パーキンソン病で家事の負担を減らす工夫|原因と対策・自宅でできる工夫
つらいのは、気合いのせいではありません。
洗濯物をたたむのに時間がかかる、料理の途中で疲れて座り込んでしまう、玄関で足が動かなくなる——。パーキンソン病で家事がつらくなる背景には、運動症状だけでなく、疲労や段取りの立てにくさなど、いくつもの原因が重なっています。原因を整理し、今日から自宅でできる工夫を紹介します。

「こんなに、大変だったっけ。」
以前は当たり前にできていた掃除・洗濯・料理が、いつのまにか時間がかかるようになり、途中で疲れて中断してしまう。本人はもどかしく、見ている家族も、どこまで手伝えばよいのか分からず戸惑う——。そんな声を、私たちはたくさん聞いてきました。
大切なのは、「なぜ大変になったのか」を分けて考え、原因ごとに工夫を組み合わせることです。
家事は、立つ・歩く・つかむ・運ぶ・考える、といった動作の連続です。パーキンソン病では、この一つひとつに小さな影響が出るため、まとめて行うと「大変さ」が積み重なって感じられます。まずはその原因を整理し、そのうえで具体的な工夫を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
家事が大変になる、様々な原因。
「家事がつらい」という一つの結果の裏には、運動症状だけでなく、目に見えにくい非運動症状まで、複数の原因が重なっています。どれか一つではなく、自分にはどの原因が強く出ているかを知ることが、工夫の第一歩になります。
| 原因 | 家事にどう影響するか |
|---|---|
| 動作緩慢 | 拭く・切る・畳むといった一つひとつの動きに時間がかかる |
| すくみ足 | キッチンや玄関など、狭い場所や方向転換で足が動かなくなる |
| 巧緻動作の低下 | ボタン留めや洗濯ばさみなど、指先の細かい作業がしづらい |
| 姿勢反射障害 | 高い場所に手を伸ばす、しゃがむ動作でふらつきやすい |
| 遂行機能の低下 | 段取りを組んで複数の作業を同時に進めるのが苦手になる |
| 疲労・症状の変動 | 薬の効き方によって、時間帯でできることが変わる |
加えて、意欲の低下や気分の落ち込みが重なると、体は動かせても「やる気が起きない」という形で家事から遠ざかることもあります。原因が複数あるということは、工夫の入り口も複数あるということです。次の章から、具体的な立て直し方を見ていきます。

STROKE LABの視点:家事を「小さな工程」に分ける。
家事がつらくなる大きな理由の一つは、「一つの家事」を最初から最後まで、まとめて片づけようとしてしまうことです。工程を分け、時間帯を選び、動線に目印をつくる。この3つで、同じ家事でも負担の感じ方は大きく変わります。
ステップ1:工程を分けて、一区切りごとに休む。「洗濯物を干す」なら、かごを運ぶ・干す・取り込むを別の作業として分け、それぞれの後に一度座ります。一気に片づけようとしないことが、続けるコツです。
ステップ2:薬が効いている時間帯に、重い工程を置く。体が動かしやすい時間帯を振り返り、掃除機がけや買い物など体力を使う工程をその時間に配置します。動きにくい時間帯には、座ってできる工程を回します。
ステップ3:つまずきやすい場所に、目印と一呼吸を置く。キッチンの入り口や方向転換する場所に目印のテープを貼り、そこでは一度立ち止まって「いち、に」と声に出してから進みます。焦って通ろうとすると、かえって足が出にくくなることがあります。
狭い場所の通過や方向転換、考えごとをしながらの動作は、足がすくみやすい典型的な場面として知られています。目印や一呼吸を置く工夫は、この性質を踏まえた対処法です。合う工程の分け方や目印の位置は人によって異なるため、作業療法士と一緒に、生活の動線を実際に歩きながら調整するのがおすすめです。

家事別・自宅でできる工夫。
ここからは、掃除・洗濯・料理・買い物の場面ごとに、具体的な工夫を紹介します。すべてを一度に取り入れる必要はありません。いちばん困っている場面から、一つずつ試してみてください。
掃除
長時間立ち続ける掃除機がけは疲れやすいため、キャスター付きのモップや軽量な掃除機を使い、座れる場所を要所に用意しておきます。高い場所の拭き掃除は、ふらつきの原因になりやすいため、柄の長い道具を使って足元を安定させたまま行いましょう。
洗濯
洗濯かごを運ぶ代わりにキャスター付きのカートを使うと、両手が自由になり転倒のリスクも減らせます。物干しは、腕を高く上げなくてよい高さに調整し、洗濯ばさみは大きめでつまみやすいものに替えると、指先の負担が減ります。畳む作業は椅子に座って行い、時間を区切って進めましょう。
料理
材料を先にすべて出しておく、調理の手順をメモにして目につく場所に貼るなど、段取りを頭の中だけに頼らず外に出しておくと進めやすくなります。包丁の代わりに調理ばさみや固定式のスライサーを使う、冷凍の下ごしらえ食材や電子レンジを活用して火を使う時間を短くする、といった工夫も負担を減らします。
買い物
買うものはあらかじめリスト化し、混雑する時間帯を避けて出かけると、歩行に集中しやすくなります。重い荷物はキャスター付きのバッグにまとめ、必要に応じてオンラインでの注文や宅配サービスも取り入れると、体力の消耗を抑えられます。

