【2026年版】高次脳機能障害に対するリハビリの方法を学ぼう!注意機能の評価で転倒を予測できる?
高次脳機能障害は、なぜ机上検査だけでは見抜けないのか。
注意障害・半側空間無視・失認・失行は、点数では軽症に見えても生活場面では危険を伴います。机上検査と行動観察の両方を使い分ける臨床推論を、新人セラピスト向けに整理しました。

要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
58歳男性。くも膜下出血(脳動脈瘤クリッピング術後)、発症後3週間で回復期病棟に転棟。運動麻痺は軽度(Brunnstrom Recovery Stage 上肢V・手指V・下肢V)、FIM運動項目85/91とほぼ自立水準だが、FIM認知項目は20/35にとどまる。主訴は「リハビリ室の人混みで人や物にぶつかる」。
初回評価所見では、BIT通常検査が128/146点(カットオフ131点未満)、線分二等分検査で中心より右側への偏位、TMT-Bの所要時間延長を認めた。一方で本人は「困っていることは特にない」と発言していた。
このケースのように、歩行や移乗の介助量だけを見ていると見落とされやすいのが高次脳機能障害です。運動機能の回復が良好なほど、注意・知覚の問題が「性格」や「不注意」として片付けられがちになります。新人のうちは、机上の点数と生活場面の行動の両方を見る習慣をつけることが、最初の臨床推論のスタートラインになります。
定義と疫学。
高次脳機能障害とは、脳卒中等の疾患や頭部外傷により脳が損傷を受けた結果生じる、認知・知覚の障害の総称です。新人のうちにまず整理しておきたいのが「認知」と「知覚」の違いです。

認知とは知識を獲得する過程で、推論・記憶・認識・判断・直感などを含みます。実行機能(問題解決・計画・誤りの認識・抽象的思考)も高次認知機能・メタ認知機能として認知に含めて分類されることが多いです。一方で知覚とは、感覚を心理学的に意味のある情報に統合することであり、注意と行動を必要とする刺激を選択・統合・解釈する能力を指します。知覚は感覚(目・耳・鼻などによる刺激の受容)よりもはるかに複雑なプロセスです。
どれくらいの頻度で出会うのか
急性期の右半球損傷患者では約60%前後と高頻度に報告されています(Cazzoli D, et al. Incidence of Visuospatial Neglect in Acute Stroke. Stroke. 2025、1年間の単一施設コホート)。左半球損傷では頻度・重症度ともに低いとされています。
脳卒中後によく見られ、認知・活動パフォーマンス・言語・記憶・空間認識など様々な認知機能に関連します。脳血管障害後の選択的注意障害は多くの患者で改善する一方、処理速度・分割性注意・ワーキングメモリー・警戒心といった高次の注意機能は後遺症として残りやすい傾向があります。
脳卒中後の記憶力低下は一般的で、長期記憶障害・短期記憶障害・即時想起など様々なタイプがあります。記憶の全体的な劣化は認知症と呼ばれ、区別が必要です。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは、脳卒中後の高次脳機能障害に対しても、評価に基づいた個別リハビリテーションを行っています。ご本人・ご家族の困りごとを丁寧にお伺いした上で、生活に即したプログラムをご提案します。
神経メカニズム・責任病巣。

半側空間無視の発現機序には、注意障害説・方向性運動低下説(健側への定位反応の優位)・表象障害説など複数の仮説があります。責任病巣としては中大脳動脈・後大脳動脈・前大脳動脈の灌流領域、視床などが挙げられます(森岡周ら. 日本リハビリテーション医学会誌. 2016;53(8):629-)。患側への刺激にもプライミング効果が認められており、無視された情報が脳内である程度処理されていることが示唆されています。
SPV(身体的垂直認知)と垂直方向の見当識
