パーキンソン病で玄関で靴を履くときにふらつく|原因と対策・自宅でできる工夫
立ったまま履くのを、やめてみる。
玄関で靴を履こうとして、片脚立ちになった瞬間にぐらついた。前かがみになったら、足がすくんで出なくなった――それはパーキンソン病でみられる症状かもしれません。玄関という場所そのものに、ふらつきやすくなる理由があります。しくみと、今日から自宅でできる対策を整理します。

「あと少しで、転ぶところだった。」
出かけようと玄関に立ち、片足を上げて靴に足を入れようとした瞬間、体が大きく傾く。あるいは、いざ一歩を踏み出そうとしたところで足が地面に張りついたように動かなくなる。急いでいるときほど、その傾向が強くなる気がする——そう話される方は少なくありません。
実は、玄関という場所そのものに、ふらつきやすくなる条件が重なっているのです。それを知り、環境と動き方を少し変えるだけで、リスクは大きく下げられます。
パーキンソン病では、体のバランスを立て直す働きが低下したり、歩き出そうとする足が出にくくなったりすることがあります。靴を履くという動作は、片脚立ち・前かがみ・戸口の通過という、負荷が重なりやすい要素をすべて含んでいます。まずはそのしくみを知り、そのうえで具体的な対策を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
なぜ、玄関でふらつくのか。
玄関でのふらつきには、しくみの異なる3つの原因が関わっていることがあります。混同すると対処を間違えてしまうため、まずは整理しておきましょう。
| 原因 | どういうことか |
|---|---|
| 姿勢反射障害 | 体が傾いたときに立て直す反応が弱くなり、片脚立ちで特に出やすい |
| すくみ足 | 歩き出そうとしても足が出ない。戸口や段差で起こりやすい |
| 起立性低血圧 | 前かがみから体を起こす際に血圧が下がり、立ちくらみが出る |
| 急ぐ気持ち・二重課題 | 時間や忘れ物を考えながら動くと、いずれの症状も強まりやすい |
特にすくみ足は、戸口のような狭い空間の通過そのものが引き金になることが研究で示されています。玄関は上がり框の段差、ドアという戸口、そして「早く出かけなくては」という気持ちが重なる、条件のそろった場所なのです。
パーキンソン病ですくみ足のある方と健常な方を対象に、幅の異なる戸口を通過してもらった研究では、戸口の幅が狭くなるほど、すくみに近い動作の停止が有意に増えたと報告されています。薬による治療はこの停止を減らした一方、姿勢の乱れそのものは残ったとされています。
限界:実験環境での少人数(各群10名)の研究で、日常の玄関とは条件が異なります。個人差があり、すべての方に同じように当てはまるわけではありません。
ここに、対策のヒントが隠れています。戸口や段差そのものをなくすことはできなくても、負荷を分散させることはできる。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。

STROKE LABの視点:玄関を「キュー付きの安全ゾーン」に変える。
玄関でのふらつき対策でいちばん効果が出やすいのが、体を鍛える前に、まず環境を変えることです。がんばってバランスを保とうとするより、そもそも不安定な姿勢を取らずに済む環境のほうが、確実にリスクを下げます。次の3ステップで見直せます。
ステップ1:腰かけて履ける高さの椅子・ベンチを置く。片脚立ちという、もっともふらつきやすい姿勢そのものをなくします。上がり框に座れる高さの椅子やベンチを置くだけで、靴を履く動作は座位の作業に変わります。
ステップ2:手すり・つかまる場所をドア脇に用意する。立ち座りの瞬間、体を起こす瞬間は、依然としてバランスを崩しやすい場面です。手を伸ばせば必ずつかまれる位置に、縦型の手すりや安定した家具を配置します。
ステップ3:床にテープなどで目印の線を引く。戸口や上がり框の前後に、色の違うテープで線を引いておきます。足を置く目標ができることで、すくみ足が出ても最初の一歩が出やすくなります。
この3つは、それぞれ別の原因に対応しています。椅子は姿勢反射障害、手すりは立ちくらみ、床の目印はすくみ足への備えです。どれか1つではなく、組み合わせて用意しておくことがポイントです。合う配置や高さは住まいによって異なるので、理学療法士・作業療法士と一緒に現地で確認すると近道です。

今日からできる、姿勢と動作のコツ。
環境を整えたら、動き方でさらに安定します。合言葉は「座って、片足ずつ、急がない」。当たり前のようですが、出かける前は忘れがちなポイントです。

