【2026年版】低酸素脳症(HIE)とは?原因・MRI診断・低体温療法からリハビリまで徹底解説
低酸素脳症の予後は、なぜ発症後6時間で決まるのか。
心停止・窒息・周産期仮死──低酸素脳症(HIE)は原因が違っても病態の時間軸は共通しています。低体温療法の開始タイミングと二次損傷の理解が、あなたの評価・介入の解像度を変えます。

要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
62歳男性。院外心停止からROSC(自己心拍再開)まで約12分。急性期病院で低体温療法(33℃・24時間)を施行後、発症後3週間で回復期病棟へ転院。EEGは中等度異常(不連続性あり・反応性は保たれる)。
主訴は「呼びかけへの反応が乏しい」「四肢の突っ張り」。初回評価:JCS 100・FIM 18/126(ほぼ全介助)、上肢Brunnstrom stage II相当の筋緊張亢進、嚥下はFOIS 1(経口摂取不可)。「意識障害が続く=リハビリの優先度が低い」と考えてしまいがちですが、この時点こそ廃用予防と感覚刺激の窓口です。

新人セラピストがHIE患者に最初に出会うのは、多くの場合ICU退室後や回復期転院時です。脳梗塞のような局在症状ではなく、意識障害・筋緊張異常・嚥下障害が複合的に前景化するため、「何から評価すべきか」で戸惑いやすい疾患です。まずは受傷機転(心停止/窒息/周産期仮死)・低体温療法の有無と期間・EEG所見をカルテから拾い、損傷の重症度仮説を立てることが評価の出発点になります。
定義と疫学。
低酸素脳症(HIE:Hypoxic-Ischemic Encephalopathy)は、脳への酸素供給低下(低酸素:hypoxia)と血流低下(虚血:ischemia)が合わさって生じる脳の機能・構造的障害です。両者が重なることで単独より強い障害をもたらす点が病態理解の第一歩です。

成人の最多原因は心停止(院外・院内とも)で、次いで窒息・重篤な低血圧・一酸化炭素中毒・薬物過剰摂取が続きます。新生児(周産期)の最多原因は周産期仮死(胎盤早期剥離・臍帯トラブル・難産)で、高所得国では出生1000人あたり1〜2人に発生するとされます[専門家合意]。
成人の主要原因3つ
全身血流が遮断され脳酸素供給がゼロになる状態。バイスタンダーCPRの開始が遅れるほど脳損傷は広範になり、CPR開始まで4〜5分が脳保護の目安となります。
動脈血O₂低下とCO₂蓄積が同時進行。溺水では低体温による神経保護が働くことがあり、予後予測が難しいケースがあります。
大量出血や敗血症性ショックによる急激な血圧低下は分水嶺領域を選択的に障害します。CO中毒はCOがHbにO₂の約240倍の親和性で結合し、両側淡蒼球の対称性壊死を特徴とします。
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神経メカニズムと責任病巣。
酸素停止後10秒で意識消失、4〜5分以上の継続で不可逆的な神経細胞死が始まります(一次損傷)。再灌流後6〜24時間は興奮毒性・フリーラジカル産生・炎症カスケードによる二次損傷が進行し、低体温療法はこの二次損傷フェーズの抑制を主目的としています[専門家合意]。
脆弱性の高い部位と対応するMRIパターン
代謝需要が高い部位ほど早期に障害されます。基底核・視床・海馬CA1・小脳プルキンエ細胞は特に脆弱で、MRI上のBG-TH(基底核・視床型)パターンや運動障害・記憶障害の基盤となります。一方、主幹動脈の境界領域(分水嶺ゾーン)は血流が最も弱く、低血圧・心停止時に最初に虚血にさらされ、Watershed(分水嶺型)パターンとして現れます。

