【完全解説】ボルグスケール(Borg Scale)評価基準とリハビリ活用|RPE・CR10・中止基準を網羅 – STROKE LAB 東京/大阪 自費リハビリ | 脳卒中/神経系
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【完全解説】ボルグスケール(Borg Scale)評価基準とリハビリ活用|RPE・CR10・中止基準を網羅

今回は、リハビリテーション・運動療法・スポーツ医学の現場で世界中に普及しているボルグスケール(Borg Scale)について、開発背景から2種類のスケール(RPE 6-20・CR10 0-10)の正式採点基準・臨床応用・心肺リハビリにおける目標強度・リハビリ中止基準・最新エビデンスまで徹底解説します。「6-20スケールと0-10スケールはどう使い分ける?」「心不全や脳卒中後リハビリでの目標ボルグ値は?」「中止すべきタイミングの判断基準は?」という臨床現場のリアルな疑問にもすべて答えます。

ボルグスケールの使い方・運動強度の評価方法を動画で確認できます。

ボルグスケール(Borg Scale)は、運動・作業中の主観的な労作強度(RPE:Rating of Perceived Exertion)を数値化するために、スウェーデンの心理学者グンナー・ボルグ(Gunnar Borg)が開発した評価ツールです。特殊な機器を使わず患者自身が即座に評価できる点が最大の強みであり、心臓リハビリテーション・呼吸器リハビリテーション・神経疾患リハビリテーション・スポーツトレーニングまで幅広く使用されます。主に「6-20スケール(RPE)」「0-10スケール(CR10)」の2種類があり、6-20スケールの数値は安静時〜最大運動時の心拍数(60〜200拍/分)に対応するよう設計されています。心拍数モニタリングが困難な場面での代替指標として、また患者の自覚症状と客観的指標を橋渡しする「主観的バロメーター」として臨床家には必須のスケールです。

📊 ボルグスケール:臨床家が必ず知っておくべき数字と事実

  • 開発者・年:グンナー・ボルグ(Gunnar Borg)博士(スウェーデン・ストックホルム大学)。6-20スケールは1970年(Borg, Scand J Rehabil Med, 1970)に原著発表、CR10スケールは1982年(Borg, Med Sci Sports Exerc, 1982)に発表
  • 2種類のスケール:①RPE(Rating of Perceived Exertion)6-20スケール ― 運動生理学・心臓リハビリに最適 ②CR10(Category Ratio 10)0-10スケール ― 臨床リハビリ・呼吸困難評価に最適
  • 6-20スケールの設計思想:数値×10≒心拍数(例:RPE 15 ≒ 心拍数 150拍/分)。安静時6から最大努力20まで。心拍数を直接測れない場面での代替指標として設計
  • 心臓リハビリの目標値(RPE):安定した心疾患ではRPE 11〜13点(やや楽〜ややきつい)が国際的推奨(AHA/JCS)。回復期は13〜14点まで許容
  • COPD・呼吸器リハビリの目標値(CR10):CR10 4〜6点(やや強い〜強い呼吸困難)を運動強度の目標に設定するのが一般的(ATS/ERS推奨)
  • 脳卒中後リハビリでの活用:有酸素性トレーニング(トレッドミル歩行・エルゴメーター)中に使用。目標RPE 11〜14点。疲労・不整脈の早期検出に有用
  • 信頼性・妥当性:6-20スケールのVO₂との相関 r=0.80〜0.90(Borg 1982)。心拍数との相関 r=0.70〜0.85。CR10スケールのVO₂相関 r=0.72〜0.88(Chen et al. 2002)。両スケールともに高い妥当性が確認されている
  • リハビリ中止の絶対基準:RPE 19〜20点・心拍数 140回/分超・収縮期血圧 40mmHg以上の上昇・酸素飽和度(SpO₂)90%以下・胸痛・意識状態悪化のいずれかで即時中止
  • 評価に必要なもの:ボルグスケール評価用紙(患者が見やすいサイズで印刷)のみ。特殊器具不要。患者への説明が評価精度の鍵
  • 評価の大原則:初回評価前に必ず「スケールの使い方の説明(アンカー設定)」を行う。「6は完全安静・20は限界の全力」という両端の感覚をしっかり教育する

ボルグスケールとは ― 開発背景・目的・2種類の違い

ボルグスケール(Borg Scale)は、スウェーデンの運動心理学者グンナー・ボルグ(Gunnar Borg)博士(ストックホルム大学)によって開発された、運動中の主観的労作強度(RPE:Rating of Perceived Exertion)を定量化するツールです。1970年に「6-20スケール(RPEスケール)」の原著(Scand J Rehabil Med)が発表され、その後1982年に比率特性を持つ「CR10スケール(0-10スケール)」が追加発表(Med Sci Sports Exerc)されました。

🔬 ボルグスケールが生まれた背景

当時の運動生理学では、運動強度の評価はもっぱら心拍数・酸素摂取量(VO₂)などの客観的指標に依存していました。しかしボルグ博士は「人が運動中に感じる”きつさ”は、心拍数・呼吸・筋肉への乳酸蓄積など複数の生理学的信号が統合された総合感覚である」という仮説を立て、この主観的感覚を数値化できれば、高価な機器なしでも運動強度を定量評価できると考えました。

6-20スケールの数値範囲は、安静時心拍数60拍/分〜最大努力時心拍数200拍/分に対応するよう意図的に設計されました(数値×10≒心拍数)。これにより、特殊機器なしでも心拍数の代理指標として機能します。

現在ではスポーツトレーニング・心臓リハビリ・呼吸器リハビリ・神経疾患リハビリ・産業保健・ペインクリニックまで幅広く応用されています。

2種類のボルグスケール ― 特徴と使い分け

比較項目 RPEスケール(6-20) CR10スケール(0-10)
スコア範囲 6〜20点(15段階) 0〜10点(11段階+小数可)
開発年 1970年代 1982年
尺度の性質 間隔尺度(線形) 比率尺度(非線形・比例特性あり)
心拍数との対応 ✅ スコア×10≒心拍数(60〜200bpm) △ 直接対応なし
主な使用場面 運動生理学・心臓リハビリ・スポーツ科学 臨床リハビリ・呼吸困難評価・疼痛評価
患者への説明 やや煩雑(6-20の範囲に慣れが必要) ✅ 直感的(0=ゼロ・10=最大)
妥当性(VO₂との相関) r=0.80〜0.90(Borg 1982) r=0.72〜0.88(Chen et al. 2002)
COPD呼吸困難評価 △ 使用可能だが感度低め ✅ 推奨(ATS/ERS 2002)
脳卒中後リハビリ ✅ 推奨(有酸素性運動指導に適合) ✅ 簡便性で好まれる

