OHAT日本語版(OHAT-J)|8項目の見方・採点と、口腔ケア・歯科連携への活用
STROKE LAB / ORAL HEALTH
OHAT日本語版
Oral Health Assessment Tool
「口を見た」を、
ケアが変わる評価に。
8項目の観察から、清掃・義歯・痛みへの対応、歯科連携まで。

01|OHAT-Jは、口の問題を見つけて共有する評価
OHAT(Oral Health Assessment Tool)は、歯科医療者以外の看護・介護スタッフ等も口腔内の問題をスクリーニングし、ケアや歯科相談につなげるための評価です。日本語版OHAT-Jは松尾浩一郎・中川量晴らによって検証されました。[1], [3], [4]
見るのは、口唇・舌・歯肉と粘膜・唾液・残存歯・義歯・口腔清掃・歯痛の8項目です。各0〜2点、合計0〜16点で、点数が高いほど口腔の問題が大きい方向です。[1], [2]
02|正式な評価表と、このページの使い方
採点には、公式配布元のOHAT-J評価表と説明資料を使用します。このページの観察表やイラストは、手順を理解するための補助です。公式の各評点の全文・写真を転載したものではありません。
公式の説明資料・写真例はこちら / 配布元・最新版の確認はこちら
配布元では現場での使用は無料と案内されています。一方、無断転載・改変や写真だけの転用には制限があります。そのため本記事では公式PDFへリンクし、別途、観察・ケア・連絡のための独自ノートを用意しました。[1]
03|0・1・2点と合計点をどう読むか
| 評点 | 意味 | 次に行うこと |
|---|---|---|
| 0 | 健全 | 現在のケアを続け、変化を観察する。 |
| 1 | やや不良 | 該当する問題を具体的にし、ケア方法と経過を確認する。 |
| 2 | 病的 | 何が該当したかを記録し、歯科への相談・対応の必要性を判断する。 |
評点の意味は公式表に基づきます。右欄は本記事の実務上の整理であり、点数だけで緊急度が自動的に決まるものではありません。[2]
たとえば、歯痛だけが2点の人は合計2点でも、清掃を続けて様子を見るだけでよいとは限りません。反対に、複数の軽い変化で合計が高い人には、日々のケアの組み立て直しが必要なことがあります。合計点を見る前に、痛み・腫れ・出血・義歯の不具合を確認します。
OHAT-Jは歯科診断や嚥下の安全性を確定する検査ではありません。0点でも、飲み込みにくさや原因不明の訴えがあれば別に評価します。観察できなかった項目を0点として合計せず、未評価と理由を残して再確認します。
04|準備と所要時間:まず見える条件をつくる
初回は説明・義歯の確認・記録を含め、5〜10分程度を確保する運用例とします。OHAT-Jの必須制限時間ではありません。開口の難しさ、理解、疼痛などに合わせ、短時間に分けて観察します。
| 準備 | ポイント |
|---|---|
| 本人への説明 | 「唇や歯、入れ歯の状態を見ます。痛かったら教えてください」と伝える。 |
| 姿勢・照明 | 頭と体幹が安定し、口腔内が見える姿勢。頸部を無理に反らさない。 |
| 感染対策・器具 | 手指衛生、手袋等の必要な防護具、照明。器具は施設基準に沿って準備。 |
| 比較する条件 | 評価時刻、食前・食後、口腔ケア前後、義歯装着の有無を記録。 |
| 情報 | 普段の清掃方法、痛み、食事の変化、義歯を使えなくなった時期を確認。 |
口腔内に触れた手袋のままペンや共用機器に触れないなど、観察から記録へ移るときの手順も決めておきます。歯科医療者以外が無理に歯の動揺を確かめたり、病変を擦って確認したりする必要はありません。見えない・判断できない所見は、部位と状況を伝えて歯科へ照会します。
05|8項目を見落とさずに観察する

| 項目 | 観察の焦点 | 一緒に残す情報 |
|---|---|---|
| 口唇 | 唇全体と口角の湿り、傷、変化 | 左右、範囲、開口時の痛み |
| 舌 | 表面の付着物、色、傷や腫れ | どの部位か、清掃前後でどう変わるか |
| 歯肉・粘膜 | 歯ぐき、頬の内側、義歯の下など | 発赤・出血・傷の位置と範囲 |
| 唾液 | 粘膜の湿り、唾液の量感や性状 | 口渇の訴え、時刻、口呼吸など |
