道に迷うようになった(地誌的障害)|安全に外出を続ける工夫 – STROKE LAB 東京/大阪 自費リハビリ | 脳卒中/神経系
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高次脳機能障害

道に迷うようになった(地誌的障害)|安全に外出を続ける工夫

TOPOGRAPHICAL DISORIENTATION

慣れた道で迷う。覚えるより、戻れるように。

いつもの道で迷う。駅から家に帰れない。慣れた場所で、どっちへ行けばいいか分からなくなる。脳卒中や頭のけがのあとのその様子は、地誌的障害かもしれません。これは記憶や意欲の問題でも、認知症の徘徊でもありません。頭の中に地図を描く力がつまずいているのです。だからこそ、覚え直しより、迷っても戻れる備えが役に立ちます。しくみと工夫を整理します。

UPDATED2026
READ約13分
FORご家族・ご本人へ
BYSTROKE LAB
本記事は、医学書院『脳の機能解剖とリハビリテーション』(2024年・408頁)の著者が執筆しています。迷うのは本人がいちばん不安で、意欲や努力の問題ではありません。安全を最優先に、単独外出の再開は主治医・作業療法士と相談しながら進めてください。

地誌失認の説明

Quick Reference
まず知ってほしい5つのこと。
01
地誌的障害は、頭の中に地図を描く力がつまずいた状態です
02
目的なく歩き回る認知症の徘徊とは違い、行きたい場所へたどり着けない状態です
03
覚え直しに頼るより、迷っても戻れる備えを整えるのが現実的です
04
目印カード・位置情報の共有・迷子カードの3点セットが助けになります
05
安全が最優先。付き添いのある短い範囲から、段階的に広げます
01
Lost On A Familiar Road

いつもの道で、迷った。

A Family’s Voice
「すぐそこの家に、帰れなくなった」

何十年も暮らした家の近所で、道が分からなくなる。いつもの駅から、どちらへ歩けばいいか迷う。曲がり角で立ち止まり、不安そうに周りを見回す。付き添えば歩けるのに、一人だと帰れない。徘徊とは違うのに、認知症と間違われてしまう。本人も家族も、これから外出をどうすればいいのか、途方に暮れます。

でも、これははっきりした脳の症状です。行きたい場所は分かっているのに、そこへの道が描けないだけ。名前は、地誌的障害といいます。

地誌的障害は、脳卒中や頭のけがのあとにみられる高次脳機能障害の一つで、熟知した場所でも道に迷う症状です。多くは、後頭葉から側頭葉、頭頂葉の内側といった、場所の認知や空間の記憶にかかわる領域の損傷で起こります。大切なので先にお伝えします。これは意欲や努力の問題ではなく、認知症の徘徊とも異なります。迷うことに、本人がいちばん不安を感じています。全体像は高次脳機能障害の完全ガイドをご覧ください。

02
The Inner Map Won’t Draw

STROKE LABの視点:頭の中の地図が、描けない。

地誌的障害を理解する鍵は、この一言です。私たちは、頭の中に地図を思い描きながら道を歩いているということです。今どこにいて、どっちを向いていて、目的地はどの方角か。この頭の中の地図を描く力がつまずくと、目に見える景色はそのままなのに、道が分からなくなります。認知症の徘徊のように目的なく歩き回るのではなく、行きたい場所ははっきりしているのに、そこへたどり着けないのが特徴です。

地誌的障害は、つまずく場所によって大きく二つのタイプに分かれます。並べて整理します。

代表的なタイプ どんなふうに迷うか
街並失認 見慣れた建物や風景を見ても、それがどこか分からない。今いる場所自体が分からなくなる
道順障害 場所や目印は分かるのに、そこからどの方角へ進めばよいかが分からない

この二つは、支え方のヒントが変わります。街並失認では、景色に代わる目印を用意する。道順障害では、進む方角を言葉にする。実際には混ざることもありますが、厳密な分類より、どちらに近いかをつかむだけで支え方の見当がつきます。なお、認知症でも道に迷う症状は起こるため、見分けは医療機関で確かめます。

