【2026年版】ウェルニッケ失語と上側頭回の関係:聴覚と言語理解のリハビリ戦略!
上側頭回の損傷で「声が届かない」—その理由と、回復への道筋。
「話しかけても、通じていない気がする」—そのもどかしさは、上側頭回(STG)という脳の部位の損傷によるものかもしれません。言葉は聞こえていても、意味がつかめない。この記事では、上側頭回の役割・損傷後の症状・回復の可能性を、ご家族にもわかりやすくお伝えします。
— 上側頭回(STG)の役割と、言語・聴覚障害に対するリハビリのポイントをSTROKE LAB代表が解説します。
続きをお読みください。
こんなお悩みはありませんか?
脳卒中(のうそっちゅう)の後、ご家族との会話が「なんとなくすれ違う」と感じていませんか。
言葉は出てくる。でも内容が噛み合わない。指示しても違う動きをする。音には反応するのに、何の音かわからないようだ——。
これらの症状は、「上側頭回(じょうそくとうかい)」という脳の部位の損傷によって起きていることがあります。
ご本人が意地悪をしているわけでも、努力が足りないわけでもありません。脳の損傷がそうさせているのです。まずその仕組みを知ることから始めましょう。
上側頭回とは。
上側頭回(STG:Superior Temporal Gyrus)は、側頭葉(そくとうよう:耳のあたりにある脳の部位)の上部に位置する脳のひだです。外側溝(シルビウス裂)と上側頭溝の間にあり、聴覚・言語理解・社会的認知の3つを担う「コミュニケーションの要(かなめ)」とも言える場所です。
私たちが言葉を「理解する」ためには、まず音を聞き取り(聴覚)、次にその音を言葉の意味に変換する(言語理解)という2段階が必要です。
上側頭回はこの変換作業の中枢です。ここが損傷されると、聴力に問題がなくても、言葉の意味がつかめなくなります。
上側頭回の3つの主要機能。
一次聴覚野(ヘシュル回)から届いた音声情報をさらに高度に処理します。音のピッチ・音量・位置の特定など、聴こえた音が「何であるか」を識別するはたらきを担います。
STGの後部(とくに左半球)はウェルニッケ野(言語理解の中枢)の一部です。ブローカ野(言語産生の中枢)と連携し、音声を言語の意味へ変換します。
「心の理論(他者の意図・感情を推測する能力)」にも関わります。側頭頭頂接合部や前頭前皮質と連携し、相手の表情・声のトーン・意図を読み取る処理を担います。
血管支配:主に中大脳動脈(MCA)の上側頭枝。後大脳動脈(PCA)との吻合も見られ、STG後部では補完的な血流を提供します。
ブロードマン領域:領域22(STG後部、音声処理)・領域39・40(縁上回・角回:言語理解を補完)。
画像読影のポイント:外側溝(シルビウス裂)をランドマークに同定。上側頭溝がSTGと中側頭回(MTG)を分けます。ヘシュル回は外側溝内部の横走する短い回として確認できます。個人差・左右差に注意が必要です。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは、脳科学と徒手技術に特化した専門家が、ご本人・ご家族の状況をていねいにお伺いします。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
なぜ「言葉が届かない」のか。
たとえば、見たことのない文字(ハングルや Arabic 文字)が目の前に並んでいるとき、「文字が見えている」のに「読めない」状態に近いです。
上側頭回の損傷は、これを「音声」で起こします。耳から音は届いているのに、それが言葉として変換されない——。ご本人は決してサボっているわけではありません。
損傷によって起こりやすい3つの症状。
上側頭回が損傷されると、以下の症状が現れることがあります。
言葉は流暢に出るが意味をなさない「言葉のサラダ」状態や、相手の言葉が理解できない状態。ウェルニッケ野(左上側頭回後部)の損傷が主な原因です。
聴力は正常なのに、電話の音・チャイムの音・環境音が「何の音か」わからない状態。STGの聴覚処理機能の損傷が原因で起こります。
相手の表情・声のトーン・意図が読み取りにくくなる状態。STGは「心の理論」にも関わるため、対人コミュニケーション全体に影響が出ることがあります。