| 残存歯 | 自分の歯の状態、欠け等の疑い | 残存歯の有無と場所。歯数・状態は公式基準に照合 |
| 義歯 | 装着状況、破損、合い具合 | 普段は使うか、今使えない理由 |
| 口腔清掃 | 歯・粘膜・義歯に付いた汚れ | 付着している部位、食後か清掃後か |
| 歯痛 | 本人の訴えと、痛みを疑う反応 | 食事やケアのどの動作で反応するか |
この表は観察場所の案内であり、正式な0〜2点の判定表ではありません。観察した所見を公式表の該当欄に照合して採点します。[1], [2]
06|新人向け:観察から連絡までの6ステップ
- 困っていることを先に聞く。痛み、口の乾き、食べにくさ、義歯の使いにくさを確認します。話せない場合は、食事・ケア時の反応を家族や担当者にも聞きます。
- 外側から口腔内へ。唇と口角を見てから、舌・歯肉・粘膜・唾液の様子を観察します。痛みの有無を確かめながら進めます。
- 歯と義歯を確認する。義歯がある場合は本人に外せるか尋ね、必要な介助を行います。外れにくいものを力任せに扱わず、義歯の下の粘膜も可能な範囲で見ます。
- 清掃と痛みを確認する。付着物の場所を残します。歯痛の訴えがなくても、食事を避ける、ケア時に顔をしかめる等の変化があれば背景を確認します。
- 公式基準で採点する。8項目と合計点を記録。迷う所見は写真付き説明資料や歯科医療者と照合します。写真を撮る場合は同意と施設の管理手順に従います。
- 行動に変える。日常ケアで対応すること、歯科に相談すること、再評価の時期と担当者を決めます。
上記は現場で進めやすいよう整理した実施例です。正式な採点基準は変更していません。評価をケア前に行ったのか、清掃後に行ったのかを必ず残します。比較のたびに条件が違うと、点数の変化を読み違えます。
07|義歯・歯痛で迷いやすい点

「義歯なし」を一律0点にしない。普段使用する義歯が手元にないのか、合わず装着できないのか、もともと義歯が不要なのかを分けます。公式説明資料には、救急搬送時に自宅へ義歯を置いてきた場合の扱いも示されています。採点前に装着歴を確認することが大切です。[2]
「痛いと言わない」を異常なしの根拠にしない。失語症や認知機能の低下がある場合、頬を触られるのを避ける、食事中だけ表情が変わる等の所見を確認します。一方、拒否や攻撃的な反応だけで歯痛と決めつけず、理解、不安、姿勢、疲労なども調べます。
舌苔と病変を混同しない。付着物を見て、色だけで病名や重症度を決めません。白い部分があるからと強く擦らず、持続する斑状の変化や傷は場所を記録し歯科に確認します。公式写真は観察の基準合わせに用い、生成イラストを病変判定の基準にはしません。
08|結果を口腔ケアと歯科連携につなげる

| 主な問題 | 今日の対応例 | 歯科・チームと相談すること |
|---|---|---|
| 清掃不足 | 本人の磨く順序・届く範囲を観察し、不足部分を介助 | 歯石など日常清掃で除去できないもの、清掃用具の選択 |
| 乾燥 | 口呼吸やケア時刻も記録し、適した保湿方法を共有 | 薬剤や全身状態、保湿剤、反復する乾燥の原因 |
| 義歯の不具合 | 無理な装着を避け、普段の使用時間と症状を伝える | 調整・修理、粘膜の傷、食べ方への影響 |
| 痛み・腫れ・傷 | 部位、発症時期、食事・ケアへの影響を早めに共有 | 歯科診察の時期と、それまでのケア方法 |
これは介入を考えるための例です。点数だけで清掃回数や処置を機械的に決めず、本人の動作、口腔内の状態、嚥下、介助量を合わせて計画します。歯ブラシで汚れを落とすことと、保湿することは役割が違います。保湿剤だけで清掃を済ませたことにはしません。
CDCの手順も、セルフケアができる人と、嚥下困難・喀出困難のある人を分けています。後者では姿勢や吸引等の調整が必要です。うがいできない人へ多量の水を流し込む方法は用いません。必要な技術・機器は施設の手順と歯科・看護チームの指導に合わせます。[9]
09|臨床ストーリー:歯磨きの自立と、口の清潔は別に見る
以下は説明用の架空例です。脳卒中後のAさんは、片手で歯ブラシを持ち、歯磨きを「自立」で行っています。しかし食後、片側の頬の内側に食物が残っています。本人は「磨き終わった」と話し、残りに気づきません。