6-20スケール(RPE):採点基準と心拍数との対応

🔑 6-20スケールの設計原則:「スコア×10≒心拍数」

6-20スケールは、スコアに10を掛けると概ねその時の心拍数に対応するよう設計されています。例えばRPE 15点 ≒ 心拍数150拍/分。ただしこれは健康な若年成人を基準とした目安であり、高齢者・心疾患患者・薬剤(β遮断薬など)使用者では心拍数とスコアの対応がずれることに注意が必要です。

特にβ遮断薬を内服している患者では運動中の心拍数上昇が抑制されるため、「心拍数ではなくRPE(ボルグスケール)を運動強度の主要モニタリング指標として使用する」ことが国際的なガイドライン(AHA・JCS)で推奨されています。

6-20スケール:全段階の採点基準

6〜7
非常に楽
9〜10
軽い
11〜12
ややきつい
13〜14
きつい
15〜16
非常にきつい
17〜20
最大
6-7 9-10 11-12 13-14 15-16 17-20
6〜7非常に楽(Very, very light)
安静・ベッド上座位・非常にゆっくりした歩行
心拍 60〜70
8〜9非常に軽い(Very light)
ゆっくりした歩行。ほとんど努力感なし
心拍 80〜90
10〜11楽〜やや楽(Light)
普通のペースの歩行。会話が十分できる
心拍 100〜110
12〜13ややきつい(Somewhat hard)
少し息が上がる。会話はできる。心臓リハビリの代表的目標値
心拍 120〜130
14〜15きつい(Hard)
明確に息苦しい。会話が困難になり始める。回復期リハビリの上限目安
心拍 140〜150
16〜17非常にきつい(Very hard)
かなりつらい。短文しか話せない。アスリートの高強度トレーニング域
心拍 160〜170
18〜20最大努力(Very, very hard / Max)
これ以上は不可能。呼吸困難・下肢の燃えるような疲労。即時中止を検討
心拍 180〜200+
✅ 心臓リハビリでの目標RPE:11〜13点(Karvonen法の中等度運動に相当)
安定した心疾患(心不全・心筋梗塞後・心臓弁膜症術後)の運動療法では、RPE 11〜13点(「やや楽」〜「ややきつい」)を目標強度とすることが日本心臓リハビリテーション学会・AHAガイドラインで推奨されています。β遮断薬内服中は心拍数ではなくRPEを主要指標としてください。
疾患・場面 推奨RPE目標値 根拠・目安
心不全・安定期(NYHA I〜II) 11〜13点 AHA/AACVPR 2007 ガイドライン
心筋梗塞後早期リハビリ(Phase I) 11〜12点 日本心臓リハ学会ガイドライン
心筋梗塞後回復期リハビリ(Phase II) 12〜14点 日本心臓リハ学会ガイドライン
COPD(中等度〜重度) 12〜14点 ATS/ERS 2013 肺リハビリ声明
脳卒中後有酸素性運動 11〜14点 AHA/ASA Stroke 2014
パーキンソン病運動療法 11〜13点 Keus et al. 2014
健康な成人の有酸素運動 13〜15点 ACSM 運動処方ガイドライン
高齢者の運動療法 11〜13点 ACSM 高齢者ガイドライン

0-10スケール(CR10):採点基準と臨床的意味

CR10スケール(Category Ratio 10 Scale)は、1982年にボルグ博士が「比率特性」を持たせて再設計したスケールです。6-20スケールが線形間隔尺度であるのに対し、CR10は比率尺度(ratio scale)の特性を持ち、「0は本当に何も感じない状態」「10は今まで経験した中で最大の感覚」という直感的な基準点を持ちます。特に呼吸困難の評価(Dyspnea Scale)として広く採用されており、COPD・間質性肺疾患・心不全などの呼吸リハビリで使われます。

0
なし
1〜2
非常に軽い
3〜4
軽い〜やや強い
5〜6
強い
7〜10
非常に強い〜最大
点数 感覚の対応(CR10公式表現)
0 全く感じない(Nothing at all) ― 安静臥位と同じ。呼吸も筋肉もまったく努力感なし
0.5 極めて弱い(Extremely weak / Just noticeable) ― かすかに感じる程度。原著での追加ランク
1 非常に弱い(Very weak) ― ごく軽い運動。会話に全く支障なし
2 弱い・軽い(Weak / Light) ― 軽い歩行。楽に会話できる
3 やや強い(Moderate) ― ブリスクウォーキング。会話可能だがやや努力感あり
4 中程度(Somewhat strong) ― 息が上がり始める。文章での会話がやや困難
5 強い(Strong / Heavy) ― 明確な呼吸困難。単語のみの会話。COPDリハビリの目標上限目安
6 強い〜非常に強い(Strong〜Very strong)
7 非常に強い(Very strong) ― つらい。会話ほぼ不可
8 非常に強い〜最大(Very strong〜Maximum)
9 非常に非常に強い(Very, very strong / Almost max)
10 最大(Maximum / Absolute maximum) ― これ以上は絶対に無理。これまで経験した最大の強度

💡 CR10スケールを使う際の「アンカー設定」が精度を左右する

CR10スケールは「10=今まで経験した最大の感覚(absolute maximum)」という個人的なアンカー(基準点)が精度の鍵です。初回評価時に必ず「10点は今まで生きてきた中で感じた最も激しい呼吸困難・疲労感のことです。それを基準に今の状態を教えてください」と説明します。アンカーを適切に設定しないと過小評価・過大評価の原因になります。

呼吸困難評価(Dyspnea)としての使用:ATS/ERS(2013年肺リハビリ声明)では、COPDの運動負荷試験・6分間歩行試験(6MWT)前後のdyspnea評価にCR10スケールの使用を推奨しています。運動誘発性の呼吸困難がCR10で4〜6点(moderate〜strong)の範囲で維持されるよう運動強度を調整します。