すくみ足に関するキューイングのレビューでは、方向転換や、扉のような狭い場所の通過、考えごとをしながら動く二重課題の状況で、すくみ足が誘発されやすいとまとめられています。台所の作業台や玄関は、まさにこれらの条件が重なりやすい場所であり、視覚・聴覚の目印を使ったキューイングが有効な対処法として紹介されています。
限界:キューイングの効果には個人差があり、症状の進行によっても変動します。すくみ足による転倒は生活に大きく影響するため、頻繁に起こる場合は自己対処だけに頼らず、神経内科・理学療法士に相談してください。
自宅での工夫が、道具や環境を変えてその場の負担を減らす代償的アプローチだとすれば、専門施設で目指すのは、実際の家事動作を評価し、本人の運動症状と生活の困りごとを結びつけて練習を組み立てる回復的アプローチです。
1. 動作分析にもとづく評価。台所での立ち姿勢、物を運ぶときの歩行、指先の使い方など、実際の家事動作を観察し、どの症状がどの場面に影響しているかを特定します。
2. 生活場面を題材にした練習。台所や洗面所など、実際に困っている場所で、動作そのものを繰り返し練習します。練習が生活にそのまま活きるよう、場面を選んで組み立てます。
3. 家族を含めた役割の調整。本人ができる工程と、家族が手伝う工程を一緒に整理し、負担が偏らない分担のかたちを探ります。
STROKE LABが軸足を置くのは、道具や環境の工夫と、動作そのものの練習を組み合わせ、できることを少しずつ広げていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
脳リハ.comのYouTubeでは、立つ・歩く・手を伸ばすといった、家事の土台となる体の動きを鍛える体操を配信しています。無理のない範囲で、日課に取り入れてみてください。
専門リハと、ご家族の関わり方。
専門のリハビリでは、実際に困っている家事の場面を一緒に確認し、工程の分け方・道具・動線を、その方の症状に合わせて調整します。「実際に困っている場面」を練習の題材にすることで、練習の効果がそのまま生活に活きやすくなります。

パーキンソン病の在宅生活者を対象とした多施設無作為化比較試験(OTiP試験)では、10週間の在宅・個別作業療法を受けた群で、日常生活動作の自己評価による遂行状況が改善したと報告されています。家事を含む生活動作を、実際の場面で個別に調整する介入の意義を示す結果です。
限界:効果には個人差があり、症状の進行によって変動します。作業療法は薬による治療の代わりではなく、主治医の治療と組み合わせて使うものです。介入の頻度や内容は、専門的な評価にもとづいて個別に決まります。
ご家族の関わり方も、負担の感じ方を大きく左右します。できることまで先回りして手伝いすぎると、体を動かす機会が減ってしまうことがある一方、無理をさせすぎるのもつらさにつながります。「ここは本人に任せる」「ここは手伝う」を、様子を見ながら一緒に決めていく姿勢が助けになります。
受診の目安は、家事のできる範囲が急に狭くなった、転びやすくなった、体重が減ってきた、といった変化があるときです。こうした変化は薬の効き方や体調の変化が関係していることもあります。自己判断せず、神経内科で確認してください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。体を動かす習慣づくりは体操・自主トレ大全もご参照ください。
よくある質問。
Q. 家事がしんどいのは、気合いや工夫が足りないからですか?
Q. なぜキッチンや玄関で足がすくみやすいのですか?

Q. 家事を家族に手伝ってもらうのは、甘えになりますか?
Q. 家事の合間に、どのくらい休憩を入れたらいいですか?
Q. 家事の工夫だけで、症状そのものは良くなりますか?
Q. 家事が急にできなくなったら、何科に相談すればいいですか?
生活の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている家事の場面を一緒に確認し、動作の評価・道具・動線・家族の役割分担まで、その方の生活に合わせて組み立てます。実際に困っている場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、生活動作の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
家事は続けやすくなります。

家事ができなくなっていくことは、単なる不便さ以上に、その人らしさや役割が失われていくような感覚を伴います。「もう自分では家のことができない」と、自信をなくしてしまう方に、たくさん出会ってきました。
お伝えしたいのは、家事を小さな工程に分け、原因に合わせた工夫を重ねれば、できることはまだ広げられるということです。一気に元に戻そうとせず、一つの工程から。それだけで、続けやすさは変わります。
家事でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方に合う暮らし方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍・文献の枠組みをもとに構成しています。家事の負担感には他の体調変化が関わることもあります。急な変化は、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年9月3日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Sturkenboom IH, et al. Efficacy of occupational therapy for patients with Parkinson’s disease: a randomised controlled trial. Lancet Neurol. 2014;13(6):557-566.(在宅・個別作業療法により、日常生活動作の自己評価による遂行状況が改善したと報告。第5動線・エビデンスボックスの出典)
- Ginis P, et al. Cueing for people with Parkinson’s disease with freezing of gait: a narrative review of the state-of-the-art and novel perspectives. Ann Phys Rehabil Med. 2018;61(6):407-413.(方向転換・狭い場所の通過・二重課題ですくみ足が誘発されやすく、キューイングが有効な対処法であるとまとめたレビュー。第4動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)