腹横筋の起始と停止、作用とは?姿勢や腰痛との関連、触診、エクササイズまで
腹横筋とは?
位置・働き・触診・鍛え方をやさしく解説。
腹横筋(TrA)は、お腹のいちばん深くにあって腰まわりをコルセットのように支える筋肉です。まずは下の「30秒まとめ」で全体像をつかみ、もっと知りたい方はその先の解説へ進んでください。
お腹の最深層を横向きに走り、手足を動かす直前に先回りして働いて体幹を安定させる筋肉です。鍛え方の第一歩は「ドローイン」です。
| 場所 | 腹筋の最深層。肋骨と骨盤の間で、お腹を前から後ろへぐるりと包む |
|---|---|
| 走行 | 水平(横向き)。腹直筋は縦、腹斜筋は斜め |
| 働き | ①お腹の圧(腹腔内圧)を高める ②腰椎を安定させる ③動作の前に先回りして収縮する |
| 弱いと | 下腹がぽっこり出る・腰が疲れやすい・座位が不安定・反り腰 |
| 触診 | 腰骨の出っ張り(ASIS)から内側へ約5cm・下へ約2.5cm |
| 最初の訓練 | ドローイン:5秒保持×10回×3セット、週3〜5回(呼吸は止めない) |

— 動作時における腹横筋の役割・評価・介入ポイントを動画で解説しています。
ここから先は、もっと詳しく知りたい方向けの解説です。
どこにある筋肉か(解剖)。
腹横筋(Transversus Abdominis: TrA)は、腹筋の中で最も深いところにある筋肉です。肋骨と骨盤の間にあり、体幹を前から後ろへ包み込むように伸びています。筋線維が水平方向に走ることが、他の腹筋との最大の違いです。



起始・停止
| 項目 | 部位 |
|---|---|
| 起始 | ①鼠径靭帯の外側1/3および腸骨筋膜 ②腸骨稜の前2/3 ③胸腰部筋膜 ④下6つの肋軟骨・肋骨の内面(第7〜12肋骨) |
| 停止 | ①白線 ②内腹斜筋の腱膜 ③恥骨結合 ④恥骨稜 |
3つの働きと他の腹筋との違い。

横向きの線維が縮むとお腹が締まり、内側の圧が上がります。これが腰椎への負担を分散させます。強く息を吐く・咳をする・排便するときにも働きます。
多裂筋・骨盤底筋と協力して、動作中の腰と骨盤を安定させます。歩行やリーチなど片側の手足を使う動作の土台になります。
片側だけ収縮すると同側への回旋に働きます。ただし主な役割は安定化で、回旋は副次的です。
他の腹筋との違い
| 比較項目 | 腹横筋(TrA) | 腹直筋 | 内・外腹斜筋 |
|---|---|---|---|
| 走行方向 | 水平(横) | 垂直(縦) | 斜め方向 |
| 主な機能 | 腹腔内圧上昇・腰椎安定化 | 体幹屈曲 | 体幹回旋・側屈 |
| 層の深さ | 最深層(第4層) | 表層(第1層) | 中間層(第2〜3層) |
| 運動制御の特性 | フィードフォワード(先行収縮) | フィードバック(反応的) | フィードバック(反応的) |
| 臨床的優先度 | ★★★(コア訓練の最優先) | ★★ | ★★ |
「先回りして働く」しくみ。
腕を上げる、足を踏み出す。こうした動作の直前に、体幹の筋が先に収縮して姿勢の崩れに備えるしくみがあります。これをフィードフォワード制御(先行随伴性姿勢調節:APA)と呼び、腹横筋はその代表です。
研究内容:健常者と慢性腰痛患者で、手足を動かしたときの腹横筋の筋電図タイミングを比較。健常者では四肢運動より平均30ms前に腹横筋が先行収縮するが、腰痛患者では遅延することを報告(Spine, 1996;21(22):2640-2650)。
臨床での意味:遅れは「筋力低下」ではなく「運動制御の問題」です。筋力増強よりも、腹横筋を意識して働かせる学習が介入の軸になります。
弱くなったときのサイン。

