【2024年版】プッシャー症候群とは?原因/病巣/リハビリ/ 評価/予後/画像MRIに至るまで解説!!脳卒中/片麻痺
論文に入る前に
今ひとつ代償との違いやラテロパルジョンとの違いが整理できません。
臨床ではつっぱる患者さんを全員プッシャーという療法士もいるので、病巣や症状をしっかり整理しておきましょう!
ラテロパルジョンやワレンベルグ症候群の記事は↓↓↓
プッシャー症候群とは?
プッシャー症候群は、脳卒中患者の約5~10%に見られる体位姿勢の異常症状です。
1985年にPatricia Davisによって初めて報告された言葉で、麻痺していない方の手足を使って、麻痺側に向かって体を押し出すような行動を表しています。
支えがない状態では、患者は横方向へ姿勢を崩し、麻痺側に倒れてしまいます。プッシャー症候群は、重度の注意障害や半側の感覚障害を伴いやすいです。
原因は?
プッシャー症候群の原因や症状についての研究は進んでいますが、まだ十分に理解されているとは言えません。
プッシャー症候群の行動は、垂直に対する体性感覚の障害と無傷の視覚システムとの間でエラーが生じる結果です。
他にも、麻痺した半身からの体性感覚情報処理の高次障害の結果である可能性が示唆されています。
プッシャー症候群の患者は、一次視覚または視知覚の問題、固有受容感覚の障害、運動障害を抱えていることもあり、姿勢やバランスを再学習することが困難になります。
Karnathらは、プッシャー症候群の患者が直立姿勢を誤認識していることを示しました。
患者は「直立」姿勢を報告していますが、実際には病巣側である非麻痺側に18度傾いています。
18度傾く記事の実験詳細は↓↓↓↓
MRIスキャンで、この研究に参加した患者は脳卒中後に左右の視床後外側核(posterolateral thalamus)が損傷していることを示しています。
しかしながら、梗塞の場所に関する証拠は不十分で、頭頂葉の損傷を示唆する研究もあります。
Paciらのレビューでは、プッシャー症候群のエビデンスの幅広さは直立姿勢制御を担う多次元ネットワークの影響が示唆されています。
診断は?
Karnathは、プッシャー症候群の診断要素として、以下の3つを挙げています。
①自然で無意識な姿勢評価(重度/中度および軽度)
体位変換(理想的には仰臥位から座位、座位から立位)直後の姿勢において、麻痺側への傾斜を評価していきます。このような姿勢異常が定期的に見られる場合には、プッシャー症候群に分類されると考えられています。
②非麻痺側上下肢の外転と伸展
患者は、非麻痺側上下肢の位置に異常を示します。典型的には、上肢は体幹から外転し、肘は伸展したままで、手はプッシュしながら接触面を探索しようします。下肢は外転し、膝と股関節は伸展したままとなります(上肢と同様)。
③傾いた姿勢の受動的矯正に対する抵抗
患者は通常、セラピストが身体の姿勢を矯正すると積極的に抵抗します。伸展した上肢と下肢を使って体重を麻痺側に押し付けることになります。
Scale for Contraversive Pushing (SCP)は、これら3つの障害に基づいて作られた評価です。SCPは、臨床医がプッシャー症候群を分類するための有用なツールであり、急性期から迅速かつ容易に適用することができます。
MRI画像の好発部位は?
