本態性振戦とパーキンソン病の違い|ふるえの種類を見分ける
震えを見れば、すべてわかるわけではありません。
「手が震える」と一口に言っても、その正体は一つではありません。じっとしている時に強い震えと、何かをしようとした時に強い震えでは、しくみも見通しも異なります。本態性振戦とパーキンソン病の震え、見分けるための着眼点と、受診までにできる準備を整理します。

「これは、パーキンソン病ですか?」
最近、コーヒーカップを持つ手が細かく震える。字を書くときに手元が定まらない。インターネットで調べると「パーキンソン病」という言葉が真っ先に出てきて、不安になった——。震えの相談で、私たちはこうした声によく出会います。
でも、知ってほしいのです。手が震える原因の多くは、パーキンソン病より頻度の高い本態性振戦という、別の病気であることも少なくないということを。
震え(振戦)は、パーキンソン病だけの症状ではありません。実は、本態性振戦という病気は、パーキンソン病よりも患者数が多いとされる、日常でよくみられる震えの原因です。まずは両者のしくみの違いを知り、そのうえで、受診の際に役立つ「見分けの着眼点」を具体的に見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
しくみと、特徴の違い。
本態性振戦は、それ自体が一つの病気の名前です。パーキンソン病でみられる震え(安静時振戦)とは、脳の中で起きていることが異なると考えられています。「震えが出るタイミング」に注目すると、違いが見えやすくなります。代表的な特徴を整理しました。

| 着眼点 | 本態性振戦 | パーキンソン病の震え |
|---|---|---|
| 出やすい場面 | 字を書く・コップを持つなど、動作をしているとき | 手を膝に置いて、じっとしているとき |
| 左右差 | 比較的左右対称に出ることが多い | 片方の手足から始まることが多い |
| 伴いやすい症状 | 通常、震え以外の運動症状は目立たない | 動きの遅さ・筋肉のこわばり・小刻み歩行を伴うことが多い |
| 家族歴 | 家族に同じ震えの人がいることが比較的多い | 家族に同じ症状の人がいることは多くない |
| 進行の仕方 | ゆっくりと震えの幅が大きくなっていくことが多い | 震えに加えて、他の運動症状が徐々に加わっていく |
ここで大切な注意点があります。震えの周波数(1秒間に震える回数)は、実は両者で重なる部分が多く、震え方の「見た目」だけで完全に区別することは専門医でも簡単ではありません。また、本態性振戦とパーキンソン病を、同じ方が両方持っているケースも報告されています。だからこそ、自己判断で結論を出さず、次の章で紹介する観察の記録を持って、神経内科を受診することが一番の近道になります。

手首に取り付けた加速度センサーで震えのリズムのばらつき(振戦安定性指標)を測定した研究では、本態性振戦とパーキンソン病の震えを、感度95%・特異度95%・全体の診断精度92%という高い精度で区別できたと報告されています。
限界:これは研究用の専用機器と解析による結果で、一般の外来ですぐに使える標準検査ではありません。診断の最終的な基準は、今なお運動障害の専門医による詳細な診察です。この指標は、診察を補う参考情報の一つとして研究段階にあります。
STROKE LABの視点:振戦観察の3ステップ。
震えの見分けは、専門医でも一度の診察だけでは判断が難しいことがあります。だからこそ、受診の前に、家庭で震えを観察して記録しておくことが、診断の大きな助けになります。診察室の短い時間では見えにくい「普段の震え方」を、次の3ステップで残しておきましょう。
ステップ1:いつ震えるかを記録する。手を膝に置いて休んでいる時(安静時)と、コップを持つ・字を書く時(動作時)で、震え方に差があるかをメモします。緊張した時や、朝と夜で違いがあるかも書き添えると役立ちます。
ステップ2:左右どちらが強いかを確認する。右手と左手を見比べ、同じくらいか、片方だけ強いかを記録します。あわせて、足やあご、声にも震えがないかを確認しておきましょう。
ステップ3:スマホで動画を撮っておく。安静時と動作時、それぞれ20秒程度でかまいません。診察室では緊張して震えが変化することもあるため、普段の映像があると医師の判断材料になります。
この記録は、診断を自分で下すためのものではありません。神経内科医に「普段の様子」を正確に伝えるための材料です。記録を持って受診すると、限られた診察時間の中でも、より的確な診断につながりやすくなります。