疾患別の臨床応用と目標強度

1

慢性閉塞性肺疾患(COPD)― 呼吸困難の定量化と運動療法

推奨スケールCR10スケール(呼吸困難評価)
目標値CR10:4〜6点(やや強い〜強い呼吸困難)
使用タイミング運動前・運動中5分毎・運動後の変化を記録
根拠ATS/ERS 2013 肺リハビリ声明

💡 COPDでのボルグスケール活用のポイント

COPD患者は運動中の呼吸困難(dyspnea)と下肢疲労(leg fatigue)の両方を感じます。CR10スケールで「呼吸のきつさ」と「脚の疲労感」を別々に評価(デュアルRPE)することで、呼吸制限型(CR10の呼吸スコアが先に上昇)か筋制限型(脚疲労が先行)かを鑑別できます。これはリハビリの介入点(呼吸訓練 vs. 筋力トレーニング)を決定するうえで非常に重要な情報です。

6分間歩行試験(6MWT)の開始前・終了直後にCR10スケールで評価を記録し、歩行距離との関係を継時的にモニタリングします。同じCR10値でより長い距離を歩けるようになれば「運動耐容能の改善」の指標になります。

中止基準(CR10):CR10が8以上(非常にきつい)に達した場合、または急速に悪化した場合は運動を中断し、SpO₂・脈拍を測定してください。

💬 評価の流れ(例)
療法士:「6分間歩行を始める前に、今の呼吸のきつさを0〜10で教えてください。0は全く楽、10は今まで経験した最大の息苦しさです。」
患者:「今は1くらいです。少し歩くと上がるかも…。」
(歩行終了直後)「呼吸は5、脚は4です。」
採点・記録:呼吸困難CR10:1(安静)→ 5(6MWT後)。適切な運動強度範囲内。

2

心不全・心筋梗塞後リハビリテーション ― RPEによる安全な運動強度管理

推奨スケールRPE 6-20スケール(心拍数代替として)
早期リハビリ目標RPE 11〜12点(Phase I)
回復期目標RPE 12〜14点(Phase II)
β遮断薬内服中RPEを主要指標に(心拍数は信頼性低下)

💡 心臓リハビリでのボルグスケール活用のポイント

β遮断薬(カルベジロール・ビソプロロール等)内服中の患者では、交感神経β₁受容体の遮断により運動中の心拍数上昇が抑制されます。このため「心拍数150拍/分を超えたら中止」という基準が適用しにくくなります。このような場合、RPEを主要な強度指標として用い「RPE 13〜14点以上は維持しない」という主観的基準でモニタリングすることが推奨されます(日本心臓リハビリテーション学会・AHA)。

心筋梗塞後早期(入院Phase I)では、移動・ADL動作レベルでRPE 11〜12点を目標とします。退院前後(Phase II外来)では、スロートレッドミル歩行・エルゴメーターなどの有酸素運動でRPE 12〜14点が目標です。

NYHA III以上の重症心不全では、運動負荷試験の結果とRPEを組み合わせた個別化処方が必要です。RPEのみでの判断は不十分であり、症状(胸痛・息切れ・めまい)の出現を最優先の中止基準とします。

3

脳卒中後リハビリテーション ― 有酸素性運動の強度管理

推奨スケールRPE 6-20スケール または CR10
目標値RPE 11〜14点(中等度有酸素性運動)
注意事項失語症・認知障害がある場合はスケール理解に配慮
根拠AHA/ASA Stroke 2014 リハビリ声明

💡 脳卒中後リハビリでのボルグスケール活用のポイント

AHA/ASA(2014年脳卒中後リハビリテーション声明)では、脳卒中後患者に対する有酸素性運動(トレッドミル歩行・エルゴメーター・水中療法)において、RPE 11〜14点を目標強度とすることが推奨されています。これは最大酸素摂取量(VO₂max)の約40〜70%に相当します。

失語症患者への配慮:言語表現が困難な場合は、スケールを大きく印刷して視覚的に指差し回答できる形式にするか、CR10スケールの絵付き版(顔の表情等でイラスト化されたもの)を活用します。数字での回答が難しい場合は「楽・ふつう・きつい」の3段階簡易版で代用することも実用的です。

半側空間無視・認知障害がある場合:スケールを見落とす可能性があります。評価用紙を患側と反対側に置き、指差しやすいよう配慮します。評価者が言葉で「今の疲れ具合を教えてください、0が全く楽、10が最大」と毎回口頭で確認します。

4

パーキンソン病 ― オン/オフ症状を考慮した強度管理

推奨スケールRPE 6-20スケール
目標値RPE 11〜13点(「やや楽」〜「ややきつい」)
注意薬剤オン時に評価実施。オフ時は安静維持

💡 パーキンソン病でのボルグスケール活用ポイント

パーキンソン病患者は筋硬直・動作緩慢・疲労感の出やすさなどの症状があり、同じ運動負荷でもRPEが健常者より高く出る傾向があります。また「薬剤オン・オフ現象」により、同じ患者でも時間帯によって運動耐容能が大きく変動します。ボルグスケールの評価は必ず薬剤オン時(内服1〜2時間後の効果発現時)に実施することを原則とします。

近年の研究(Schenkman et al. 2018)では、パーキンソン病患者に対する高強度有酸素性トレーニング(RPE 14〜16点)が疾患進行を遅らせる可能性が示されており、段階的に強度を上げる際のモニタリング指標としてRPEが活用されています。

5

慢性疼痛(慢性腰痛・線維筋痛症・変形性膝関節症)

推奨スケールCR10スケール(疼痛強度の評価に転用)
目標値RPE 10〜12点(運動は「楽〜ややきつい」範囲)
注意痛みの増強(CR10 ≥6点)を超えたら強度を下げる

💡 慢性疼痛でのボルグスケール活用ポイント

慢性疼痛患者では、CR10スケールを「運動中の痛みの強さ」と「運動のきつさ(疲労感)」の2軸で同時評価することが推奨されます。「痛みCR10 ≤ 4点・疲労RPE ≤ 12点」の範囲を運動継続の基準とし、痛みがCR10で6点を超えたら運動強度を下げるか中止します。

