【2026年版】手内在筋の重要性とは?機能的把持を支える脳科学・バイオメカニクスとリハビリアプローチを徹底解説
手内筋の低下は、なぜ「握れない手」をつくるのか。
脳卒中後に「握力はあるのに物が落ちる」「指が丸まって開けない」という訴えの多くは、手内在筋(虫様筋・骨間筋)の機能低下が根底にあります。本記事では、手内筋の神経科学的・機能解剖学的メカニズムを整理し、評価から介入まで新人臨床家が現場で使える知識を体系化します。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
60代男性。左被殻出血後3か月。上肢の粗大運動は改善してきたが、「ペットボトルは持てるのに、コインが拾えない」と困惑されている。
こうしたケースの多くは、外在筋(前腕起始の長指屈筋・伸筋)は回復しても、手内在筋の機能回復が遅れているために生じます。粗大把持と精細把持では必要な筋群が異なることを、まず押さえてください。
脳卒中後の上肢機能障害は、「麻痺の強さ」だけで語れません。握力(外在筋主体)が回復しても、手の中でものを操る精細な機能(手内在筋主体)が取り残されるケースは日常的に存在します。この「乖離」を見逃すと、ゴール設定が的外れになります。
新人セラピストとして最初に知っておきたいのは、「手内在筋の低下は鉤爪変形を生む」という機能解剖の基本です。次の章で、その仕組みを丁寧に確認しましょう。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
そのお悩み、一度ご相談ください。
STROKE LABは脳神経系に特化した自費リハビリ施設です。手内筋の機能回復を含む上肢の精細な機能改善に、脳科学と機能解剖に基づいたアプローチで対応します。まずは無料相談で現在の状態をお聞かせください。
手内筋の解剖と定義。
手内在筋(intrinsic hand muscles)とは、手の中に起始と停止を持つ筋群の総称です。前腕に起始を持つ外在筋(long flexors / extensors)と対比されます。代表的な筋群は以下の3グループです。
虫様筋(lumbricales): 深指屈筋腱(FDP)に付着し、MP関節を屈曲・PIP/DIP関節を伸展させます。深指屈筋の過活動は虫様筋を引っ張り、機能不全を招きます。
骨間筋(interossei): 背側骨間筋は指の外転、掌側骨間筋は内転を担います。掌側骨間筋が硬化すると、指が内転位での屈曲になり把持幅が狭くなります。
母指内転筋(adductor pollicis): 母指の内転・対立動作を制御します。拘縮すると母指ウェブスペースが狭くなり、円柱把持・ピンチ把持ともに困難になります。
「広く・長い手」とはなにか。
Crosby & Moberg(1993)の研究は、手内在筋の臨床的意義を定量的に示しました。深指屈筋(FDP)のみを活性化した場合、屈曲はPIP関節から始まり、指が「巻き込む」ように曲がります。これでは指先と手掌の距離が縮まり、大きな物体を包むことができません。
方法: 手指屈曲をシミュレートするために、内在筋に0・125・250・375・500gの負荷をかけながら深指屈筋(FDP)をモーターで作動させた。
結果: 内在筋負荷が増加すると、MP関節での屈曲が先行し、その後PIP・DIPが続く順序に変化した。これにより指先〜手掌の最大距離が19mm拡大した。
臨床的含意: 手内在筋への介入は、把持の「形」を変える。外在筋強化だけでは達成できない機能的把持を実現するには、虫様筋・骨間筋の再活性化が不可欠。
神経メカニズム・責任病巣。
手内筋の低下には、複数の脳領域の損傷が関与します。損傷部位によってリハビリのアプローチが変わるため、責任病巣の理解は介入計画の基礎になります。
一次運動野(M1)のホムンクルスでは、手指領域が皮質の広大な面積を占めます。ここから発する皮質脊髄路(CST)の損傷が、手内筋への精細な指令の減少を引き起こします。CST損傷の程度が手機能予後の最大の規定因子です。
責任病巣ごとの機能障害と臨床的含意。
| 責任病巣 | 主な機能障害 | 臨床的含意 |