① へその上の腹部が下方に膨らむ(典型サイン)
② 大きな食事後やガス貯留時に腹部を支えられない
③ 長時間の立位・歩行後に腰部疲労を強く訴える
④ 座位で前方リーチを行うと後方へ倒れそうになる
深層筋がうまく働かないと、筋活動に頼らず骨や靭帯にもたれる姿勢になりがちです。代表がスウェイバックや反り腰です。「姿勢が悪い」と見えたときは、まず「深層筋の活性化が足りていないのでは」と考えてみましょう。
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触診の手順。
腹横筋は深層にあるため、見ただけでは働いているかわかりません。触診で確かめます。
仰向けで膝を曲げてもらい、骨盤前面の出っ張り(ASIS)を触って確認します。
ASISから正中線(白線)方向へ約5cm、さらに下方へ約2.5cm移動した位置が触診ポイントです。
指で軽く圧迫しながら「おへそを背中に引き込む」よう伝えます。正しく収縮すると、指の下で弾けるような張りの変化を感じます。
上腹部(腹直筋)や背中が一緒に固くなる場合、腹横筋だけの収縮ができていない可能性があります。「肩・背中はリラックスしていますか?」と声をかけましょう。
トレーニングの4段階。
「腹横筋だけを働かせる → 保持する → 動きながら使う → 生活で無意識に使う」の順に進めます。

仰向け・膝を曲げた姿勢で、おへそを背骨の方向へそっと引き込みます。上腹部・背中・腰はリラックスさせたまま、呼吸を続けて5秒保持。腹横筋を選択的に働かせる最も基本的な方法です。
ドローインができるようになったら、姿勢を保持する種目へ。コア全体を同時に働かせ、体幹の剛性(スティフネス)を高めます(Lee & McGill, JSCR, 2015)。
ドローインを保ちながら、リーチ・歩行・移乗などの動作につなげます。先回りの収縮(APA)が自動で起こることを目指します。
意識しなくても腹横筋が働く状態が最終ゴールです。ADL・IADLの中で体幹の安定を保てるよう、自主トレーニングとして定着させます。
Ferreira et al. (2006):系統的レビューで、特異的体幹安定化訓練(ドローインを含む)は慢性腰痛の疼痛軽減・機能改善に有効と報告(Aust J Physiother, 2006;52(2):79-88)。
O’Sullivan et al. (1997):腰椎分離すべり症を有する慢性腰痛患者において、特異的安定化訓練(TrA・多裂筋を中心)により疼痛・機能スコアが有意に改善。腰痛再発率が対照群比で約35%低下(Spine, 1997;22(24):2959-2967)。
トリガーポイント:腹横筋の硬結部位が前腹部・剣状突起・恥骨上部への関連痛を生じさせることが整理されている(Shah JP et al., PM&R, 2015;7(7):746-761)。
よくある失敗と対策。
ドローインとブレーシングの使い分け
| ドローイン | ブレーシング | |
|---|---|---|
| やり方 | 腹横筋を選択的に引き込む | 腹筋全体を同時に固める |
| 向いている場面 | 日常動作の準備・低負荷運動 | 重い物を持ち上げるなど高負荷動作 |
まずドローインで選択的な収縮を身につけ、その後ブレーシングへ進むのが基本です。高齢の脳卒中の方には、触診しながら腹横筋を「感じてもらう」ことから始めます。

