パーキンソン病の仮面様顔貌|表情が乏しくなる理由と表情の練習
無表情は仮面ではなく、動きの詰まりです。
「怒っているの?」「元気がないね」と言われるけれど、本人はそんなつもりがない。それはパーキンソン病の仮面様顔貌かもしれません。感情がなくなったのではなく、表情に出す動きが小さくなっているだけです。しくみと、今日から自宅でできる表情の立て直し方を整理します。

「怒ってる?」と、聞かれた。
孫が遊びに来ても、テレビで笑える番組を見ていても、表情が動かない。久しぶりに会う親戚から「元気ないね」「体調悪いの?」と聞かれるたびに、本人も家族も戸惑う——。そんな声を、リハビリの現場でよく耳にします。
でも、知ってほしいのです。これは仮面様顔貌という症状で、表情の動かし方を練習するだけで、少しずつ表に出せるようになるということを。
パーキンソン病では、顔の筋肉が動きにくくなる仮面様顔貌がみられることがあります。表情をつくる動作も、体の動きと同じように、少しずつ小さく・遅くなることがあります。それが顔に起こると、周囲からは「無愛想」「元気がない」に見えてしまうのです。まずはしくみを知り、そのうえで具体的な立て直し方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
仮面様顔貌の、しくみと特徴。
仮面様顔貌は、顔の筋肉における動作緩慢・筋強剛の一種で、専門的には顔面ブラジキネジアとも呼ばれます。多くのパーキンソン病の方に経験される症状で、診断がつくよりずっと前から表情の変化として現れることもあります。特徴を整理しておきましょう。
| 特徴 | どういうことか |
|---|---|
| 表情の動きの幅が小さい | 笑う・驚くといった動きそのものが、以前より小さくなる |
| まばたきが減る | 目の周りの動きも小さくなり、まばたきの回数が減ることがある |
| とっさの表情ほど乏しい | 自然にわき上がる表情のほうが、意識してつくる表情より乏しくなりやすい |
| 感情そのものは保たれる | 表に出にくいだけで、内側で感じている気持ちは動いている |
ここに、立て直しのヒントが隠れています。とっさの表情が乏しくても、意識してつくる表情はまだ動かせる。だからこそ、意識して大きく動かす練習を重ねることに意味があります。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。

STROKE LABの視点:鏡を「味方」に変える。
仮面様顔貌の対処でいちばん取り組みやすいのが、鏡を使って、自分の表情を目で確認しながら大きく動かすことです。動きが小さくなっていることに本人は気づきにくいため、鏡が「これくらい動いていますよ」という手がかりになります。自宅で、次の3ステップで取り組めます。
ステップ1:鏡の前で、今の表情をセルフチェックする。笑う・驚く・怒るなど基本の表情を一通りつくってみて、自分の顔がどれくらい動いているかを確認します。動きの小ささに気づくこと自体が、練習の第一歩です。
ステップ2:大げさなくらい、大きく動かす。恥ずかしいと感じるくらいの大きさが、実はちょうどいい目安です。眉を思い切り上げる、口角を思い切り引き上げる、頬を思い切り膨らませるなど、可動域の端まで動かすことを意識します。
ステップ3:声を出しながら動かす。「あ」「い」「う」「え」「お」を大きな口の形で発声しながら表情筋も一緒に動かします。声を出す筋肉と表情をつくる筋肉は連動しているため、声を出すほうが動きが大きくなりやすいのです。
好きな歌を歌いながら、大げさな表情をつけて練習するのも楽しく続けられる方法です。大切なのは、鏡というキューを使って大きな動きを体で覚え、少しずつ自然な場面でも表情が動くようにしていくこと。合う練習の頻度や強さは人それぞれなので、作業療法士や言語聴覚士と一緒に調整すると近道です。

練習メニューと、家族の関わり方。
鏡での基本を押さえたら、具体的な練習メニューと、周囲の関わり方でさらに表情は動かしやすくなります。合言葉は「大げさに、はっきり、声も一緒に」です。
練習メニューの例としては、眉を上下に大きく動かす、目を思い切り見開く、頬を膨らませてすぼめる、口を大きく開けて「イー」「ウー」の形をつくる、といった動きを1つずつ数回ずつ行います。毎日決まった時間に、テレビを見ながらでも構わないので習慣にすることが続けるコツです。体全体を大きく動かす運動も表情筋の動きやすさにつながるので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。
そして、ご家族にお伝えしたいことがあります。表情が乏しいことを、気持ちの問題だと決めつけないでください。楽しんでいても、嬉しくても、顔に出にくいだけかもしれません。「今のお話、楽しかった?」と言葉で確認したり、本人にも「言葉で気持ちを伝える」ことを意識してもらったりすると、コミュニケーションのすれ違いが減ります。