靴は、かがまずに使える長い靴べらや、脱ぎ履きしやすいスリッポンタイプが助けになります。足を上げる前に、いったん体重を反対の足にしっかり移してから動くと、片脚立ちの時間そのものが短くなります。もし戸口で足が出なくなったら、慌てて踏み出そうとせず、その場で足踏みをする、1・2と声に出して数える、といった方法が有効なことがあります。時計を見ながら、忘れ物を考えながらといった「ながら動作」は、いずれの症状も強めやすいため、玄関では動作に集中することも大切です。体幹や下肢の運動で土台を整えておくと、姿勢の安定にもつながるので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。
パーキンソン病の方153名を対象に、視覚や聴覚のリズムを使った自宅での歩行トレーニングを行った無作為化比較試験(RESCUE trial)では、すくみ足のある方でその重症度が軽減し、歩く速さ・歩幅・バランスの指標もあわせて改善したと報告されています。
限界:効果は6週間の休止後に低下する傾向がみられており、継続的な取り組みが前提になります。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。トレーニングは薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での工夫が、不安定な姿勢そのものを避ける代償的なアプローチだとすれば、専門施設で目指すのは、崩れた姿勢を自分の力で立て直す反応そのものを引き出す回復的アプローチです。玄関でのふらつきへの働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 姿勢反応の再学習。前後左右に外乱を加えながら、体が傾いたときに一歩を踏み出して立て直す反応を、安全な環境の中で繰り返し引き出します。
2. 多感覚キューイング。視覚の目印だけでなく、聴覚のリズムや、体に触れる合図など、その人にいちばん反応しやすいキューを見極め、戸口の通過に応用します。
3. 二重課題への段階的な慣らし。「考えながら動く」場面で崩れやすいことを踏まえ、簡単な課題を加えながら歩く・立つ練習を段階的に行い、実生活の負荷に近づけます。

STROKE LABが軸足を置くのは、安全な環境でキューと外乱を組み合わせ、崩れる前提で立て直す力を育てていくという流れです。玄関だけでなく、生活のさまざまな場面に応用できるよう、専門的に設計します。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。血圧に関わる薬の調整は主治医の役割です。
脳リハ.comのYouTubeでは、バランスや歩行の土台をつくる体操を配信しています。玄関での安定づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、実際のご自宅の玄関を確認しながら、椅子や手すりの高さ・位置、床の目印、靴の種類までを、その人の体格や動き方に合わせて調整します。「実際に困っている動作」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。血圧や薬の調整は主治医の役割で、私たちは姿勢・動作と住環境の側から支えます。
受診の目安は、転倒を繰り返す、ふらつきの頻度や程度が明らかに強くなってきた、立ちくらみを伴うようになった、といったときです。ふらつきの原因はパーキンソン病だけとは限りません。自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 玄関で靴を履くときにふらつくのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 靴を履こうとすると、足が固まって動かなくなることがあります。これは何ですか?
Q. 自宅でできる対策はありますか?
Q. 立ちくらみのようなふらつきもあります。関係がありますか?
Q. 運動やリハビリで、玄関でのふらつきは改善しますか?
Q. すくみ足と姿勢反射障害は同じものですか?
玄関でのふらつきの相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている玄関での動作を一緒に確認し、住環境の工夫・姿勢の立て直し・動作練習を、その人に合わせて組み立てます。実際の玄関や靴を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、姿勢・動作と住環境の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
玄関は変わります。

玄関でぐらついたり、足が固まって出なくなったりすると、出かけること自体が怖くなります。「転ぶ前に、外出をあきらめてしまう」という方に、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、椅子を1脚置き、床に線を1本引くだけで、玄関の危険度は大きく下がるということです。体をがんばって鍛える前に、まず環境を味方につける。それだけで、出かけられる場面はまだまだ広がります。
玄関でのふらつきでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。実際のご自宅を拝見しながら、その方に合う環境と動き方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。ふらつきには他の原因もあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月21日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Cowie D, Limousin P, Peters A, Hariz M, Day BL. Doorway-provoked freezing of gait in Parkinson’s disease. Mov Disord. 2012;27(4):492-499.(戸口の幅が狭いほど、すくみに近い動作の停止が有意に増えたと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- Nieuwboer A, Kwakkel G, Rochester L, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease: the RESCUE trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78(2):134-140.(自宅での視覚・聴覚キュー訓練により、すくみ足の重症度と歩行・バランス指標が改善したと報告。第4動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)