生活の工夫と、付き合い方。
診断がどちらであっても、日常生活での震えへの対処には共通する工夫があります。「道具を変える」「動作の途中で力を抜く」「支えを増やす」という3つの視点が助けになります。
重みのあるコップやペンは、軽いものより震えの影響を受けにくいことがあります。動作の途中でひと呼吸置き、力を抜いてから続けると、震えが強まりにくくなる方もいます。字を書く・食事をする際は、片方の手や腕で支えを作ると安定しやすくなります。緊張・睡眠不足・カフェインの摂りすぎは震えを強める要因になりやすいため、生活リズムを整えることも大切です。体を動かす習慣は全身の安定にもつながるので、体操・自主トレ大全もあわせてご覧ください。
本態性振戦の方104名を対象に、飲酒前後の震えの大きさを専用の検査で客観的に測定した研究では、少なくとも46%の方で、飲酒後に震えが客観的に軽くなったことが確認されたと報告されています。これは診断の手がかりとして知られてきた現象を、数値で裏づけたものです。
限界:残りの半数以上の方には、はっきりした効果が確認されませんでした。また、飲酒の翌朝には震えが一時的に強まる反動もみられています。この結果は診断の参考情報であり、震えへの対処としてアルコールを日常的に用いることをすすめるものではありません。
診断がついたあとの課題は、震えがあっても、生活動作をどう安定して行うかです。震えの種類によって、有効なアプローチの重心は変わります。STROKE LABでは、大きく3つの方向から動作の安定化を組み立てます。
1. 重み付けと支持面の調整。道具や姿勢に重みと支えを加え、震えの振れ幅が動作の失敗につながりにくい環境をつくります。
2. 体幹・肩甲帯の安定化練習。手先の震えは、体幹や肩の不安定さで増幅されることがあります。土台となる姿勢の安定を、運動を通じて整えます。
3. 動作分解と代償動作の練習。震えが強く出やすい局面(コップを口元に運ぶ最後の数センチなど)を分解し、負担の少ない動かし方に置き換える練習を行います。
パーキンソン病の震えであれば、あわせて動作緩慢・すくみ足なども含めた全体的なリハビリを組み合わせることが多くなります。震えの種類にかかわらず、薬の調整は主治医の役割であり、私たちは生活動作の側から支えます。効果には個人差があり、進行や体調によって変動します。

脳リハ.comのYouTubeでは、姿勢の土台をつくる体操を配信しています。震えのある方も、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
受診の目安は、①震えが生活に支障を及ぼしはじめた、②震え以外に動きの遅さやこわばり、歩きにくさが出てきた、③片側だけに震えが強く出始めた、のいずれかに当てはまるときです。震えの原因は本態性振戦・パーキンソン病以外にも、甲状腺の病気や薬の影響などさまざまです。自己判断で様子を見続けず、神経内科で原因を確かめることをおすすめします。
専門のリハビリでは、診断後の「動作の安定化」を担当します。薬の調整や診断そのものは主治医・神経内科医の領域として尊重し、私たちは日常生活の困りごとに寄り添う形で支援します。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 安静にしていても震える場合と、動いたときに震える場合で、何が違いますか?
Q. お酒を飲むと震えが止まるのは本態性振戦のサインですか?
Q. 家族に同じような震えの人がいます。遺伝しますか?
Q. 震えがあるだけで、パーキンソン病と言われますか?
Q. 本態性振戦は治りますか?
Q. 家でできる震えへの対処法はありますか?
震えの相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。診断そのものはご専門の神経内科にお任せしつつ、診断後の「震えとどう付き合い、どう動作を安定させるか」を一緒に考えます。道具の工夫・姿勢の土台づくり・動作の分解練習まで、生活の困りごとを題材に組み立てます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
震えを記録してみてください。

震えに気づいた瞬間、多くの方が真っ先に頭に浮かべるのは「パーキンソン病では」という不安です。その不安は自然なことですが、震えの原因はパーキンソン病だけではなく、本態性振戦をはじめ、いくつも考えられます。
お伝えしたいのは、震え方を落ち着いて観察し、記録して専門医に伝えることが、正しい診断への一番の近道になるということです。診断がついた後も、生活の工夫や動作の練習で、できることはまだたくさんあります。
震えでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。診断後の生活を、動作の面から一緒に整えていきます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。震えの原因はさまざまです。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月12日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- di Biase L, Brittain JS, Shah SA, et al. Tremor stability index: a new tool for differential diagnosis in tremor syndromes. Brain. 2017;140(7):1977-1986.(加速度センサーによる振戦安定性指標が本態性振戦とパーキンソン病の震えを高精度に鑑別したと報告。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Hopfner F, Erhart T, Knudsen K, et al. Testing for alcohol sensitivity of tremor amplitude in a large cohort with essential tremor. Parkinsonism Relat Disord. 2015;21(8):848-851.(本態性振戦患者の少なくとも46%で飲酒後に震えの客観的な軽減がみられたと報告。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- Fekete R, Jankovic J. Revisiting the relationship between essential tremor and Parkinson’s disease. Mov Disord. 2011;26(3):391-398.
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)