慢性疼痛の「恐怖回避モデル」では、患者が痛みを避けるために運動を過度に制限することが問題となります。ボルグスケールを使って「今の痛みは何点?それは運動を続けても良い範囲か確認しましょう」と療法士が客観的基準を示すことで、過剰な運動回避を防ぐ心理的効果もあります。

6

がんリハビリテーション(がんサバイバーシップ)― 癌関連疲労の管理

推奨スケールRPE 6-20スケール + CR10(疲労感)を併用
目標値RPE 11〜13点(中等度・短時間から開始)
特記事項Cancer-related fatigue(CRF)によりRPEが過大評価されやすい
根拠ACSM Cancer Exercise Roundtable 2019

💡 がんリハビリでのボルグスケール活用ポイント

癌関連疲労(Cancer-Related Fatigue:CRF)は、がん治療に関連した持続的な疲労感で、休息によっても改善しにくい特徴があります。CRFがある患者は、通常の患者より同じ運動負荷でRPEが1〜3点程度高く出る傾向があるため(Schmitz et al. 2019)、目標RPEを11〜13点に設定しても実際の生理学的負荷は比較的低い状態です。このため初回評価では「RPEが11〜12点でも実施時間は10〜15分から始める」という保守的な設定が推奨されます。

化学療法・放射線治療中の患者:治療後7〜14日は骨髄抑制のピーク期です。この時期はRPEにかかわらず感染リスクを最優先し、ウォーキング程度(RPE 9〜11点)の軽度活動に限定します。血小板が5万/μL以下・白血球が1,000/μL以下・ヘモグロビンが8g/dL以下の場合はリハビリを休止し、医師に相談してください。

ACSM Cancer Exercise Roundtable(2019)のコンセンサスでは、がんサバイバーへの有酸素性運動処方においてRPE 12〜14点(中等度)を週150分以上、またはRPE 14〜17点(高強度)を週75分以上という目標が示されていますが、治療中・直後は段階的に開始することが原則です。

RPEと「今日の調子」の複合評価:がん患者では日々のコンディション変動が大きいため、セッション開始前に「今日の全体的な疲労感(CR10)」を記録する「Session RPE法(sRPE)」が有用です。安静時CR10が5点以上なら運動強度を通常より2〜3点低めに設定するという目安が実践的です。

7

抵抗運動(筋力トレーニング・レジスタンス運動)でのボルグスケール使用

推奨スケールCR10スケール(局所の筋疲労評価に適合)
目標値CR10:5〜7点(「強い」〜「非常に強い」筋疲労)
特記事項有酸素運動とは異なり「局所の筋疲労・灼熱感」を評価
根拠ACSM 筋力トレーニング処方(11th ed.)

💡 筋力トレーニングでのボルグスケール活用ポイント

有酸素性運動のRPEが「全身的な運動のきつさ(呼吸困難・心拍数・汗など)」を反映するのに対し、レジスタンス運動(筋力訓練)のRPEは主に「局所の筋疲労・灼熱感・筋肉痛」を反映します。このため筋力訓練では6-20スケールよりCR10スケールの方が適合しやすく、「この種目の最後の3回がどのくらいきついか(CR10)」として評価します。

筋力トレーニング強度と目標CR10:

筋持久力向上(低強度・高回数):CR10 3〜5点。最後の数回が「やや強い〜強い」程度で疲労を感じるが次のセットは開始できる。
筋肥大・筋力向上(中〜高強度):CR10 6〜8点。最後の2〜3回が「非常に強い」。もう1回はかなりきつい(Volitional Fatigue近傍)。
最大筋力向上(高強度):CR10 8〜10点。ほぼ限界のセット。スポーツアスリート向け。臨床リハビリでは原則使用しない。

脳卒中後の麻痺側筋力訓練では、麻痺側と非麻痺側のCR10を別々に記録することで、どちらの疲労が先に来るかを把握できます。麻痺側の疲労が早い(非麻痺側CR10が低いのに麻痺側CR10が高い)場合は神経筋効率の低下を示唆しており、段階的な強度設定の指標になります。

高齢者の筋力訓練では、CR10 5〜7点を目標としながら1セットあたりの回数を10〜15回に設定し、週2〜3回行うことがACSMとEBSRで推奨されています。

リハビリテーションの開始基準・中止基準

⚠️ ボルグスケール単独での安全管理は不十分 ― バイタルサインとの組み合わせが原則

ボルグスケールはあくまで主観的指標です。患者が「楽だと感じていても」バイタルサインが異常値を示す場合はリハビリを中止しなければなりません。RPEと心拍数・血圧・SpO₂・胸痛・意識状態を組み合わせた「多面的モニタリング」が安全なリハビリの基本です。以下の基準は日本リハビリテーション医学会・日本心臓リハビリテーション学会のガイドラインに準拠しています。

🚫 リハビリを開始しない基準

  • 安静時脈拍:40/分以下または120/分以上
  • 安静時収縮期血圧:70mmHg以下または200mmHg以上
  • 安静時拡張期血圧:120mmHg以上
  • 安静時SpO₂:90%以下
  • 安静時体温:38℃以上
  • 安静時胸痛・胸部不快感あり
  • 動悸・息切れ・冷や汗・嘔気(座位で)
  • めまい・ふらつきがある
  • 心筋梗塞発症直後で循環動態不安定
  • 著しい不整脈が確認された場合
  • 労作性狭心症の発作が確認された場合
  • ボルグスケール自体の評価が不能な意識障害

