、Optimal Loading(最適荷重)、Ice(アイシング)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の頭文字です。急性期48〜72時間の管理として推奨されます。
旧来のRICE原則に「最適荷重」の概念を加えたアップデート版で、完全安静よりも早期の適切な負荷が回復を促すことが示されています。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳卒中後の上肢機能回復に特化した脳神経系の自費リハビリ施設です。上腕二頭筋の痙縮・拘縮管理から、日常生活での腕の使い方まで、経験豊富なセラピストが個別プログラムをご提供しています。

— STROKE LABでの上肢リハビリテーションの実際の様子です。
「上腕二頭筋の痙縮管理は、リハビリ室の中だけで完結させようとしてはいけません。病棟のポジショニング、家族の介助方法、すべてが連動して初めて効果が出ます。」— OT・臨床経験15年・脳卒中リハビリ専門
「腱症の患者さんにエクササイズを処方するとき、『痛みがあってもやってください』は禁物です。VAS3以下で行える強度を必ず確認してから指示を出してください。」— PT・臨床経験12年・スポーツリハビリ担当
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諦めないでください。

「上腕二頭筋が曲がったまま固まってしまって、着替えもできない」そんなお声を、私たちはたくさん聞いてきました。
脳卒中後の上肢機能回復には、適切な評価と段階的な介入を継続することが何より重要です。諦めるのは、一緒にやれることをすべてやってからでよいと思っています。
STROKE LABでは、無料相談を随時受け付けています。現在の状況をお聞かせいただき、一緒に可能性を探しましょう。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)