担当者は、口腔清掃の問題を公式基準で採点し、残った場所を補助ノートに記録します。歯磨きの回数を増やす前に、どこを磨いているか、頬の内側まで確認できるかを観察します。片側を見落とすなら、磨く順序を決めて一緒に確認し、届きにくい部分だけ仕上げ介助を加えます。
数日後、同じ食後・清掃前の条件で再評価します。残渣が減っても、義歯が当たる場所の痛みが続けば、歯科への相談は継続します。合計点の改善だけで終わらず、「痛みなく清掃できる」「家族が確認する場所を説明できる」という目標を合わせます。
10|再評価:いつ、何を比べるか
日常ケアでは痛みや出血などの変化を確認し、定期的なOHAT-Jで全体を見直します。たとえば導入時、ケア方法を変えた後、状態が変わった時に評価し、継続中は施設の基準に沿って予定を設定します。
稲垣ら(2017)は神経内科入院患者35名に対し、OHATを用いたケアプランを作成し、週1回再評価する運用を報告しました。合計点と口唇・舌・唾液・清掃状態で改善がみられ、12名が歯科依頼につながりました。これは当該研究での運用であり、全員の再評価を週1回に固定する規定ではありません。[5]
| 比較すること | 記録する例 |
|---|---|
| 同じ条件か | 食後30分/清掃前/義歯装着中など |
| どの項目が変化したか | 清掃は改善、義歯の問題は持続など |
| ケアは実行できたか | 本人が行えた範囲、介助した場所、拒否や疲労 |
| 生活に変化があるか | 痛み、食べやすさ、ケア時の負担 |
| 次の行動 | 歯科相談日、ケア担当、次回評価日 |
1点の変化をあらゆる患者で臨床的に意味のある改善とする共通基準は、このページでは設定しません。残存歯や義歯の問題は清掃だけでは変化しないこともあり、改善しやすい項目だけを追わないことが重要です。
11|信頼性・妥当性:誰でも同じ点になるわけではない
日本語版の検証では、介護施設30名・神経内科病棟30名が対象でした。看護・介護職と歯科衛生士の評定を比較すると、唾液や軟組織では平均75%以上の一致を認めた一方、介護施設の口腔清掃は約50%でした。他の口腔指標との相関は0.39〜0.97でした。[3]
原版のChalmersら(2005)の研究は21施設で行われ、455名が全段階を完了しました。合計点の級内相関係数は評価者内0.78、評価者間0.74でしたが、妥当性の結果には項目差がありました。スクリーニングとして活用できることと、どの職種でも最初から同じ判断ができることは別です。[4]
12|カットオフと予後:研究でわかったことを正しく使う
Takagiら(2023)は65歳以上の急性期脳梗塞患者129名を後ろ向きに検討し、入院時OHATを0〜2点と3点以上に分けました。3点以上群は22名で、退院時の中等度〜重度障害との関連はオッズ比9.18(95%信頼区間1.74〜48.30)。経口摂取の程度や在院日数とも関連しました。[6]
この「3点」は研究内の群分けです。歯科受診を決める普遍的な境界や、3点以上なら回復しないという意味ではありません。信頼区間も広く、対象・重症度・交絡因子の影響があります。関連があることから、点数を下げれば必ず機能予後が改善するとは結論できません。
2026年のYoshizumiらの多施設前向きコホート研究は、急性期脳卒中1,616名の医科歯科連携プロトコルを検討しました。口腔衛生や経口摂取等に有利な結果がみられましたが、誤嚥性肺炎発症率には有意差がありませんでした(p=0.7639)。これは連携プログラムの研究であり、OHAT-J単独の肺炎予測カットオフを示すものではありません。[7]
13|ほかの評価との使い分け

| 評価・観察 | 主に捉えること | OHAT-Jとの関係 |
|---|---|---|
| OHAT-J | 口腔内の状態、清掃、歯・義歯、痛み等 | 口腔問題の発見とケア・歯科連携の入口。 |
| ROAG・OAG・mOAG | それぞれ定められた口腔関連項目 | 項目、配点、対象が異なる。合計点を換算しない。 |
| 嚥下評価 | 飲み込みの機能や安全性 | OHAT-Jが良好でも誤嚥を否定できない。 |
| FOIS | 経口摂取のレベル | 口腔の状態そのものを採点する尺度ではない。 |