|---|---|---|
| 一次運動野(M1) | 精密運動指令の減少。手内筋を含む個別指運動が著しく低下。 | 課題難易度を段階化し、成功体験で皮質再組織化を促す。 |
| 一次体性感覚野(S1) | 触覚・位置覚の統合障害。感覚フィードバックなしでは運動精度が維持できない。 | 感覚再教育(テクスチャ訓練)を先行させる。視覚代償の活用も有効。 |
| 補足運動野(SMA) | 両手動作・連続運動の計画障害。麻痺側と健側の協調が困難に。 | 両手動作を含む課題(料理・着替えなど)を訓練に積極的に取り入れる。 |
| 基底核 | 筋トーヌス調節障害。手内筋の過緊張または低緊張が生じる。 | MASで痙縮を定量化し、介入前後の変化をモニタリングする。 |
| 小脳 | 運動のタイミング・協調障害。手の動きがぎこちなく、筋収縮の適切な制御が困難。 | リズム的な反復課題・メトロノームを活用した協調訓練が有効。 |
鑑別と類似症候との違い。
脳卒中後の手機能低下には複数の要因が絡みます。「手内筋の問題」なのか「外在筋の痙縮」なのか「感覚障害」なのかを区別することが、適切な介入につながります。
評価の進め方。
手内筋の評価は「何ができないか」ではなく「なぜできないか」を明らかにする作業です。感覚・筋力・可動域・動作パターンを組み合わせて原因を特定します。
評価の3ステップ。
Semmes-Weinstein モノフィラメントで触覚を、徒手的な母指・示指の位置覚テストで深部感覚を評価します。感覚障害が強い場合は視覚フィードバックを訓練の主要手段として活用します。特に母指と示指の感覚に注目してください。
Modified Ashworth Scale(MAS)で痙縮を定量化します。MAS 2以上では抵抗訓練を慎重に適用します。握力とピンチ力の両方を計測し、乖離(握力はあるがピンチが弱い)があれば手内筋の優先介入を示唆します。
Action Research Arm Test(ARAT)は上肢機能の標準的評価尺度です。19点以下はADL上の著明な制限を示します。Box and Block Test(BBT)は手の巧緻性を定量化します(正常値:60〜70個/分)。姿勢観察では代償パターン(体幹傾き・肩甲骨挙上)を必ず記録します。
母指と各指でのピンチ動作、コイン・ペン・ビー玉の操作を観察します。MP屈曲が先行するか・PIP/DIPが先行するかの関節屈曲順序を視覚的に確認することで、手内筋の機能状態を推定できます。
スコア構成: 全19項目(Grasp 6項目・Grip 4項目・Pinch 6項目・Gross Movement 3項目)。各項目0〜3点、最高57点。
採点基準: 3点=正常に実行 / 2点=部分的に実行(健側より3秒以上遅い等) / 1点=補助があれば実行 / 0点=実行不可
カットオフ値: ≤19点:ADL著明制限 / 20〜42点:中等度制限 / ≥43点:軽度制限
MCID(最小臨床的重要差): 5〜6点の変化が臨床的に意味ある改善とされる(Yozbatiran et al., 2008)。
介入の段階とエビデンス。
手内筋への介入は「準備段階→基礎訓練→応用訓練→ADL統合」の4フェーズで進めます。各フェーズのパラメータを明記します。
筋緊張調整:手根部から指先への軽い圧迫と牽引(徒手療法)。パラフィン浴・温湿布を用いて柔軟性を確保します。感覚再教育:フェルト・砂・ビー玉など質感の異なる物体に手指で触れ、脳への感覚入力を再統合します。1日15分・週5回を目安にします。
アイソメトリック収縮:丸めたスポンジを軽く握って保持します。静的収縮で神経筋制御を高めます。可動域訓練:示指のみを屈曲させ他指を伸展させる個別指運動(他指への動作伝播を防ぐこと)。動的握力訓練:セラバンドやクレイを使い、指ごとの力加減を意識します。週3回・各15分。
対物操作訓練:小さなボールやペグを母指と各指で交互に操作します。感覚運動統合:健側の動作を鏡で見ながら麻痺側でイメージ・実行を試みます(ミラーセラピーの応用)。健側のリズミカルな指タッピングと音声カウントの組み合わせも有効です。イメージトレーニング:1回10〜15分の運動イメージで運動皮質が活性化することが研究で確認されています。
