道に迷うようになった(地誌的障害)|安全に外出を続ける工夫
慣れた道で迷う。覚えるより、戻れるように。
いつもの道で迷う。駅から家に帰れない。慣れた場所で、どっちへ行けばいいか分からなくなる。脳卒中や頭のけがのあとのその様子は、地誌的障害かもしれません。これは記憶や意欲の問題でも、認知症の徘徊でもありません。頭の中に地図を描く力がつまずいているのです。だからこそ、覚え直しより、迷っても戻れる備えが役に立ちます。しくみと工夫を整理します。

いつもの道で、迷った。
何十年も暮らした家の近所で、道が分からなくなる。いつもの駅から、どちらへ歩けばいいか迷う。曲がり角で立ち止まり、不安そうに周りを見回す。付き添えば歩けるのに、一人だと帰れない。徘徊とは違うのに、認知症と間違われてしまう。本人も家族も、これから外出をどうすればいいのか、途方に暮れます。
でも、これははっきりした脳の症状です。行きたい場所は分かっているのに、そこへの道が描けないだけ。名前は、地誌的障害といいます。
地誌的障害は、脳卒中や頭のけがのあとにみられる高次脳機能障害の一つで、熟知した場所でも道に迷う症状です。多くは、後頭葉から側頭葉、頭頂葉の内側といった、場所の認知や空間の記憶にかかわる領域の損傷で起こります。大切なので先にお伝えします。これは意欲や努力の問題ではなく、認知症の徘徊とも異なります。迷うことに、本人がいちばん不安を感じています。全体像は高次脳機能障害の完全ガイドをご覧ください。
STROKE LABの視点:頭の中の地図が、描けない。
地誌的障害を理解する鍵は、この一言です。私たちは、頭の中に地図を思い描きながら道を歩いているということです。今どこにいて、どっちを向いていて、目的地はどの方角か。この頭の中の地図を描く力がつまずくと、目に見える景色はそのままなのに、道が分からなくなります。認知症の徘徊のように目的なく歩き回るのではなく、行きたい場所ははっきりしているのに、そこへたどり着けないのが特徴です。
地誌的障害は、つまずく場所によって大きく二つのタイプに分かれます。並べて整理します。
| 代表的なタイプ | どんなふうに迷うか |
|---|---|
| 街並失認 | 見慣れた建物や風景を見ても、それがどこか分からない。今いる場所自体が分からなくなる |
| 道順障害 | 場所や目印は分かるのに、そこからどの方角へ進めばよいかが分からない |
この二つは、支え方のヒントが変わります。街並失認では、景色に代わる目印を用意する。道順障害では、進む方角を言葉にする。実際には混ざることもありますが、厳密な分類より、どちらに近いかをつかむだけで支え方の見当がつきます。なお、認知症でも道に迷う症状は起こるため、見分けは医療機関で確かめます。

自宅・外出でできること:覚えるより、迷っても戻れるように。
まずは、ご家族が今日から実践できる備えからお伝えします。いちばん大切な発想の転換がこれです。道順を覚え直させることに頼りきるのではなく、迷っても戻れる備えを整える。頭の中の地図がつまずいているなら、外に地図と目印を用意すればいい、という考え方です。そのうえで、安全を最優先に、付き添いのある短い範囲から始めます。
具体的には、次の3点セットが助けになります。迷いやすい人の外出を、ぐっと安心にしてくれます。
| 3点セット | 中身と役割 |
|---|---|
| 目印カード | よく行く道の目印と曲がる方向を、写真とひとことで書いたカード。緑の塀を右、コンビニを左、のように |
| 位置情報の共有 | スマートフォンの位置共有で、家族がいつでも居場所を確認できる。迷ったときに電話でたどり着ける |
| 迷子カード | 名前・家族の連絡先・帰る場所を書いた小さなカード。迷ったとき、周りの人に見せて助けを求められる |
脳損傷で道に迷う人の外出のしかたを調べた研究では、目印を覚える、目印を順番につなぐ、進む方角や体の向きを手がかりにするといった、目印を軸にした工夫を身につけた人ほど、慣れた場所を一人で移動できていたと報告されています。頭の中の地図を丸ごと覚え直すより、目印を手がかりにするほうが現実的とされています。
限界:少数の人を詳しく調べた症例研究で、人数は限られます。効果には個人差があり、まずは安全を最優先に、付き添いや道具の備えと組み合わせることが前提です。

道順そのものは、覚えさせようとするより、目印を順番につなぐかたちで、一緒に確認するのがこつです。次のBefore/Afterは、その切り替えです。覚え直しの練習の進め方や、外出の装備一式のそろえ方は、外出の記事でくわしく解説します。

専門施設で、さらに期待できること。
ここからは、少し専門的な話になります。リハビリに関わる方や、もっと深く知りたい方に向けて、地誌的障害への関わりの全体像をお伝えします。家庭での3点セットが迷っても戻れる備えだとすれば、専門施設で目指すのはその備えを確実に使えるように練習し、安全を保ちながら外出の範囲を段階的に広げることです。
関わりは、大きく3つの柱で組み立てます。評価とタイプの特定、目印や道具を使う練習、そして家族への手引きと安全の設計です。
| 3つの柱 | 中身(一例) |
|---|---|
| 評価とタイプの特定 | 街並失認か道順障害か、どこで迷うかを、検査と実際の外出の観察で見きわめる。残った力を確かめる |
| 目印や道具を使う練習 | 目印と方角を言葉にする、スマートフォンを失敗しないように使う、といった練習を、実際の道で段階的に |
| 家族への手引きと安全の設計 | 付き添いの外し方や見守りの範囲を家族と決め、迷子カードや位置共有の使い方を整える |
これらに共通するのは、失敗させずに成功を積み重ね、自信を取り戻すという発想です。迷って怖い思いをするほど、外出そのものが不安になります。だから、確実に戻れる範囲から始めて、少しずつ広げます。一側の脳の損傷では、数か月のうちに近所を一人で歩けるようになる例もあります。効果や経過には個人差があり、安全の確保が何より優先されます。