STROKE LABでは、神経科学と運動制御の視点から、脳卒中後の体幹機能低下に対して根拠ある段階的アプローチを提供しています。「体幹が不安定で転倒が怖い」「リハビリで何をすればいいかわからない」そんなご家族・ご本人の悩みにお応えします。
ゴール設定の目安。
短期(〜2週):仰向けでのドローインを正しく行え、触診で収縮を確認できる。
中期(〜4〜6週):座位・立位でドローインを保持できる。プランク10〜20秒を代償なく行える。
長期(3ヵ月〜):日常生活の中で意識しなくても腹横筋が働く。腰痛・腰椎不安定性の再発予防。
多職種との連携。
生活全体で体幹を使う機会を増やすには、職種間で目標を共有することが欠かせません。
| 職種 | 主な役割 |
|---|---|
| PT(理学療法士) | 腹横筋の選択的活性化訓練の立案・実施。段階的プログラムの管理。歩行・立位への応用。 |
| OT(作業療法士) | 食事・更衣・入浴などADL場面への応用。上肢リーチ中の体幹安定化を促す。 |
| ST(言語聴覚士) | 嚥下・発声訓練時の姿勢確保。腹腔内圧と咳・呼気力の関係を意識した環境設定。 |
| 看護師 | 体位変換・移乗・トイレ動作時の声かけと環境整備。自主トレーニングの確認。 |
| 医師・MSW | 医学的適応の確認(骨粗鬆症・腹部術後など禁忌の確認)。退院後の環境調整と継続支援。 |
「リハビリ室でドローインを教えても、病棟では姿勢が崩れていることがあります。看護師さんと姿勢の目標を共有しておくことが、訓練を生活に広げる近道です。」
資料:神経・血管支配。
試験対策や詳しく確認したいとき用の資料です。
① 下部5つの肋間神経(T7〜T11)
② 肋下神経(T12)
③ 腸骨鼠径神経(L1)
④ 腸骨下腹神経(L1)
① 下部後肋間動脈
② 肋下動脈
③ 上・下腹壁動脈
④ 浅・深腸骨回旋動脈
⑤ 後腰動脈


よくある質問。
腹横筋は6層の腹筋の中で最も深層に位置する筋肉です。肋骨と骨盤の間に位置し、水平方向に走行して体幹を前方から後方へ包み込む構造をとります。
この水平走行と腱膜構造により、コルセットのように腹腔内圧を高め、腰椎の安定化に貢献します。
腹横筋弱化の典型サインは、へその上下で腹部が下方に膨らむことです。臨床では、大きな食事後や長時間の立位・歩行後に腰部疲労を訴えるケースも弱化のサインです。
触診ではASISから正中線方向に約5cm・下方2.5cmの位置で収縮の有無を確認します。収縮が確認できれば、指の下で弾けるような筋の緊張変化を感じ取れます。
仰臥位で膝を曲げ、おへそのすぐ下に指を当て、腹横筋を脊柱方向へ引き込みます。上腹部・背部・腰部の筋はリラックスさせたまま5秒保持・呼吸継続を1回とし、10回×3セットを目安に行います。週3〜5回を推奨。
腹直筋ではなく腹横筋を選択的に活性化させることが最重要です。
ドローインは腹横筋を選択的に活性化して局所安定性を高める手法で、日常動作前の準備や低負荷運動時に適しています。ブレーシングはすべての腹筋を同時に緊張させて腹腔内圧を急激に上昇させる手法で、重量物挙上などの高負荷動作時に有効です。
臨床では、まずドローインで選択的活性化を習得させ、その後ブレーシングへ段階的に進めるアプローチが推奨されています。
腹横筋の肋骨付着部にトリガーポイントがある場合、前腹部・剣状突起への局所的な関連痛が現れます。恥骨上付着部では下方・内側への痛みが出現します。
トリガーポイントを有する患者は咳嗽時に苦痛を訴えることがあります(Shah JP et al., PM&R, 2015)。
脳卒中後は体幹機能低下により腹横筋の活性化が不十分になりやすく、座位・立位バランスや歩行能力に影響を与えます。体幹安定化訓練(ドローイン・段階的コアエクササイズ)はバランス改善や転倒リスク低減に有効とされ、病態が安定した早期から導入することが推奨されています。
麻痺側体幹筋の賦活を意識した課題設定が重要です。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳卒中後遺症に特化した自費リハビリ施設です。神経科学と徒手技術を融合したアプローチで、「体幹が不安定」「歩行が改善しない」「バランスが悪い」といったお悩みに向き合います。腹横筋を含めたコア機能の回復を、段階的・根拠ある訓練プログラムで支援します。
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脳卒中後の体幹機能低下は、適切な訓練で必ず改善できます。問題は「諦めること」ではなく、「根拠あるアプローチを知らないこと」です。
私たちは、最新の神経科学と豊富な臨床経験をもとに、あなただけの回復プランを一緒に考えます。まずは無料相談から始めてみてください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)