SPV(Subjective Postural Vertical:身体的垂直認知。自分の体がまっすぐかどうかを感じる脳の機能)は、頭頂葉と関連が深い機能です。利き手でない側の頭頂葉に病変があると、垂直なものが傾いて見える垂直方向の見当識障害が生じ、杖を持つ・体幹を起こすといった単純な動作でも傾きが出現します。臨床では「まっすぐのつもりが傾いている」患者の動作分析の手がかりになります。
転倒予測における注意機能の位置づけ[観察研究]:Mateen BA, et al. Clinical Rehabilitation. 2018;32(10):1396-1405(前向きコホート研究、N=337、入院中の神経疾患患者対象)。TMT(Trail Making Test)が転倒予測因子として最も有力であり、年齢・尿意切迫・歩行障害など他の指標を追加しても予測精度は有意に向上しなかったと報告されています。TMTとランダムフォレストの組み合わせで感度68%(±7.7)・特異度90%(±2.3)・精度0.600(±7.6)・F1スコア0.630(±0.063)を示しました。一方で機械学習モデルはブラックボックス特性を持つため、単純なカットオフ秒数は提示されていません。
鑑別診断。
高次脳機能障害は外見が似ていても機序が異なる病態が多く、鑑別を誤ると介入方針も誤ります。臨床で混同しやすい5つの組み合わせを整理します。
| 鑑別疾患 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|
| 半側空間無視 vs 同名半盲 | 共通点は左側を見落とすこと。半盲は頭部・眼球運動で代償できるが、無視は代償戦略を伝えても改善しにくい。 | 対座法による視野検査+BIT |
| 全般性注意障害 vs 局所性半側空間無視 | 共通点は課題の見落としや反応の遅さ。全般性注意障害は左右差なく低下するが、USNは左側に偏った成績低下を示す。 | TMT-A/B、線分二等分検査の左右差 |
| 病態失認 vs アパシー(無関心) | 共通点はリハビリに消極的に見えること。病態失認は欠損の自覚そのものが欠如、アパシーは自覚はあるが意欲が低い。 | 構造化された面接、Anosognosia質問紙 |
| せん妄 vs 高次脳機能障害の急性増悪 | 共通点は注意散漫・見当識低下。せん妄は日内変動が大きく、意識レベルの変動を伴う点が特徴的。 | CAM-ICU、意識レベル評価(JCS/GCS) |
| 観念運動失行 vs 観念失行 | 共通点は道具操作が稚拙になること。観念運動失行はジェスチャー模倣で誤りが顕在化、観念失行は実物操作の順序付けに困難が出る。 | 模倣課題、実物操作テスト |
評価尺度と採点基準。
半側空間無視の評価では、「検出」に強い机上検査と「生活上の危険」に強い行動観察検査を組み合わせるのが基本です。代表的なBITとCBSの違いを整理します。
CBSの全10項目
| 項目 | 採点基準 | 解釈 |
|---|---|---|
| 1. 整髪・髭剃り | 0〜3点(左側を忘れる程度) | 整容場面の左側無視 |
| 2. 更衣・履物 | 0〜3点 | 左袖・左靴の操作困難 |
| 3. 食事(食べ残し) | 0〜3点 | 皿の左側の食べ残し |
| 4. 食後の清拭 | 0〜3点 | 口の左側の拭き忘れ |
| 5. 左を向く動作 | 0〜3点 | 頸部回旋の困難さ |
| 6. 左半身の忘却 | 0〜3点 | 左腕・左足の管理忘れ(身体失認との重複に注意) |
| 7. 左側の音・人への注意 | 0〜3点 | 聴覚・対人場面での無視 |
| 8. 左側の人・物との衝突 | 0〜3点 | 歩行・車椅子駆動時の安全リスク |
| 9. 左折の困難さ | 0〜3点 | よく行く場所・リハ室での迷い |
| 10. 自身の所持品の管理 | 0〜3点 | 左側に置いた物品の見落とし |
原版の心理測定特性[観察研究]:Azouvi P, et al. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2003;84(1):51-57。原版CBSの妥当性検証研究です。