赤色に近づくほど後発エリアになります。
基底核周囲のMRI画像参考
放線冠↓↓↓
引用元:画像診断Cafe
脳エリア参考
血管支配参考
引用元:画像診断Cafe
評価指標
3.Pusher症候群の評価
Pusherの評価で代表的なものは
SCP(scale for contraversive pushing)、Pusher評価チャート、BLS、4PPSなどがあります。
今回はPusherの評価としてもっとも良く使われており、信頼性・妥当性ともによく検証されているSCPと段階付けのやり方としてBLSについて解説を行っていきます。
Burke Lateropulsion Scale(BLS)
この尺度は、患者の以下に対する抵抗を評価します。
・受動的腹臥位
・座位・立位時の受動的姿勢矯正に対する抵抗感
・移乗や歩行介助に対する抵抗
各要素のスコアは0〜3(立位は0〜4)で評価され、スコアは抵抗の重さや、患者が受動的動作に抵抗し始めたときの傾斜角度に基づいています。
プッシャー症候群の診断のためのスコアは2点以上となります。
Scale for Contraversive Pushing(SCP)
これは3つの要素で構成されています。
・自発的な姿勢の対称性(0、0.25、0.75、または1点で評価)
・四肢の伸展や外転の使用して接触面積を広げる(0、0.5、1点で評価)
・傾いた姿勢を受動的に修正することへの抵抗(0点または1点)
プッシャー症候群の診断には、3つの要素がすべて揃う必要があります。
Bergmannらは、BLSがSCPよりも、微小な動きや小さな変化に敏感で、プッシャー行動を分類する際により反応的であることを示唆しています。さらに、BLSは、立位や歩行における軽度またはほぼ消失したプッシャー行動がある場合でも検出することができ、特に有用であることが示唆されています。
SCPのメリットは評価項目が少なく、比較的簡単に評価することができます。しかし、デメリットとしては重症・軽症の方の段階付けができません。
段階付けに関しては後ほど紹介するBLSの方が有利となります。
1)SCP
SCPの点数が0点より大きければPusherがあると判断するため、一つでも当てはまるとPusherの可能性があります。
SCPは姿勢・伸展・抵抗の3つの項目を座位・立位で評価していきます。
・姿勢:対照性のことで、傾いているかどうか。
・伸展:上下肢が自発的に伸展・外転するかどうか。(例:左麻痺の方であれば、非麻痺側である反対の右側の上肢や下肢で突っ張っているかどうか)
・抵抗:傾いている姿勢を直そうとすると抵抗してくるかどうか。
実際の検査(座位)
①自発的な姿勢の対称性
【方法】
姿勢の対称性の評価になります。
まっすぐであれば0点、支えないと倒れてしまうぐらい麻痺側に倒れてしまうのであれば1点となります。
重度か軽度かの判断は主観的評価となります。
【判断基準】
1点:麻痺側へ著しく傾き転倒
0.75点:重度の傾き
0.25点:軽度の傾き
0点:正中位
②伸展・外転(上下肢で接触面積を広げる)
【方法】
非麻痺側の上下肢が伸展・外転し突っ張っているかを評価します。
最初の姿勢では判断が難しい場合は、姿勢を変えてもらい上下肢が伸展・外転するかを評価します。
姿勢の変更方法は①非麻痺側へ殿部をずらす、②非麻痺側の方に椅子を置き椅子に乗り移ってもらう。この2つのうちどちらかを行ってもらい、動作の途中で伸展・外転が出現するかどうかを評価します。
【判断基準】
1点:安静時から出現
0.5点:姿勢変換で出現
0点:出現しない
③抵抗(他動的な姿勢の修正)
【方法】
患者さんが座っている状態から介助者が他動的にまっすぐに姿勢を直したときの抵抗感を評価します。
【判断基準】
1点:抵抗あり
2点:なし
実際の検査(立位)
①自発的な姿勢の対称性
【方法】
姿勢の対称性の評価になります。
座位と同様まっすぐであれば0点、支えないと倒れてしまうぐらい麻痺側に倒れてしまうのであれば1点となります。
重度か軽度かの判断は主観的評価となります。
【判断基準】
1点:麻痺側へ著しく傾き転倒
0.75点:重度の傾き
0.25点:軽度の傾き
0点:正中位
②伸展・外転(上下肢で接触面積を広げる)
【方法】
非麻痺側の上下肢が伸展・外転し突っ張っているかを評価します。
