vol.91:脳卒中(脳梗塞)片麻痺後の疲労の原因とは? 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
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カテゴリー
脳科学系
タイトル
脳卒中(脳梗塞)片麻痺後の疲労の原因とは?Post-stroke fatigue: epidemiology, clinical characteristics and treatment.Acciarresi M et al.(2014)?Pubmedへ
はじめに
●脳卒中後疲労は「 早期疲労感、倦怠感、エネルギー不足、身体的または精神的な活動への嫌悪感など症状があり、通常休息によって改善されないものである。」と言われています。
2人の著者が多くの脳卒中後疲労の論文サマリを読んで興味深いと思われる内容をまとめたものです。
有病率
●脳卒中後疲労の発症頻度は、29%〜77%の範囲です。Christensenらは脳卒中の発症後、それぞれ10日、3ヶ月、1年および2年で、脳卒中患者の59,44,38および40%において病的な疲労を報告しました。
脳卒中後疲労の評価スケール
●脳卒中後疲労を測定するためのスケールは特に開発されていません。Fatigue severity scale(FSS)は その高い内的整合性のために脳卒中研究において最も頻繁に使用されます。その他疲労尺度が多々使用されている。
脳卒中発症回数と疲労
●研究では、脳卒中の回数と疲労の関係が報告され、再発性脳卒中を有する患者と比較して、初発の脳卒中を有する患者の疲労の割合が低いことが報告されている。
発症部位と疲労
●Tangらは脳卒中後疲労は、基底核およびMRI上で検出された内包の急性の梗塞と関連すると報告したが、Snaphaanらは、脳卒中後疲労はCTまたはMRIで検出されたテント下病変を有する患者においてより一般的であることを確認した。
●いく人かの著者は、脳幹における上行する網様賦活系への損傷が、覚醒の軽度障害、注意の変化や脳卒中後疲労の進展に関わっていると考えているが、他の研究者は、脳幹におけるセロトニン作動性経路の途絶が、脳卒中後の潜在的疲労メカニズムであると考えている。
●Naessら 虚血性または出血性脳卒中を有する患者において、CT上の白質希薄化の存在が脳卒中後疲労と独立して関連していることを報告している。
運動と疲労
●機能的な神経イメージング研究では、身体活動が前頭前野および島と前帯状皮質の活性化と関連していることが報告されている。これらの領域は、脳卒中後の疲労の発症に関与している。したがって、前頭前野回路を作動させることによる身体活動は、注意を改善し、それ故疲労を軽減することができるかもしれない。
●運動が、脳卒中後疲労を改善することができる複数の根底にあるメカニズムがある。運動は交感神経系を活性化することによって運動が脳血流を増加させる一方、神経伝達物質の機能を変化させると考えられ、それらが疲労の改善を果たす役割にがあることが提案がされている。
●段階的な身体活動プログラムが、苦痛を伴う症状を悪化させることなく体力を徐々に増加させるために推奨されている。 12週間にわたる段階的な活動訓練プログラムと認知療法が認知療法単独と比較して、脳卒中後疲労を大幅に改善させることが示された。この減少は6カ月後のフォローアップでも安定していると報告されている。
うつ病と疲労
●うつ病と脳卒中後の疲労との間には強い関係があるとされており、実際に疲労の存在がうつ病の基準の1つとなっている。さらに、うつ病は、脳卒中後疲労に関連した最も重要な付随する脳卒中後症状の1つと考えられ、それらを独立した状態として区別することは困難である。しかし、脳卒中後疲労はうつがない場合にも起こり、うつ病と脳卒中後疲労とが無関係である方もいる。 Van der Werf らは、重度の脳卒中後疲労の患者のうちうつ病の患者はわずか38%であると報告した。
性差と疲労
●脳卒中後疲労に関するいくつかの研究は、女性の割合が高いことを報告している。 しかし、いくつかの研究者は、性別間に差はないと示唆している。この性格差は、内分泌系およびストレス関連因子によって説明することができる。
疲労は多次元症状
●脳卒中後疲労は多次元的症状であり、いくつかの因子を有する可能性がある。現在、脳卒中後の疲労をうまく予防し、治療することができるエビデンスベースの介入はありません。 しかし、疲労を緩和するために、薬理学的、物理的および心理的治療が用いられる。さらに、環境提案も利益をもたらすことができる。物理的側面と認知的側面の両方を対象とする多分野アプローチが必要である。
薬と疲労
●抗うつ薬やカウンセリングは疲労の精神的側面に対処することができる。フルオキセチン(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は脳卒中後の疲労に対して効果がなかったが、うつ症状を減少させるようである。これはセロトニン作動系の機能不全は脳卒中後の疲労の潜在的なメカニズムではないことを示唆している。
睡眠障害と疲労
●睡眠障害は、研究で報告されているように、脳卒中後疲労の共存症状である。これらの患者のうちのいくつかでは、睡眠時無呼吸が診断されている。しかし、睡眠呼吸障害の改善は、症候性の睡眠時無呼吸症候群を伴わない限り、脳卒中後の疲労 を軽減するのに有効ではないようである。
痛みと疲労
●痛みの治療は、活動への参加に繋がり、痛みに関連する気分障害を改善するため患者を助けることができる。
環境改善と疲労
●疲労を改善するための環境提案には、換気をし新鮮な空気を取り入れる、院内施設であれば家庭のような環境を作る、テレビやインターネットなど個人にとって良い環境を作る、その他、文書活動などのコミュニケーション手段へのアクセスが含まれます。
私見・明日への臨床アイデア
•前頭前野を鍛えるというキーワードが文献上に上がっている。運動すると、脳由来神経栄養因子(BDNF)という物質が脳の中でさかんに分泌されます。有酸素運動は一つの手段かもしれません。運動により、脳の認知能力の強化も明らかになってきています。運動と合わせて、認知課題(記憶・思考系など)を取り組むこともより効果的ではないかと文献上から見ても考えられる。また、栄養も併せて必要と思われる。
臨床後記:2021/2/23
●脳卒中後の疲労感は様々な原因が予測できる。しかし、基礎体力低下をほとんどの方が生じていることは目を離してはいけないと思う。入院しているだけでも体力低下を生じる可能性もある。基礎体力作り、自身の身体を十分にコントロールできるようにしていくことは基本で有り、それあっての他の問題への対処が大事だと思う。
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)