日本語版の信頼性・妥当性[観察研究]:長山洋史ら. 総合リハビリテーション. 2011;39(4):373-380(右半球損傷・左片麻痺患者N=26、検者2名による独立採点)。級内相関係数(ICC)・Cohen’s κ係数による検者間信頼性、内的整合性が検討されています。なおCBSのMCID(臨床的最小変化量)は確立した報告がなく、現時点では専門家合意レベルにとどまります。
介入のエビデンス。
知覚障害に対するリハビリテーションは、大きく「改善アプローチ」と「代償アプローチ」の2つに分けて考えます。改善アプローチは損傷後の脳の自己修復能力を前提に特定の知覚要素を再教育するもの、代償アプローチは障害された能力を既存の能力で補うものです。STROKE LABで実施可能な代表的な介入の組み立てを紹介します。
最初は単純な選択的注意課題から開始し、セラピストが難易度・刺激量を段階的に上げていきます。1課題5〜10分程度から始め、1セッション20〜30分、週3〜5回を目安に実施します。
Antonucci G, et al. Journal of Clinical and Experimental Neuropsychology. 1995;17(3):383-389(ランダム化群間比較試験)。半側空間無視患者を2群に分け、左側への能動的な視覚探索を促す走査課題群が、対照訓練群より無視症状の改善が大きいことを報告しています。先行研究では1日あたり45〜60分程度、週5日、3〜4週間継続する実施例が多く報告されています。
Wiart L, et al. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 1997;78(4):424-429。体幹回旋を組み合わせた走査訓練群が標準訓練群より高い改善を示したランダム化比較試験です。机上の眼球運動のみに頼らず、体幹からの定位反応を活用する点が特徴です。
内的補助(心的イメージ・記憶術・リハーサル)と外的補助(掲示板・日記・チェックリスト)を組み合わせます。記憶のリハビリテーションは認知リハビリテーションの一部として位置づけられ、本人の生活様式に合わせた選択が重要です。

高次脳機能障害は、ご本人にも周囲にも気づかれにくい障害です。STROKE LABでは動作分析と神経心理学的評価を組み合わせ、生活の安全とその先の自立を見据えたリハビリテーションをご提供しています。
多職種連携と環境調整。
環境調整の基本
病室では患側にナースコール・私物を置かない/健側からの声かけを徹底する、といった環境側の工夫が安全管理の土台になります。特に半側空間無視のある患者では、ベッド周囲の物品配置を病棟全体で統一することが重要です。
「カンファレンスで介助量や歩行の話だけになっていたら、一度CBSの点数を持ち込んでみよう。生活場面のリスクが共有しやすくなるよ」
「机上検査が軽度でも、看護師からの『ぶつかる』という情報は無視できない。職種ごとに見ている場面が違うから、情報を持ち寄ることが評価の精度を上げるんだ」
| 職種 | 主な評価項目 | 連携ポイント |
|---|---|---|
| PT | 歩行時のふらつき・衝突、姿勢の傾き(SPV) | 移動場面でのCBS該当項目をOTと共有 |
| OT | BIT・CBS、ADL場面の知覚障害全般 | 評価結果を多職種カンファレンスで提示 |
| ST | 注意機能(TMT)、言語性記憶、失語との重複評価 | 注意障害と失語の鑑別をPT/OTに共有 |
| 看護師 | 病棟生活での転倒・衝突歴、食事の食べ残し | 24時間の生活情報をリハ職に提供 |
| 医師 | 責任病巣の画像所見、せん妄など内科的要因の除外 | 病巣情報を踏まえた予後予測の共有 |
| MSW | 退院先の生活環境、介護保険サービスの利用状況 | CBS結果をもとに在宅環境調整を提案 |
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
新人セラピストが高次脳機能障害の評価・介入でつまずきやすいポイントを3つに整理しました。
先輩からの一言
「採点だけ覚えても、点数の意味を生活動作に翻訳できないと臨床では使えない。CBSの1項目ずつを、実際の病棟の場面に当てはめて説明できるようになろう」
