パーキンソン病で電話が苦手になった|原因と対策・自宅でできる工夫
電話が苦手なのは、意志や性格のせいではありません。
「声が小さい」「聞き返される」「ボタンが押しにくい」「話しながらだと頭が真っ白になる」——電話が苦手になった背景には、声・指先・注意配分という、いくつもの理由が重なっていることがほとんどです。原因を分けて考え、今日からできる工夫を整理します。

「もしもし」が、出てこない。
受話器を持つ手に力が入らず、声を出そうとしても思ったほど大きくならない。相手に「え?」と聞き返されるたびに焦り、余計に声がうわずる。ボタンを押そうとしても指が思うように動かず、何度も押し間違える——。対面なら表情や身振りで補えることも、電話では声だけが頼りになるため、苦手意識が一気に強まる方が少なくありません。
でも、知ってほしいのです。電話が苦手になる背景にはいくつもの理由があり、その理由ごとに、今日からできる工夫があるということを。
パーキンソン病では、声・指先の動き・注意の配分など、複数の機能が少しずつ変化することがあります。電話は、そのいくつもの機能を同時に使う、生活の中でも負荷の高い場面です。だからこそ「電話だけ急に苦手になった」と感じる方が多いのです。まずは背景を整理し、そのうえで具体的な立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
電話が苦手になる、5つの背景。
「電話が苦手」とひとことで言っても、つまずいている場所は人によって違います。まずはご自身やご家族が、どこに一番困っているかを確認してみてください。
| 背景 | 電話でどう困るか |
|---|---|
| 声量の低下(小声症) | 声が小さく・こもりやすくなり、電話では表情で補えないため特に伝わりにくい |
| 指先の動作緩慢・振戦 | ボタン操作や受話器を持つ動作が遅く、押し間違えや取り落としが増える |
| 二重課題への弱さ | 話す・聞く・持つ・操作するを同時に行うと、それぞれの精度が落ちやすい |
| 表情・間の変化 | 相づちの間が空きやすく、対面なら表情で伝わる反応が電話では伝わりにくい |
| 不安・回避 | うまくいかない経験が重なり、電話そのものを避けるようになる |
大切なのは、「電話が苦手」を一つの困りごとにまとめず、声・操作・段取り・気持ちに分けて考えることです。分けて考えれば、それぞれに合った工夫が見えてきます。次の章から、具体的な手順にしていきます。

STROKE LABの視点:電話を「リハーサルできる場面」に変える。
電話が苦手になるのは、声・指先・注意配分を、ぶっつけ本番で同時にこなそうとしているためでもあります。あらかじめ分けて準備しておく「電話リハーサル」の考え方で、負担を減らすことができます。次の3ステップで整えてみてください。
ステップ1:話す前に、要件を3行でメモする。「誰に」「何を伝えるか」「何を聞きたいか」を紙に書き出しておきます。電話中に内容を考える負担を減らし、話すことに集中できます。
ステップ2:持つ・操作するを、先に済ませる。スピーカーモードに切り替える、机に置いて話す、番号を短縮登録しておくなど、操作を電話の前に済ませておきます。話しながら操作する場面を、できるだけ減らします。
ステップ3:一文を短く、間をとって話す。長い文で一気に話そうとせず、短く区切って話します。相手の反応を待つ「間」を意識的に作ると、聞き返しが減り、落ち着いて話せます。
最初は家族との電話や、聞き慣れた相手との短い通話で練習するのがおすすめです。「うまく話せた」という経験を少しずつ積み重ねることが、苦手意識を和らげる一番の近道になります。合う工夫の組み合わせは人それぞれなので、作業療法士や言語聴覚士と一緒に調整すると、より自分に合った形が見つかります。

声・操作・道具の、コツ。
段取りを整えたら、声の出し方と道具でさらに話しやすくなります。声については、話す前に大きく息を吸ってから声を出し始めると、声が乗りやすくなります。「もしもし」の一言目だけでも、意識して大きく出す練習をしてみてください。
操作面では、文字やボタンが大きい電話機、音声で発信できる機能、短縮ダイヤルやよく使う相手をお気に入り登録しておく機能が助けになります。受話器を持ち続けるのが負担なら、スピーカーモードやハンズフリーのイヤホンを使い、手の負担を減らすのも良い方法です。声を出す練習は、口や喉だけでなく、体幹や呼吸とも関わるため、体操・自主トレ大全で紹介している呼吸や姿勢の体操もあわせて取り入れると、土台づくりになります。