地誌失認の2つのタイプ

03
First Track — At Home

自宅・外出でできること:覚えるより、迷っても戻れるように。

まずは、ご家族が今日から実践できる備えからお伝えします。いちばん大切な発想の転換がこれです。道順を覚え直させることに頼りきるのではなく、迷っても戻れる備えを整える。頭の中の地図がつまずいているなら、外に地図と目印を用意すればいい、という考え方です。そのうえで、安全を最優先に、付き添いのある短い範囲から始めます。

具体的には、次の3点セットが助けになります。迷いやすい人の外出を、ぐっと安心にしてくれます。

3点セット 中身と役割
目印カード よく行く道の目印と曲がる方向を、写真とひとことで書いたカード。緑の塀を右、コンビニを左、のように
位置情報の共有 スマートフォンの位置共有で、家族がいつでも居場所を確認できる。迷ったときに電話でたどり着ける
迷子カード 名前・家族の連絡先・帰る場所を書いた小さなカード。迷ったとき、周りの人に見せて助けを求められる
Evidence
目印を手がかりにする工夫が、道に迷いにくくする

脳損傷で道に迷う人の外出のしかたを調べた研究では、目印を覚える、目印を順番につなぐ、進む方角や体の向きを手がかりにするといった、目印を軸にした工夫を身につけた人ほど、慣れた場所を一人で移動できていたと報告されています。頭の中の地図を丸ごと覚え直すより、目印を手がかりにするほうが現実的とされています。

限界:少数の人を詳しく調べた症例研究で、人数は限られます。効果には個人差があり、まずは安全を最優先に、付き添いや道具の備えと組み合わせることが前提です。

出典:Antonakos CL. Compensatory wayfinding behavior in topographic disorientation from brain injury. Journal of Environmental Psychology. 2004;24(4):495-501. 目印を軸にした代償的な移動の工夫が整理されている。
頭の中で描けないなら、外に、地図と目印を用意する。

迷っても戻れる方法

道順そのものは、覚えさせようとするより、目印を順番につなぐかたちで、一緒に確認するのがこつです。次のBefore/Afterは、その切り替えです。覚え直しの練習の進め方や、外出の装備一式のそろえ方は、外出の記事でくわしく解説します。

地誌失認へのリハビリ対処

ここまでは、家庭でできる迷っても戻れる備えでした。では、専門施設ではさらに何ができるのか。段階的な外出の練習と、家族への手引きを、次にお伝えします。
04
Second Track — At STROKE LAB

専門施設で、さらに期待できること。

ここからは、少し専門的な話になります。リハビリに関わる方や、もっと深く知りたい方に向けて、地誌的障害への関わりの全体像をお伝えします。家庭での3点セットが迷っても戻れる備えだとすれば、専門施設で目指すのはその備えを確実に使えるように練習し、安全を保ちながら外出の範囲を段階的に広げることです。

関わりは、大きく3つの柱で組み立てます。評価とタイプの特定、目印や道具を使う練習、そして家族への手引きと安全の設計です。

3つの柱 中身(一例)
評価とタイプの特定 街並失認か道順障害か、どこで迷うかを、検査と実際の外出の観察で見きわめる。残った力を確かめる
目印や道具を使う練習 目印と方角を言葉にする、スマートフォンを失敗しないように使う、といった練習を、実際の道で段階的に
家族への手引きと安全の設計 付き添いの外し方や見守りの範囲を家族と決め、迷子カードや位置共有の使い方を整える

これらに共通するのは、失敗させずに成功を積み重ね、自信を取り戻すという発想です。迷って怖い思いをするほど、外出そのものが不安になります。だから、確実に戻れる範囲から始めて、少しずつ広げます。一側の脳の損傷では、数か月のうちに近所を一人で歩けるようになる例もあります。効果や経過には個人差があり、安全の確保が何より優先されます。

専門施設でできること

+

Our Approach — At STROKE LAB
この見取り図の中で、私たちが軸足を置くところ。
覚え直しより、安全と自信を土台に、段階的に。

STROKE LABが重視するのは、迷っても戻れる備えを、実際の道で確実に使えるようにすることです。頭の中の地図を鍛え直すことだけに頼らず、目印カードやスマートフォンを、その方が確実に使いこなせるところまで一緒に練習します。そして、確実に戻れる範囲から始め、少しずつ外出の距離を延ばしていきます。