予後とゴール設定。
脳血管障害後の選択的注意(集中的注意)の障害は多くの患者で改善しますが、処理速度・分割性注意・ワーキングメモリーなどの高次注意機能は後遺症として残存しやすいとされています。半側空間無視についても、急性期は高頻度に出現する一方で、症状の重症度と持続性には個人差が大きく、一部の患者ではリハビリテーションを通じて時間経過とともに改善が見られます。
BIT・CBSの点数改善そのものをゴールにすると、生活上の課題と乖離します。「リハビリ室の人混みでぶつからない」「自室から食堂までの経路で迷わない」など、CBS項目に対応した具体的な生活場面でゴール設定を行うことで、本人・家族・多職種にとって共有しやすい目標になります。
よくある質問。
Mateenらの研究はランダムフォレストという機械学習モデルで予測したものであり、単純な一つのカットオフ秒数は示されていません。自施設での転倒データと照合しながら参考値として使うのが安全です。
机上検査(BIT)は症状の検出に強く、CBSは生活場面での危険の特定に強いという役割の違いがあります。両者が乖離した場合は、机上で軽度でも生活場面の観察を優先し、移動・更衣・食事などの実動作で安全管理を行ってください。
同名半盲は頭部や眼球を動かすことである程度代償できますが、半側空間無視は代償戦略を伝えても改善しにくいという違いがあります。対座法による視野検査とBITを組み合わせて評価してください。
欠損の指摘を急がず、まず安全管理を優先します。本人が体験できる具体的な場面(実際に物にぶつかる、麻痺側の手を使えないこと)を通して、少しずつ気づきを促す関わりが推奨されます。
観念運動失行はジェスチャーの模倣で誤りが顕在化しやすく、観念失行は実際の道具操作の順序立てに困難が出ます。模倣課題と実物操作課題を分けて評価することで鑑別できます。
発症からの時期と生活上のリスクで判断します。急性期〜回復期前半は改善アプローチを軸にしつつ、生活動作の安全確保が優先される場面では代償アプローチを並行して導入する考え方が一般的です。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは脳卒中専門の自費リハビリ施設です。動作分析と神経心理学的評価を組み合わせ、注意障害・半側空間無視・記憶障害など高次脳機能障害のある方おひとりおひとりに合わせたプログラムをご提供しています。
— STROKE LABでのリハビリテーションの様子
「右半球損傷の利用者様で、机上のBITは軽度なのに食堂で毎回左の食器にぶつかる方がいました。CBSで観察すると食事・歩行の項目が高得点だったため、視覚走査訓練に体幹回旋を組み合わせたメニューに切り替えたところ、3週間ほどで衝突の頻度が明らかに減りました。点数だけでなく、生活場面まで見て初めて介入が決まると実感した症例です」— 作業療法士・臨床経験8年・脳卒中リハビリテーション専門
「病態失認のある利用者様に最初は欠損を説明しようとして、かえって関係がこじれてしまいました。そこで説明をやめ、実際に麻痺側の手で物を持つ場面を一緒に体験してもらう関わりに切り替えたところ、ご本人から『あれ、力が入らないな』という言葉が自然に出てきました。気づきは与えるものではなく、体験から生まれるものだと学びました」— 理学療法士・臨床経験6年・回復期病棟出身
あわせて読みたい:【2026年版】Trail Making Test(TMT)とは|採点方法・年齢別規範値・B/A比を完全解説
諦めないでください。

高次脳機能障害は、麻痺のように外から見てわかる障害ではありません。だからこそ、ご本人やご家族が「なぜできないのか」を理解できず、孤立してしまうことが少なくありません。
STROKE LABでは、専門的な評価に基づいたリハビリテーションを通じて、生活の安全と自立を取り戻すお手伝いをしています。
「物にぶつかる」「忘れっぽい」と感じたら、どうぞ一人で抱え込まず、私たちにご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)