🛑 リハビリを途中で中止する基準

  • RPE 19〜20点(「限界」「最大」)に達した場合
  • 脈拍:140/分を超えた場合
  • 運動時収縮期血圧:40mmHg以上の上昇
  • 運動時拡張期血圧:20mmHg以上の上昇
  • SpO₂:90%以下に低下
  • 中等度以上の呼吸困難(CR10で7点以上)
  • 胸痛・胸部圧迫感の出現
  • 著しい頻呼吸(30回/分以上)
  • めまい・頭痛・強い嘔気・冷や汗
  • 不整脈の出現・増加
  • 意識状態の悪化
  • 顔面蒼白・チアノーゼの出現
RPEスコア 運動強度の意味 臨床的対応 心臓リハビリでの扱い
安全域 ― 継続可能
6〜10点 非常に楽〜軽い 継続。強度の漸増を検討 Phase Iの初期段階
11〜13点 やや楽〜ややきつい 継続。これが心臓リハビリの主目標域 ✅ 最推奨範囲
14〜15点 きつい 継続可能だがバイタル確認。回復期上限 ⚠️ 要観察・継続
要注意域 ― 観察強化・減負荷検討
16〜17点 非常にきつい 強度を下げる。症状確認 ⚠️ 強度を落とす
18点 非常にきつい〜限界手前 原則中止。症状・バイタル確認 🛑 中止基準相当
中止域 ― 即時停止・安静
19〜20点 最大努力・限界 即時中止。安静・バイタル測定・医師報告 🚫 絶対中止

FITT原則とRPEの運動処方への統合

有酸素性運動の処方は「FITT原則(Frequency頻度・Intensity強度・Time時間・Type種類)」によって設計されます。このうちIntensity(強度)の管理にボルグスケールが直接活用されます。以下にFITT各要素とRPEの対応を示します。

FITT要素 一般推奨値(ACSM) RPEとの連動 疾患別の調整目安
F(Frequency:頻度)
週の運動回数 有酸素:週3〜5回 RPEの記録で疲労蓄積を確認(連続高RPEは過負荷のサイン) 心臓リハビリ:週3回から開始
I(Intensity:強度)← RPEが最も直接活用される要素
中等度強度 RPE 12〜13点 / VO₂max 40〜60% / HRR 40〜60% RPEが強度の主要モニタリング指標 心不全・脳卒中後:RPE 11〜13点
やや高強度 RPE 14〜16点 / VO₂max 60〜85% / HRR 60〜80% 目標RPEを予め設定し、達したら負荷を維持 安定型COPD:RPE 12〜14点(CR10: 4〜6点)
高強度インターバル RPE 15〜17点(インターバル部分) インターバル時のRPEを記録し漸増 パーキンソン病(Schenkman 2018):14〜16点を目標
T(Time:時間)
1セッション時間 中等度:30〜60分 / 高強度:20〜30分 セッション中盤・終盤のRPEが目標値より高ければ時間を短縮 心臓リハビリPhase I:10〜20分から開始
T(Type:種類)
運動の種類 大筋群を使う有酸素運動(歩行・水中・エルゴメーター等) 同じRPEでも種目により心拍数・代謝負荷が異なる。種目変更時はRPEで再較正 非麻痺側を使った上肢エルゴ(脳卒中後)

📊 RPE・心拍数予備能(HRR)・VO₂max・METsの換算早見表

ボルグスケールを他の強度指標に換算する目安表です。これらは健康な成人(20〜40代)を基準とした目安であり、年齢・疾患・薬剤によって大きく変動します。特に高齢者(最大心拍数の低下)・β遮断薬内服患者(心拍数上昇の抑制)では、HRR・心拍数の数値はRPEと乖離します。

運動強度の分類 RPE(6-20) CR10 VO₂max (%) HRR (%) 目安MET
非常に軽い(Very Light) 6〜9点 0〜1点 <20% <20% 1〜2 METs
軽い(Light) 10〜11点 2〜3点 20〜39% 20〜39% 2〜4 METs
中等度(Moderate) 12〜13点 3〜4点 40〜59% 40〜59% 4〜6 METs
やや高強度(Vigorous) 14〜16点 5〜6点 60〜84% 60〜79% 6〜9 METs
高強度(Hard) 17〜18点 7〜8点 ≥85% ≥80% 9〜12 METs
最大努力(Maximal) 19〜20点 9〜10点 100% 100% ≥12 METs

出典:ACSM’s Guidelines for Exercise Testing and Prescription(11th ed.)をもとに作成。MET値は活動の種類で大きく異なります。

ボルグスケールのメリットとデメリット ― 臨床家が押さえるべき限界

観点 メリット(強み) デメリット(限界・注意点)
簡便性 評価用紙1枚のみ。特殊機器不要。即座に評価できる 「慣れが必要」で初回は不正確になりやすい。アンカー設定なしでは信頼性が大幅に低下
客観性 VO₂・心拍数と強い相関(r=0.80〜0.90)。生理学的負荷を間接的に反映 主観的評価のため個人差が大きい。不安・抑うつ・痛みの背景が評価を歪める
β遮断薬環境 β遮断薬内服中でも心拍数に依存せず有効な強度指標として機能(AHA推奨) 心理的に「頑張りたい」患者は過小申告することがある
多様な応用 労作強度・呼吸困難・疼痛・疲労感まで幅広く転用可能。CR10は比率特性で変化量の比較が容易 認知障害・重度失語症患者への適用が困難。視覚障害患者は用紙の提示方法に工夫が必要
後方循環系・脳幹病変 嚥下障害・構音障害があっても数字か指差しで評価できる 脳幹病変による自律神経障害患者では心拍応答が異常となり、RPEとの乖離が大きくなりうる
コスト 完全無償。印刷費のみ。電子化・EMR組み込みも容易 スケール自体の版権(Borg社)に注意。改変版の商業使用には許諾が必要な場合あり

⚠️ 臨床でよくある採点ミス・評価の落とし穴 5選

アンカー設定なしで評価開始:「何点ですか?」とだけ聞く。→ スケールの両端(6または0 = 安静、20または10 = これまでの最大)を具体的な体験で説明してから評価を始めてください。

「よい点」を取らせようとする雰囲気を作る:「無理しないで6〜7点くらいにしてね」という誘導。→ 「正直な数字を教えてください」と中立的に伝えることが信頼性の前提です。

β遮断薬内服患者で心拍数を主要指標のまま使用:「心拍数が90bpmだから大丈夫」という判断。→ β遮断薬により心拍数上昇が抑制されているため、RPEを優先指標としてください。

RPEが低いから安全と過信する:RPE 10点でも血圧が20mmHg異常上昇している場合は中止基準に該当します。RPEは多面的モニタリングの一要素です。

高齢者・疲労蓄積患者でRPE目標値を若年者と同様に設定:65歳以上では同じ絶対負荷に対して若年者よりRPEが高くなる傾向があります(Shephard 2003)。高齢患者では目標RPEを1〜2点低めに設定することを検討してください。