3大ネットワーク:①聴覚処理ネットワーク(ヘシュル回→STG)、②言語ネットワーク(ウェルニッケ野↔ブローカ野)、③社会的認知ネットワーク(STG↔側頭頭頂接合部↔前頭前皮質)。
右半球の役割:口調・文脈・ユーモア・比喩・皮肉などの高次言語処理を担います。左半球損傷後、右半球がSTG機能を補完する神経可塑性が報告されています(とくに若年層・広範損傷例)。
非優位半球失語症:右半球損傷によっても、韻律・談話構造・感情的言語側面に影響が出ます。左利き・両利きでは右半球の言語優位性が高い場合があります。
他の失語症との違い。
失語症(しつごしょう)にはいくつかの種類があります。上側頭回の損傷によるウェルニッケ失語は、他の失語症と異なる特徴を持っています。
| 比較項目 | ウェルニッケ失語(STG損傷) | ブローカ失語(前頭葉損傷) |
|---|---|---|
| 発話の流暢さ | 流暢(言葉はよく出るが意味が通じない) | 非流暢(言葉が出にくい・途切れる) |
| 言語理解 | 著しく低下(指示が理解できない) | 比較的保たれる |
| ご家族の印象 | 「話しているのに噛み合わない」 | 「話したいのに言葉が出ない」 |
| 損傷部位 | 左上側頭回後部(ウェルニッケ野) | 左下前頭回後部(ブローカ野) |
評価のポイント。
専門職がSTG損傷を評価するとき、日常生活の中で以下のような場面を観察します。ご家族も一緒に確認してみてください。
ご家族による観察は貴重な情報源です。しかし、正式な評価・診断は言語聴覚士(ST:スピーチセラピスト)などの専門家が行います。気になることがあれば、主治医や担当セラピストにお伝えください。
回復への道のり。
上側頭回の機能は、脳の神経可塑性(かそせい:脳が別の回路で機能を補う力)によって、段階的に回復することが期待されます。リハビリの基本的な流れをご紹介します。
シンプルな音声指示(「座ってください」など)から始め、徐々に複雑な指示へ移行します。聴覚野の神経可塑性を引き出す段階的な取り組みです。
さまざまな方向から名前を呼び、音源の方向を識別する練習です。ドアベルや電話など、環境音の識別も組み合わせることで、生活場面への応用力を高めます。
「今日のご飯はどうでしたか?」など、日常的な話題での会話練習。ジェスチャーや視覚的補助を組み合わせることで、理解の手がかりを増やします。
視覚的手がかり(顔の表情・ジェスチャー)と聴覚情報を組み合わせ、コミュニケーション全体の理解力を高める訓練です。テレビ視聴を活用することも有効です。

STROKE LABでは、脳科学に基づいた専門的アプローチで言語・聴覚リハビリをサポートします。退院後の継続リハビリとして、ぜひご相談ください。
ご家族ができるサポート。
コミュニケーションを助ける5つのコツ。
声かけの例(モデルトーク)。
「こっち向いて(ジェスチャーで示す)。ごはん、食べようか?」
「ゆっくりでいいよ。わかったら、うん、って言ってね。」
「今のは右手だね。そう、そう!上手にできたよ。」
やってはいけない対応との比較。
| 場面 | 推奨する対応 | 避けたい対応 |
|---|---|---|
| 指示が通じないとき | ジェスチャーで補い、再度短く伝える | 同じ言葉を大声で繰り返す |
| 返答がズレているとき | 「そうか、○○のことかな?」と補足する | 「違う!」と強く否定する |
在宅復帰と公的支援制度。
言語・聴覚障害を抱えて在宅へ戻るとき、コミュニケーション環境の整備と公的支援の活用が重要です。
在宅復帰チェックリスト。
主な公的支援制度。
| 制度名 | 主な内容 | 窓口 |
|---|---|---|
| 身体障害者手帳 | 言語機能障害による取得が可能。各種サービスの基礎になります。 | 市区町村の福祉窓口 |
| 自立支援医療 | リハビリ医療費の自己負担を原則1割に軽減。 | 市区町村・医療機関 |
| 介護保険サービス | 訪問リハビリ・通所リハビリ(デイケア)などの利用が可能。 | ケアマネジャー |
| 障害福祉サービス | 居宅介護(ヘルパー)・就労支援・生活訓練など。 | 市区町村・相談支援専門員 |