STROKE LABが重視するのは、迷っても戻れる備えを、実際の道で確実に使えるようにすることです。頭の中の地図を鍛え直すことだけに頼らず、目印カードやスマートフォンを、その方が確実に使いこなせるところまで一緒に練習します。そして、確実に戻れる範囲から始め、少しずつ外出の距離を延ばしていきます。
そして、その進め方をご家族にも手引きし、付き添いの外し方や見守りの範囲を一緒に決めて、安全を保ちながら自信を育てることを大切にします。安全の確保が何より優先です。どのタイプで、何をどう組み合わせるかは一人ひとり違うため、評価にもとづいて個別に組み立てます。より専門的な評価と治療の詳細は、医療者向けの解説記事で扱います。
脳損傷で道に迷うようになった人に、失敗させない進め方でスマートフォンを使って道をたどる練習を行った症例研究では、余計な曲がり道が減り、迷う不安なく一人で目的地にたどり着けるようになり、本人も家族も自信を取り戻したと報告されています。覚え直しより、道具を確実に使えるようにする関わりが役立つとされています。
限界:一人の患者を詳しく追った症例研究で、だれにでも同じ結果が出るとは限りません。効果には個人差があり、進め方は専門職の設計と、安全の確保が前提です。
専門リハと、受診の目安。
前の項でお伝えした備えや練習は、どのタイプの地誌的障害か、どこで迷うかを、ていねいに評価したうえで組み立てます。頭の中の地図をつくる、空間の記憶にかかわる海馬のしくみを解説した動画も、背景の理解に役立ちます。
頭の中の地図をつくる、空間の記憶にかかわる海馬のしくみを解説(脳リハ.com)。効果には個人差があります。
受診の目安は、脳卒中や頭のけがのあとで、熟知した場所で道に迷うようになり、外出や生活に支障や危険が出てきたときです。認知症・半側空間無視・半盲との見分けは専門的なので、自己判断せず、神経内科やリハビリテーション科、作業療法士に相談してください。あわせて、失認そのものが気になる場合は失認の記事もご覧ください。より専門的な評価を知りたい医療者の方は、医療者向けの解説記事もご覧ください。
よくある質問。
Q. 慣れた道で迷うようになりました。認知症の徘徊ですか?
Q. 地誌的障害とは、どんな症状ですか?
Q. もう一人で外出はできませんか?
Q. どう関われば、安全に外出を続けられますか?
Q. 地誌的障害は、リハビリで良くなりますか?
Q. スマホの位置共有や地図に頼るのは、甘えですか?
外出の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。地誌的障害は、その多くが脳卒中を背景に起こります。どのタイプか、どこで迷うかを評価し、目印カードや位置情報の共有、迷子カードといった備えを、その方が確実に使えるところまで一緒に練習します。そして、安全を最優先に、確実に戻れる範囲から外出の距離を段階的に広げます。困っている外出の場面そのものを題材にするので、練習がそのまま暮らしに活きます。診断や評価は主治医を尊重し、私たちは生活と外出の側から支えます。保険リハとの併用もできます。

空間の記憶にかかわる海馬や、場所の認知にかかわる領域をはじめ、脳の部位ごとの働きと症状のつながりを、豊富なイラストで解説。本文と連動するYouTube講義動画で、脳のしくみを目と耳から学べます。
迷っても戻れる備えを。

すぐそこの家に帰れない。その心細さと、外出をあきらめかけるつらさ。地誌的障害のご本人とご家族が抱えるこの不安を、私は現場で何度も見てきました。
お伝えしたいのは、頭の中の地図を無理に描き直そうとするより、外に地図と目印を用意し、迷っても戻れる備えを整えるほうが、安全に外出を続けやすいということです。道具に頼るのは、甘えではありません。確実に戻れるという安心が、外へ出る自信になります。
外出のことでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている外出の場面そのものを題材に、その方に合う備えと、ご家族の見守り方を、安全を最優先に一緒に整えます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の公的情報・学術文献と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。症状の現れ方や回復には個人差があります。診断・鑑別や外出の判断は、必ず主治医・専門機関にご相談ください(最終確認日:2026年7月7日)。
- 国立障害者リハビリテーションセンター:高次脳機能障害情報・支援センター
- Antonakos CL: Compensatory wayfinding behavior in topographic disorientation from brain injury. Journal of Environmental Psychology. 2004;24(4):495-501.(目印を軸にした代償的な移動の工夫。第1エビデンスボックスの出典)
- Rivest J, Svoboda E, McCarthy J, Moscovitch M: A case study of topographical disorientation: behavioural intervention for achieving independent navigation. Neuropsychological Rehabilitation. 2018;28(5):797-817.(スマートフォン活用による一人外出の実現。第2エビデンスボックスの出典)
- Aguirre GK, D’Esposito M: Topographical disorientation: a synthesis and taxonomy. Brain. 1999;122(9):1613-1628.(地誌的障害の分類の基礎)
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院.2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)