起立した段階で下肢が外転していれば1点になります。
起立した際に外転していない場合は歩行を行ってもらい、歩行と同時に下肢が外転してくようであれば0.5点、外転がなければ0点となります。
【判断基準】
1点:安静時から出現
0.5点:姿勢変換で出現
0点:出現しない
③抵抗(他動的な姿勢の修正)
【方法】
1.患者さんに立位を取ってもらいます。
2.介助者が他動的にまっすぐに姿勢を直していきます。
3.この時の抵抗感を評価します。
【判断基準】
1点:抵抗あり
2点:なし
実施例
登場人物:
- 療法士: 金子先生
- 患者: 丸山さん
ストーリー:
丸山さんは左半身に麻痺があるため、リハビリテーションの一環としてSCP評価を行うことになりました。金子先生が丸山さんをサポートしながら評価を進めていきます。
座位での評価
-
自発的な姿勢の対称性
- 方法: 金子先生は丸山さんに座ってもらい、自然な姿勢を取ってもらいます。
- 結果: 丸山さんは麻痺側に大きく傾いており、支えがなければ倒れてしまうほどです。
- 評価: 1点(麻痺側へ著しく傾き転倒)
-
伸展・外転(上下肢で接触面積を広げる)
- 方法: 金子先生は、丸山さんに非麻痺側の上下肢が伸展・外転しているかを確認します。姿勢を変えてもらうため、殿部を非麻痺側へずらすよう指示し、また非麻痺側に椅子を置いて乗り移ってもらいます。
- 結果: 丸山さんの右側(非麻痺側)の上下肢は、姿勢を変えた後に伸展・外転していることが確認されました。
- 評価: 0.5点(姿勢変換で出現)
-
抵抗(他動的な姿勢の修正)
- 方法: 金子先生が丸山さんの姿勢を他動的にまっすぐに直そうと試みます。
- 結果: 丸山さんは抵抗を示し、直そうとすると反発します。
- 評価: 1点(抵抗あり)
座位の評価合計: 2.5点
立位での評価
-
自発的な姿勢の対称性
- 方法: 金子先生は丸山さんに立ってもらい、自然な姿勢を取ってもらいます。
- 結果: 丸山さんは座位の時と同様に、麻痺側に大きく傾いており、支えがなければ倒れてしまいます。
- 評価: 1点(麻痺側へ著しく傾き転倒)
-
伸展・外転(上下肢で接触面積を広げる)
- 方法: 金子先生は、丸山さんが立った段階で非麻痺側の下肢が外転しているかを確認します。立位で確認が難しい場合は、歩行を行ってもらいます。
- 結果: 丸山さんは立位では下肢が外転していませんが、歩行時には外転することが確認されました。
- 評価: 0.5点(姿勢変換で出現)
-
抵抗(他動的な姿勢の修正)
- 方法: 金子先生は丸山さんの姿勢を他動的にまっすぐに直そうと試みます。
- 結果: 丸山さんは抵抗を示し、直そうとすると反発します。
- 評価: 1点(抵抗あり)
立位の評価合計: 2.5点
最終評価
金子先生は座位と立位の評価結果を合わせ、丸山さんのSCP評価を行いました。総合的に、丸山さんの評価結果は以下の通りです。
- 座位の評価: 2.5点
- 立位の評価: 2.5点
- 合計: 5.0点
この結果から、丸山さんはPusherの可能性が高いことが確認されました。金子先生はこの評価結果を基に、丸山さんのリハビリテーションプランを調整し、より効果的な治療を進めていくことにしました。
2)BLS
①背臥位から寝返り
【方法】
1.麻痺側に寝返りを行います。(介助で構いません)
2.非麻痺側に寝返りを行います。(介助で構いません)
3.麻痺側・非麻痺側のそれぞれの抵抗感を評価します。
※Pusherの方は非麻痺側に寝返りをした時に抵抗感を感じる方が多いですが、中には麻痺側に寝返りをした時にも抵抗感を感じる方もいます。その際は麻痺側への寝返りをした時の抵抗感の評価に+1点をしてください。
【判断基準】
0:抵抗感なし
1:わずかな抵抗
2:中等度の抵抗
3:強い抵抗
※麻痺側へも抵抗する場合:+1
②座位姿勢
【方法】
1.両下肢を浮かせた状態で座位を取ります。
2.麻痺側へ30°傾けます。
3.再び正中に戻していきます。
【判断基準】
0:正中まで抵抗なし
1:-5°で抵抗あり
2:-10~5°で抵抗あり
3-10未満で抵抗あり
※Pusherの方は麻痺側へ傾いている方が多いですが、中には非麻痺側に傾いている方もいらっしゃいます。そのような場合は、Pusherではなく運動麻痺による傾向のため点数はつけません。麻痺側へ崩れていく現象だけPusher として採点しましょう。