他スケールとの比較 ― 心拍数・MET・SpO₂との使い分け

評価指標 ボルグスケール(RPE) 心拍数(HR) METs(代謝当量) SpO₂(酸素飽和度)
評価の性質 主観的(患者の感覚) 客観的(循環指標) 客観的(エネルギー指標) 客観的(呼吸指標)
必要器具 評価用紙のみ 心拍計・パルスオキシメーター VO₂測定機器or換算表 パルスオキシメーター
リアルタイム評価 ✅ 即座に聴取可能 ✅ 連続モニタリング可 △ 後から計算が多い ✅ 連続モニタリング可
β遮断薬の影響 ✅ 影響なし(推奨指標) ❌ 心拍上昇が抑制される △ 少し影響 ✅ 影響なし
COPD・呼吸困難評価 ✅ CR10で直接評価可 △ 補助的 △ 呼吸困難を反映しにくい ✅ 低酸素の直接指標
疼痛・疲労感の評価 ✅ CR10で転用可 ❌ 疼痛・疲労を反映しない ❌ 疼痛を反映しない ❌ 疼痛を反映しない
個人差・主観バイアス ⚠️ 個人差が大きい(弱点) ✅ 客観的で個人差小 ✅ 標準化されている ✅ 客観的
コスト ✅ ほぼゼロ △ 機器コストあり △〜高 機器・換算が必要 △ パルスオキシメーター必要

💡 RPEと心拍数の「組み合わせ使用」が最も推奨される理由

AHA・ACSM(米国スポーツ医学会)・日本心臓リハビリテーション学会はいずれも「心拍数とRPEを組み合わせた運動強度管理」を推奨しています。心拍数は客観性が高い一方、個人の薬剤・年齢・コンディションにより最大心拍数が変動します。RPEはそれらの変動を自動的に統合した「本人の感じる総合負担度」を反映するため、補完的に使用することで安全性と個別化が同時に実現できます。

実践的な組み合わせ例:「心拍数が130拍/分以下かつRPEが13点以下の範囲で運動を行う」というダブル基準を設定します。どちらか一方でも超えたら強度を下げる、というルールが安全かつ効果的な個別化プログラムの基本です。

臨床ケーススタディ ― ボルグスケールを活用した安全な運動療法

📋 症例:石川さん(65歳・男性)心筋梗塞発症後10日目・回復期リハビリ開始

前壁中隔心筋梗塞後のPCI施行。左室駆出率(EF)42%。内服薬にビソプロロール(β遮断薬)・アスピリン・スタチン。体力低下あり。発症前は毎日30分のウォーキングを習慣としていた。今回、心臓リハビリPhase IIの評価と運動指導として来院。

評価セッション 運動内容 心拍数 血圧 SpO₂ RPEスコア 判定
評価前(安静) ベッド端座位 58/分 118/74 97% ✅ リハビリ開始可
ウォームアップ 平地歩行 3分(緩速) 72/分 124/76 97% 8点(非常に軽い) ✅ 継続
メイン(前半) トレッドミル 3km/h 10分 78/分 132/78 96% 11点(やや楽) ✅ 目標範囲内
メイン(後半) トレッドミル 4km/h 5分 84/分 138/80 96% 13点(ややきつい) ✅ 目標範囲内・上限
クールダウン 平地歩行 3分(緩速) 74/分 128/76 97% 10点(楽) ✅ 終了

臨床的解釈と対応:

β遮断薬内服中のためRPEを主要指標に設定:ビソプロロール内服により、本来なら同負荷で心拍数110〜120になるところが72〜84拍/分に抑制されています。心拍数基準(「心拍数 ≤ 110」)ではまだ余裕があるように見えますが、RPE 13点(ややきつい)がすでに達成されているため、速度を4km/hに固定して15分で終了としました。

RPEが患者の真の負担感を反映:石川さんは「心臓の手術後なのにこんなに歩いて大丈夫?」という不安感から運動を躊躇しがちでした。RPEで「今は13点、目標の13〜14点の範囲にぴったり入っています。安全ですよ」と伝えることで、数値を根拠にした安心感の提供ができました。

次回の漸増計画:3回連続でRPE 11〜13点を維持できたら、速度を0.5km/h増加またはセッション時間を5分延長し、RPEが再び11〜13点に収まることを確認して段階的に負荷を上げます。

リハビリ中止シナリオ ― 途中中止の適切な判断

1
石川さんのセッション中断事例(2週間後の外来リハビリ)

トレッドミル運動開始10分後、石川さんが「何か胸が少し重い感じがする…RPEは14かな」と報告。同時に顔色がやや悪くなりました。

2
療法士の対応:即座にトレッドミルを停止・安静

「胸の症状」という訴えがあった時点でRPEの数値にかかわらず即時停止。「椅子に座ってください、バイタルを測ります」と対応。石川さんをトレッドミルから降ろして椅子に座らせました。

3
バイタル測定の結果

心拍数:92/分(増加傾向)、収縮期血圧:178mmHg(開始前より+60mmHg ⟹ 中止基準:+40mmHg超に該当)、SpO₂:96%。RPE 14点(目標上限を超えている)。

4
医師への即時報告・記録

「運動時収縮期血圧+60mmHg上昇・胸部不快感・RPE 14点」の3条件が揃ったため、担当医に即時報告。安静後5分で血圧158mmHgに低下・胸部症状消失。医師の判断で心電図・トロポニン採血を施行(正常範囲)。次回リハビリは強度を下げて再開することになりました。

【重要な教訓】この事例では「RPE 14点」という値は中止基準ギリギリでしたが、患者の「胸が重い」という訴え(主観的症状)「血圧の過度な上昇(客観的バイタル)」が重なったことで適切な中止判断ができました。ボルグスケールは多面的モニタリングの一要素であり、症状の訴えがある場合はRPE値にかかわらず中止を最優先します。

エビデンス ― 信頼性・妥当性・最新研究

妥当性(Validity)

VO₂・心拍数との強い相関 ― Borg(1982)・Utter et al.(2004)