MRIパターン分類[観察研究]:DWI(拡散強調画像)は発症24時間以降に感度が上昇し、48〜72時間で最も鮮明になります。Watershed型は比較的緩徐な低灌流に多く回復の余地が大きい傾向、BG-TH型は急激な全身性低酸素に多く運動・認知障害が残存しやすい傾向、Global型は長時間心停止に多く予後が最も重篤とされます(Volpe JJ. Neurology of the Newborn. 5th ed. 2008)。
鑑別診断。
意識障害・筋緊張異常を呈する疾患は多岐にわたります。HIEと診断名がついていても、経過中に他病態が併存・進行していないかを常に疑う視点が必要です。
| 鑑別疾患 | HIEとの共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 多発性脳梗塞/分水嶺梗塞 | 意識障害・分水嶺領域の障害 | 局在性の血管支配領域に一致するか | MRA/CTA・DWI分布 |
| 代謝性脳症(肝性・低血糖) | 意識障害・筋緊張異常 | MRI異常が乏しいことが多い | 血糖・アンモニア・肝機能 |
| 中毒性脳症(CO中毒・薬物) | HIEの原因にも結果にもなりうる | 両側淡蒼球壊死はCO中毒に特徴的 | COHb値・薬物スクリーニング |
| 単純ヘルペス脳炎 | 意識障害・痙攣 | 側頭葉優位の非対称病変・発熱先行 | 髄液PCR・造影MRI |
| 非痙攣性てんかん重積(NCSE) | 遷延する意識障害 | 臨床的に痙攣が見えないことが多い | 持続EEGモニタリング(cEEG) |
評価尺度と採点基準。
新生児HIEの重症度分類として世界標準となっているのがSarnat分類です。臨床所見を3段階(Grade Ⅰ〜Ⅲ)で分類し、低体温療法の適応判断や予後説明の土台になります。
| 項目 | 採点基準(所見) | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| Grade Ⅰ(軽度) | 過覚醒・易刺激性・筋緊張亢進・哺乳力やや低下。EEG正常〜軽度異常 | Thompson 1〜6点目安 | 24〜48時間で正常化しやすく予後良好 |
| Grade Ⅱ(中等度) | 意識レベル低下・筋緊張低下・原始反射減弱・痙攣あり | Thompson 7点以上 | 低体温療法の主要適応。約50〜60%が正常〜軽微な障害 |
| Grade Ⅲ(重度) | 昏睡・筋緊張著明低下・原始反射消失・自律神経障害・難治性痙攣 | EEG:バースト抑制〜等電位 | 死亡率30〜50%。生存者の多くに重篤な後遺症 |
Thompson Score[単独RCT/観察研究]:7点以上は中等〜重症HIEの指標として低体温療法の適応判断に活用されています(Thompson CM et al. Acta Paediatr. 1997;86(7):757-761)。カットオフ値7点は神経発達予後との相関に基づく設定であり、単独指標としてのMCID(臨床的最小変化量)は確立されていないため、Sarnat分類との併用評価が推奨されます。
成人予後予測の測定特性[SR/MA]:ERC/ESICM 2021ガイドラインでは、SSEPの両側N20消失が特異度〜100%と高精度である一方、単一検査での判定は偽陽性リスクがあるため、複数指標を組み合わせたマルチモーダル評価が国際標準とされています(Nolan JP et al. Resuscitation. 2021;161:220-269)。
介入のエビデンス。
HIE治療は「時間」が鍵です。蘇生→低体温療法→痙攣管理→臓器サポート→リハビリテーションの順で段階的に進みます。ここでは代表的な4ステップと、各介入のパラメータ(時間・回数・頻度・強度)を整理します。

胸骨圧迫100〜120回/分・深さ5〜6cm。バイスタンダーCPRの即時開始が最重要の予後改善因子です。
新生児:33〜34℃・72時間、発症6時間以内に開始(Grade A)。成人心停止後:37.5℃以下の発熱回避管理を72時間継続するのが現在の標準(TTM2試験, Dankiewicz J et al. NEJM. 2021;384(24):2283-2294)。
フェノバルビタール(新生児第一選択)・フェニトイン・ミダゾラム持続点滴。持続EEGモニタリングでNCSEを検出しながら管理します。
意識レベル安定次第、体位変換(2時間ごと)→ヘッドアップ→端座位→立位の段階的プロトコル。バイタル安定時は復温後速やかに開始します。
エリスロポエチン[単独RCT]:HEAL試験では低体温療法下の新生児HIEにEPO(1000 U/kg×6回)を追加投与しても2歳時の神経発達アウトカムは改善しませんでした(Wu YW et al. NEJM. 2022;387(2):148-159)。
アロプリノール[単独RCT]:ALBINO試験でも重篤な神経発達障害または死亡の有意な減少は示されませんでした(Garlach RT et al. NEJM. 2023;389(26):2441-2451)。いずれも現時点で補助療法としては推奨されていません。

HIEのリハビリは日々進化しています。最新の知見を臨床にどう落とし込むか、一緒に考えるお手伝いをいたします。
多職種連携と環境調整。
HIEは4領域の障害が同時進行する
運動機能障害・認知機能障害・言語コミュニケーション障害・嚥下障害が同時並行で現れやすいのがHIEの特徴です。各職種が独立して評価しつつ、週次カンファレンスで情報を統合することが機能回復の鍵になります。
「意識障害が続く患者ほど、PT・OT・STの評価タイミングを揃えておくと情報の抜け漏れが減ります。」
「嚥下評価の結果は必ずポジショニングの指示に反映させる。ST任せにしないことが誤嚥予防の第一歩です。」
| 職種 | 評価項目 | 主な介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | 筋緊張・バランス・歩行・TUG/BBS | 早期離床・筋力強化・歩行訓練 | 転倒リスクをOT・看護師と共有 |
| OT | FIM/Barthel・高次脳機能(MMSE/MoCA) | ADL訓練・上肢機能訓練・認知訓練 | 環境調整をMSWと共有 |
| ST | SLTA/WAB・嚥下(VF/VE)・FOIS | 言語訓練・AAC導入・嚥下訓練 | 食形態・姿勢指示を看護師と共有 |
| 看護師 | バイタル・意識レベル・皮膚状態 | ポジショニング・口腔ケア・褥瘡予防 | 日々の変化をリハ職に即時共有 |
| 医師 | EEG・MRI・全身状態 | 痙攣管理・全身管理・方針決定 | リハ職からの機能変化報告を治療方針に反映 |
| MSW | 家族状況・社会資源利用状況 | 福祉サービス調整・退院支援 | 機能予後の見立てをリハ職と共有 |
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
HIEは症例数が脳梗塞ほど多くないため、経験知が蓄積しにくい疾患です。先輩がよく見てきた「つまずき」を先に知っておきましょう。