ADLタスク:ボタン留め・紐結び・コインの拾い上げ・ペンでの文字書きなど生活動作に近い環境で練習します。難易度は易→難で段階化します。筋電図バイオフィードバック:虫様筋・骨間筋の活動を可視化し、適切な筋収縮を学習します。スプリント:鉤爪変形の予防と関節拘縮の改善に。毎日1〜2回・各10分のストレッチングとセットで使用します。
エビデンス概要: 上肢機能を中心としたシステマティックレビュー。発症後6か月以降でも多様なリハビリ手技(課題指向型・感覚統合・バイオフィードバックなど)によりFMA・ARATが有意改善することを示した。
臨床的含意: 「もう6か月以上経ったから回復しない」は誤り。継続的な課題指向型訓練で、慢性期でも上肢機能の改善は期待できる。

脳科学の進歩により、発症から時間が経過した後でも神経可塑性を引き出せることがわかっています。STROKE LABでは、手内筋の再活性化を含む上肢機能の回復に、エビデンスに基づいた個別プログラムで対応します。まずは現在の状態を一緒に確認させてください。
多職種連携と環境調整。
手内筋リハビリは作業療法士が中心を担いますが、効果を最大化するには多職種の連携が不可欠です。各職種の役割を明確にすることで、訓練の一貫性が生まれます。
多職種連携の役割分担。
| 職種 | 手内筋リハビリにおける役割 | 連携のポイント |
|---|---|---|
| 作業療法士(OT) | 手の精細運動訓練・ADL訓練の中心的担当。スプリント作製も担う。 | 訓練内容・使用道具・進捗を他職種と毎週共有する。 |
| 理学療法士(PT) | 体幹安定性と肩甲骨のポジションニング。手指動作の近位支持基盤を作る。 | 肩甲骨安定性の改善が手指訓練の質を高めることをOTと共有する。 |
| 言語聴覚士(ST) | 失語症・高次脳機能障害の評価。訓練の指示理解度・注意機能を把握。 | 指示が伝わらない場合の代替コミュニケーション方法をOTに提案する。 |
| 看護師 | 手の浮腫・感染・皮膚障害の日常観察。スプリントの装着状態の確認。 | 浮腫の変化をOTに報告。訓練中の疼痛・疲労も当日内に共有する。 |
| 管理栄養士 | 筋力回復に必要なタンパク質・ビタミンB群の摂取指導。 | 栄養状態の低下が筋力訓練の効果を減弱させる。低栄養疑い時は即連携する。 |
「手指訓練中に患者が肩を挙上して代償している場合、PTに肩甲骨安定性の評価を依頼するのが近道です。」
「浮腫があるときはスプリントの当たり具合が変化するので、看護師に毎日の観察をお願いしましょう。」
「STから『この患者さんはADLへの関心が低い』と情報が来たら、訓練課題の選定を患者の興味に合わせて見直してみてください。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
新人セラピストが手内筋訓練で陥りやすい失敗には共通のパターンがあります。先に知っておくことで、同じ罠を踏まずに済みます。
臨床判断の分岐点。
「骨間筋は比較的奥にあるため、徒手介入の際はしっかりと奥まで入り込む必要があります。浅い介入では手内筋に届きません。」
「掌側骨間筋が硬く、手指が内転位での屈曲になっている方は多い。骨間筋へのアプローチを先行させることで、その後の把持訓練の質が変わります。」
「虫様筋は深指屈筋腱(FDP)に付着するため、FDPの過活動の影響を直接受けます。虫様筋の再活性化には、まずFDPの過緊張を落とすことが先決です。」
予後とゴール設定。
ゴール設定は「改善の指標」と「達成期限」を具体的に定めることで、訓練に方向性が生まれます。以下の目標設定の例を参考にしてください。
| 時期 | 目標 | 指標 |
|---|---|---|
| 初期(1か月) | 手内筋の筋緊張を正常範囲に戻す。感覚入力の再統合を開始。 | MAS低下・モノフィラメント反応の改善 |
| 中期(3か月) | ボタン留め・軽作業がスムーズに行える。ピンチ力20%以上回復。 | ARATピンチサブスコア改善・BBT個数増加 |