ボルグ博士の原著研究(Borg 1982, Medicine & Science in Sports & Exercise)では、6-20スケールのRPEとVO₂(酸素摂取量)の相関は r=0.80〜0.90 と報告されています。Utter et al.(2004)の系統的レビューでは、6-20スケールはCR10よりも生理学的パラメータ(心拍数・VO₂)との相関が若干高く(r=0.82 vs. r=0.74)、運動強度の量的モニタリングにはRPEが適していることが示されました。

信頼性(Reliability)

適切な事前説明と「アンカー設定」が評価の信頼性を左右する

Robertson et al.(2003, Research Quarterly for Exercise and Sport)の研究では、評価前に標準化されたアンカー設定手続き(「今まで経験した最大の運動強度を10点として…」という教育)を行った場合、試験再試験信頼性 ICC=0.80〜0.92 と高い一致率が示されました。一方、事前説明なしでは ICC=0.52〜0.67 と信頼性が低下することも確認されています。アンカー設定の教育は信頼性確保の必須条件です。

β遮断薬環境での有用性

心臓リハビリにおけるRPEの優位性 ― β遮断薬内服患者でのエビデンス

Whaley et al.(1997, Medicine & Science in Sports & Exercise)の研究では、β遮断薬内服患者において心拍数の運動強度指標としての妥当性が低下する一方、RPEは依然としてVO₂と良好な相関(r=0.78)を保つことが示されました。AHA(2000年・2007年)のガイドラインでは、β遮断薬内服中の心疾患患者における有酸素性運動のモニタリングとして「心拍数とRPEの併用、β遮断薬内服患者ではRPEを優先的指標とする」ことを推奨しています。

専門家向け:ボルグスケールの限界と最新の代替・補完評価ツール

ボルグスケールの主な限界(Marcora 2010 / Haddad 2011):①心理的因子(不安・抑うつ・モチベーション)が評価に影響する ②慢性疼痛・疲労感が背景にある患者では過大評価されやすい ③認知障害・失語症患者には適用困難 ④スケールへの習熟度によって評価精度が変動する ⑤集団平均では妥当性が示されているが個人レベルでの精度は限定的

近年注目される補完指標:

心拍変動(HRV:Heart Rate Variability):自律神経機能を反映。ウェアラブルデバイスで取得可能。RPEと組み合わせた「HRV-guided training」が注目されている(Plews et al. 2013)。

Talk Test(会話テスト):運動中に「今日は天気が良いですね」などの短文を言わせて、会話可能かどうかで強度を判定。RPE 11〜14点の範囲に対応。非常に簡便で言語障害がない患者に有用(Foster et al. 2008)。

Omni Scale(0-10図絵付き):ボルグCR10に絵(運動している人物のイラスト)を加えた改良版。小児・高齢者・認知機能低下患者での使用性が向上(Robertson et al. 2000)。

FACES Pain Scale:顔の表情で0〜10を表現。言語障害患者・子どもでの疼痛・呼吸困難の代替評価として使用される。ボルグCR10の代替として検討可能。

脳卒中後の有酸素性運動研究での位置付け:Billinger et al.(2014, AHA Stroke)のレビューでは、脳卒中後の有酸素性トレーニング研究の多くがRPEとVO₂peakを組み合わせて運動強度を定義しており、RPE 11〜14点(VO₂peak40〜70%)が最も多く採用された目標強度レンジであることが確認されました。

よくある質問(FAQ) ― ボルグスケール評価について

6-20スケールとCR10スケール、どちらを使えばいいですか?
端的に言えば、「心臓リハビリ・スポーツトレーニング → RPE 6-20スケール」「呼吸困難の評価・一般的な臨床リハビリ → CR10スケール(0-10)」が基本的な使い分けです。

6-20スケールは心拍数との対応関係(数値×10≒心拍数)があり、生理学的強度の定量化に優れています。一方CR10は「0=全くなし、10=これまでの最大」という直感的な基準点があり、呼吸困難・疼痛・疲労感の評価に向いています。

患者が初めてスケールに接する場合、CR10の方が説明が直感的でわかりやすいため、脳卒中後・高齢者・一般臨床では好まれる傾向があります。施設内でどちらかに統一することで、スタッフ間の共通言語化と研究データの蓄積が容易になります。

失語症や認知障害がある患者にはどう使えばいいですか?
失語症・軽度認知障害のある患者でも工夫次第でボルグスケールは使用可能です。

推奨される工夫:
大きく印刷した視覚的スケールを準備し、患者が「指差し回答」できるようにする
顔の表情イラスト付きOmni Scale(0〜10に笑顔→苦しそうな顔の絵が添えられたもの)を使用する
③ 数字が困難な場合は「楽・ふつう・きつい」の3段階簡易版でモニタリングする
Talk Test(会話テスト)を補助指標として使う。「少し話してみてください」と促し、楽に話せる(RPE目標域内)か確認する

重度の失語症や意思疎通が全く困難な場合は、ボルグスケールの使用を無理に強行せず、心拍数・血圧・SpO₂・顔色・表情などの客観的指標で代替してください。評価の強制はリハビリへの拒否感につながる可能性があります。

ボルグスケールを患者に初めて説明するときのコツは?
初回説明の質が評価の信頼性を大きく左右します。以下の手順を参考にしてください。

標準的な説明(アンカー設定)手順:
① スケール用紙を患者の目の前に置き、「このスケールで今の体の辛さを数字で教えてください」と伝える
② 「6は完全に安静、何も感じない状態です。例えば朝目が覚めた直後のベッドに横になった状態ですね。」
③ 「20は人生で経験した最大の努力、これ以上は絶対に無理、という状態です。陸上の100mゴール直後のような感じです。」
④ 「今日の運動中は5〜10分ごとに聞きますので、その時の正直な数字を教えてください。良い点を取ろうとしなくていいですよ。」

よくある失敗:「辛くなったら教えてください」だけでは不十分です。スケールの両端(アンカー)を具体的な体験に結び付けて説明することが、信頼性の高い評価につながります。

ボルグスケールとNIHSSは同じ場面で使いますか?
両スケールは評価する対象が異なります。NIHSSは急性期脳卒中の神経学的欠損(運動麻痺・失語・感覚障害など)を評価するスケール、ボルグスケールは運動・リハビリ中の主観的労作強度を評価するスケールです。