パーキンソン病の声量低下に対する集中的な発声訓練プログラム(LSVT LOUD)を検証した研究では、訓練後に声の大きさが改善し、その効果が数か月〜1年以上先の追跡調査でも一定程度維持されていたと報告されています。「大きく声を出す」という一点に絞り、高い頻度で繰り返す訓練が、持続的な変化につながる可能性を示しています。
限界:効果には個人差があり、進行に伴って変動します。この訓練は決められた頻度・期間・専門的な指導が前提で、自己流での実施は推奨されません。発声訓練は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。書誌情報は一次情報で必ずご確認ください。
自宅での工夫が、メモやスピーカーモードでその場の負担を減らす代償的な工夫だとすれば、専門施設で目指すのは、声そのもの・注意を配分する力そのものを鍛える回復的アプローチです。電話が苦手という困りごとへの働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 発声・呼吸へのアプローチ。声量低下の背景には呼吸の浅さや喉周りの筋緊張の変化が関わることがあり、体幹・呼吸から声づくりを立て直します。
2. 二重課題トレーニング。話しながら操作する、聞きながら考えるといった同時処理を、難易度を調整しながら段階的に練習し、注意を配分する力そのものを底上げします。
3. 手指の巧緻性と姿勢の土台。ボタン操作に必要な指先の動きや、受話器を安定して持つための姿勢・体幹を整え、操作が崩れにくい身体の下地をつくります。
STROKE LABが軸足を置くのは、「困っている場面」そのものを練習の題材にし、成功体験を積みながら、少しずつ本番に近い負荷に慣れていくという流れです。声・操作・注意配分のどこに一番の壁があるかを見極め、その人に合わせた設計を組み立てます。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
脳リハ.comのYouTubeでは、呼吸や体幹を大きく動かす体操を配信しています。声の土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際に困っている電話の場面(家族への連絡、病院や役所への電話、聞き取りにくい相手など)を一緒に確認し、声・操作・段取りのどこに壁があるかを見極めます。「実際に困っている場面」を練習の題材にすることで、練習の成果がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは声・動作・生活の側から支えます。
受診の目安は、電話以外の場面でも声が出しにくくなってきた、動きにくさやこわばりが目立つようになってきた、といったときです。電話が聞き取りにくい原因は、難聴など他にもあります。自己判断せず、神経内科や耳鼻科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. なぜパーキンソン病になると電話が苦手になるのですか?
Q. 声が小さくて、電話口で聞き返されてしまいます。改善方法はありますか?
Q. スマートフォンや固定電話の操作がうまくできません。どうすればよいですか?
Q. 電話中に話す内容を忘れてしまいます。何が原因でしょうか?

Q. 電話が怖くなってしまい、出るのをためらいます。これも症状の一つですか?
Q. LSVT LOUDとは何ですか?
電話の相談も、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている電話の場面を一緒に確認し、声・操作・段取りのどこに壁があるかを見極めて、その人に合った練習を組み立てます。家族への連絡や病院への電話など、実際の場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、声・動作・生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
分けて整えれば、変わります。

電話が苦手になると、「自分がしっかりしていないからだ」と、ご自身を責めてしまう方によく出会います。ですが、電話は声・指先・注意配分を同時に使う、生活の中でも特に負荷の高い場面です。うまくいかなくて当然、なのです。
お伝えしたいのは、声・操作・段取りを分けて、一つずつ整えるだけで、電話は驚くほど変わることがあるということです。ぶっつけ本番をやめて、リハーサルできる場面に変える。ちょっとした工夫で、話せる場面はまだまだ広がります。
電話でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う方法を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。電話が聞き取りにくい原因には難聴など他のものもあります。気になるときは、必ず神経内科・耳鼻科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年7月13日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Ramig LO, et al. Intensive voice treatment(LSVT LOUD)に関する研究。声量低下の改善と長期的な効果維持を報告(書誌情報は一次情報でご確認ください)。
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)