③立位姿勢
【方法】
1.立位を取ります。
2.麻痺側へ20°傾けます。
3.正中を超えて10°非麻痺側に傾けていきます。
※麻痺側の膝折れなどのリスクが高いため、装具や手すりなど環境調整を行って評価を行いましょう。
【判断基準】
0:抵抗なし
1:非麻痺側へ5~10°傾いた位置で抵抗あり
2:-5°~0°の位置で抵抗あり
3-10~-5°の位置で抵抗あり
4:-10°未満で抵抗あり
※歩行補助具を使用しても立位が難しい場合は4点をつけます。
④移乗
【方法】
1.ベッドに座ってもらいます。
2.非麻痺側に車いすや椅子を置き、そちらに乗り移りを行います。
3.その時の抵抗感・介助量を評価します。
【判断基準】
0:抵抗なし
1:わずかな抵抗あり
2:中等度の抵抗があるが、1人で介助可能
3:重度の抵抗あり、2人介助が必要
※右手で椅子の背もたれなどを掴んでもらうことで、上肢でどの程度押してくるかが評価できます。
⑤歩行
【方法】
1.歩行をしてもらいます。
2.麻痺側に倒れている体幹を正中に戻します。
3.その際の抵抗感を評価します。
※装具や杖などの使用はOKですが、再評価の際は同じ条件で行いましょう。
【判断基準】
0:抵抗なし
1:わずかな抵抗あり
2:中等度の抵抗あり
3:重度の抵抗あり2人介助が必要。または歩行不可
動画で学ぶSCP,BLS↓↓↓
動画↓↓↓
記事で細かく学ぶ↓↓↓
リハビリテーション
Karnathらは、初期のリハビリテーションの最初の目標として、変容した身体姿勢を視覚的にフィードバックすることを提案しています。
環境に関連した視覚情報を提供することで、患者は自分が傾いていることを実感し、どこが直立なのかを修正できるチャンスが増えます。
異なる姿勢をとっている間に、患者と対話しながら、直立しているように見えるように視覚的な参照や手がかりを与え、自分の体の向きに関するフィードバックを与えられるべきです。
例えば、セラピストのハンドリングを活用しつつ、壁の線やドアの枠など、地面と垂直な構造物を併用していきます。
プッシャー症候群の患者は、最初は視覚的フィードバックの使用を促される必要があるかもしれませんが、徐々に視覚フィードバックを減らしたり、体性感覚情報で垂直位をつくれるよう、段階付けしたリハビリテーションが重要です。
Karnathらは、プッシャー症候群の治療には以下のような一連の治療が有効であることを示唆しています。
①患者が自分の体の位置の認識が乱れていることを自覚できるようにする
②患者が周囲の環境と身体の関係を視覚的に探索し、自分が直立しているかどうかを確認する
③セラピストの腕や、ドア枠、窓、柱などの多くの垂直構造物を基準点として使用すること
④垂直な体勢をとるために必要な動作を練習する。 垂直な体勢を維持しながら機能的な活動を行う
金子唯史:脳卒中の動作分析,医学書院 2018より引用
半側空間無視患者のプッシャー症候群とCrossed leg signに関して
プッシャー症候群を呈する患者は以下の写真ような足を交差させる姿勢を呈することが多いです。
Gustavo José らは、USN(半側空間無視)患者の脳卒中急性期における脚の交差行動(Crossed leg sign)について、主に3つの説を想定しています。
①右半球の頭頂葉損傷を伴うUSNでは、感覚障害や身体失認などの正中線の誤認を伴う知覚障害が主に見られます。個人の意識が変化し、麻痺側下肢でベッド上の異物を認識すると、非麻痺側下肢は拒絶の動作を繰り返し強迫的に行うと考えられ、結果的に足が交差します。
②正中線を誤認しているとき、常に感覚的な刺激を求めて探索し結果的に足が交差します。
③大脳半球間抑制説で、脳卒中の急性期に、USNに伴う片麻痺の患者は、障害のある下肢の使用頻度が減り、その結果、損傷した頭頂葉に伝達される情報が減ります。
損傷した半球が受け取る情報が少なくなると、損傷していない半球を抑制することができなって過活動になり、非麻痺側の運動活動が増加して脚が交差します。
図引用:Gustavo José 2018 より
プッシャー症候群とCrossed leg signの治療介入動画
プッシャー症候群の予後は?