| 後期(6か月) | 握力が麻痺前の50%以上に回復。日常的な手作業が自立。 | 握力計・FIM運動項目改善 |
よくある質問。
手内在筋とは、手の中に起始と停止を持つ筋群を指し、虫様筋・骨間筋・母指球筋・小指球筋が含まれます。
外在筋(前腕に起始を持つ長指屈筋・伸筋群)と異なり、MP関節の屈曲とPIP・DIP関節の伸展という独特の作用を持ちます。この協調がなければ、物を「広く・長く」包む機能的把持は実現しません。
手内筋(特に虫様筋・骨間筋)が機能しないと、外在屈筋(深指屈筋FDP)が優位になります。FDPはMP関節よりもPIP・DIP関節を先に屈曲させる傾向があるため、指が「巻き込む」ように屈曲し、鉤爪姿勢が生じます。
Crosby & Moberg(1993)では、手内筋の負荷が0gから500gに増加すると、FDPのみの場合に比べて指先と手掌の最大距離が19mm拡大したことが示されています。
主な責任病巣は一次運動野(M1)の手の領域です。M1が損傷を受けると皮質脊髄路を介した手内筋への精細な指令が減少します。
加えて一次体性感覚野(S1)・補足運動野(SMA)・基底核・小脳の損傷もそれぞれ手機能に複合的な影響を与えます。画像所見と機能評価を合わせて読み取ることが重要です。
まずモノフィラメントを用いた触覚・深部感覚の評価、握力計・ピンチメーターによる筋力評価、手指関節の可動域測定を実施します。
加えて代償パターン(体幹の傾き・肩甲骨挙上など)の観察と、ADL場面での手の使用パターンの確認が重要です。感覚障害の程度によって訓練の入力手段(視覚・触覚・固有感覚)の優先順位が変わります。
感覚統合訓練は1日15分・週5回が目安です。抵抗を使った動的トレーニングは週3回・各15分から開始し、筋疲労をモニタリングしながら漸増します。ストレッチングは毎日1〜2回・各10分が推奨されます。
運動学習の観点から、効果を最大化するためには週2回以上・3か月以上の継続が重要とされています(Hatem et al., 2016)。
最も多い失敗は「外在筋ばかり強化して手内筋を見落とす」ことです。握力は回復しても鉤爪が残るケースがこれに当たります。
次に「痙縮の評価を怠って抵抗訓練を強めすぎる」こと(速い動作が異常筋活動を誘発します)、そして「感覚障害をアセスメントせずに視覚フィードバックだけに頼る」ことが挙げられます。介入前に必ずMASと感覚テストを実施してください。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳神経疾患に特化した自費リハビリ施設です。手内筋の機能回復を含む上肢リハビリに、脳科学と機能解剖に基づいた個別プログラムで対応します。保険診療の制約を超えた集中的なアプローチが、ここでは可能です。
— STROKE LABでの上肢リハビリの実際の様子です。

「手の治療で大切なのは、外から見える動きだけでなく、どの筋肉がどの順序で動いているかを読み取ることです。手内在筋への介入は細かい作業ですが、それが患者さんの生活を大きく変えます。」— 作業療法士・臨床経験12年・神経疾患専門
「新人のころ、握力訓練ばかりしていて鉤爪が取れないと悩みました。手内筋と外在筋を分けて評価・介入することを覚えてから、上肢治療の精度が劇的に変わりました。」— 理学療法士・臨床経験8年・脳卒中リハビリ担当
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諦めないでください。

手の機能は、日常生活の質に直結します。「ボタンが留められない」「コインが拾えない」という不便は、ご本人・ご家族にとって深刻な悩みです。
しかし、脳科学の進歩は明確に示しています。発症から時間が経過した後でも、適切な介入で神経可塑性は引き出せます。あきらめることを急ぐ必要はありません。
STROKE LABでは、手内筋の機能回復を含む上肢機能改善に、エビデンスと経験に基づいたオーダーメイドのプログラムでお応えします。まずは現在の状態を一緒に確認させてください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)