そして、その進め方をご家族にも手引きし、付き添いの外し方や見守りの範囲を一緒に決めて、安全を保ちながら自信を育てることを大切にします。安全の確保が何より優先です。どのタイプで、何をどう組み合わせるかは一人ひとり違うため、評価にもとづいて個別に組み立てます。より専門的な評価と治療の詳細は、医療者向けの解説記事で扱います。

Evidence
スマホを手がかりに使う練習で、一人での外出ができるようになった例

脳損傷で道に迷うようになった人に、失敗させない進め方でスマートフォンを使って道をたどる練習を行った症例研究では、余計な曲がり道が減り、迷う不安なく一人で目的地にたどり着けるようになり、本人も家族も自信を取り戻したと報告されています。覚え直しより、道具を確実に使えるようにする関わりが役立つとされています。

限界:一人の患者を詳しく追った症例研究で、だれにでも同じ結果が出るとは限りません。効果には個人差があり、進め方は専門職の設計と、安全の確保が前提です。

出典:Rivest J, Svoboda E, McCarthy J, Moscovitch M. A case study of topographical disorientation: behavioural intervention for achieving independent navigation. Neuropsychological Rehabilitation. 2018;28(5):797-817. 失敗させない進め方でのスマートフォン活用と、自信の回復が示されている。
確実に戻れる範囲から、安全と自信を、少しずつ広げる。
05
Rehab & When To See A Doctor

専門リハと、受診の目安。

前の項でお伝えした備えや練習は、どのタイプの地誌的障害か、どこで迷うかを、ていねいに評価したうえで組み立てます。頭の中の地図をつくる、空間の記憶にかかわる海馬のしくみを解説した動画も、背景の理解に役立ちます。

頭の中の地図をつくる、空間の記憶にかかわる海馬のしくみを解説(脳リハ.com)。効果には個人差があります。

受診の目安は、脳卒中や頭のけがのあとで、熟知した場所で道に迷うようになり、外出や生活に支障や危険が出てきたときです。認知症・半側空間無視・半盲との見分けは専門的なので、自己判断せず、神経内科やリハビリテーション科、作業療法士に相談してください。あわせて、失認そのものが気になる場合は失認の記事もご覧ください。より専門的な評価を知りたい医療者の方は、医療者向けの解説記事もご覧ください。

06
FAQ

よくある質問。

Q. 慣れた道で迷うようになりました。認知症の徘徊ですか?

同じではありません。地誌的障害は、脳卒中や頭のけがのあとにみられる高次脳機能障害の一つで、行きたい場所ははっきりしているのに、そこへの道が分からず迷う状態です。目的なく歩き回る認知症の徘徊とは、成り立ちが違います。ただし、認知症でも道に迷う症状は起こり、両方が重なることもあります。見分けには専門的な確認が必要なので、自己判断せず、神経内科やリハビリテーション科、作業療法士に相談してください。迷ったときの連絡先を持たせるなど、安全の備えは早めにしておくと安心です。

Q. 地誌的障害とは、どんな症状ですか?

熟知した場所でも道に迷う症状で、大きく二つのタイプがあります。街並失認は、見慣れた建物や風景を見ても、それがどこか分からなくなり、今いる場所自体が分からなくなるタイプです。道順障害は、場所や目印は分かるのに、そこからどの方角へ進めばよいかが分からなくなるタイプです。どちらも、頭の中に地図を描く力がつまずいている状態です。実際には混ざることもあり、正確なタイプは専門的な評価で確かめます。家庭では、どちらに近いかをつかむだけで、支え方の見当がつきます。

Q. もう一人で外出はできませんか?

すぐにあきらめる必要はありませんが、安全を最優先に、慎重に進めることが大切です。まずは付き添いのある短い範囲から始め、目印や道具を使って迷っても戻れる状態を整えながら、少しずつ範囲を広げていきます。一側の脳の損傷では、数か月のうちに近所を一人で歩けるようになる例もあります。ただし、外出をどこまで一人で行うかは、症状の程度や環境によって変わります。単独外出の再開は、主治医や作業療法士と相談しながら、段階的に判断してください。

Q. どう関われば、安全に外出を続けられますか?

覚え直しに頼りきるより、迷っても戻れる備えを整えるのが現実的です。目印と曲がる方向をメモや写真にした目印カード、スマートフォンの位置情報の共有、迷ったときに見せる連絡先入りの迷子カード。この三つを組み合わせると、安心して外出を続けやすくなります。道順は、覚えさせるより、目印を順番につなぐかたちで一緒に確認します。急かさず、迷っても責めず、戻れたことを一緒に喜ぶこと。装備や練習の詳しい進め方は、外出の記事でくわしく解説します。