プッシャー症候群の予後については文献上で意見が分かれています。
Karnathらは、プッシャー症候群の存在は脳卒中後6ヶ月ではほとんど見られず、患者の最終的な機能的転帰には悪影響を及ぼさないと述べていますが、リハビリが最大で3週間遅れることが報告しています。
一方、Santos-Pontelliらは、3人の患者にプッシャー症候群が脳卒中後2年まで残り、機能的能力に大きな悪影響を及ぼしたことが報告されています。
傾いているといっても、患者さんによって手がかりの強度や言語、体性感覚の活用方法は違います。
臨床の症状をしっかり確認して、柔軟に対応していくことが大切ですね。
今回の論文は視床病変ではないプッシャー症候群に関する報告をお伝えします!!
カテゴリー
脳科学
タイトル
視床を温存している皮質損傷後の「Pusher Syndrome」について “Pusher syndrome” following cortical lesions that spare the thalamus?PubMedへ Johannsen L et al:J Neurol. 2006 Apr;253(4):455-63. Epub 2006 Feb 3
内 容
Introduction
●プッシャー症候群の患者は、損傷部位と同側(麻痺側)に約20°傾けられたときに身体が直立したと感じるが、視覚および前庭の入力の処理はほとんど障害されていない。
●この知見はヒトの神経経路を論じたものであるが、重力方向の知覚や直立姿勢の制御と視覚による姿勢方向の知覚とは別なものだと考えられる。
●Karnathらの調査の結果、プッシャー症候群を伴う左右どちらの脳損傷患者においても典型的に後外側部の視床が損傷を受けていたことが明らかになった。
●この知見は、視床後部の直立姿勢の制御のための基本的な役割を示唆している。
●しかし頻繁ではないが、プッシャー症候群は視床を温存する脳病変を有する患者においても( contraversive pushingが)観察されており、本研究の目的は、このシステムの皮質基質を調べることであり、視床を含まない皮質脳損傷を示すプッシャー患者における病変位置を研究した。
対象と方法
●プッシャー症候群の21人の視床損傷のない片側性の皮質病変を持つ急性期脳卒中患者を調査した(表1参照)
●コントロール患者の2つのグループ-視床損傷のない急性の左側12人および急性の右側の皮質病変を有する12人の被験者を、プッシャー患者のグループと一致させた(表1参照)
●コントロール群の被験者は、プッシャー患者と入院期間、年齢、脳卒中発症からの時間、空間無視の頻度、失語の頻度、視野欠損の頻度が同じになるよう一致させた。
●さらに、病変の大きさおよび両側の体性感覚喪失の頻度は、プッシャー患者と対照群とで同等であった。 (表1)Johannsen L et al:2006?PubMedへ
分析・解析
●脳卒中患者において、MRIが19例、スパイラルCT画像が26例に実施された(責任病巣が明確になるまで随意的に検査を繰り返し、最後に撮った画像が本研究で用いられている)。
●MRIを受けた患者では、脳卒中後48時間以内に拡散強調画像(DWI)を、また脳卒中後の48時間以降においてはFLAIR画像を撮影した。
●病変は、Talairach空間のTalairach Z軸に対応するスライス上に、同一のまたは最も近くに適合している各個人の横断画像を利用してマッピングされた。
●我々は重なり合った病巣を プッシャー症候群を有する群の重複画像からコントロール群(R-コントロール、L-コントロール;図1aおよび2a)の病変を差し引いた。
●この方法は、プッシャー症候群の患者で一般的に損傷を受けコントロール患者(陽性値としてコード化されている)では温存される領域があることを画像で示しているが、それと同様にコントロール患者で特異的に損傷を受けた領域がプッシャー患者では温存されていることも併せて示している(陰性値としてコード化されている)
●サブトラクション画像は、肯定的な値を強調するために橙色の漸進的に明るい色調を使用し、負の値を示すために青色の徐々に明るい色合いを使用する(図) (図)Johannsen L et al:2006?PubMedへ
結 果
●プッシャー症候群の病変の重複は右側・左側の2群間で同等であった。
●左右それぞれの片麻痺のプッシャー患者の病変の重なりの中心は島皮質後部、中心後回、白質周辺に及んでいた。
●contraversive pushing伴う患者は一般的に皮質に損傷を受けているが、典型的にはプッシング行動を示さない患者では皮質が損傷を受けていない。
●我々は、左島皮質後部および上側頭回、左下頭頂小葉、右中心後回にとても小さな領域を見つけた。それらは一致させたコントロール群を差し引いたときのプッシャー患者に特異的にみられた
考 察
●どちらの半球においても、プッシャー患者の単純な病変の重なりは、島皮質と中心後回の中心に位置しており、これらの皮質構造の一部は、身体の向きの知覚および制御に関与しているようである。マカクザルの解剖学的所見では、視床後部と本研究で同定された皮質基質との間の直接的な関係が立証された。