| 高額療養費制度 | 月の医療費が一定額を超えた場合に払い戻しが受けられます。 | 加入している健康保険 |
回復までの期間と予後。
「どのくらいで話が通じるようになりますか?」—これはご家族からもっともよく聞かれる質問です。回復の速度は個人差が大きく、断言はできません。しかし、希望を持てる事実があります。
一般的に脳卒中後のリハビリは「発症後6か月が重要な時期」と言われます。しかし言語・聴覚機能については、その後も改善が続くことが多くの研究で示されています。
脳の右半球が言語機能を補完する神経可塑性は、発症後1〜2年以上にわたって働き続けることがあります。継続的なリハビリが、この可塑性を最大限に引き出す鍵となります。
よくあるご質問。
代表的な症状は「ウェルニッケ失語(言葉の意味がつかめなくなる失語症)」と「聴覚失認(聞こえているのに音の正体がわからない状態)」です。
また、音がどこから来るかわからなくなる音源定位の困難や、相手の表情・意図が読み取りにくくなる社会的認知の低下も見られます。
一般的な失語症は「話せなくなる」ブローカ失語が知られています。ウェルニッケ失語は逆で、言葉はよく出るのに意味のある文章にならず、相手の言葉も理解しにくくなります。
「言葉のサラダ」と呼ばれる状態で、ご家族には「話しているのに噛み合わない」と映ることが多いです。
脳の神経可塑性(脳が別の領域で機能を補う力)により、回復は十分に期待できます。特に左半球が損傷された場合、右半球が言語機能を補完するケースが知られています。
発症後早期からの継続的なリハビリが、回復の鍵を握ります。
短い文・ゆっくりした口調・ジェスチャーの活用が有効です。「手を挙げてください」のようなシンプルな一文から始め、理解できたときには笑顔で反応してあげてください。
「わかってほしい」という気持ちが伝わることが、回復意欲につながります。
はい。言語・聴覚機能の回復は6か月を過ぎても継続する例が多く、発症後1〜2年以上にわたって改善が見られるケースもあります。
保険リハビリの日数に限りがある場合は、自費リハビリや言語聴覚士への定期的な相談も有効な選択肢です。
身体障害者手帳(言語機能障害)の取得により、自立支援医療(リハビリ費用の自己負担軽減)や障害福祉サービス(ヘルパー派遣・就労支援など)を利用できます。
介護認定を受けていれば介護保険サービスも活用可能です。担当のソーシャルワーカーや市区町村の窓口にご相談ください。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳科学と徒手技術(てずわざ:手で直接身体に働きかける技術)に特化した、脳神経系専門の自費リハビリ施設です。上側頭回の損傷による言語・聴覚・社会的認知の障害に対して、脳科学的エビデンスに基づくプログラムを提供します。
— STROKE LABでのリハビリの実際の様子です。

「最初は夫が何を言っているかわかるのに、まったく通じないのがつらくて。でも『短い言葉でゆっくり』を心がけたら、少しずつ目が合うようになって。今は笑えるようになりました。」— 60代女性・ウェルニッケ失語を抱えるご夫君の配偶者・発症後8か月
「電話の音にも反応しなかった父が、ドアチャイムに顔を向けるようになったとき、本当に嬉しかった。小さなことでも、変化がわかると諦めないでいられます。」— 30代男性・脳梗塞後の聴覚失認を抱える父を持つご子息・発症後6か月
あわせて読みたい:STROKE LABの脳卒中リハビリテーションを詳細に解説
諦めないでください。

「話しかけても届かない」「会話が噛み合わない」——この言葉にご家族の疲労と悲しみが滲んでいます。上側頭回の損傷は、本人が努力していないのではありません。脳がそうさせているのです。
脳には神経可塑性という「変わる力」があります。適切な刺激と継続的なリハビリが、その力を引き出します。STROKE LABでは、一人ひとりの脳の状態に合わせた専門的なアプローチで、ご本人とご家族を支えます。
「もう遅い」なんてことはありません。まずは無料相談からでも、ぜひ話を聞かせてください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)