パーキンソン病の方を対象に、表情筋の運動プログラムを比較した研究では、セラピストが付き添って表情を意識づける訓練を受けたグループで、運動症状の評価尺度(UPDRS-III)の表情項目が有意に改善し、恐怖の表情の豊かさも向上したと報告されています。
限界:実施可能性を確認する段階の研究で、対象人数は多くありません。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。表情の練習は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での練習が、鏡を見ながら大きく動かす意識的な代償動作だとすれば、専門施設で目指すのは、意識しなくても自然な場面で表情が動く状態に近づける回復的アプローチです。仮面様顔貌への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. キューイング。視覚(鏡)だけでなく、聴覚(声を出す・リズムに合わせる)や、感情を想起する会話など、その人にいちばん響くきっかけを見極めます。
2. 大きく動く運動学習。あえて大きな動作を繰り返し、脳が縮めてしまう動きの幅を、表情筋だけでなく発声や呼吸も含めて立て直します。
3. コミュニケーションの土台づくり。表情に頼らずとも気持ちが伝わるよう、声のトーンや言葉での表現、ジェスチャーなど、複数の手段を組み合わせる練習も行います。
STROKE LABが軸足を置くのは、鏡やキューで大きな動きを引き出し、成功体験を積みながら、少しずつ自然な場面でも表情が出るように近づけていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
パーキンソン病の方21名を対象に、週1回60分・12週間の表情リハビリテーション運動を行った国内の研究では、練習を受けたグループで表情筋の筋電活動が高まり、表情分析でも笑顔にあたる指標が向上し、気分も改善したと報告されています。
限界:解析対象となった人数は少なく、より大規模な検証が今後必要です。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。集中的な訓練には専門的な評価と指導が前提です。表情の練習は薬の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
脳リハ.comのYouTubeでは、声や体を大きく動かす体操を配信しています。表情筋の土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、その人が困っている場面(会話中に表情が出にくい、写真で無表情に写るなど)を一緒に確認し、練習の強さや頻度、キューの種類を、その人に合わせて調整します。「実際に困っている場面」を練習の題材にすると、生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは表情の動きと生活の側から支えます。
受診の目安は、表情の変化に加えて気分の落ち込みが続く、他にも動きにくさやこわばりが出てきた、といったときです。表情が乏しくなる原因は仮面様顔貌だけとは限りません。自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 表情が乏しくなるのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 表情が乏しいと、感情がないと思われませんか?
Q. 自宅でできる表情の練習はありますか?

Q. 仮面様顔貌は練習で良くなりますか?
Q. まばたきが減ったのも、同じ症状ですか?
Q. 仮面様顔貌は、うつと同じものですか?

表情の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている場面を一緒に確認し、表情の練習・声かけ・コミュニケーションの工夫を、その人に合わせて組み立てます。会話や写真、家族との時間など、実際の場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、表情の動きと生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
表情は変わります。

表情が乏しくなると、家族や友人との何気ない時間の中で、気づかないうちにすれ違いが生まれます。「元気がないと思われて悲しい」「本当は楽しかったのに伝わらなかった」——そんな声を、たくさん聞いてきました。
お伝えしたいのは、鏡の前で1回、大げさに笑うだけで、表情は驚くほど動くことがあるということです。鏡を味方につけ、大げさなくらい、声も一緒に。ちょっとした練習で、伝わる表情はまだまだ取り戻せます。
表情でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う練習を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。表情の変化には他の原因もあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月8日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Ricciardi L, Baggio P, Ricciardi D, et al. Rehabilitation of hypomimia in Parkinson’s disease: a feasibility study of two different approaches. Neurol Sci. 2016;37(3):431-436.(セラピスト付き添いの表情リハビリでUPDRS-III表情項目と恐怖表情の豊かさが有意に改善したと報告。第1エビデンスボックスの出典)
- Okamoto R, Adachi K, Mizukami K. Effects of facial rehabilitation exercise on the mood, facial expressions, and facial muscle activities in patients with Parkinson’s disease. Nihon Ronen Igakkai Zasshi. 2019;56(4):478-486.(週1回12週間の表情リハビリで表情筋活動と気分が改善したと報告する国内研究。第2エビデンスボックスの出典)
- Bologna M, Fabbrini G, Marsili L, et al. Facial bradykinesia. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2013;84(6):681-685.(顔面ブラジキネジアの病態に関する基礎的知見)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)