●後外側腹側核および後内側核に生じた視床皮質軸索は、中心後回の一次体性感覚皮質(Brodmann area 3a、3b、1および2)、頭頂弁蓋部の二次体性感知性皮質、および島に投射する。
●視床損傷のないプッシャー患者と(本研究では21症例しかいなかった)、対照との間の信頼できる皮質レベルの解剖学的相違を得るために、より多くの患者が必要な可能性がある。
●Mittelstaedt は、体幹の重力受容器から脳に情報を伝達する2つの求心性感覚経路を仮定した。第1は腎臓の神経で、これは腎臓に位置する機械受容器からの情報を伝達すると想定されるめ、腎臓は重力垂直の方向を示す耳石のように機能している可能性がある。
●第2は、迷走神経で、体幹の大血管の血液分布に関する情報を中継することが示唆されたが、これは重力による体の方向付けに影響しているかもしれない。
●Vaitl らは、健康な被験者の下半身に陰圧及び陽圧(LBNP / LBPP)をかけ、体内の体液分布を変化させることによってこの後者の可能性を試験した。実際、LBNPはヘッドアップしている体の傾きの主観的知覚をもたらし、LBPPは明らかなヘッドダウンの体の傾きの感覚を誘発した。
●猫において、腎臓の神経の刺激は、視床の腹側後外側核、背側部および後外側部複合体周辺にある神経の反応において生じ、これらの部位が腎臓からの求心情報を処理することが示された。ヒトでは、機能的画像技術において、てんかん患者の迷走神経の刺激が、他の脳領域のうち視床、島皮質および中心後回の神経活動に影響を及ぼすことを示している。
●下肢からの固有感覚入力は、姿勢の知覚と制御に体幹の重力受容器の出力の実行または調整によって、ごく間接的に影響する事が見出された。
●視床の後部、島の皮質、そして中心後回の間の近接する解剖学的なつながりのために 、そのような障害は、視床皮質と皮質視床の両方またはいずれか一方の直立の身体姿勢の制御に関連する処理過程の変更または機能的な変化をもたらす可能性がある。
私見・明日への臨床アイデア
●臥位から身体を起こすことで、下肢へ血液が流入し、迷走神経を通じて主観的身体の垂直軸の知覚を援助できる可能性がある。
●腹部の内圧を高める等腎臓の重力受容器を刺激することで、主観的身体の垂直軸の知覚を援助できる可能性がある。
●視床後部、中心後回、島のネットワークはいずれかが損傷した場合に相互補完的に機能する可能性がある.
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
臨床後記:更新日2021/3/5
●身体の垂直性の知覚には視空間認知・前庭系・固有感覚・筋出力の左右差はじめ様々な要因が混在する。前庭系など過活動になる部分の抑制や知覚できている部分を軸に苦手部分の促通と整理して介入する必要がある。要因が混在している場合は、身体部位をハンドリングや環境設定で補償するなど課題難易度を下げて本人の能力に合わせる必要がある。
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参考論文
・Karnath HO et al :Posterior thalamic hemorrhage induces “pusher syndrome”. Neurology. 2005
・Paci M et al:Pusher behaviour: a critical review of controversial issues. Disability and rehabilitation. 2009
・Babyar SR, Peterson MG, Bohannon R, Pérennou D, Reding M. Clinical examination tools for lateropulsion or pusher syndrome following stroke: a systematic review of the literature. Clin Rehabil. 2009
・Gustavo José:Crossed Leg Sign Is Associated With Severity of Unilateral Spatial Neglect After Stroke,Front Neurol. 2018
・Karnath HO and Broetz D. Understanding and Treating “Pusher Syndrome. Physical Therapy. 2003
・physiopedia:pusher syndrome
・Santos-Pontelli TEG et al,Persistent pusher behavior after a stroke. Clinics (Sao Paulo). 2011
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)