Q. 地誌的障害は、リハビリで良くなりますか?

目印を手がかりにする、進む方角を言葉にする、スマートフォンなどの道具を確実に使えるようにするといった代償的な工夫で、一人で外出できるようになった例が報告されています。一側の脳の損傷では、数か月で改善する例もあります。一方、研究はまだ症例を詳しく調べた段階のものが中心で、だれにでも同じ結果が出るとは限りません。効果や回復には個人差があります。地図全体を覚え直そうとするより、迷っても戻れる備えを整えるほうが現実的で、進め方は作業療法士など専門職に相談してください。

Q. スマホの位置共有や地図に頼るのは、甘えですか?

甘えではありません。眼鏡や杖と同じで、道具で補うことは、安全に暮らしを続けるための正しい工夫です。むしろ、地誌的障害では、頭の中の地図を鍛え直すことに頼りきるより、確実に使える道具で迷っても戻れる状態をつくるほうが、現実的で安全なことが多いのです。道具を使いこなせるという安心は、外出への自信にもつながります。位置情報の共有や目印カード、迷子カードは、遠慮なく活用してください。使い方は、作業療法士と一緒に整えられます。
07
STROKE LAB

外出の相談は、STROKE LABへ。

STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。地誌的障害は、その多くが脳卒中を背景に起こります。どのタイプか、どこで迷うかを評価し、目印カードや位置情報の共有、迷子カードといった備えを、その方が確実に使えるところまで一緒に練習します。そして、安全を最優先に、確実に戻れる範囲から外出の距離を段階的に広げます。困っている外出の場面そのものを題材にするので、練習がそのまま暮らしに活きます。診断や評価は主治医を尊重し、私たちは生活と外出の側から支えます。保険リハとの併用もできます。

書籍『脳の機能解剖とリハビリテーション』(医学書院)の表紙
Book
脳の機能解剖とリハビリテーション
医学書院/2024年/408ページ

空間の記憶にかかわる海馬や、場所の認知にかかわる領域をはじめ、脳の部位ごとの働きと症状のつながりを、豊富なイラストで解説。本文と連動するYouTube講義動画で、脳のしくみを目と耳から学べます。

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Message from CEO
覚え直すより、
迷っても戻れる備えを。
STROKE LAB代表 金子唯史

すぐそこの家に帰れない。その心細さと、外出をあきらめかけるつらさ。地誌的障害のご本人とご家族が抱えるこの不安を、私は現場で何度も見てきました。

お伝えしたいのは、頭の中の地図を無理に描き直そうとするより、外に地図と目印を用意し、迷っても戻れる備えを整えるほうが、安全に外出を続けやすいということです。道具に頼るのは、甘えではありません。確実に戻れるという安心が、外へ出る自信になります。

外出のことでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている外出の場面そのものを題材に、その方に合う備えと、ご家族の見守り方を、安全を最優先に一緒に整えます。

株式会社STROKE LAB
代表取締役 金子 唯史

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References

本記事は、国内外の公的情報・学術文献と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。症状の現れ方や回復には個人差があります。診断・鑑別や外出の判断は、必ず主治医・専門機関にご相談ください(最終確認日:2026年7月7日)。

  • 国立障害者リハビリテーションセンター:高次脳機能障害情報・支援センター
  • Antonakos CL: Compensatory wayfinding behavior in topographic disorientation from brain injury. Journal of Environmental Psychology. 2004;24(4):495-501.(目印を軸にした代償的な移動の工夫。第1エビデンスボックスの出典)
  • Rivest J, Svoboda E, McCarthy J, Moscovitch M: A case study of topographical disorientation: behavioural intervention for achieving independent navigation. Neuropsychological Rehabilitation. 2018;28(5):797-817.(スマートフォン活用による一人外出の実現。第2エビデンスボックスの出典)
  • Aguirre GK, D’Esposito M: Topographical disorientation: a synthesis and taxonomy. Brain. 1999;122(9):1613-1628.(地誌的障害の分類の基礎)
  • 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院.2024.
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