臨床判断のコツ
「MRIパターンとSarnat Gradeを両方確認してから、初回評価の予測を立てるようにしています。」
「家族への説明は『いつ』『何を根拠に』判断するかを先に伝えておくと、不安の軽減につながります。」
予後とゴール設定。
予後は重症度によって大きく異なります。低体温療法群では「死亡または中等〜重篤な障害」のリスクが有意に低下し(NNT≒7)、長期フォローアップでも神経認知・学業成績の改善が確認されています(Shankaran S et al. NEJM. 2012;366(22):2085-2092)。

①無酸素時間の長さ ②MRI損傷パターン ③低体温療法の開始タイミング ④電気生理学的所見(SSEP/EEG) ⑤血液バイオマーカー(NSE/S100B)。これらを踏まえ、mRSやFIM改善目標を医師・看護師・療法士・家族で共有することが現実的かつ挑戦的なゴール設定につながります[専門家合意]。
よくある質問。
脳梗塞は特定の血管が閉塞し支配領域が局所的に障害される疾患です。低酸素脳症は心停止や窒息などにより脳全体への酸素供給が全身的に低下することで生じ、局在性の脳梗塞に対してびまん性・両側性の障害となることが多い点が異なります。治療もtPAや血栓回収療法が主体の脳梗塞に対し、低酸素脳症ではCPR・低体温療法・痙攣管理・全身管理が主軸となります。
新生児では在胎36週以上、生後6時間以内、5分Apgar5以下または臍帯血pH7.0未満などの中等〜重症所見が適応の目安です。成人心停止後はROSC後に意識が回復しない患者が対象ですが、TTM2試験以降は37.5度以下の発熱回避管理が標準となっています。活動性出血や末期疾患などは除外基準に含まれます。
意味があります。廃用症候群の予防、感覚刺激による意識回復機会の最大化、家族へのケア方法の共有という3つの目的があり、意識障害の分類にはCRS-Rを用いて定期評価しながら介入を調整します。
大きく異なります。新生児は発達中の脳への障害であるため神経発達支援の観点が必要で、学齢期までの継続的な評価と療育調整が求められます。成人は完成した脳への損傷として早期離床・廃用予防・機能回復訓練を軸に、高齢者ではフレイルや認知機能低下も考慮します。
外来神経学フォローや外来・訪問リハビリの継続に加え、障害福祉サービスや介護保険の申請、就労支援などの社会面のサポート、そして介護者のバーンアウト予防を含む家族支援が長期的に必要です。
低体温療法中は循環動態が不安定なため積極的な運動療法は行いませんが、良肢位保持や他動関節可動域訓練、褥瘡予防のポジショニングはこの段階から開始します。復温後、バイタルが安定次第、段階的離床プログラムに移行します。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは脳卒中・低酸素脳症をはじめとする脳神経疾患に特化した自費リハビリ施設です。PT・OT・STが同時並行で評価・介入を行い、精密な機能評価とご家族の希望を統合した現実的なゴール設定を大切にしています。
— STROKE LABでのPT・OT・ST連携リハビリの様子
「院外心停止後で意識レベルJCS200の方を担当した際、当初は運動療法より感覚刺激プログラムを優先しました。ご家族には『今は反応の芽を探す段階』と説明し継続。2ヶ月後に開眼・追視が出現し、そこから段階的離床に切り替えられました。『意味がないのでは』と焦らず土台作りを続けたことが、後の回復速度につながったと実感しています。」— 理学療法士・臨床経験8年・脳神経リハビリ専門
「新生児HIEのお子さんを担当した際、初回評価でGMFCSレベルの判定に迷いました。単発の評価で決めつけず、月1回の発達フォローアップで経過を追う方針に切り替えたところ、ご家族も『今できること』に焦点を当てられるようになりました。診断名だけでなく経過を見る視点の大切さを学びました。」— 作業療法士・臨床経験6年・小児神経リハビリ専門
諦めないでください。

心停止から蘇生された方、周産期に低酸素脳症と診断されたお子さん、そのご家族。皆さまが直面する不安は、私たちが日々の臨床で最も向き合ってきたテーマです。
「どの機能がどこまで回復できるのか」を精密な評価と多職種連携で見極め、現実的で挑戦的なゴールを一緒に描くこと。それがSTROKE LABの役割だと考えています。
今できることは必ずあります。まずはお気軽にご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)