急性期病棟ではNIHSSで神経学的重症度を把握した上で、リハビリ介入時にボルグスケールで運動強度を安全に管理するという「連携的使用」が理想的です。例えば「NIHSSスコア13点の脳卒中後患者が回復期に入ったので、有酸素性トレーニングをRPE 11〜13点で開始する」という形で両スケールを補完的に使います。

特に脳卒中後の有酸素性トレーニングプログラム開始時は、①NIHSSで現在の神経学的状態を確認し、②ボルグスケールで運動中の安全な強度域をモニタリングするという二段階の評価体系が推奨されます(AHA/ASA 2014年声明)。

RPEが低くても中止しなければならない状況はありますか?
あります。「患者が楽だと感じていても、客観的なバイタルサインが異常を示す場合は即時中止が原則」です。

特に注意が必要なのは次のような状況です:
痛みに慣れた患者(慢性疼痛・がんリハビリ)は痛みを過小評価し、RPEを低く報告する傾向がある
「頑張らなければ」と思っている患者は呼吸困難・疲労感があってもRPEを低く申告することがある
不整脈・無症状性虚血が起きても患者が自覚しない場合がある
抗不安薬・鎮痛薬を使用中の患者は痛みや疲労感の感度が低下していることがある

このため「RPEが低い=安全」と決めつけず、常に心拍数・血圧・SpO₂・顔色・表情・会話状況をリアルタイムで観察することが重要です。特に初回評価や強度を上げるセッションでは入念なモニタリングを行ってください。

ボルグスケールを使ったリハビリを経験した方の声

心筋梗塞後に入院したとき、最初はリハビリで運動するのがとても怖かったです。でも「ボルグスケールで13点を超えないように運動しましょう」と教えていただいてから、自分でも今の状態が”安全な範囲”かどうかわかるようになって、安心して運動できるようになりました。数字があるだけで全然違うんですね。

68歳男性・前壁心筋梗塞後3ヶ月

COPDの呼吸リハビリで、息苦しさを毎回0〜10で教えてと言われました。最初は何が5で何が10かよくわからなかったけど、療法士さんが「10はマラソンを走り切った直後の息苦しさ、今の外来リハビリはそれの半分くらいで十分ですよ」と教えてくれて、「5点くらいで運動を続けること」が目標だとわかってとても取り組みやすくなりました。

72歳女性・COPD(GOLD III)呼吸リハビリ6ヶ月

参考文献・引用文献

  • 1) Borg G. Perceived exertion as an indicator of somatic stress. Scand J Rehabil Med. 1970;2(2):92-98. 【6-20スケールの原著(1970年)】
  • 2) Borg GA. Psychophysical bases of perceived exertion. Med Sci Sports Exerc. 1982;14(5):377-381. 【CR10スケールの原著・RPEとVO₂の相関 r=0.80〜0.90を体系化】
  • 3) Borg G. Borg’s Perceived Exertion and Pain Scales. Human Kinetics; 1998. 【ボルグスケール全体の標準テキスト】
  • 4) Chen MJ, Fan X, Moe ST. Criterion-related validity of the Borg ratings of perceived exertion scale in healthy individuals: a meta-analysis. J Sports Sci. 2002;20(11):873-899. 【CR10のVO₂妥当性メタ分析 r=0.72〜0.88】
  • 5) Robertson RJ, Goss FL, Rutkowski J, et al. Concurrent validation of the OMNI Perceived Exertion Scale for resistance exercise. Med Sci Sports Exerc. 2003;35(2):333-341.
  • 6) Whaley MH, Brubaker PH, Kaminsky LA, Miller CR. Validity of rating of perceived exertion during graded exercise testing in apparently healthy adults and cardiac patients. J Cardiopulm Rehabil. 1997;17(4):261-267. 【β遮断薬内服患者でのRPE有用性(r=0.78)】
  • 7) Billinger SA, Arena R, Bernhardt J, et al. Physical activity and exercise recommendations for stroke survivors. Stroke. 2014;45(8):2532-2553. 【脳卒中後有酸素性運動のRPE目標値(AHA/ASA 2014)】
  • 8) Spruit MA, Singh SJ, Garvey C, et al. An official American Thoracic Society/European Respiratory Society statement: key concepts and advances in pulmonary rehabilitation. Am J Respir Crit Care Med. 2013;188(8):e13-64. 【COPD・呼吸リハビリでのCR10推奨(ATS/ERS 2013)】
  • 9) American College of Sports Medicine. ACSM’s Guidelines for Exercise Testing and Prescription. 11th ed. Wolters Kluwer; 2021. 【FITT原則・強度区分・MET換算の出典】
  • 10) Marcora SM, Staiano W, Manning V. Mental fatigue impairs physical performance in humans. J Appl Physiol. 2009;106(3):857-864. 【心理的疲労がRPEに影響する機序の研究】
  • 11) Foster C, Porcari JP, Anderson J, et al. The talk test as a marker of exercise training intensity. J Cardiopulm Rehabil Prev. 2008;28(1):24-30. 【Talk TestとRPEの比較研究(RPE 11〜14点への対応)】
  • 12) Schenkman M, Moore CG, Kohrt WM, et al. Effect of high-intensity treadmill exercise on motor symptoms in patients with de novo Parkinson disease. JAMA Neurol. 2018;75(2):219-226. 【PD高強度運動(RPE 14〜16点)の疾患進行抑制効果】
  • 13) Plews DJ, Laursen PB, Stanley J, Buchheit M, Kilding AE. Training adaptation and heart rate variability in elite endurance athletes. Sports Med. 2013;43(9):773-791.
  • 14) Shephard RJ. Aging and exercise. Encyclopaedia of Sports Medicine and Science. 2003. 【高齢者でRPEが若年者より高くなる傾向の根拠】
  • 15) Keus SHJ, Munneke M, Graziano M, et al. European Physiotherapy Guideline for Parkinson’s Disease. KNGF/ParkinsonNet; 2014.
  • 16) 日本心臓リハビリテーション学会. 心臓リハビリテーション標準プログラム. 2017年改訂版.
  • 17) 日本リハビリテーション医学会. リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン. 2006.

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