| 歯科診察 | 病変や歯・義歯の診断と治療方針 | スクリーニングで疑った問題を確かめる。 |
| 口腔ケア動作の観察 | 準備、道具操作、注意、手順、磨き残し | 口腔状態が悪化する背景と介助方法を考える。 |
連絡では「OHATが高い」だけでなく、「下の義歯を装着すると右側が痛み、昨日から食事で外している」のように伝えると、次の判断につながります。
14|評価表・説明資料・臨床ノートを使い分ける
正式な採点は公式表を使用します。配布元の改訂を確認し、評価に用いた版を記録してください。
採点に迷ったときや、職種間で基準をすり合わせる際に使用します。
こちらはSTROKE LAB作成の補助用紙です。公式表で得た所見と点数を、実際のケア・歯科への連絡・再評価へつなげるために使用します。正式な採点基準や写真を複製したものではありません。
15|参考文献・確認した範囲
- 東京科学大学大学院 地域・福祉口腔機能管理学分野.OHATについて.公式案内・利用条件・配布リンクを確認。
- 同分野.Oral Health Assessment Tool日本語版説明用資料・評価表(2025年5月1日改訂版).公開資料を確認。
- 松尾浩一郎,中川量晴.口腔アセスメントシートOral Health Assessment Tool日本語版(OHAT-J)の作成と信頼性,妥当性の検討.障害者歯科.2016;37:1–7.全文確認。
- Chalmers JM, et al. The Oral Health Assessment Tool—Validity and reliability. Aust Dent J. 2005;50:191–199. 公開抄録確認。
- 稲垣鮎美ほか.口腔アセスメントOral Health Assessment Tool(OHAT)と口腔ケアプロトコルによる口腔衛生状態の改善.日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌.2017;21:145–155.公開抄録確認。
- Takagi S, et al. Associations between oral health status and short-term functional outcomes in hospitalized patients aged over 65 years with acute ischemic stroke: a retrospective observational study. Clin Oral Investig. 2023;27:7635–7642. 公開抄録確認。
- Yoshizumi Y, et al. Effects of a Standardised Medical–Dental Collaborative Protocol on Acute Stroke Rehabilitation: A Multicentre Prospective Cohort Study. J Oral Rehabil. 2026;53:866–879. 公開論文情報・抄録確認。
- Eto F, et al. Oral condition at admission predicts functional outcomes and hospital-acquired pneumonia development among acute ischemic stroke patients. Clin Oral Investig. 2024;28:434. 公開本文確認。評価尺度はmOAG。
- CDC. Oral Health in Healthcare Settings to Prevent Pneumonia Toolkit. 2024. 公開手順を確認。
確認日:2026年10月27日。公式配布ページ、2025年5月1日改訂の評価表・説明資料、日本語・英語論文を確認しました。本文の具体的な進行順、声かけ、所要時間の目安、架空症例は運用提案です。公式採点基準の改変、他尺度のカットオフの流用、未確認の診断・予後数値の追加は行っていません。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)